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    ★    ★    ★

 一方の大荒野では、バトルロイヤルが続いていました。
「きゃっ!」
 いきなりバランスが崩れて、ソフィア・ヴァトゥーツィナがあわてて姿勢制御に移りました。BMIがきいているので、ちょっとはしたないですが、頑張って踏ん張る形に意識を集中します。
 それにしても、今の攻撃はなんだったのでしょう。まるで、膝かっくんのような……。
「気を抜かないで。きっとまたくるわよ」
「は、はい……きゃあ!」
 富永佐那の注意が終わらないうちに、またユノーナ・ザヴィエートが膝かっくんされて今度は転倒しました。イコンほどの重量物が転倒するのですから、ただではすみません。特徴的な真紅のウイングがバラバラになって周囲に吹き飛びました。その破片の雨の中に、紫月唯斗の姿が見えます。
「いつの間に接近して……。小さいから見えなかったの!?」
 こんな小さい敵にどう対応すればいいのかとソフィア・ヴァトゥーツィナが戸惑ったため、対応がかなり遅れました。その間に、紫月唯斗が鬼種特務装束【鴉】を発動させました。装甲が真紅の輝きを発し、紫月唯斗の縮界による動きで、まるで光の矢のような残像が四方へとのびます。そのときには、すでにユノーナ・ザヴィエートの四肢の関節が破壊されていました。それを確認すると、紫月唯斗が再び姿を消しました。
 生身で第三世代のイコンを完全破壊するまではとてもいきませんが、充分に行動不能にしています。仮に、完全破壊まで戦っていれば生身では時間がかかりすぎるため、他の敵に狙い撃ちにされていたでしょう。いかに縮界による高速移動をしていたとしても、立ち止まる場所がばれていれば帯域破壊であっけなくやられてしまいます。ここで退いたのはいい判断です。
「う、動きません!」
 どうすることもできなくなって、ソフィア・ヴァトゥーツィナが叫びました。ブレードビットはまだ動きそうですが、大半は転倒時に地面に突き刺さってしまっています。
「ここまでですね。敵が一体ならまだ逆転もあるかもしれませんが、集団戦で継戦能力を失った時点での撤退は基本です。命は大切にしなくては。いい経験になりましたね、ソフィーチカ」
 リタイアの発光信号をあげると、富永佐那がソフィア・ヴァトゥーツィナをねぎらいました。

「調子に乗っているようだな。まずは、身内から排除だ!」
「分かりました。まずは、あの子を救済いたしましょう」
 マネキ・ングに言われて、願仏路三六九がペルセポネ・エレウシスにむかってビームを放ちました。
「えー、なんでガンブツさんが、私を狙うんですか。きゃー、きゃー、きゃー!」
 いきなり攻撃されて、ペルセポネ・エレウシスが逃げ回ります。
きゃっ、いたいのー
 わずかにビームがかすめてさんざんです。でも、直撃していたら一瞬でアウトでした。

「無様だねえ……」
「何をしている、ペルセポネ! 反撃しないか!」
 逃げ回るだけのペルセポネ・エレウシスに、解説席からも不満の声があがりました。

「ごにゃ〜ぽ☆ 大きいのから、やっちゃうよー」
 身軽になったテンペストが、その巨体でひときわ目立つ伊勢に狙いを定めました。この大きさなら、外しっこありません。
 撃針で、伊勢に砲火を浴びせます。
「ははははは、そんな豆鉄砲、痛くも痒くもないであります」
 ジャマーカウンターバリアを展開しながら、葛城吹雪が勝ち誇りました。さすがに、機動要塞は多少の攻撃では沈みません。
「強がりはよしなさいよ。一方的にやられてるじゃないの!」
 さすがにこのままではまずいでしょうと、コルセア・レキシントンが葛城吹雪にむかって怒鳴りました。

「よし、ここはBMIのシンクロを100%にして、一気に誰かを沈めるわよ」
「ちょっといきなりなの!?」
 血気盛んに攻撃に出ようとするメイ・ディ・コスプレに、マイ・ディ・コスプレがちょっと焦りました。ますます、脳の筋肉化が進んでいるように思えます。
「あん♪」
 そのときです。いきなり、メイ・ディ・コスプレが悶えました。
「ど、どうしたの、いきなり!?」
 状況が呑み込めずに、マイ・ディ・コスプレが問い質します。
「何か、もふもふが身体をかすめて……。ああ、きもちいい」
 そう言って、メイ・ディ・コスプレがパイロットシートの上で身悶えます。
 あわててマイ・ディ・コスプレが索敵をすると、上空に何かとても小さい物がいて、さらに、ダスティシンデレラver.2の周囲にはもっと小さい物が多数飛び回っていました。
「こばー!」
 小ババ様です。いつの間に参戦したのか、小ババ様が新型の専用イコンで、もふもふビットの攻撃をダスティシンデレラに与えています。
 まあ、攻撃と言っても、もふもふビットがダスティシンデレラの装甲の上をかすめて飛んでいるだけなのですが、BMI2.0を100%にしてしまったメイ・ディ・コスプレは、イコンとシンクロしてしまった全感覚によって、全身を羽根ペンでくすぐられているような感覚に陥っていたのでした。