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海で触手でスライムでキノコ!?

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海で触手でスライムでキノコ!?

リアクション


2.まっとうじゃない海水浴のはじめかた

 酒杜 陽一がエロくない努力をしていたその時――
 島の反対側では、真逆の行動をしている者がいた。

 ピーッ!
「そこのスライム! 人に向かってむやみに触手を伸ばさない!」
 ビーチの自称監視員変熊仮面は、群れる触手スライムたちの中心に立つ。
「仕方ないな……君達は子供だから、特別に人と接する際の正しい知識を教えてあげよう!」
「ピ?」
 変熊の言葉に、首を傾けるようにして身を震わせる触手スライム。
「いいですか皆さん? 人間は美しい姿が好きです。俺様のように!」
 ビシイッ!
 ポーズを決めて自身を指差す。
「人間と仲良くなるためには俺様の姿になりなさい」
「ピ……」
「そしてエロ同性OKの男を襲うのだ!」
「ピ……!」
 変熊のとんでもない言葉を理解したのかいないのか、身を震わせる触手スライムたち。
 やがてその中の1匹が、ぐにぐにと体を動かして……
「……うーん、惜しいな。いやむしろ全然駄目か」
 子供が粘土で作成したような、中途半端なミニ変熊仮面の姿となる。
 変身能力があるわけでもない触手スライムにとってこれが精一杯らしい。
「仕方ない……ならばその姿で襲うのだ!」
「ピーッ!」
「わ、違、俺様ではなく……」
「ピー」
 変熊の言葉に応え、ミニ変熊仮面と化した触手スライムは次々と変熊へと襲い掛かる。
「あぁあっ、そ、そんな……っ(ピー:鳴き声)な所まで(ピー:鳴き声)するとは……なかなか……あぁあ……っ!」
「ピー」
 変熊で遊びつくした触手スライムは、新たな遊び相手を求め動き出した。

   ◇◇◇


「素晴らしい、素晴らしいぞ! この凶悪なモンスターに守られた我が秘密基地は!」
「ピー」
 島の奥で秘密基地を開発中のドクター・ハデス。
 彼の前には凶悪なモンスター……触手スライムの子供たちがいた。
 ハデスはこの触手スライムたちを、秘密基地の防衛として利用するらしい。
「もう、兄さん! なにこんな所に、無断で秘密基地作ろうとしてるんですかっ! あと、島を独り占めしようとしないっ!」
 唇を尖らせハデスに文句を言うのは高天原 咲耶。
 彼女はハデスと遊ぶために無人島にやって来たのだが、今日も今日とて秘密結社の事を考え暴走するハデスのツッコミ担当となってしまっていた。
「もうっ、今日はせっかく兄さんと海で遊べると思ったのにっ! ……仕方ありません」
 咲耶の瞳が鋭く細められる。
「アルテミスちゃん」
「はい」
「ペルセポネちゃん」
「はいっ」
 咲耶の声に、アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)ペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)が即座に反応する。
「とっとと兄さんを止めて、皆で海で遊びますよ!」
「はいっ! 秘密結社オリュンポス! 今日こそ、この正義の騎士アルテミスが成敗してみせますっ!」
「わかりましたっ! ハデス先生と戦闘員の皆さんを止めればいいんですねっ!」
 咲耶の号令の元、二人は行動を開始する……はずだった。
「……どうやら我らの秘密基地に招かれざる客が来たようだ。 戦闘員および触手スライムよ!  契約者たちを排除するのだっ!」
「ピー!」
 ハデスの号令に、訳が分からないまま触手スライムたちは動き出す。
 しかしアルテミスは微塵も怯まない。
「スライム程度では、私の相手にはなりませんよっ! おとなしく降伏してください!」
 警告を発しつつ、大剣を振い、スライムに正義の鉄槌を下していく。
 しかし、彼女は水着姿だった。
 そして、油断していた。
 ――それが命取りとなる。
 にょろり。
 アルテミスの水着にくっついたスライムが、触手を伸ばす。
 それは、するりと彼女の水着の中に入る。
「……やっ!?」
 そのぞわりとした感覚に、思わずアルテミスは身体を震わせる。
「なんですか、この触手はっ?! くっ…み、身動きが……」
 危機に陥ったのはアルテミスだけではなかった。
「きゃ、きゃあっ、なにっ、このスライムはっ?! やっ……み、水着が溶けて……!」
 ツッコミ用スリッパ片手にハデスを止めようとした咲耶にも、触手スライムは襲い掛かっていた。
 どろりと溶けた水着の下から咲耶の素肌が見えそうになる寸前に、咲耶の光術による謎光がそれをカバーする。
「や、やんっ、触手が水着の中にっ?! あっ、そ、そこはだめっ! だめぇええっ!」
 アルテミスの水着が破れるが、漆黒の帳がそれを隠す。
「皆さん……今行きますっ! 機晶変身っ!」
 ペルセポネの変身ブレスが光り、パワードスーツが実体化しペルセポネに装着……しなかった。
「へ?」
 生まれたままの姿のペルセポネは、変身ポーズのまま固まる。
『周囲に浮遊する胞子の干渉のため、装着プロセスが中断されました』
 ブレスレットから非情なAIの音声が聞こえてきた。
「きゃ、きゃあああっ」
「ピー!」
 そんなの関係ないとばかりに、一斉にペルセポネに襲い掛かる触手スライムたち。
「はーっはっはっは! 悪はかならず勝ーつ……あっ、貴様ら何をするっ、あぁあああっ!?」
 ハデスにも平等に襲い掛かった触手スライムたちは、ハデス一行を蹴散らすと島の各地へ拡散していった。

