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【特別シナリオ】あの人と過ごす日

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【特別シナリオ】あの人と過ごす日
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リアクション


これからもずっと


「ね、ねぇ瑞樹ちゃん。これでどう? 変じゃないかな?」
 とある教会の一室。純白の衣装に身を包んだ神崎 シエル(かんざき・しえる)が、そばにいる一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)に見せるように一回りした。
「よくお似合いですよ、シエルさん。すごく綺麗です」
 瑞樹が眩しそうに目を細める。それほどまでにシエルの格好――ウェディングドレス姿は似合っていた。
「それならいいんだけど。うぅ、四人だけって言っても、やっぱりいきなりは緊張するよぅ」
「あ、あはは……」
 縮こまるシエルに対し、瑞樹は苦笑するしかない。自分が同じ立場だったらやはりこうなるだろう、という事が十分予想出来たからだ。


 ――それは数日前の晩の事だった。

「シエル、週末は予定入ってないよね?」
 晩御飯を食べ、リビングでのんびりとしていたシエルに神崎 輝(かんざき・ひかる)が尋ねた。
「週末? 特に何もなかったと思うけど……」
「そっか。なら丁度良いね」
「丁度良いって……何かあるの?」
「うん」
 輝がシエルの正面へと回る。何事かと思いつつも姿勢を正すシエルに、輝は単刀直入に要件を告げた。
「シエル」
「何?」
「式を挙げよう」
「…………へ?」


「あの時のシエルお姉ちゃん、固まってましたにゃ?」
 シエル達とは別の一室で式の準備をしている神崎 瑠奈(かんざき・るな)がしみじみと語る。隣に立つ輝は急である事を自覚はしていたのか、少しばつが悪そうに頬を掻いていた。
「いやぁ……確かにちょっといきなりだったかなとは思ったけど。そんなに驚かせちゃったかな」
「ボクもビックリでしたよ?。瑞樹お姉ちゃんも珍しく慌ててましたし」
「あー……うん、あれは自分の説明が悪かったなって反省してる」
 輝の衝撃的な一言に驚いたのは当人のシエルだけではなかった。瑞樹などは急いで関係各所に連絡をしなければと走り回ろうとしていたのだ。そこで言葉が足りなかった事に気付いた輝が『披露宴は行わず挙式のみ。参加者もこの四人だけ』と付け加え、ようやく混乱が収まったという次第であった。
「でも本当にこんな簡単なので良かったですか?? ボクと瑞樹お姉ちゃんなんていつもの格好ですよ??」
 参加者が四人。これは本当の意味で四人という事で、式を進行させる為の要員はおろか聖職者すらいない。教会で式を挙げるのもシエルがせっかくだからウェディングドレスを着たいとリクエストしたからで、形式としては限りなく人前式に近いものだった。
「うん、大丈夫。形だけ――って言ったらアレだけど、ボク達の区切りとして挙げたかったからね。友達とか皆への報告も追々するつもりだし」
「それならいいですけどにゃ?」
「さて、そろそろ向こうも準備出来た頃かな。瑠奈、シエル達の所に行こう」
「は?い」

「――でね、輝ったらジェットコースターから降りて休憩してたらいきなり告白してきてね。何かソワソワしてるなーとは思ってたんだけどね」
 再び新婦側。こちらでは着替えを終えたシエルが瑞樹に愚痴をこぼしていた。
「今回もそうだけど、本当に輝ってば突然なのよね。まぁ……ちゃんとドレスを選ばせてくれたのは嬉しいけど」
「は、はぁ……」
 瑞樹が先ほどとは違った意味で苦笑を浮かべる。シエルの愚痴はどれもこれも最後に『輝がこうしてくれた』という内容がついていて、はっきりいって愚痴ではなくノロケでしかなかったからだ。
(マスター、瑠奈、早く来て下さい……)
 そんな瑞樹の願いが届いたのか、少ししてドアをノックする音が聞こえた。
「シエル、入ってもいいかな?」
「――! う、うん。どうぞ!」
 シエルが再度緊張しながらも返事をして立ち上がる。そんな彼女を見て、入ってきた輝は感嘆の溜息を漏らした。
「わぁ……」
「えっと……ど、どうかな? 輝」
 純白のドレスに金色の髪。その立ち姿は種族を抜きにしても、まさしく天使と言えた。
「綺麗だよシエル。とても似合ってる」
「本当? 良かった。輝もその……格好いいよ」
 対する輝はタキシード。女の子にしか見えない外見から普段着ている衣服すらも女物ばかりな彼の、今の姿は非常に珍しい。
「でもやっぱり、格好いいと言うより可愛いと言った方がぴったりな気がしますにゃ?」
「しっ。せっかくのマスターの晴れ姿なんですから。それより、私達は先に行きますよ」
「は?い」
 小声で話していた瑞樹と瑠奈がそそくさと部屋を後にする。そんな外野の声は聞こえなかったかのように、二人は見つめあっていた。
「ようやくボクも、シエルに釣り合うくらい男らしくなれたかな?」
「見た目はやっぱり可愛いけどね」
 ふふっとシエルが一笑い。
「でも……男らしくなったよ、ホントに。私だけじゃなくて瑠奈ちゃんも瑞樹ちゃんも、皆を護れるくらいに、ね」
「そうなれたのは皆の……シエルのお陰だよ。ボクが負けそうな時、挫けそうな時、いつだってシエルが支えてくれた」
 輝の脳裏にこれまでの様々な出来事が浮かぶ。例えば、剣と弓を持って共に戦場を駆けた事。例えば、アイドルとして二人でステージに立った事。例えば、学園生活で沢山のハプニングに巻き込まれた事。シエルと出会ってからの輝の人生は、まさに彼女と共にあると言っても過言ではなかった。
「ボクも、シエルを支えて護っていきたい。シエル、これからも――」
「おっと」
 不意にシエルの人差し指が輝の口に添えられた。
「ダメだよ輝。そこから先は……まだ早いよ」
 そう、まだ早い。これからその舞台が――誓いの言葉を言う『式』が――待っているのだから。
「さ、行きましょ! 瑠奈ちゃん達が待ちくたびれちゃう」
 添えていた口を下ろし、手をつなぐ。敵わないな、と思いながらも輝はその手を握り締めるのだった。



