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リアクション
4・防衛戦
クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)とローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、互いのパートナー達と共に、画期的、かつ大胆な作戦を敢行中だった。
それは、幾つもある洞窟の入り口を丸ごと使い、トンネルをそのまま砲身に見たてて、トンネル砲を作ろう、というものである。
一度しか使えない作戦だが、クレアが都築少佐に上申すると、彼は
「よくそんなことを思い付くな」
と呆れた顔をした後で、
「好きにしな」
と許可を出した。
「許可、出ましたか」
戻ってきたクレアとローザマリアを、パートナーの守護天使、ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)らが迎える。
「ええ」
と答えたのはローザマリアで、クレアは頷きながら、
「一週間持たせれば援軍が来るとはいえ、相手は神クラスなのだ。
大技を使い、向こうの腰を引けさせる必要がある」
と、確認するように言った。
この大砲によって、仮に神を殺すまではできなくても、警戒心を植え付けられれば。
洞窟を一本借り切り、内部の補強をする。
教導団で工兵科に所属し、基地内の補強と修理を担当すると言っていた、ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)にも協力を仰ぐ。
ハインリヒは、設備の点検をしているパートナーのクリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)と内部地図の把握に努めている天津 亜衣(あまつ・あい)も一時的に呼び寄せて手伝わせた。
「そうですね、フェイク通路を作るという作戦もございますね」
内壁の補強をしながら、ハインリヒも色々と考える。
トンネル砲は、一度しか使えない。
「……でしたら、使えなくなった区画に敵を誘導して、落盤させる、とか……」
簡単に生き埋めになってくれる相手とも思えないが、状況によっては、作戦のひとつとして使えるかもしれない。
「できました。これで大丈夫かと思います」
「ありがとう」
ローザマリアが礼を言う。
流石、敵をトンネル内に誘き寄せた後の、退避用の横穴も、完璧に隠してある。
「では、私は設備点検に戻りますわね」
ヴァリアがハインリヒに言う。
「空調の修理の途中でしたの」
「あたしも〜。いい気分転換になったけど」
亜衣もそれに続き、ハインリヒは微笑んだ。
「ええ、助かりました」
ハインリヒ達が自分の持ち場に戻ると、クレア達は、次の作業に入る。
砲身の次は、砲弾だ。
「私が持つ分は、これで全部だ」
武装を外し、エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)がミサイルの全弾頭を渡す。
「わたくしのはこちらに。全部ではありませんが」
非常事態に備え、上杉 菊(うえすぎ・きく)は、最低限を手元に残している。
そうして、自分達が持つ武器の火薬をありったけ集め、弾薬庫からも提供して貰って、それなりの量を集めた。
「すっげえな。これが一発限りのハッタリとはねえ」
エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)が不敵に笑う。
「問題は、相手にそれと知られないようにすることですね」
万一、一発で龍騎士を倒せなかった場合、次がある、と思わせなくてはならない。
そうしなければ、逆にやられてしまうのだ。
ハンスは、しっかりとクレア様の護衛をしなくては、と自らに確認する。
「でも、一回撃ったら、そのまま埋めちゃいますもん、問題ないですよねぇ」
にこ、と、パティ・パナシェ(ぱてぃ・ぱなしぇ)が可愛らしく笑う。
「そうね、あとは、龍騎士をおびき寄せるだけね」
ローザマリアは、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)を促す。
二人が、龍騎士を誘い込む役を担当する。
トンネル砲を作成している間に、既に龍騎士達は来襲し、戦闘は始まっていた。
グロリアーナは頷き、二人は密かに要塞を出て行った。
洞窟内には、仲間が仕掛けた、爆弾トラップがある。
ケーニッヒ・ファウストは、昴コウジやジェイコブ・バウアーらと共闘し、そこへ、従龍騎士を誘い込む作戦を取るつもりだった。
だが、従龍騎士を挑発し、洞窟内へ駆け込む昴コウジを見て、銃座から攻撃を仕掛けようとしていた黒乃音子や、迎撃の為に飛び出そうとしていた光臣翔一朗らがぎょっとする。
