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リアクション
(理想的な形ではないけれど、シャンバラが独立できた事はまあ、喜ぶべき事よね)
紅白歌合戦に向かう支度を整え、フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)が心に呟く。イルミンスールにとって(というより、日本が母体の学校以外の学校にとって)今回の統一は手放しで喜べる状況ではない上、国としても大国のエリュシオンに睨まれた状態という中ではあるが、一度東西に分かれ、時には仲間同士剣を向け合うこともあったことを鑑みれば、ともかく統一できたことはよしとすべきとも言えた。
(でも、エリュシオンがこのまま黙っているとも思えないし、パパも言っているように、欧州魔法連合内の反シャンバラ勢力だって勢いが衰えないうちに何か仕掛けてくるに違いないわ)
これはフレデリカの推測ではあるが、『火のないところに煙は立たぬ』とも言う。これまでの経緯をそこに加えれば、そう思うにも一定の理由が付けられる。
(だからこそ、今はつかの間の平和を楽しんで、内外に順風満帆だと言う事をアピールしとかなきゃ!)
ぐっ、と拳を握りしめ、フレデリカが心に誓う。そのために準備は万端にしてきた。
……それに、彼女にはもう一つ、もしかしたらこちらの方が重要な理由があった。
「どうしてだよー!? 僕と一緒に出ればきっと優勝間違いなしだよー?」
「だから嫌ですってば! 大勢の人の前に出るだけでも恥ずかしいのに、その上女装なんて……!」
「えー、その方が似合ってるんだからいいじゃん」
「良くないですよ! 僕は男ですってば!」
そこへ、フィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)とそのパートナー、ルーレン・カプタが何やら言い争いをしながらやって来た。
そう、フレデリカの抱く『重要な理由』は、彼ら? に関係していた。
(ちょうどいいところに! この前はルーレンさんと喧嘩みたいになっちゃったから、きっとフィリップ君、気にしてるだろうな……)
フィリップのことを思うと、自分でも不思議なほど胸が高鳴るのを感じる。
いつからだろう、彼のことをこんなに意識するようになったのは。
(……もう、私にはもうフィリップ君を諦めるのは無理。だったら、私の素直な気持ちをルーレンさんに解ってもらうしかないじゃない)
そう思いつつも、自分がそうすることでフィリップに迷惑を掛けるのは嫌。
……だから、ルーレンとは『恋のライバル』でありつつも、それだけでいがみ合うことなく、お互いにいい関係を築きたい。
「ルイ姉、計画した通りにお願い!」
振り向き、懇願するフレデリカに、ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)が頷く。二人はこれから、『フィリップとルーレンを一旦引き離し、そこへフレデリカが『正々堂々と勝負』という想いを込めてルーレンと紅白歌合戦でデュエットするのを持ちかける』つもりであった。
(正々堂々勝負だなんてフリッカらしいですね。……でも、そう上手くいくでしょうか?
