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某日 某時刻 AM10:26 空京某所

「怪人たち! あなたの好きにはさせないわ!」
 休日の遊園地。
 晴天の下、舞台上に立つ松本 恵(まつもと・めぐむ)の声が響き渡る。
 空京に建てられた遊園地の一角。
 その広場ではヒーローショーが催されていた。
 
 主演は恵。
 もっとも、今は黄瀬 春香(きせ・はるか)演ずる『魔法少女ラブリー☆はるか』として舞台に立っているが。
 
 恵、もとい春香が登場したタイミングは、まさにベストなタイミングだった。
 ヒーローたちが悪の秘密結社に属する怪人たちと激しい戦いを繰り広げる中。
 仲間にヒーローの足止めを託し、予め潜んでいた伏兵が動き出した瞬間だ。
 
「この会場の子供達を人質にするのだ!」
 
 その掛け声とともに観客席へと繰り出していく何人もの怪人。
 観客である子供たちの恐怖が一気に高まった時に合わせ、春香もとい魔法少女ラブリー☆はるかは登場したのだ。
 
「子供たちを人質にするなんて許せない! 怪人たちはとっととお家に帰りなさい!」
 可愛らしい声で言い放つ春香。
 すると会場から一気に歓声が上がる。
 
 魔法少女ラブリー☆はるかの助成により、ヒーローたちは一気に攻勢へと打って出た。
 春香が伏兵を倒して人質を救出したことで、心おきなく戦えるヒーローたち。
 彼等とともに立つと、春香はポーズを決める。
 
 攻勢へと出たヒーローたちが見栄を切るように立つ。
 そして、狙い澄ましたようなタイミングで怪人のリーダーが問いかけた。
 
「何なのだ! 貴様等は一体何なのだ!」
 
 その問いに対し、各々名乗りを上げていくヒーローたち。
 彼等の名乗りが終わった直後、春香も名乗りを上げる。
 
「蒼空に広がる、ビックな愛! 魔法少女ラブリー☆はるか!」
 
 名乗りを上げた瞬間、会場から一気に歓声が沸き起こる。
 見た目や声、仕草の可愛らしさもあってすぐに会場の人気を博した春香。
 加えて、ヒーローショーに魔法少女が出るという意外性も功を奏していた。
 ヒーローと魔法少女という要素は互いの魅力を高めあい、ショーを盛り上げていく。
 
 佳境に差しかかったタイミングで堂々と名乗りを上げた以上。
 もはやショーの流れはヒーローたちの勝へと向かうのは必定である。
 
 ここからは一対一の戦いだ。
 ヒーローサイドと怪人サイド。
 それぞれ因縁の深い者同士が戦う一騎打ち。
 
 スピーカーからは主題歌や挿入歌がBGMとして流れ。
 ステージ上に仕掛けられたガス噴射装置がフル稼働し、炎と音による特殊効果が次々と発動する。
 最高に盛り上がったステージの中。
 ヒーローたちの必殺武器、あるいは必殺技が次々に炸裂する。
 
 一騎打ちすべてはヒーローサイドの勝利に終わる。
 そしてショーも大詰めだ。
 
 怪人たちのリーダーと対峙するヒーローサイド。
 BGMと特殊効果、そして会場の歓声で最高に盛り上がる中。
 ヒーローたちは各々の必殺技を怪人のリーダーへと叩きこんでいく。
 
 最後は春香の番だ。
 魔法少女ラブリー☆はるかはポーズを決め、必殺武器を構える。
 そして、決め手となる必殺技が繰り出された。
 
「行くわよ、ラブリーライジング!」
 
 決め技は見事に怪人のリーダーへと炸裂。
 炎と音をふんだんに使った演出が出し惜しみなく盛大に行われる。
 
「ば、馬鹿なァァァァァッッッ!」

 放たれた決め技に加え。
 怪人のリーダーが見せた超一流のやられ演技により、ショーは最高潮の盛り上がりのまま無事終演を迎えた。
 
 その後も握手会も盛況であった。
 魔法少女ラブリー☆はるかのもとにも老若男女問わず、数多くのファンが訪れたのだ。
 
 ショー終了後。
 控室にて着替えた黄瀬春香は松本恵へと戻る。
「お疲れさまでした」
 共に戦ったヒーローはもちろん、怪人役の俳優たちとも和やかに雑談する恵。
 彼等と挨拶を交わし、会場を後にしながら恵はふと思う。
 
 ――ヒーローとしての戦いであっても、誰一人として傷つかず、悲しまない。
 だから、たまにはこうしたヒーロー活動も良いかもしれない。
 
 会場の盛り上がりを思い出し、恵は幸せな気持ちで家路に就いたのだった。