   ◇◇◇

「お楽しみのー、バーベキューターイム!」
 各種炭火で焼かれた食材を前に、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が元気よく宣言する。
 側ではダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)夏侯 淵(かこう・えん)らがバーベキューを手伝っていた。
「ところで、ルカルカさん」
「何?」
「それ、何……?」
 サニーが恐る恐る指差したのは、ルカルカの膝に座って(?)いる物体。
 触手のついた、小さなスライム。
「ん。実はこんなことがあったんだー」

 ルカルカが言うには、この触手スライムたちはビーチでルカルカ達に懐いてきたものらしい。
 ダリルが意思疎通した所、キノコが好きだというのでルカルカが創世の薔薇で大量に複製を作ったのだ。
 そうしたら、更に懐いた。
「まあ、そんなわけだから気にせず食べて食べて!」
「肉だー!」
「野菜も食べろよ」
「キノコも食え」
 肉を前に吼えるカルキノスの皿に、ダリルと淵が野菜とキノコを置く。
 楽しい筈のバーベキュー。
 しかしそこにはとんでもない罠が潜んでいた。
 焼かれているキノコの中に、ルカルカが先程複製したキノコと、何故か『どぎ☆マギノコ』が紛れ込んでしまっていたのだ!

 武崎 幸祐(たけざき・ゆきひろ)はバーベキューと共に、ダッチオーブンで作った自信作のローストビーフを皆に振る舞っていた。
「どうです? なかなかのものでしょう」
「そうね…… お店で食べてるみたい。美味しいわ」
「俺も、実に美味であった……」
「ん?」
 幸祐のローストビーフを食べた雅羅は頬に手を当てながら答える。
「コイツも美味いなー」
 ルーデル・グリュンヴァルト(るーでる・ぐりゅんう゛ぁると)は骨付きソーセージが気に入ったのか、皿の上に何本も確保しては他の野菜もつついている。
「そんなにがっつかなくとも、まだまだ用意してありますよ」
 幸祐は未調理の骨付きソーセージをルーデルに見せてみる。
 がばり。
「ん?」
 突然、ルーデルが幸祐に抱き着いた。
「……幸祐のソーセージ、たべるぅ〜」
「んん?」
 急に変貌したルーデルの様子。
 その口から匂う、違和感。
(これは……キノコの中毒?)
 幸祐が気付いた時にはもう遅かった。