「待てえ、あんた等、何最初から敵を中に入れようとしとるんじゃ!!」
翔一朗が叫んだ。
これは、それをさせない為の戦いであるはず。
いや、そこをあえて内部に誘き寄せてこその作戦なんだ、とか、せいぜい50メートルくらいで、そこまで深くは入れさせないつもりでいるのだが、とかとかと、ケーニッヒは思ったのだが、確かに、全く相手の力量を測らない内から、懐に入れるのは無謀すぎるかもしれない。
「作戦変更だ。まずは外で、確実に数を減らす」
ジェイコブの言葉に、コウジとケーニッヒも、
「了解」
と頷いた。
龍騎士に比べれば戦いやすい相手とはいえ、一気に攻め込まれれば勿論厄介だ。
牽制する為に、絶え間無く機関銃を撃ち続けながら、音子はニャイールに、
「補給係に弾倉貰ってきて!!」
と叫び、ニャイールは陣地を飛び出して走って行く。
同じタイミングで、補給係のクレーメックの方でも、こちらの状況を把握しているらしく、弾丸の追加を持って走って来た。
「いいタイミング!」
音子が笑い、フランソワが受けとって、横からすぐさま補充する。
「よっしゃあ、まだまだあ!」
テンションが上がりすぎているのか、何だかいつもと口調が変わってるニャー、とニャイールがひっそり突っ込んだ。
「卑怯やぞ、降りてこんかぁぁぁ!!」
翔一朗は上空のワイバーンに向かって怒鳴り付けた。
殴る蹴るの『喧嘩』がしたい翔一朗にとって、相手の領域が空、というのは、非常に相性が悪かった。
勿論従龍騎士達もこちらを攻撃するつもりでいるので、低く構えてくることもあり、そこをすかさずドラゴアーツ併用のランスバレストで突撃すれば、
「ぬるいわ、ボケぇ!」
という叫びになるのだが。
従龍騎士は、翔一朗にとっては最早敵ではない。
「強い相手と喧嘩を楽しむ!」
をキャッチコピーに、強い連中がやって来るの噂ひとつでここまで来た翔一朗にとって、従龍騎士はいささか物足りない相手だった。
「ちっ、狙う獲物を間違えたかのう」
そう、従龍騎士の後ろには、更に強い龍騎士達が、殆ど無傷の状態で控えているのだ。
翔一朗は肩を竦めた。
「……まあ、ええ。次にしちゃるけえ」
ジャタ族の三毛猫をパートナーに持つ白砂 司(しらすな・つかさ)にとって、ジャタの森の猫はシマだと言って憚らない彼にとって、どうしても言いたいことがひとつある。
それは、『ビールはアルコールが入ってナンボ』ということだ。
東シャンバラであるイルミンスール所属である司は、今回の防衛戦に参加していいものかどうか迷ったが、ジャタ族の獣人をパートナーに持っている、という自負もある。
パートナーと同じ森の住民は、護ってやりたい。
結果、自分はジャタ族の戦士なのだと、そう自分を納得させることにした。
それは単なる言い訳に過ぎないが、そうすることで、自分の中でふっきれるのだから、いいのだと思う。
「ビールっちゃあアルコールが入ってナンボですよねっ!」
そして、ギラリと瞳を輝かせ、そんな自慢のパートナーも勿論、言いたいことはひとつだった。
幾つかある基地の入り口の一つを、司とパートナーのサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)は陣取る。
基地を護る為の闘いだ。
もっとも護るべきは、ここである。
入り口は全て、一見外から解らないようにしてあるので、自分がここに立つことで、敵に入り口の場所が知れるようなことはあってはならない。
超感覚スキル全開で、狼の耳を生やして周囲の気配に敏感になりながら、ひっそりと入り口を守る。
そんな司をサクラコは、頼もしいと思ってみたり、でもまあとーぜんよねなどと思ってみたり、まあ要するに嬉しいのだった。
比較的近くを飛ぶワイバーンの一つに狙いを絞り、ジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)はヒプノシスを放った。
半分賭けだったが、ぐらりと傾く従龍騎士を見とめ、
「かかった!」
と呟く。
従龍騎士は地上に落下して目を覚ましたが、ジークフリートは素早く奈落彼岸花を使って、毒を送り込んだ。
「ぐっ……」
苦しそうに顔を歪める従龍騎士に、ジークフリートは魔道銃を突きつけた。
「降伏しろ。降伏すれば、治療してやる。
これ以上の戦いは無意味だ。このまま、賊として死ぬ気はないだろう」
従龍騎士は、喘ぎながらも、ジークフリートを睨み付ける。
折れる気がないのを見て、もう一度言った。
「俺がフマナで会った龍騎士は、民を救う為に必死に駆け巡っていた。
お前、それでいいのか。
このままナラカに堕ちて、親や兄弟や親友に会った時、何て説明する気だ!
