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リアクション
第十試合
――今回のメインイベント、王座戦ラダーマッチルール。
その為の準備が着々と行われている。
リングサイドには試合の為に必要なラダーの他、テーブル、椅子が畳まれた状態で置かれ、リング上空からワイヤーで勝利条件となるベルトが吊るされる。
過去にも行われたこの試合。今回異なるのはベルトの本数だ。
タッグ王座のベルト2本がまとめて吊るされている。それをこれから選手達で奪い合うのである。
まず入場してきたのは地獄のマットに舞い降りた堕天使、ノーライフ・クィーンことヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)。そしてマネージャー兼タッグパートナーの将軍JG・O熊こと大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)である。
大熊が先導しその後をヒルダ、そして人間凶器ストロンチウム魔人がついてくる。今回大熊が持ち込んだ凶器がこのストロンチウム魔人である。
本来なら一人ではなく『一個持ち込みOKというならば、一個軍団も一個という扱いになるであります!』と言う大熊の主張から軍団で連れてくる予定であったのだが『流石に無理だろ常識的に考えて』という運営の一言で却下されたのである。人間凶器はいいのか。
続いて入場してきたのは、ダンボールに拘りがある事で有名な某伝説の傭兵と似た格好をしたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)。その後ろに従わせているのは某KKKに似た全身を覆う白装束を纏った2人である。
『婆羅門の審判を受けよ』という掛け声から始まり、『婆羅門』と怪しげに連呼する声を入場曲として流しながらリングに入ると、某KKKの2人が白装束を脱ぎ捨てる。そこに現れたのは典ノジこと典韋 オ來(てんい・おらい)とレイラ・ソフィヤ・ノジッツァ(れいらそふぃや・のじっつぁ)。
今回は典ノジはローザマリアを加え、ナラカの熾天使婆羅門ボーイズとしての参戦であった。ちなみにローザマリアは今回はセコンドロー蛇としての参加であった。セコンドが一番デカい面をしての入場というツッコミは禁句である。
装束を脱ぎ捨てると、典韋は何処からかマイクを取出す。そして何かを喋ろうと口を開くと、緑色のゲル状の物体が出てくる。これは【お告ゲル】と言って、この試合の予言を行うギミックである。
だが何かを言おうとするのを遮る様に次の選手の入場が始まる。尺が無いのである。
邪魔をされ忌々しげに典韋達が睨み付ける花道の先には、軍用バイクに跨りギターを背にした涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)とミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)の親子タッグの姿があった。
【カーニバル・オブ・チャンピオンズ】による涼介達の入場、リングインまでの一挙一動全てが威風堂々とした物であり、リング上の選手に威圧感、そして格の違いを見せつけているようでもあった。
婆羅門ボーイズ達の敵意剥き出しの視線など何処吹く風とばかりに、両手を上げ涼介とミリィは観客の歓声を浴びるのであった。
そして最後、天野 翼と和 泉空が花道を走り、勢いそのままに滑り込むようにリングインするのであった。前の三組がとても濃かった為、入場時の事を何も考えていなかった翼と泉空は勢いで誤魔化す事にしたのである。
一波乱も二波乱も起こりそうな、この試合の開始を告げるゴングが鳴り響いた。
開始直後、ヒルダと泉空がぶつかり合った。
ヒルダはフットワークを使いつつジャブで拳を叩きつけ、泉空はミドルキックを叩きこむ打撃戦になっていた。
「ノーライフ・クィーンのゴルベを食らうであります!」
その横で大熊が叫んでいた。ゴルベとはヒルダの拳を使った技の総称で、ぶっちゃけ殴れば何でもゴルベになるのだという。
だがその打撃戦は足元に何かが現れたことで止まる。
それは虫であった。しかも一つではなく、幾つもであり、ムカデ、タランチュラ、ミミズ、ゴキブリ、カマドウマ、カブトムシの幼虫等多彩である。
「な、何よこれ!?」
「……グミ?」
蠢く虫を泉空が一つ手に取り、呟く。一見本物と見間違う程精巧であるが、触ってみると生物ではなく、僅かに甘い香りがする。
何故こんな物が突然出てきたのかと首を傾げているヒルダと泉空を、レイラが襲った。レイラはまずヒルダに、続いて泉空に拳を叩きつけダウンさせると2人に虫グミをふりかけ、踏み潰す様にストンピングを浴びせる。
「蟲地獄はどうだバカヤロー!」
続けてレイラは泉空のハーフマスクを無理矢理剥ぎ取ると、開いた口に虫グミを詰め込む。
「死んで! ナラカに堕ちて! 今度生まれ変わったら蛆虫になるぞバカヤロー!」
レイラは叫ぶとロープに走り、【バーストダッシュ】を加えた必殺奈落ラリアットを泉空に放つ。
だが泉空は口の虫グミを咀嚼すると「不味い」とレイラに吹き付ける。
虫グミを顔面に吹きつけられ、ラリアットのタイミングがずれたレイラはバランスを崩しよろける。何とか体勢を立て直すと、「邪魔しないでよ!」とヒルダが飛びつくティヘラでレイラを転がす。そして続け様に泉空がエクスプロイダーでリングに叩きつけるのであった。
