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リアクション
「全くカサンドロスときたら、一人で神の平均レベル下げまくってんじゃないの!」
「てゆーかアレを7龍騎士団から外したんだからエリュシオンって案外賢明なのね――!」
不満を思いっきり口に出しながら、志方 綾乃(しかた・あやの)は猛然とアウタナの戦輪を投げ付ける。
がつっと鈍い音を立て、それが上空から怒りマークと共に攻撃のタイミングを伺っていた従龍騎士の後頭部に激突した。
ワイバーンの手綱を手放して落下する従龍騎士に駆けつけながら、
「このようなカサンドロスの私闘に巻き込まれ、部下もわらわ達も全く災難じゃ!」
と、少女姿の袁紹 本初(えんしょう・ほんしょ)が綾乃に続いて叫ぶ。
頭を押さえながら、よろよろと起き上がる従龍騎士に、一発蹴りを入れた後で、ビシ! と指差した。
「そんなカサンドロスに言うてやるがよい!
おぬしのような人間を『匹夫の勇』というのだと!」
唖然。と、従龍騎士は固まっている。
「……まあ、いくら神と言っても万能家具の称号を持つニッポンのキングオブ家電! こたつには叶いませんよ」
高性能 こたつ(こうせいのう・こたつ)が不気味に微笑む。
「……まあ実際、神にも豊かな感情や嫉妬心はあるものだと思うけど、それを表に出すのは、自分の品格を下げてるよね」
ぶっちゃけカサンドロスちゃんて私利私欲と嫉妬心丸出しで部下も50人しかついてこないとか人望も無いし騎士団長になれなくて当り前じゃないのむしろ神っていうのも間違いなんじゃない。
と、天衣 無縫(てんい・むほう)が一息で言う。
要するにカサンドロスに言ってやりたいあれやこれやの侮辱と愚弄の数々を、本人がここに居ないので従龍騎士にぶつけながら戦っているわけだが、従龍騎士は、遅れて怒りを剥き出しにした。
「カサンドロス様を愚弄するな……! あの方は――!」
「はいっ、あなたに発言権はありません!」
綾乃がトドメの一撃を叩き込み、従龍騎士は倒れる。
……最も、最初の後頭部の傷で既に瀕死の状態だったのだが。
「倒してしまっては、本人に伝えに行けぬではないか」
本初が口を尖らせた。
「これだけ大声で叫んでるんだから、どっかから言伝とかで耳に入らないでしょうか?」
綾乃が言ってみるが、
「それをするなら直接行ってみた方が早いんじゃ……」
――振り出しに戻る感じである。
「ジャタの森は、居心地が悪ィな……」
ぽつ、と呟いたきり、呀 雷號(が・らいごう)は一言も口を開かなかった。
「今日の雷號は、いつにも増して無口ですねえ」
何かあったのでしょうか、と心配しつつ、西条 霧神(さいじょう・きりがみ)は、もっと心配なパートナー、鬼院 尋人(きいん・ひろと)に訴える。
「ねえ、やめましょうよう。
龍騎士と話したいだなんて……危険ですよ」
それでも、尋人が希望するのなら、一緒に行って彼を守らなくてはと、こうして同行しているわけなのだが。
「龍騎士は、礼儀正しくて意外に人間くさかったりするっていうじゃないか。
大丈夫、いきなり斬られたりはしないよ」
「そりゃあ、彼等は誇り高き歴戦の勇者ですし……
でも、今、何かパラミタの情勢は変です。おかしいです。
何か、そういうのが影響してるような気がするんですよ」
「心配性だなあ」
尋人は肩を竦める。
龍騎士の強さを耳にするにつれ、そしてその当人がそこにいるという事実を前にして、衝動を抑えることができなくなっていた。
前線の要塞で戦う従龍騎士達を、後方で龍騎士達が控えて見守る。
鬼院尋人がそこに現れた時、龍騎士と戦う幻時 想(げんじ・そう)が、その剣に弾き飛ばされ、地に投げ出されるところだった。
「……!」
「大丈夫ですか」
想と騎士を交互に見る尋人の代わりに、霧神が想を助け起こす。
「……何の用か、少年」
少し離れた龍の傍らに、砦を見据えたまま、尋人には全く視線も向けない前方に、そこには、合計5人の龍騎士が立っていた。
想と戦っていたらしき一人は、尋人を見て、目を細くした。
ぎゅっと歯を食いしばって、尋人はまっすぐに立つ。
へりくだるつもりはない。正面から呼びかけて、聞いてみたいことがあった。
「……あんた達に、聞きたいことが、あって来た。
あんた達が信じてる者は、仕えてる相手は、誰なんだ?」
龍騎士ほどの者が仕える相手は、やはり王なのだろうか。
エリュシオンに居る王は、どういう人なのだろう。
「……そんなことが、訊きたいことか」
違う。と、心の中が、即答した。
本当の本当に、訊きたいことは。
「……オレもなれるだろうか……龍騎士に」
その騎士は、静かに冷めた目で、尋人を見た。
「お前は、龍騎士になれぬ」
びくりと身体を震わせて、尋人は目を見開く。
「『なれるだろうか』と言っている内は、永遠になれることはないだろう」
「………………!」
帰れ。言われて、我に返って、でも、と思った。
彼等は、このまま自分を帰して、いいのだろうか?
