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空を観ようよ

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空を観ようよ
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娘と、親しい人たちと
 
 2030年秋。
 育児休暇を終えて、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がロイヤルガードに復帰してから、数か月が経った。
 その日は夫のコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)と共に、美羽はシャンバラ宮殿の警備についていた。
 2人とも早番だったため、夕方には勤務を終えて、これから向かう先は自宅ではなく、空京にあるミス・スウェンソンのドーナツ屋。通称、空京ミスドだ。
 普段なら、幼稚園に娘の美奈を迎えに行くのだが、今日は非番のベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が迎えに行ってくれていた。

「お疲れ様です、美羽さん、コハクさん」
「おつかれさま、パパ、ママ!」
 宮殿の前で、ベアトリーチェと美奈が待っていた。
 美奈は美羽の面影があり、コハクのような白い翼をもつ、5歳のヴァルキリーの女の子だ。
「お待たせ、美奈」
 コハクは走ってきた美奈を、抱きあげてぎゅっと抱きしめる。
「迎えに来てくれてありがとう!」
 美羽は美奈の頭を撫でる。
「うんっ、いっしょにドーナツいこっ♪」
 抱っこされて撫でられて、美奈は嬉しそうな笑みを浮かべる。
「ありがとう、ベアトリーチェ」
「ありがとう、あと今日は……」
「はい、神楽崎隊長の御案内も任せてください」
 ベアトリーチェはその場に残り、美羽とコハクは美奈を連れて、先にミスドへと向かった。

 ミスドに入ると、それぞれジュースを頼んで、美羽はストロベリードナツを、コハクはチョコドーナツを購入して、窓際の席に座った。
 美羽が窓際。真ん中に美奈、通路側にコハクという順番だった。
 そして向かいには。
「お疲れ様、遅れてすまない」
「お待たせしました」
 少しだけ遅れて訪れた神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)と、優子を案内してきたベアトリーチェが座った。
「お疲れ様、優子。なかなか一緒の時間に上がれることなかったから、紹介できなかったんだけど」
 美羽はジュースを飲んでいる美奈の肩に手を置いた。
「娘の美奈です。美奈、パパとママがとってもお世話になっている方だよ。ご挨拶は?」
 コハクがそう言うと、美奈はじっと優子を見て……。
「こんにちは、みなです」
 ぺこっと頭を下げた。
 優子からちょっと威圧感を感じたのか、緊張しているようだった。
「初めまして、神楽崎優子だ。お父さんとお母さんにはこの仕事に就く前からお世話になっている。今日は、2人の愛娘である美奈ちゃんに会えてうれしいよ」
 優子がそう言うと、美奈はぱっと笑顔を浮かべて、美羽とコハクを見回した。
「ドーナツ、好きなんだって?」
「うんっ」
 優子の問いに、美奈は元気よく答えた。
「それじゃ、これもどうぞ」
 と、優子は自分の季節限定マロンドーナツを少し、美奈に分けてあげた。
 貰ってもいい? と、美奈はコハクと美羽に確認をとって、2人がいいよというと、嬉しそうな顔で優子からドーナツを貰い、食べていく。
「ママのいちごのも、パパのチョコもおいしいっ」
 コハクと美羽からも少しずつ、美奈はドーナツを分けてもらっていた。
 元気で可愛らしい少女を見守りながら、美羽、コハク、ベアトリーチェ、優子は和やかにお茶を楽しんでいく……。

 幼稚園で楽しく遊んだ後、美味しいドーナツを食べて沢山笑った美奈は店を出るころには、疲れて眠そうにしていた。
 コハクはそんな美奈をおんぶしてあげた。
「それじゃまた、明日宮殿で! 今日は来てくれてありがとう」
「こちらこそありがとう。可愛い娘さんと話が出来て若返った気分だよ」
「ふふ、それは良かった。美奈、隊長さんに御挨拶できるかな?」
 美羽が美奈に尋ねると、美奈は眠そうながら「ありがとう。あしたも、パパとママをよろしくね」そう優子に微笑んだ。
「うん、ありがとう。おやすみ」
 優子は腰を落として美奈に微笑みかけて、ロイヤルガードの宿舎の方へと帰っていった。
「さて、私たちも帰ろう!」
 美羽が駅へと歩き出す。列車でツァンダの自宅に帰る予定だった。
「もう寝てもいいよ、美奈」
「うん……」
 コハクが美奈に優しく声をかけて、歩き出す。
 代わろうか? と、美羽は時々コハクに声をかけている。
(これからもこの家族を見守っていこう……)
 後ろを歩きながら、ベアトリーチェは思う。
 彼女はずっと、美羽やコハクのことを側で見守ってきた。
 少年少女だった2人が、大人になっていき、子供が生まれて――とても幸せそうな2人、いや、3人の姿に、笑みがこぼれる。
 とても幸せそうな家族の姿が、そこにある。
「……ベアトリーチェおねー……ちゃん」
 美奈が手を伸ばしてきた。
「はい」
 ベアトリーチェが近づいて、手を指しだすと、親指を美奈がぎゅっと握りしめた。
「あしたも、あそぼーね……」
 ベアトリーチェは美羽、コハクと顔を合わせて微笑み合い。
「はい、たくさん遊びましょうね」
 優しい笑顔で返事をした。