貴様にも、真に護りたいものは解っているはずだ!」
くくっ、と、従龍騎士は笑った。
「……生憎だ。信念は、人それぞれ。
……俺は、誰に会っても、胸を張れる……」
いっそ嘲笑うように自分を見る従龍騎士に、説得は無意味と悟った。
「……それなら、深い深淵の底に堕ちるがいい」
ジークフリートは、従龍騎士の額に押し付けた魔道銃の引き金を引いた。
氷室カイは、奈落の鉄鎖を使って、上空のワイバーンに上からの重力を叩き込んだ。
バランスを崩したか器絶したか、そのままワイバーンが落下してくるのを、パートナー達と共に駆け寄る。
従龍騎士は横たわるワイバーンから降りながら、カイ達を迎えて剣を抜いた。
パートナーのレオナ・フォークナー(れおな・ふぉーくなー)やサー・ペディヴィアと共に三方から取り囲む。
従龍騎士はカイ達にはそれなりに強敵だったが、騎士の後ろに回った者が、前に回った者のフォローをしつつ、使える技はすべて使って、最終的に、とどめを刺したのはやはりカイだった。
どう、と倒れる従龍騎士を前に、ほっと息をつく。
「――まだ終わってはいないな」
気を抜くのはまだ早いと、自分に言い聞かせた。
まだ、殲滅はしていない。敵はまだ残っているのだ。
「一人倒したからと、浮かれてらんねえな。皆、次に行くぜ」
カイは次の標的を見た。
わざわざ要塞内部に誘い込まなくても、この人数がチームワークを駆使して戦えば、従龍騎士を倒すこともたやすいはずだと、ジェイコブ・バウアーは思った。
「白兵戦に持ち込めば、まず間違いなく勝てるだろうぜ」
ワイバーンから、従龍騎士を引き摺り下ろしてさえしまえば。
フィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)は、天津 麻衣(あまつ・まい)と共に、主戦力となるケーニッヒにパワーブレスをかけていく。
神矢 美悠(かみや・みゆう)は、仲間達に、フォースフィールドの支援魔法を施した。
そんなこんなで、直接戦闘に加わらなくても、10人近い人数で対峙していれば、もはや殆ど袋叩きに近い状態だった。
「オレ、出る幕ないぜ〜」
ハートナーのケーニッヒを魔法で支援するつもりだったアンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)が、手持ち無沙汰で苦笑する。
それを見た別の従龍騎士が助けに入ろうとするが、目ざとく見付けた黒乃音子が
「させないよ!」
と、機関銃で威嚇する。
それでも無理矢理地に降りれば、
「お前達の相手は俺だ!」
と、氷室カイらが走り寄った。
こちらは複数で戦う。従龍騎士は群れさせない。戦い方のコツが解ってくる。
「そもそも、ワイバーンに乗ってるのを引きずり下ろすところからだわな」
よってたかってタコ殴りの一方で、数的にはこちらが圧倒的に多いのに、戦力は向こうの方が上とか、デタラメにもほどがある、と、斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)はぼやいていた。
だが、騎士達の機動力を削ぐことができれば、かなり違うはずだ。
「どうするつもり?」
良案がある様子の邦彦を見て、パートナーのヴァルキリー、ネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)が訊ねる。
「こういう時はむしろ、わりと単純な技の方が効果があると思うわけだ」
動物って、嗅覚が鋭いものだろう?
取り出した物を見て、ネルは顔をしかめた。
正しくはその臭いにだが。
「……アンモニア?」
「あと、ドリアンなんか揃えてみた。名付けて悪臭スペシャル」
どういうネーミングなの。と、突っ込みそうになる。
最近、何かこそこそしていると思ったら……。ネルは眉間を寄せる。
「……あの、それって作戦的にどうなの。
というかシリアスな場面的にどうなの……って私は何を言ってるの」
邦彦はニヤリと笑って、問題無し! と親指を立て、見とけ、と、攻撃を仕掛けようと降下してくるワイバーンに狙いを定めた。
投げ付けた悪臭スペシャルは、見事ワイバーンの鼻先にヒットし、余った分が地上に降り注ぐ。
ぎゃー! と悲鳴を上げて、光臣翔一朗が逃げた。
上手く躱したようだ。
ワイバーンは嫌がって暴れたが、従龍騎士が手綱を引いて宥めると、すぐに落ち着きを取り戻した。
「あらら」
邦彦は拍子抜ける。
「どうやら、そのテの訓練はちゃんとしてるみたいだな」
加えて、戦場は本来、腐臭と死臭で悪臭にまみれているのだ。
慣れていなければ連れ出せないのだろう。
折角作ったのに、と邦彦は残念がる。
「普通に戦えばいい。うまくやれば、必ずしも倒せない相手じゃないわ」
ネルがそう言うのを合図に、二人は気持ちを切り替えた。
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