|
|
リアクション
笑い絶えない家族
ヒラニプラのとある場所にある、庭付き一戸建ての家に、新婚の若夫婦が住んでいる。
雪が解けて、過ごしやすくなってきた頃。
「今日から連休、温かくなってきて天気もいい! こんな季節に家でゴロゴロなんてしてらんねえぜっ!」
寝間着姿のまま、カーテンを開けて夫のシャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)が言うと。
「してらんないぜ?っ!」
妻の金元 ななな(かねもと・ななな)もベッドからぴょんと飛び跳ね起きて、言った。
「よし!」
「ラジャー! 任務を開始するっ」
笑顔でびしっと敬礼をすると、それぞれバタバタと準備を開始する。
シャウラはアウトドア用品の準備。
なななは調味料や食材の準備だ!
そして、シャウラのパートナーのユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)と、ナオキ・シュケディ(なおき・しゅけでぃ)の2人と合流を果たした後、向かった先はのどかな山岳地帯の綺麗な湖だった。
テントを張ってすぐ、4人は釣竿を垂れる。
「大物釣るよ! なななの釣り人生の中で一番大きいのをね。負けないからねー」
「なななは大物狙いか。それじゃ俺は数で勝負ずるぜっ!」
「数でも負けないよー」
前にもシャウラとなななは一緒に釣りをしたことがあった。
その時は夫婦でも恋人でもなくて、現場に大勢いた仕事仲間の一人にすぎなかった。
あの時と違ってなななもシャウラもつい声を上げて楽しんでしまい、魚はあまり寄ってこなかった。
釣りも楽しいけれど、こうして話をして笑い合っていることがとっても楽しいから。
生活がかかっているわけでもなく、真剣勝負といわけでもなく。
こんな風に楽しく会話しながら、楽しめる今の方が、数倍幸せだった。
「なななはさ……前に一緒に釣りしたとき、俺のことどう思ってた?」
「……ゼーさんと釣りしたことあったっけ?」
「え!? ま、まあ2人きりでしたわけじゃないしな……」
印象にも残ってなかったのかと、ちょっとシュンとするシャウラだったが。
「うそうそ。覚えてるよ、女の子を釣ろうとしていた頃のゼーさんのこと! 沢山釣れたのかな?」
ちょっと意地悪気な目でなななはシャウラを見た。
「いやその、あの頃はな……。俺にとってなななは女友達の1人というか今からお友達になりたい子だったことには変わりないけど」
「ふふ、ゼーさんは、超ウルトラ大物のなななを釣れて満足? ななな1人でもう十分? それとも数欲しいのかな?」
「もちろん、ななな一人だけだぜ」
可愛い奥さんをぎゅっと抱きしめたくなるが――。
「こら、お前らっ、いちゃついてないで手伝え!」
大物がかかったらしく、ナオキが釣竿を手に奮闘していた。
ナオキは一人、ボートで湖の中心部へと出ている。
ビチャ!
「うおわっ!」
跳ねた巨大魚を見て、なななが驚きの声を漏らす。
「岸からも離れてるし、まともな方法じゃ釣り上げられそうもねえな」
シャウラはユーシスに目配せをして、剣をとる。
「行きますよ」
ユーシスはシャウラとなななに空飛ぶ魔法↑↑をかけると自身は幼き神獣の子に飛び乗った。
「くっ……跳ねた瞬間を狙うぞ」
暴れる巨大魚と格闘しながら、ナオキはチャンスを待つ。
そして――。
ビチャ!