一方ではミリィのアッパーエルボーと翼のエルボースマッシュによるエルボー合戦が行われていたが、こちらも突如現れた虫グミにより中断させられていた。
やはり首を傾げるミリィと翼を襲ったのは、典韋。モンゴリアンチョップでダウンさせると、こちらも蟲地獄と称して虫グミをなすりつけケタケタと笑う。
「見える……見えるん蛇! プロレス団体を再建しようとする者が夢破れてナラカへ堕ちて逝く姿が見えるん蛇!」
先程邪魔された予言をここで叫ぶと、典韋は翼を仰向けにするとその身体に虫グミを置くとリングに背を向ける形でコーナーに上る。
「食らうん蛇ぁッ!」
コーナー最上段から典韋がラウンディングボディプレスを放つが、待ち受けていたのは翼の膝だった。
鳩尾に膝が刺さり、膝立ちで苦しげに腹を押さえる典韋に、ミリィがアッパーエルボーからのドロップキックを放つ。
ダウンした典韋にさっきのお返しとばかりに翼が虫グミを典韋の腹に置くと、コーナーへ飛び乗り高く跳ぶ。
そして、両足で虫グミごと典韋の腹を踏み抜く様に着地。フットスタンプにより典韋が苦しそうにのた打ち回る。
「ぐぬぬ……おのれ……」
場外、旗色が悪い状況にローザマリアが忌々しげに呟く。
「場外から色々やらかしてるようだね」
場外に降りた涼介がローザマリアに話しかける。
ローザマリアは場外から、リング内に虫グミを撒いたのであった。本来は【サイコキネシス】で動かすつもりであったが、それは数が多すぎる為適わなかった。
それを典ノジ組を警戒していた涼介は目撃したのであった。
本来ならローザマリアは実況席横でダンボールを被り虫グミ操作を行うはずだったのだが、やろうとしたら「邪魔なんで」と追いやられてしまい結果目撃されることとなってしまった。
「邪魔はしないでもらおうか!」
そう言うと涼介はローザマリアに逆水平を叩きこむ。数発叩きこむと、ローザマリアは距離を距離を取る。
追い打ちをかけようとした涼介に、ローザマリアは手を掲げると何やら怪しげな呪文を唱え始める。すると涼介の手が動かなくなった。
手を動かそうとする涼介に、ローザマリアは呪文を唱え続ける。実際はこの呪文には何の意味もなく、【サイコキネシス】で動かすのを邪魔しているだけであった。
「蛇界の邪魔は誰にもさせないん蛇ぁぐぉあッ!?」
ローザマリアがそう叫んだ直後であった。典韋とレイラが落下し、ローザマリアと涼介を巻き込んだのであった。
「い……一体なんだというん蛇ぁがぁッ!?」
立ち上がったローザマリアと典韋、レイラ、更に涼介に今度は翼が体を錐揉み上に回転させるトルニージョが降りかかる。
全員をダウンさせた翼が立ち上がると、間を置かずエプロンに立ったヒルダがソバットを放つ。よろけた翼を確認するとヒルダはトップロープへ飛び乗り、ラ・ケプラーダを放つ。
美しい弧を描くヒルダの身体を浴び、翼がダウンする。
観客の歓声が沸き上がり、ヒルダが片手を上げ応えていると、ゆらりとローザマリアが立ち上がる。
「だ、誰であろうと蛇界の邪魔はさせないん蛇あッ!?」
そして、直後振ってきた大熊の下敷きになる。その後ろでは泉空が立っていた。
大熊は泉空を場外に叩き落とし、ストロンチウム魔人の餌食にするつもりであった。しかし返り討ちにされるとエプロンからの断崖式エクスプロイダーで投げられてしまうのであった。
「ちょっと、話の腰を折るのはこの【グレイシー話術】の使い手、ヒルダの役目よ?」
リングに戻ると、不満げにヒルダが泉空に言う。人の話の腰を折る話術【グレイシー話術】の使い手として、横取りされたのが不満なのだろう。
「……ごめ「こうなったら今度はヒルダのバランカの餌食になってもらうわ!」
泉空が謝ろうとするのを遮り、ヒルダは飛びついてからの腕十字に移行する。バランカとはヒルダが使う腕関節技の総称である。腕の関節を極めれば何であろうとバランカなのである。
巻き込むように泉空をリングに転がし、腕を極める。だが腕が伸びた瞬間、泉空は体を捻り手を抜いた。
ヒルダが起き上がると、泉空が飛びついて腕十字を極める。これをヒルダは腕をクラッチすることにより堪えるが、上半身を起こした泉空は足を入れ替え今度は三角絞めへと移行する。
更に三角絞めから重心移動で、ヒルダをうつ伏せに転がす。そのまま腕を極めればオモプラッタとなるが、泉空は立ち上がると後ろからクラッチを極める。ジャーマンの体勢だ。
投げられそうになるのを、踏ん張り堪えるヒルダ。
「そう簡単にはいかないわよ!」
そう言うとヒルダは光翼を展開する。
光翼に目が眩んだ泉空は思わず手を離してしまう。
「うん、そう簡単にはいかないね」
技を解いた直後、翼が飛びついてきた。
泉空がヒルダを捕らえている最中、翼はエプロンからトップロープへと飛び乗り、ヒルダへと向かって跳んだのである。
頭を両足で捕らえるとそのまま後ろに体重をかけ、ヒルダを転がし、両足を抱え込む。両肩がリングに着き、レフェリーがカウントを取る。
突然のウルトラウラカンラナにヒルダは反応が遅れ、何とか跳ね上がるが既にカウントは3。
フォールを奪われてしまうと一定時間試合に参加する事は許されない。レフェリーに場外に出る事を指示され、呆気にとられつつもヒルダは渋々場外へと降りるのであった。
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