 バーベキュー会場は混乱に陥っていた。

「んん……」
 ルーデルは幸祐に馬乗りになると、幸祐の持っている骨付きソーセージをかじる。
 面積の薄いビキニを見につけている互いの体が密着する。
「何をしてるんですか!」
 そこにヒルデガルド・ブリュンヒルデ(ひるでがるど・ぶりゅんひるで)が救出に入る。
「うるさいなぁ……」
 しかしルーデルはあっさりヒルデガルドの動きを封じる。
「これでも……味わってな」
「え……え、やだ……!」
 ルーデルが取り出したのは触手スライム。
 それを、ヒルデガルドの体に押し付ける。
 素肌に、水着の中に……
「いい加減に……しやがれ!」
「ぐ……っ」
 ルーデルから自由になった幸祐がルーデルを気絶させた。
「ま、マスター……」
「もう大丈夫」
 触手スライムからも自由になったヒルデガルドを、幸祐は抱きしめる。
 その耳に、ヒルデガルドは小さく呟く。
 幸祐にしか聞こえない声で。
「マスター……、して下さい……」

「ちょっと! この触手スライムしつっこい!」
 ルーデルのキノコ騒ぎがひと段落したかと思いきや、バーベキュー会場では別の騒動が起こっていた。
 ルカルカたちが交流したものとは別の触手スライム……変熊やハデスが悪さを焚き付けた個体たち……が、バーベキュー会場を襲ったのだ。
 尻尾に飛び掛かられた蘇 妲己(そ・だっき)は小さな悲鳴を上げる。
「も、もうっ! あっち行きなさい!」
「あっ、妲己さん、そんなに尻尾を振ったら……」
 サニーが注意した時にはすでに遅かった。
 振り回した妲己の尻尾の勢いで、そこに張り付いていた大量の触手スライムが周囲に飛び散ったのだ。
「むぎゅっ!」
 サニーの顔に。
「きゃあっ!」
 雅羅の胸に。
「いやぁあ!」
 陽菜都の腰に。
「もう、もうっ! 止めなさい!」
 しかし妲己は納まらず扇を取り出して振り払おうとするが、各所に触手スライムのパンデミックを拡大させるだけ。


「ふふふふふ……あなたの中身は何色かしら……」
「きゃぁあああ!」
 騒動は更なる広がりを見せる。
 キノコを食べて欲望むき出しとなったエリザベータ・ブリュメールがパンツを狩りだしたのだ。
 バーベキュー会場に吹く一筋の疾風。
 それが彼女だった。
 サニーの、雅羅の、陽菜都のパンツがエリザベータの手に握られる。
「ああっ、やだ、それは……っ!」
「取ったー!」
 パンツ狩り求道者へと変貌したエリザベータの手に、ピンク、白、黄色のパンツが握られる。
 エリザベータの魔の手は女性だけでなく、男性へも伸びようとする。
「そうはさせないであります!」
 そんなエリザベータを止めようと、葛城 沙狗夜が立ちはだかる。
「覚醒した私の敵ではありません!」
 がしゃーん!
「な……に……」
 エリザベータによって沙狗夜はTバックビキニ以外の全ての装甲を破壊されてしまった。
「まだまだ……っ!」
 そんなエリザベータに、ほぼ全裸に近い恰好のセフィー・グローリアが飛び掛かる。
 触手スライムによって服のほとんどを奪われてしまったセフィーは、かろうじて残った毛皮を無理矢理体に巻きつけていた。
「あら……残念。奪うパンツがないじゃないですか」
「黙れっ!」
 エリザベータとセフィーの戦いが始まった。
 しかし最終的にセフィーは破れ、パンツの代わりに毛皮を奪われてしまうのだった。

「雅羅、危ない!」
 パンツを奪われた上に触手スライムに襲われていた雅羅を見つけたオルフィナは、即座に大剣で触手スライムを一掃する。
「あ……ありがとう」
「いや、なに……」
 雅羅を助け起こそうとしたオルフィナの腕が、再び彼女を押し倒す。
「え?」
「……雅羅は、俺の得物だー!」
「えええー!」
 しっかりキノコの効果が表れたオルフィナは、今にも雅羅を襲おうとしていた。
「雅羅ーっ!」
 そこに助けに入ったのは、想詠 夢悠だった。
「逃がす……かっ!」
「雅羅、早くこっちに!」
「ええ!」
 オルフィナの大剣を潜り抜けると、夢悠は雅羅の手を取って走り出した。

