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空を観ようよ

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英霊と魔女の友情

 世界の危機が去って、100年の時が流れた。
 当時を知る人間の殆どは寿命を迎えたが、長寿な種族や、不老の種族の人々は当時のまま、シャンバラで暮らしている者も少なくはない。
「リーア、今日はクッキーを持ってきたのでございますよ!」
 イルミンスールの外れにある、リーア・エルレン(りーあ・えるれん)の家に、時々自転車で訪れる者がいた。
 100年前からの親友、英霊の壱与(邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ))である。
「どうぞー。ちょうどお湯が沸いたところよ〜」
 家の中からリーアの声が聞こえた。
「それでは入らせていただきます」
 玄関には鍵がかかっていなかった。
 壱与は玄関から居間へと入り、荷物を置かせてもらう。
「いらっしゃい。今日はほうじ茶を用意したわ」
 リーアはトレーに、茶葉とお湯の入った急須、湯呑みを乗せて部屋に入ってきた。
 そして、いつものように壱与と向かい合って腰かける。
「はじめて出会ったあの日からもう百年を超えたのでございますねぇ……」
 壱与がクッキーを広げ、リーアは湯呑に茶を入れて、壱与と自分の前に置いた。
 そしてソファーに深く腰掛けて、のんびりとお茶を飲む。
 とくに何かをすることが目的ではなく、こうして2人でただゆっくりお茶をするだけだ。
 2人は気が置けない友となっており、こんな風に過ごす時間が、互いにとても幸せだった。
「流石に記憶が曖昧になってしまっておりますけどリーアが悲劇のヒロイン的な感じだったのはほんのりと覚えているのでございます。確か命の危機や燃え上がる禁断の恋! ですとか……あら? 何か少し違った気もございますわね」
「ふふふ、うん、少しというか、結構違う気がする。……ただ、あの時、役目を終えて、ああ、私死ぬんだなって覚悟したんだけどね」
 リーアは目を細めて思い起こす。
 自分が預かっていた力を、託した時の事。
 自分を助けてくれた人の事。
 5000年前の懐かしい友たちのこと……。
「そうでございます。その時の事件で古かったこの家は壊れてしまったので、保険でシメシメ家を建て替えたんでございましたよね」
「それも違う〜。壊れたのも建て替えたのもホントだけど」
「そうでございましたっけ?」
 悪戯気に壱与が笑い、リーアもおかしそうに笑い声をあげた。
「あれ? このクッキー普通に甘いけど、大丈夫?」
 壱与が持ってきてくれたクッキーを食べて、リーアが不思議そうに言った。
「ええ、わたくしあの頃と違って、今風の味付けの物も食べられるようになっているのです。こういった甘い物ぐらいでございますけど」
「以前はパートナーが作ったお菓子の甘さに目を回していたのにね」
「甘い物程度で目を回したりまでは……でも、辛い物は未だに論外なのです。あの舌を突き刺し焼くような感覚は慣れられたものでは無いのでございますよ。まあ、エリス達がいなくなってからは、悪戯で食べさせられたりもしませんですけれど」
「ふふふ、懐かしいわね。賑やかなパートナー達だったわ」
 かつて、壱与には清良川 エリス(きよらかわ・えりす)という女性のパートナーがいた。
 エリスには他にもパートナーがいて、よく振り回されていたものだ。
 しかしエリスも、パートナー達も、壱与以外はすべてもう、パラミタにはいない。
「あの腹黒剣の花嫁は結局生涯エリスにべったりでございました。エリスの婚姻に何かと口を挟んだにも関わらず自分はずっと独り身でエリスを玩具にする事を生き甲斐にしている様で……。思い返せばあの頃わたくしも巻き添えにされてお見合いさせられたりしたのでございますよ!」
「それは初耳だわ。壱与がお見合いねぇ……」
 壱与は外見年齢13歳くらいの少女だ。身長は132、体重は29kgと少ない。
 要するに子供体型。成長することもない。
 リーアも少女の姿の魔女だが、彼女は10代半ばの外見で、体格も大人になりかけ程度に女性らしかった。
「話してませんでしたか!? 全くあれは腹立たしい記憶でございますよ! しかも相手もこの背格好を知った上で来る物ですから何かと碌でも無い事ばかり! しかもこのわたくし相手に無礼な振る舞い……っと古すぎる話しで怒っても仕方ありませんね」
 お茶を飲んで、壱与は自分を落ち着かせる。
「んと……リーアの場合は結婚話し等は如何でございましたか? 以前聞いた様なそうで無い様な……」
「はるか昔にはいろいろあったんだけどね……もう恋愛も結婚も十分。
 と、思ってたけど、最近は……」
「いい人いるでございますか!?」
「フィギュアスケートの羽橋クン、カッコイイなって♪」
「なるのど、リーアの好みはああいう子でございますか」
 最近人気の、日本人のフィギュアスケート選手がお気に入りらしい。
「壱与は? 結婚もだけれど、またパートナー契約、しないの?」
「そうですね……今はこうして、誰かに振り回されることなく、リーアと過ごせる日々が幸せなのでございます。前の世の古くからの知り合いのおば……お姉さまもおりますけれども、本当に親しく対等のお付き合いが出来る友が出来たのはリーアが初めてだったのです。初めての親友が永く歩む生を共に出来る方でわたくしは幸せでございます」
「うん、私も。やっぱり自分がそうだから、同じ姿のまま明日も未来も会えるって思うと、一緒にいて安心するのよね。変化がないのは、つまらないかもしれないけれど、変わらないのも、悪い事じゃない」
「ええ、そうでございますわ。この年恰好の侭ですと知り合いの孫や曾孫との付き合いも中々に難しくなるもののでございますね。共に長く過ごすと先方から向けられる感情のやり場など難しくて難しくて……こと恋慕の情等人生狂わせかねないのでございますよ。こちらの想い入れとも違いますし。……リーアもご経験ございますか?」
 壱与の問いにリーアは少し考えた。
「そうねえ……私にはもうずっとパートナーもいないし、血のつながった家族もいない。恋愛感情を向けられたこともないから、安定してるんだけど。
 この世界に生まれて数百年くらいは、そういうことに振り回されてたなぁ。壱与はまだ若いのよ」
「リーアからすれば、そうでございますね……。色々と経験して、上手く立ち回れるようになりたいでございます」
「ええ、とりあえずこれも経験してみる?」
 と言ってリーアが取り出したのは、わさび饅頭だった。
「……結構でございますッ」
 壱与はずささっっと逃げて、涙目で言った。
「わさびには殺菌効果があるから、逃げてちゃだめよ。長生きするためにもね」
「はい……少しずつ、頑張ります。次のお土産はわさび入りクッキーに挑戦するでございますよ!」
「その意気その意気」
 ふふふっと笑い合って。
 お茶をのんで、息をつく。
「これから先の世、わたくしたちはどれ程の間、友として歩めるのでございましょうか」
 壱与のそんな言葉に、リーアは平然と答える。
「死に別れるまででしょ」
「はい……世よ永く平安あれと祈りたく思います」
 窓の外を見上げた。
 空はただただ青く。
 生活音と自然の音しか聞こえない。
 この平和が続くことを、願いながら。
 今日という穏やかな一日を、一緒に幸せに過ごしていく――。