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【第十一話】最終局面へのカウントダウン、【第十二話(最終話)】この蒼空に生きる命のために

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【第十一話】最終局面へのカウントダウン、【第十二話(最終話)】この蒼空に生きる命のために

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 三十分後 迅竜 格納庫
 
「すまねぇ、相棒……俺のせいでよ」
 漆黒の愛機を前に、航は一人ごちた。
 先程のゴルトタイプとの戦闘の際、損傷を負った漆黒の“フリューゲル”。
 損傷自体は軽微だったものの、そのダメージの影響か、コクピットシステムに不具合が生じたのだ。
 それにより“フリューゲル”は起動せず、このままでは出撃できない。
 
「あなたのせいではないわ。もともと『SSS』を搭載したこの機体のシステム自体、動くのが不思議なくらいの無茶苦茶な技術なのよ。それをエミュレートによって強引に動かしているんだから、だから多少のダメージで影響が出ても仕方ないわ」
 機体を診ながらイーリャが言う。
「……ひとまず解析は完了。どうやら、エミュレーションシステムが故障したせいみたいね。『SSS』が搭載されていた時にあった『機体に魂が宿っている』感覚がない……っていう状態にこの機体のメインシステムが混乱してるみたい。エミュレーションシステムで『SSS』がこの機体には有るって認識させていたんだけど……」
「そのエミュレーションシステムっていうのの予備はないのか? 予備がありゃあ、そいつを……」
「ごめんなさい……。急造したものだったから、予備はないの」
「……俺は、どうすりゃいい」
「方法がないわけじゃないわ。……ちょうど着いたみたいね――」
 イーリャが言うと、一機のイコンが着艦してくる。
 機体から降りてきたのは、富永 佐那(とみなが・さな)だ。パートナーであるエレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)の姿もある。
「ジーナ……!」
「あら、航。丁度良い所に」
 軽く目配せして航に挨拶すると、佐那はイーリャへと向き直る。
「アカーシ博士、シャンバラ教導団本校にて例のものを受領。こちらにお持ちしました」
「ありがとう」
「丁度良いところに、って……いったいどういうことだよ? そういや迅竜にもいなかったし、今まで一体どこに?」
「聖エカテリーナアカデミーで機体の最終調整をしてたのよ。それにアカーシ博士から頼まれものもあったから、ここに来る前にそれを受け取って、というわけ」
 会話しながら佐那はコクピットブロックからなにかを取り出す。
 取り出されたのは、厳重に梱包、というより、もはや装甲されているというレベルの運搬用ケースだ。
 迷いの無い手つきで佐那がパスコードを入力すると、空気圧の抜ける音と共に蓋が跳ね上がるように勢い良く開く。
 そして中から現れたのは、なにか機械のコアユニットのようなものだった。
「これは……!」
 一番最初に驚きの声を上げたのはティーだった。
「ええ。お察しの通り」
 事情を理解している二人に向け、航が問いかける。
「……どういうことだよ?」
「“フリューゲル”のメインシステムが混乱している理由はさっき説明した通り、それで要は『機体に魂が宿っている』って認識させればいいわけだから。でも、そのためには――」
 そしてイーリャは航の隣にいたティーへと向き直る。
「ティーさん。あなたさえ許してくれるのなら、これを使うという方法がある」
「……」
「これがティーと何か関係があるのか……?」
「かつてグリューヴルムヒェンシリーズが最初に確認された時、その時の戦闘で大破したあなたの彼女の愛機……サルーキのコアユニット」
「……!」
「残って……いたなんて……」
「もう休ませてあげるっていうあなた達の意向で修理はせずにいたけど、あなた達が教導団所属である以上、機体自体は軍のものでもあるわけだから、いろいろあって保存されていたの」
「だから……今ここに……」
「そう。そして、心を持つあのイコンのコアユニットを組み込めば、“フリューゲル”のメインシステムが混乱から解放される可能性はあるわ」
 イーリャの説明に、静かに聞き入るティー。
「もっとも、このイコンの魂はあの戦いであるじの下へと旅立ったって聞いてるし、実際そうなのかもしれない」
「え? でも、それじゃあ……?」
「確かにこのコアユニットはただの容れ物になっているかもしれないし、もしかしたら、眠っているだけでまだ魂が入っているかもしれない。実際のところ、さっきも言ったように『SSS』システムやそれを搭載したグリューヴルムヒェンシリーズはブラックボックスだらけなの。だから、ただの容れ物であっても思考力を持つコアユニットなら動くかもしれないし、逆に魂が入っている状態でも動かないかもしれない」
 淀みなく説明を終えた後、イーリャはティーの目をまっすぐに見つめて問いかけた。
「後は、あなた自身で決めて」
 その問いかけに目を閉じて考え込むティー。ややあって彼女は顔を上げ、目を開けた。
「――お願いします。アカーシ博士。この子の『心』を、この機体に組み込んでください」
「わかった。今すぐ作業を開始します」
 
 一方、作業を始めるイーリャ達の横で、佐那は航と言葉を交わしていた。
「はい。これ、あなたから借りてたやつ」
 佐那から投げ渡された携帯音楽プレーヤーを受け取り、航は不思議な顔をする。
 数日前。
 迅竜を発つ前、佐那は航に頼んだのだ。
 ――航がいつも使っている携帯音楽プレーヤーを貸してくれ、と。
 
 何らかの意図を察し、航は再生ボタンを押す。
 すると、知らない曲が一曲目から再生された。
 
「それ、今度リリースする新曲。感想、聞かせてくれる?」
 問いかける佐那は既に機体へ向けて歩き出している。
 背中越しにそっけない佐那の言葉。
 だが航は、それが暗に感想を聞く為に生きて還れとの無言のメッセージだとわかっていた。
 
 だから彼も、それに応えるように、あえてそっけなく聞き返す。
「何てタイトルだ?」
「『Рассвет』よ。ロシア語で夜明け、って意味。明けない夜はないわ。日はまた昇る――希望の光と共に、ね」
 やはり振り返らずに言うと、佐那は愛機ザーヴィスチへと乗り込んだ。