「サニーさんは、こっちに!」
「きゃっ」
 杜守 三月はサニーの手を取り……お姫様抱っこげ抱え上げる。
 それでもまだサニーに触手を伸ばす触手に、三月は叫ぶ。
「サニーに手を出していいのは、僕だけだ!」
「み、三月さん……」
 真っ赤になったサニーは三月に抱かれたまま、その背中に手を回した。

「陽菜都ちゃんはこっちに!」
 ルカルカと淵は他の正気メンバーの避難誘導をする。
「俺は最後で良いから、皆を先に!」
 ダリルがルカルカたちに指示を出す。
「よし、お前で最後だ……」
 そしてカルキノスがダリルを抱えた時だった。
 カルキノスの精神が、キノコに支配された。
「……はーっはっはっは!」
「な、何だ……」
 カルキノスはダリルを抱えたまま飛び立つと、姿を消した。

   ◇◇◇

「よ、良かった……雅羅、大丈夫?」
「ありがとう……」
 なんとか触手スライムとキノコの魔の手から逃れた夢悠は、ずっと雅羅の手を握っていたことに気付いて慌てて手を離す。
「……あのさ、雅羅。こんな時に、何なんだけど……」
 そして夢悠は語り出す。
 先日夢悠が告白し失恋した雅羅に対して、少しでも彼女の負担を和らげるための、嘘を。
「実は今さ、好きな子がいるんだ。学校の後輩で、可愛い子なんだ。まだ気持ちは伝えてないけど、お付き合い出来たらなって感じ」
「……そうなの」
 言いながら鼓動が早まるのを感じた。
 サングラスと夜の闇は、夢悠の表情を隠す。
「もし彼女になってもらえたら、君に紹介するよ。みんな仲良く出来ると思う」
「……そうね。楽しみにしているわ」
「まさ、ら」
「夢悠、私はあなたに何度も何度も助けてもらったわね」
 雅羅が静かに唇を開く。
「とても、感謝しているわ。……たとえあなたに大切な人ができても、あなたは、私の大切な友人よ」
「雅羅……」
 サングラスを外して笑おうとしていた夢悠は、再びサングラスをかける。
 涙を、見られないようにするために。

   ◇◇◇

「食いてェ……」
(何!?)
 避難の最中、突然各種キノコの影響で混乱したカルキノスはダリルを抱いて飛んでいた。
 ダリルはといえば、精神を守るためアストラルプロジェクションで未だ精神離脱中。
 体の自由が効かないダリルを、カルキノスは島の奥に降ろした。
「くく、食いてェ。性的な意味でな!」
 そう宣言すると、カルキノスは長い舌でダリルを舐める。
(まずい!)
 ダリルは自身の体に戻ろうとして、一瞬躊躇する。
 このまま戻った所で、肉体だけでなく精神ともどもカルキノスの餌食になるのではないだろうか。
 ならば、こうして精神だけでも守った方が……いやいや。
 そうこうしているうちに、カルキノスは次第に大胆になってくる。
 ダリルの服を脱がしにかかるカルキノス。
「この姿じゃ、デカくて無理だよな。なら……」
 シェイプチェンジ!
 カルキノスは人間に変化する。
(くそっ、奴は……本気だ)
 竜の舌によってダリルの体はじっとりと濡れている。
 そこに人型となったカルキノスは襲い掛かる。
「……っ」
 精神のないダリルの体が僅かに反応する。
(く……こ、これ以上は!)
「カルキノス、止め……ろっ」
 たまらず肉体に戻りカルキノスを止めようとするダリル。
 しかしその時にはもう遅かった。
「……ん、く……っ」
 精神を飛ばしていたダリルには、分からなかった。
 ダリルが摂取したキノコとカルキノスの行為によって、ダリルの体の自由は完全に奪われていたのだ。
「あ……や、め……」
「いつもはクールなお前を、啼かせてみるのも悪くねぇな……!」
 カルキノスは嗤った。