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 人数が1人減った状態、リング上に残っていたのは涼介、ミリィタッグと翼、泉空タッグであった。
 涼介と泉空、ミリィと翼が其々対峙し、両者がぶつかり合いどちらも一歩も引かない攻防が続く。
 その流れを断ち切ったのが、涼介の椅子攻撃であった。まず泉空の一瞬の隙を突き、椅子に叩きつける形でのDDTを放つとその椅子を組み立てて上がると、ムーンサルトを決めた。
 ミリィも飛びついた翼にカウンターのスパインバスターを決めてからのフロッグスプラッシュでダウンさせる。
 翼と泉空をダウンさせた涼介とミリィは、ラダーを運び組み立てる。
「ミリィ、頼んだ!」
 その言葉に周囲を警戒するミリィ。ラダーを一歩、一歩と涼介が上っていく。
 最上段まであと僅か、というところであった。両足を後を追う典韋が抱えてきたのである。振り返り典韋の姿を確認した涼介の目に、その後ろにあるテーブルが目に入る。
(テーブルが……ここから叩きつける気か!)
 更に反対側からは、ミリィをノジノジカッター(ダイヤモンドカッター)で倒したレイラが駆け上がってくる。
 上段で向かい合う涼介とレイラは、お互い拳を叩きつけ合う。どちらも相手を叩き落とし、自分は落とされまいと必死に拳を振い、ラダーを掴んで堪える。
「無駄な悪あがきはやめるん蛇!」
 嘲笑うかのように涼介を挑発する典韋が、後ろのテーブルの位置を確認すべく振り返る。
「お、おい! 何をするん蛇!?」
 設置したはずのテーブルを、泉空が撤去していた。
「こうする」
 更に泉空は典韋の身体を後ろから抱え、引きはがそうとする。それを堪える典韋。
 典韋が涼介を、泉空が典韋を抱えて連結した状態になる。
 上段では涼介の拳がレイラの顔面を捕らえていた。一撃によろけ、落下しそうになるところをレイラはラダーを掴んで堪える。
 そんな中、翼がロープの反動を利用したドロップキックを、ラダーに向けて横から放つ。
 ラダーが大きく揺れ、そのままロープへもたれ掛るように倒れる。
 その衝撃でレイラは場外まで落下。更に涼介と典韋も、堪え切れずラダーから身体が離れる。そして泉空が典韋を涼介ごと、ジャーマンでリングに叩きつけたような形で落下する。
 最も高い位置から落下した涼介は体がバウンドする程叩きつけられ、リングで大の字になる。典韋も無事では済まず後頭部を押さえ悶えている。
 そして投げた形になった泉空は、
(眉山……初めてやった……!)
初めてやった技(偶然その形になっただけだが)に、感動して呆けていた。

「凄い事になってるわね」
 漸く拘束を解かれたヒルダが、場外でダウンしていた大熊と共にリングへと戻る。
「しかし今ので大半がダウンしているであります……これはチャンスでありますよ」
 ニヤリと笑みを浮かべる。
「まさか、やるつもり?」
「土壇場までやるつもりはなかったでありますが、今こそその土壇場であります。かっさらうチャンスでありますよ」
 大熊はそう言うとその場で深く腰を落とす。
「行くでありますよ、ノーライフ・クィーン!」
 大熊が合図を出すとヒルダは駆け出し、彼を踏み台にして飛ぶ。
 それは跳躍ではなく、背から光翼を出しての飛行であった。ベルトに目がけて
「あ、ずっこい」
 それに泉空が気づいた。どうした物かと辺りを見回すが、ラダーはロープに立てかけてあり組み立てるのも、運ぶのもヒルダを落とすには間に合わないだろう。
「いっちゃん、後任せた」
 同じく気付いた翼はそう言うと、ロープに向かって走り出す。
「了解」
 察した泉空は屈むと、戻ってきた翼をショルダースルーの要領で高く放る。
 翼の身体が放物線を描く様に空高く舞い、トペ・コン・ヒーロのようにヒルダに衝突。勢いそのままに場外まで落下する。