 こじんまりとした、しかし荘厳な雰囲気を醸し出しているチャペル。中央脇に立つ瑠奈が音楽プレイヤーのボタンを押すと、オルガンの演奏を中心とした曲が響き渡った。それを受けて瑞樹がドアを静かに開く。
(二人並ぶと綺麗ですにゃ?。ちゃんと撮っておかないとですね?)
 瑠奈が構えたカメラの画面に映っているのは輝とシエル。教会式であれば本来は新郎が先に入場しているべきなのだが、四人だけの式という事で新郎新婦揃っての入場だ。
 バージンロードをゆっくりと歩く二人に合わせてシャッターが切られる。身内だけの式とはいえ、被写体がどことなく緊張している感じがするのはご愛嬌といったところか。
(タキシードなんて滅多に着ないから、やっぱりドキドキするな……でも新郎として、ボクがリードしないと)
 左腕にかかる重みを実感しながら輝が一歩一歩前へと進む。そして祭壇前にたどり着いた所で腕を下ろすと、静かにシエルへと向き直った。
「シエル……」
「はい」
 ベール越しに彼女の瞳を見つめる。今こそ、先ほど言いかけた言葉を伝える時だった。
「ボクは貴女を支え、護り、悲しみも喜びも共に分かち合い、幸せにする事を誓います……これからもずっとよろしくね。シエル」
 輝の言葉に、シエルは思わず涙が浮かびそうになった。ベールで隠されている事を幸いに、彼女も誓いの言葉を返す。
「私は貴男と共に生き、いかなる時もそばに寄り添い、愛し続け、幸せにする事を誓います……私こそよろしくね。輝」
 互いが互いの言葉を胸に刻む。これまでとは違う、新しい関係の第一歩として。
「瑞樹」
「はい、マスター」
 そして誓いを言葉だけではなく形としても残す為に、輝にはあらかじめ用意していた物があった。瑞樹が持ってきたトレイの上に載っていたそれを受け取ると、ゆっくりと蓋を開く。
「……! 輝、それって」
「うん」
 箱の中に輝くのは小さな指輪。急な式だったので指輪の交換までは無いと思っていたシエルにとっては、まさにサプライズといえた。
「シエルさん、手袋を」
 瑞樹がシエルの手袋を外し、一歩下がる。それに合わせて輝がシエルの手を取った。指輪はもちろん、左手の薬指へ。
「サイズもぴったり。もう……輝ったら本当に準備がいいんだから」
 アイドルとして共にやってきた間柄だ。装飾品を付ける機会などでサイズを知る事が出来ていたのは、輝にとって幸運だった。
「マスターの準備の良さはまだ終わっていませんよ」
 そう言って瑞樹が見せたのは、トレイの上に載ったもう一つの箱だった。シエルが箱を開くと、中には薬指にはめている物と同じ形の指輪があった。それを手に取り、今度は自分が輝の指へとはめていく。
「これでお揃いだね、シエル」
「うん」
 二人の指に輝く誓いの証。言葉と、物と。そして残るは――
「シエル……少し泣いてる?」
 輝がゆっくりベールを上げていくと、花嫁の瞳にわずかな涙があるのに気付いた。とはいえ、これは当然悲しみの涙などではない。
「だって、嬉しいんだもん。ドレスを着て、指輪も交換して。私がやりたかった事を輝が叶えてくれるから」
「これからもそうだよ。二人で一緒に、やりたい事をしよう」
「うん……」
 シエルが目を閉じる。輝はベールを上げ終えた手をそのまま下ろし、彼女の頬に添えた。
「ん……」
 二人の距離がゼロになる。静寂の訪れたチャペルにはしばしの間、瑠奈の切るシャッターの音だけが響いた。