「お前は、戦士としてここに来たのではない。だから戦士としては扱わぬ」
「だったらいい加減、こっちに注意を戻してくれないかな」
想が肩を竦めて笑った。
まだ何か、と言いたげな騎士に、
「何考えてんだ、あんたら」
と、思わず本音がそのまま漏れた。
そもそもここには、彼等の本心を探りにきたのだが。
仮にも元龍騎士団員。それが何故、と。
「弱い者を蹂躙するような戦いに、何とも思わないのか?」
尋人が彼等に感じているような畏れを、想は感じることができない。
そんな傑物であれば、こんな戦いを挑んでは来ないはずだ。
「我々は、カサンドロス様の意志に賛同した。そういうことだ」
騎士はきっぱりと答える。
無理矢理ではなく、自分の意志でここにいるのだと、はっきりと答えた。
一番前で、砦の様子を見ていた騎士が、視線を下ろした。
そこに、ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が立っている。
「こんな所に駐屯してたんだな。探したぜ」
騎士達の姿を見付けた時に、既に魔鎧のリリウム・ホワイト(りりうむ・ほわいと)を纏っている。
ここへ来た目的は、ひとつだった。
「ちょっと私に付き合ってくれないか?」
手に装備した爪を、龍騎士に向ける。
「いいだろう」
龍騎士は、剣を構えてミューレリアに向けた。
他の騎士達は動こうとせず、様子を見ている。
正直、この5人をまとめて相手にしたら勝てるわけがないので、ミューレリアは内心安堵していた。
(でも、何考えてんだ)
安堵はするが、何を考えているのかさっぱり解らない。
解らないが、とりあえずは、目先の戦いである。
バーストダッシュで懐に飛び込んだミューレリアの黒影爪を、龍騎士は難なく躱す。
素早くミラージュによる分身を作った後、更に一瞬置かずに、ブラインドナイブズの攻撃を仕掛けた。
幻影のひとつが、龍騎士の肌を引き裂いて、やった! と脳内でガッツポーズを取った。
ピリ、と縛れる痛みを感じて、龍騎士は眉を顰める。
「ははっ。毒を仕込んでやったぜ。どうだ、負けを認めるか?」
「シャハリバル」
観戦していた騎士が、小さな小瓶を投げ渡し、彼はその中身を口に含んだ。
解毒剤か!
「きったねえ!」
思わず抗議しながら、どこが、と自分でも思った。
シャハリバルと呼ばれた龍騎士が、改めて剣を構え、身構える。
ちっ、と舌打ちして、仕方ねーな、と溜め息を吐いた。
「……しょうがない。私の負けでいいさ」
不意打ちは、二度は通用すまい。
実力的にはいいところを行っていたような気もしないでもないが、ここは負けを認めるしかないだろう。
「……何を考えているのかと、問うたな」
潔く引こうとしたミューレリアに、龍騎士が口を開いた。
「あー、まあ、言ってたな?」
言ってたのはミューレリアではないが、心の中では思っていた。
「我々の目的は、砦だ。命ではない」
……呆気。
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