「ノーライフ・クィーン!?」
 大熊が慌てて場外に目をやると、落下した衝撃で立ち上がれず大の字に転がるヒルダと翼がいた。
「いただき」
 背後からの声に気付いた時、大熊の身体はジャーマンで泉空に投げられていた。
 着地時、泉空の足が浮くほどの勢いで投げられた大熊は返す事が出来ず、3カウントを叩かれてしまう。
 フォールされレフェリーによって場外に出される大熊を見てから、泉空はラダーを素早く組み立て上り始める。
 ベルトの真下。ラダーが組み立てられ泉空が上り始める。最上段まであと少し、という時であった。
「そうはいかんの蛇ぁッ!」
 典韋がラダーに飛びつく様に駆け上がり、泉空を捕らえると背にパンチを叩きつけ叫ぶ。
「ノジ! テーブル蛇ぁッ!」
 レイラは素早く組み立ててあったテーブルを運び、典韋の背後に来るように設置。
 更にレイラも反対側から駆ける様にラダーを上ると、泉空と正面に向き合う。一発パンチを放つと、その頭を抱えるとレイラが飛ぶ。それに合わせ、典韋も後ろに倒れ込む。
 堪え切れずに泉空の手が、身体がラダーから離れる。典韋が抱え、レイラが少し異なるがノジノジカッター(ダイヤモンドカッター)を放つ形で落下。リバースの3Dの形となり、着地点は設置してあるテーブルだった。
 大きな音を立ててテーブルが真っ二つに折れる。背後から叩きつけられた泉空は残骸に埋もれて動かなくなる。 
「見たか……見たか! これが典ノジカッター蛇ぁッ!」
 一度目は失敗した合体技の成功に、典韋とレイラがガッツポーズをとる。だが2人とも諸共落下した為、自身が受けたダメージは軽くは無い。
 なので気付いていなかった。復活した涼介が、リングを揺らす程の力強さでリズムを取る様に足を踏み鳴らしタイミングをうかがっていたことに。
「じゃあこっちも受けてみろぉッ!」
 直後、典韋の顎を涼介のスウィート・チン・ミュージックが貫く。
「先程のお返しですわ!」
 そしてレイラの頭にミリィの必殺技である飛びつき式ダイヤモンドカッターであるRKO(ミリィが放つためMKO)が決まる。
 典韋、レイラが大の字になりダウン。泉空も蠢いているが、起き上がる事は出来ないようだ。
「ミリィ!」
 涼介が指示を出すと、素早くミリィが既に組み立ててあるラダーを駆け上る。
「蛇界は……蛇界は……お前等の思い通りにはさせないん蛇ぁッ!」
 場外では漸く回復したのか、ローザマリアが立ち上がり咆哮しリングへと上がると先程の呪文を唱えつつラダーを上るミリィに手を向ける。
「そうはさせるか!」
 だが涼介が自身が持ちこんだギターを手にすると、ローザマリアを思い切り殴りつける。
 ギターショットを受けたローザマリアは溜まらずダウン。そのまま蹴落とされるように場外へと転がされる。
 その隙にミリィは最上段まで到達していた。ラダーの上に立ち上がると、ベルトに飛びつく。
 ラダーが倒れ、しがみ付きながらベルトを固定するワイヤーを外す。
 外れると、ミリィの身体がリングへと落下する。
「おっと」
 危うく叩きつけられる寸前に、涼介がミリィをキャッチ。その瞬間、試合の終了を告げるゴングが鳴り響いた。
 観客席から割れんばかりの歓声が湧く。その歓声に包まれ、涼介とミリィは互いを抱きしめあっていた。
 やがて離れると、涼介とミリィは手にしたばかりの王座の証であるベルトを見せつける様に高く掲げた。新王者の誕生を知らしめるように。

「……さて」
 新王者の誕生に歓声が湧く中、阿部Pは席から立ち上がる。
「どうしたの?」
 その様子を不思議そうに空が問う。
「いえ、ちょっと……そうだ、貴方も来ますか?」
 そう言われた空は阿部Pを見ると、何かを察したらしく「面白そうだから」と一つ頷き、その後をついて行くのであった。