 長いキスを終え、輝達がゆっくりと顔を離した。そのまま二人は瑠奈と瑞樹に向き直り、指輪を見せるように手の甲をかざす。
「これで新郎、神崎 輝と」
「新婦、神崎 シエルは」
『夫婦となりました』
 新郎新婦の声が重なった。大事な家族である瑠奈と瑞樹。二人からの返礼は、大きな拍手と祝福の言葉だった。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、おめでとうございます?!」
「マスター達の幸せな姿が見られて、私も嬉しいです。おめでとうございます」
「えへへ……二人とも、ありがとう」
 シエルが更なる笑顔を見せる。本来であればこれで結婚式は一段落でも良いのだが、そこは簡易ながらもきちんとという事で、退場まで行う流れになっていた。
「さぁ瑞樹お姉ちゃん、これを持って下さい」
「えっと、瑠奈……本当に両方やるのですか?」
 瑞樹が花びら一枚一枚に分けられた造花を受け取りながら尋ねた。対する瑠奈の手にはお米が握られている。つまりこれからやろうとしている事は、瑞樹がフラワーシャワー、瑠奈がライスシャワーだ。通常はどちらか片方だけで良いのだが……
「おめでたい事ならどっちもやった方がいいのです?」
 と瑠奈が主張して両方調達して来た為、どちらも行う事となっていた。
「まぁダメという決まりも無いですし、そうしましょうか。では――」
 瑞樹が花びらを放り、バージンロードを歩く新郎新婦へと降らせる。続いて今度は瑠奈のライスシャワーが二人を祝福した。
「あはは、瑠奈らしいね」
「本当にね。そこが可愛いんだけど」
 笑顔の輝達が降り注ぐ祝福の中、扉へとたどり着く。こうして神崎 輝、そしてシエル・セアーズ改め神崎 シエルの挙式は幸せに包まれて終了するのであった――


 ――ちなみに挙式は終わったが、結婚式すべての内容が終わった訳ではなかった。新郎と新婦、二人にはそれぞれやりたい事が一つずつ残っていた。
「シエルお姉ちゃん、立ちましたよ?」
 外にある階段の下で瑠奈が叫ぶ。隣には瑞樹が、そして上の方にはシエルが立っていた。
「よーし、じゃあ行くからねー!」
 シエルが下の二人に背を向ける。その手にはウェディングブーケが握られていた。式では人数の関係で参列者から花を受け取って作るのは無理だった為にブーケセレモニーは行われていないが、一般の式でセレモニーを行う場合であってもトス用のブーケは途中でバラバラにならないよう別の物が使用されるので、その点は特に問題ないだろう。
(どっちが取るかなー。って言っても瑠奈ちゃんはまだ結婚って感じじゃないし、ここは――)
 ブーケが空中へと放られ、二人の下へと向かう。放物線を描いて収まったのは、瑞樹の手の中だった。
「わ、私ですか!?」
「瑞樹お姉ちゃん、おめでとうです?」
「おめでとう、次は瑞樹ちゃんの番だね!」
「瑞樹の結婚かぁ……案外すぐ来たりしてね」
「え、えっと……お二人を見習って、頑張ります……」
 彼氏持ちである瑞樹が赤面しながらそう返す。輝の言うとおり、その日は案外近いのかもしれない。

「じゃあ後は記念撮影をしましょう?。お兄ちゃん、シエルお姉ちゃん、並んで下さい?」
 式の要所要所で撮影を行っていた瑠奈。そのクライマックスとして新郎新婦のツーショットを取る為、階段の半ばに立って輝達を促した。
「ねぇシエル、せっかくだからやりたい事をやってもいいかな?」
「え、いいけど。どんなの?」
「それはね……えいっ!」
「きゃっ!?」
 シエルは突然浮かび上がる感覚を味わった。輝が背中と脚に手を回し、一気に持ち上げたからだ。
「ひ、輝!?」
「ボクがやりたかったのってこれなんだよね。ウェディングドレス姿のシエルをお姫様だっこ」
「え、もしかしてこれで写真を撮るの!?」
「あはは、ちゃんと断りは入れたよ」
 見ると下の方では瑠奈がカメラの調節を行っている所だった。どうやらこの状態で撮影するのは確定らしい。
「ほらシエル、笑って笑って」
(うぅ、輝ったら……こうなったら)
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、撮りますよ?。いち、にの――」
「えいっ!」
「えっ?」
 いざ撮影という瞬間にシエルの上半身が起き上がり、唇が輝の頬へと襲い掛かった。まるで輝が驚きを見せたその一瞬を狙っていたかの様なタイミングでシャッターが切られる。
「し、シエル!?」
「あはは、お返しだよ輝。びっくりしたでしょ」
「そりゃそうだよ」
「覚悟しててよね。輝が驚かせる分だけ私も驚かせてあげるから」
 そのまま輝に強く抱き付くシエル。その表情は満面の笑みをたたえていた。
「輝、ずっとずーっと、一緒だからね!」
 再びシャッターが切られる。さわやかな空の下で笑顔にあふれた二人を撮ったその写真は、今日最高の一枚となるのだった――