魚が勢いよく跳ねた瞬間。
「やーっ!」
ななながサイコキネシスで巨大魚の動きを抑え、同時にユーシスが閃刃で目を潰す。
「シャウラ頼むぞ」
ナオキは釣竿を離し、念動銃で狙いをすまして巨大魚を撃ち抜く。
「はあっ!」
シャウラが空中から剣を一閃、巨大魚の頭を落とした。
「やったね! 回収回収?」
なななが手を叩いて喜ぶ。
4人は網やネットを使って、仕留めた巨大魚を回収するのだった。
釣りを存分に楽しんだ後は、釣った魚に持参した肉と野菜を用いてバーベキューだ。
「か、硬い……」
「ななな、捌くの変わるぜ! 野菜の方頼むな」
「うん、ありがとゼーさん」
相変わらず、なななとシャウラは楽しそうに、準備をしている。
(仲いい夫婦だよな……良い事だ)
バーベキューコンロの前で、ナオキは少しだけ複雑そうに2人を見ていた。
天真爛漫ななななに、実はナオキも惹かれてしまっていた。
(俺とシャウラ、ハイスクール時代から女の子の好み、似てたんだよな)
なななが好きと自覚した時には、なななはシャウラと付き合っていた。
だから、なななにも、シャウラにも自分の想いは話していなかった。
「アラは出汁に使うよー。捨てないでね、ゼーさん」
「了解! おりゃー♪」
(ホント、幸せそうだ)
料理をしながらはしゃぐ2人の姿に、ナオキの顔にも笑みが浮かぶ。
2人の結婚式では、少し胸が痛んだが、相棒と友人が幸せになるんだからと次第に思えるようになってきていた。
(俺達強化人間は必ずといって良いほど、背負う契約相手への依存心とも折り合いをつけていると思う。
シャウラが屈託無く俺に全幅の信頼で対等に接してくれるのは裏切りたくないし応えたい)
強化処置の副作用も最近はかなり減っていて楽になっていた。
たまに頭痛が出るくらいに。
「ななな、あとは俺に任せろ。アメリカ式でご馳走するぜ」
「うん、ありがとシューさん、なななはそれじゃお皿とか準備するね!」
野菜を切り終えたなななは、食材を預けて荷物を置いてあるテントの方へと向かって行った。
つい目で追いそうになるけれど、軽く首を左右に振って気持ちを入れ替えて。
「さ、楽しいパーティにしようぜ!」
「ああ」
シャウラと目を合せて笑い合い、準備を進めていく。
「飲み物持参してきましたが……なななさんはまだお酒はダメでしょうか?」
ユーシスはテーブルの準備を手伝いつつ、なななに尋ねる。
「なななはアルコールは当分飲まないよ?。アルコール入ってないお酒なら飲みたい!」
「それでは、ノンアルコールワインをご用意しますね」
ユーシスは木陰に飲み物を運び、氷を敷き詰めたクーラーボックスの中で冷やしておく。
「ふう、ちょいと疲れたぜ」
準備が整い、ナオキが焼き始めた時。
手を洗ってきたシャウラが、ユーシスの隣。飲み物が置いてある木陰へとやってきて、腰かけた。
「予想以上に釣り……という大騒動な狩りでしたからね」
ユーシスが渡した水を、シャウラは頷きながらごくごくと飲む。
「……そういえば、シャウラは結婚して姓が『金元』に変わったんですよね?
それなのに、旧姓のエピゼシーの『ゼー』さんのままなんですか?」
「げふっ……言われてみれば……! ごふっ、げほっ」
水を器官に入れてしまい、シャウラは咳き込んだ。
「そんなに驚くことなのです?」
「げほっ……いやまあ、なななも気にしてなさそうだよな」
「呼んでほしい呼び方があったら、自分から言ってみるのも良いかも知れませんね」
「うーん……」
「ゼーさん! 第一弾のお肉焼けたよー! 次は何焼く??」
「はいはい、次はな?♪」
なななに呼ばれた途端、即休憩を終了してシャウラはなななの元に駆けていく。
ユーシスはそんなシャウラの姿を、微笑みを浮かべながら見送る。
なななとシャウラとユーシスは、タシガンで製造されたワインを。ただしなななだけノンアルコール。
ナオキはビールをジョッキでと行きたいところだったが、アルコールを飲めない人がいる中、酒臭い息をするのは嫌だと考え、ジンジャエールをジョッキに注いでもらって。
「乾杯」
「かんぱーい」
「乾杯です」
「乾杯!」
笑顔を浮かべて乾杯すると、焼きあがった肉や野菜を食べていく。
勿論、湖で釣った魚も。
「これはM76星雲で極秘開発された特製タレだよ。『宇宙怪人どどど』に嗅ぎつけられたら大騒動に発展しちゃうから、細心の注意を払い使用すること!」
などといいながら、魚用に用意してきたタレを、なななは皆に勧めた。
「そうか、宇宙警察の世話にならずに済むよう、今日の任務を俺らだけで全うしようぜ♪ ……うん、美味い」
なななのタレにつけて、焼き魚を食べたシャウラの顔に笑みが広がる。
「皆で頑張って釣ったお魚だからね! さあ、どんどん食べよう、動いた分だけ食べようね!」
嬉しそうに言い、なななは皆に料理を勧めていく。
「では、こちらの野菜と一緒に……」
「俺は魚の次は肉を! あ、独り占めはしないから、安心しろよー」
ユーシスは野菜と一緒に優雅に。
ナオキは肉を沢山自分の皿に乗せて豪快に食べ始めた。
空が夕焼けで赤く染まるまで、4人は食べたり飲んだり、沢山話しをしたり。
終始笑顔のとても楽しい時間を共有した。