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「……未来体験薬ねぇ」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は手に持つ便箋をにらみ、前回未来体験薬の被験者として参加した事を思い出していた。大雑把故に確認せずに不幸な未来を見せる魔法薬を飲んでしまった事を。
「今回は想像した物を鮮明にするという事だから前回のような事はないはずよ。飲み間違えるという事もなさそうだし」
 セレンフィリティの気持ちを察したセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はすぐに優しい言葉をかける。当然ツッコミも忘れずに。
「セレアナ」
 前回の失敗を突かれてセレンフィリティは口を尖らせた。
「それで、書くんでしょ?」
 セレンフィリティの様子など気にせずにセレアナはひらひらと便箋を見せながら訊ねた。
「もちろんよ。今回は10年後! 早く書くわよ」
 セレンフィリティは明快に即答し、ペンを手に書き始めた。
「……私も書こうかしら」
 セレアナもゆっくりと書き始めた。

 手紙書き中。
「あー、何を書けばいいのよ(確実なのはあたしがセレアナと10年後も一緒にいるって事だけ。それ以外の光景は思い浮かばない……)」
 セレンフィリティは宛名を書いた所でペンは止まり、ばりばりと用意されたお菓子を頬張っていた。勢いよく書くと言ったものの何を書いたらいいのか色々悩み進んでいなかった。その中でもセレアナへの気持ちは揺るがない。
「……10年後と言えば私達は32歳になるのよね。思いつかなければ未来体験薬を使ってみたらどう?」
 セレアナは恋人の派手な食べっぷりに呆れながら何か思いつくきっかけになればと声をかけた。
「そうね(32歳。きっと大人のいい女になってるはずね。今よりももっと美人でセクシーで階級だって上がってて……)」
 提案を受け想像しながら便箋に染み込んだ匂いを楽しみつつ悪筆なセレンフィリティはガリガリと綴った。
 時にペンが恐る恐るという感じでセレアナと互いに好きなままでいるのか、を書いたりセレアナと共にこれからも歩みを共にしているのかという自分とセレアナに関わる事だけを書いていた。

 一方。
「……(10年後もきっと今のように手の掛かるセレンに呆れたり振り回されているわね。喧嘩をして口もききたくないような時もあるだろうけど、それでも二人でいる事を選んでるはず)」
 セレアナは想像中の恋人に目を向けながら流麗な文字でさらさらと手紙を書いていく。
「今だってこうして一緒にいるのだから(10年後も20年後もきっと……)」
 セレアナは幸せな今に思わず笑みをこぼし、ずっと続く事を願っていた。

■■■

 10年後、パラミタのどこか。

「セレン、もう少し大佐らしく振る舞ったらどうなの? 連隊長が自ら敵陣に突撃しないようにいつも言ってるでしょ。下手したら命だって……」
 セレアナはつい先程の戦闘について厳しく指摘した。大佐という役目をどこかに置いて敵陣に突撃し大暴れするセレンフィリティを溜息を吐きながら急いで追いかけて援護をして無事に戦闘を終えたところだ。
「仕方無いでしょ。あたし、後方から命令するの性に合わないんだから。それに副官のセレアナが援護してくれるからやられるはずないわ」
 セレンフィリティはセレアナの注意などどこ吹く風。このやり取りは前回も前々回の作戦でも同じであった。つまり定着したパターン。
「ほら、次行くわよ」
 セレンフィリティは皆を率いて別の場所へと移動を始めた。
「……もう」
 恋人の自分を頼りにしている発言にセレアナは文句を封じられて黙って付いて行くしかなかった。
 32歳のすっかりいい大人の美女に変わったセレンフィリティとセレアナ10年の歳月が経っても二人は軍人だが、セレンフィリティはすっかり昇進していた。

 別の日。
「休暇を無事にとれて良かったわ」
「そうね。そう言えば、絵音も授業が休みで参加するとか言っていたわね」
休暇を取れたセレンフィリティ達は親交のあるあおぞら幼稚園を訪れていた。なぜならひな祭りの招待を受けたからだ。
「そうよ。時間ってあっという間よね、今は年が離れた妹が通っているみたいだし」
 セレンフィリティはしみじみと流れる時間の長さを感じていた。

 そしてあおぞら幼稚園に到着すると
「セレンお姉ちゃんとセレアナお姉ちゃん」
 10年分成長した絵音が嬉しそうにセレンフィリティ達を迎えた。
「来たよ。元気そうね」
「勉強の方はどう?」
 セレンフィリティとセレアナは久しぶりの再会を楽しんだ。
「勉強は何とか。セレンお姉ちゃん達は相変わらず忙しそうだね。それに美人なのも変わらないし」
 絵音は笑顔で10年経っても大好きなお姉ちゃん達に言った。その笑顔は小さかった頃と同じであった。
「そぉ? 絵音も大きくなって美人さんになってるわよ」
「セレンお姉ちゃんのような美人に言われると照れるよ」
 セレンフィリティと絵音は互いに褒め合う。
 その時、
「もー、何してるの、絵音お姉ちゃんにセレンお姉ちゃん!」
「そうだぞ、早く勝負しようぜ」
「ひな祭り、始まっちゃうよ」
 絵音の妹と他の園児達が早く遊んで欲しくて邪魔をしだした。
「ごめんごめん、勝負受けて立つわよ。ただし、容赦はしないから」
 セレンフィリティは待たせた事を謝るなり少年と勝負をしに行ってしまった。
「……もう、子供相手に」
 セレアナは昔と変わらず大人げないセレンフィリティに呆れながら見送っていた。
 そして、ひな祭りを存分に楽しんだ。

■■■

 想像から帰還後。
「よし、出来た!!」
 セレンフィリティは書き上げた手紙を満足げに見てやりきったという顔をしていた。いつまでも変わらぬ愛をセレアナと共に大切に温めたいという気持ちがたっぷりと込められていた。それ以外の事はセレンフィリティにとって正直どうでもいいと考えているため書かれていなかったり。
「それでどうだったの?」
「10年後もあたし達は一緒だったわよ」
 想像した内容を訊ねるセレアナにセレンフィリティは簡潔に伝えた。階級が云々よりも一番大事なのは二人で一緒に生きているという事だから。
「それは良かったわね。でも私達の職業は軍人だから10年後無事に生きているか分からないけど生きてこの手紙を受け取る事が出来たらいいわね」
「そうね(何があってもきっと大丈夫よ。セレアナが側にいれば)」
 セレアナとセレンフィリティはそれぞれ10年後、無事に手紙を受け取る事が出来ればと願った。