空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~

リアクション公開中!

【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~
【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~ 【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~ 【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~ 【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~ 【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~

リアクション


第3章 繋がる刻(とき) 13

 別れは思いの外、あっけないものだった。
 彼らは長いこと、この時代にとどまるわけにもいかないのだ。エリザベートが蓄えた力を使って、戦艦ごと未来に帰るのである。
 つまりは、ここでお別れである。
「これで二度目じゃな……」
 石原は数多い未来の仲間たちに向かって、感慨深そうに言った。
 だが、惜しむことはあるまい。また未来で出会うときが――お互いの時間と場所が繋がり合う時が来るだろう。そのとき、自分たちはこの出来事を覚えていないかもしれない。しかしそれでも――心のどこかで、確かにここに在ったはずの出会いが、再会を喜ぶはずだ。
「未来に、幸あれ」
 肥満が告げると、戦艦はタイムワープの光に包まれて、ついにこの時代を後にした。
 すると――
「ありゃ?」
 石原は首をかしげた。自分がいるのは東京湾の岸である。
 だがしかし……
「なんでわしらはこんなところに?」
 それが全く分からないのだった。隣にいたアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)も、まったくわけが分からないようで困ったように首をひねっていた。
 しかし、そんな彼らの脳裏になぜか、パラミタ大陸の姿が浮かび上がってきた。
「そうじゃっ! ついにパラミタと地球が繋がったのじゃ! こうしてはおられん。急ぐぞ、アーデルハイト」
 石原は驚いた顔でそう告げると、我先にとばかりの勢いで歩み出した。
「うむ。そうじゃな」
 その背中をアーデルハイトは追う。いろいろと釈然としないことはあるが、それよりもまずはパラミタ大陸のことが先決だった。
「それにしても、なんでわしらはあんなところにおったのかのぉ」
 帰り道の道中、ふと石原は思い出したように言った。あの場所にいた記憶だけではない。ここ数日間の記憶が、すっぽりと抜けているのだった。
 アーデルハイトは同じように熟考する顔をして、やがて、諦めたような息をついた。
「さてな。しかし……なにか大事な友人たちと別れたような、大切なものを遠くに置いてきたような……そんな気がするの」
 彼女のつぶやきは、そのまま風に乗って消え去っていった。


 現代。
 2022年の世界に戻ってきた熊猫 福(くまねこ・はっぴー)は、小洒落た喫茶店で大岡 永谷(おおおか・とと)と会っていた。
 無論――“現代”の、である。
「お、俺、そんなこと言ってたの?」
「言ってた」
 福から過去に出会った幼いトトの話を聞かせると、永谷は恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。
 主に話のネタは『巨大ロボット』である。巨大ロボットを動かして魔物と戦えばいいじゃない――そんなことをしごく真面目に言っていた幼いトトの可愛さを、福は何度も説明してあげた。
「もう……やめてよ……」
 さすがに恥ずかしさで死にそうになり、永谷はギブアップを宣言した。
 まあしかし、幼い自分も面白いことを言っていたものである。そのあまりにも純粋な言動は頭の隅に追いやっておくとして、『巨大ロボット』を戦わせるなんて発想が自分にあったこと自体が驚きだった。
(こりゃ……イコンの使用も本格的に考えておくかな)
 興味にそそられるまま、そんなことを考える。
 するとふと、永谷は自分の記憶の片隅にあった、別の思い出の存在に気づいた。
「そういえば昔……なんか変なパンダに助けられたような記憶があるけど……あれって、福のことだったのか!」
「む、変なパンダとはなによ、変なパンダとは……『パンダしゃん』とか言って、あれだけアタイを可愛がってくれたじゃない! ひどいわ、弄ぶだけ弄んで、飽きたらポイなのねっ!」
「だから、もうその話は勘弁してよ……」
 明らかにからかわれているのだが、恥ずかしいものは恥ずかしく、永谷は憔悴したようなため息をついた。しかしすぐに、彼女は笑顔になる。
「まあでも、助けてくれたありがとね、福」
「……改めて言われると恥ずかしいのね」
 今度は福のほうが顔を手に染める番だった。
「じゃあ、そのお礼ってわけじゃないけど……今日は好きなだけ食べていいよ。俺のおごり」
「ほんとっ!?」
「ほんとほんと」
「じゃあ、遠慮なく…………えーと、チョコパフェに、ミルフィーユに、ガトーショコラに、杏仁豆腐に……あ、ストロベリーチーズタルトってのも捨てがたいかも!」
「…………ほんとに遠慮ないのな」
 どんどん注文を追加する福を見やりながら、永谷は財布の中身にいくらあったかと必死に思い出そうとしていた。