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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~

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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~
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リアクション


第3章 繋がる刻(とき) 10

「作戦行動開始か……」
 狙撃されたイレイザー・スポーンを見やって、黒崎 天音(くろさき・あまね)はそうつぶやいた。モニタに映るイレイザー・スポーンは激痛に悶え苦しんで叫びをあげている。
「天音、こちらの準備は整ったぞ」
 発せられたのは、内部通信からの声だった。
 同乗するブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が通信を開いたのだ。彼の言う準備が整った――に従って、天音のモニタに射出許可を求める武器が表示される。
 今作戦のためにわざわざ用意した拡散カメラポッドだった。
「よし、頼むよ。全て発射する」
「了解だ……ポッド射出開始」
 愛機――イスナーンの背中から、無数のカメラポッドが射出された。それは一つ一つが独自の意思を持っているかのように拡散し、インテグラルの回りを囲むイレイザー・スポーンの群れはと飛来する。
 瞬時に、モニタに映し出されたのは,カメラポッドが見ている無数の光景だった。カメラポッド一つにつき、一つの目となっているのだ。
「よし、カメラ情報を白竜に伝えてくれ。情報処理は向こうに任せよう」
「了解した。データ移送開始」
 モニタに映るカメラ情報が次々と白竜のイコンへと送信されていく。
 その光景を見ながら、天音はようやく息をついた。とにかく、ひとまずはこちらの役目はこれで終わった。
 無論――まだ戦いは終わっちゃいないが、あとは他のメンバーの連携にもかかっているだろう。
(パラミタか……)
 ふと、天音は光の繭を見上げた。
 その奥では今でも石原たちが中心部に向かおうと奮闘しているのだろう。思えばパラミタが出現する前――『光の糸』のような見えていたのは、この兆しだったのだろうか?
(誰も信じなかったけどね……)
 見えたのは数少ない素質ある者たちだけ。そのことを知ったのは、まだしばらく後になってのことだった。
 しかし今でも思うのだ。その糸は、やはり綺麗だったと。
「――まね――天音っ!」
「あっ……う、うん? どうしたんだい、ブルーズ?」
「いや、反応がなかったものでな。大丈夫か?」
「……ああ、大丈夫だよ」
 答えて、天音はふいに何かに気づいたように苦笑した。
「天音?」
「いや、なんでもないよ。なんでもね」
 天音は、いまこうして呼びかけてくれるブルーズがもしもいなくなったらと……そんな馬鹿げた幻想を思ったのだった。


 叶 白竜(よう・ぱいろん)は目の前のモニタを凝視した。
 そこに映し出されたのは、天音のイコン――イスナーンから送られてきたカメラポッドの映像だった。無数の画面がモニタ上に表示されていく。その一つ一つを素早い目の動作で確認してから、白竜はうなずいた。
「どうだい、白竜?」
 そこに内部通信が開かれて同乗者の世 羅儀(せい・らぎ)の声がかかった。
 彼はいつもとは違った真剣みの深い声音で尋ねている。
「こちらも動いた方がいいかもしれませんね」
 白竜はそれに対して熟考を続けるような顔で答えた。
「どういうことだい?」
「ポッドの映像だと、突入部隊がインテグラルに接近するにはルート上の敵を掃討する必要があるでしょう。もちろん、算出したルートはその通りに計算されているのですが……」
「――索敵できてないやつもいるってことか」
 羅儀が白竜の言わんとすることを先取りして言った。その表情が険しくなる。敵の中にはまだまだこちらの情報だけでは未知数の者もいる。イレイザー・スポーンが分離したのか? あるいは光学迷彩か?
「手段は分かりませんが、敵の数が増えています。マズいですね」
 白竜はうなりながら顎をなでた。最近になって目立ってきた無精髭を撫でていると、少しだけ思考が落ち着く。脂汗が滲み出そうになるのをなんとか制して、彼は決めた。
「やはりこちらから動いて、超電磁ネットで一部の敵を包囲しましょう」
「……ヒャっ……そうこなくちゃな」
 羅儀は一瞬、奇声のような声を洩らしたが、あたかもそれに気づいていないように不敵に笑った。
(……二時間のタイムリミットも、近づいていますか)
 それをモニタの端に映るそれを見て取って、白竜は懸念を過ぎらせる。羅儀は強化人間という特徴上、長時間の緊張状態が続くと精神が不安定になるのだ。しゃっっくりのような奇声は、その予兆である。
 早めに決着をつけないといけない――
 白竜はそう思って、愛機――枳首蛇を飛行型に変形させると、ブーストを噴射して加速させた。