現にフリッカ、あんなに嫉妬してしまう自分に苦しんでたじゃないですか)
フレデリカのことをよく知るルイーザだからこそ、何かの拍子にフレデリカが“暴走”してしまわないかが心配になる。
(……でも、これは私が口出ししていい問題じゃないですね。人は思い悩んで成長するものですから……)
今はフレデリカが思い通りに行動出来る手助けをしよう、そう心に誓ったルイーザが、視界の前方でルーレンから逃げるフィリップを自らの方向へ引き寄せる。
「あ、あれれ? あ、足が勝手に……?」
ルイーザに超能力をかけられているとはいざ知らず、フィリップが不可視の力のままに走らされていく。
「待ってよフィリップー!」
曲がり角を曲がっていくフィリップを追いかけるルーレンの前に、偶然を装うようにしてフレデリカが姿を現す。
「あっ、お前は!」
「お前じゃないわ、私にはフレデリカ・レヴィという名があるの」
「むー……じゃあフレデリカ、一体何の用さ!? 僕は急いでるんだけど」
口ではそう言いつつも、次期ザンスカール家当主として教育を受けてきたのもあってか、フレデリカの様子を汲みとって話を聞く姿勢を見せるルーレン。
一瞬にも、永遠にも感じられる沈黙の後、フレデリカが意を決して口を開く。
「ルーレンさん、ごめんなさい。
私、もう自分でも抑えられないぐらい、フィリップ君のことが大好きなの」
フレデリカのその言葉を、ルーレンは頷くでも否定するでもなく、ただ聞き入れる。
続けてフレデリカの言葉が降る。
「……でも、私は『恋のライバル』ってだけであなたを嫌いたくない。
だから、後腐れが無いように、あなたとは正々堂々勝負したいの。
……私、歌合戦でフィリップ君への想いを込めてラヴソングを歌うつもりよ。
もし、ルーレンさんも私と同じぐらいフィリップ君のことが大好きなら、私と一緒に歌合戦に出場しない?」
再び、沈黙が降りる。
ルイ姉、上手くフィリップ君を説得してくれたかな。そんなことをフレデリカがふと思った時、沈黙を保っていたルーレンが口を開く。
「分かりました。
その勝負、お受けいたしましょう」
それまでの、元気っぽさが印象の口調を廃し、どこか威厳すら感じさせる雰囲気を漂わせ、ルーレンが軽く頭を下げる。
「あ、えっと、はい、よろしくお願いします!」
その雰囲気に飲まれ、フレデリカが続いて頭を下げ、しまったと気付く。これでは既に、相手を優位に立たせているようなものである。
「申し訳ございません、少々お時間を頂けないでしょうか。そうお手間は取らせませんので」
しかし、相手にここまで下手に出られて、そうそう強くも出れない。実家――つまり、ザンスカール家である――で支度をしてくるというルーレンに、結局は頷くことしか出来ないフレデリカであった。
その後、ルイーザが引き止めたフィリップに、フレデリカがルーレンとデュエットを組んで出場する旨を伝える。
「そ、そうなんだ、よかった……。ああうん、こっちの話ですから。じゃあ、僕は見学させてもらいますね」
女装を免れたフィリップがほっ、と息をつき、フレデリカに微笑む。その笑顔を見、顔が熱くなるのを感じながらフレデリカが頷いた時、家から戻ってきたルーレンが合流する。
「お待たせ! それじゃ行こっか、フィリップ!」
「ちょ、ちょっとルーレンさん、くっつかないでくださいってば」
衣装道具と思しきバッグを片手に、もう片方の手をごく自然にフィリップに絡ませるルーレン。ちらり、とフレデリカを見やるのは明らかに、フレデリカへの当てつけであった。
「私も一緒だからね、フィリップ君!」
ムッ、と頬を膨らませ、フレデリカが対抗してフィリップの反対側の腕を取り、身を寄せる。
「フレデリカさんまで!? ……ハァ、どうしてこうなるかなぁ……」
他の、特にロンリーウルフな生徒が見たら「リア充爆発しろ!」と怨念を込められそうな光景に、当の本人のフィリップはハァ、と溜息をつくのであった――。
●精霊指定都市イナテミス
「セイラン、そっちの調子はどうだ?」
「ええ、お兄様。問題ありませんわ」
イルミンスールの東に位置する、『精霊指定都市イナテミス』。その中心部にそびえ立つ『イナテミス精霊塔』では、ケイオース・サイフィード(けいおーす・さいふぃーど)とセイラン・サイフィード(せいらん・さいふぃーど)が、基地局としての機能を強化し、後日開催される『シャンバラ独立記念紅白歌合戦』の中継を受信出来るようにしていた。イナテミスはまだ発展途上で、各家にテレビやラジオの類はないが、拡声機能を使えばイナテミス中心部くらいなら、歌を届けることが出来る。
イナテミスの皆にも、シャンバラ国が成立して最初のイベントの様子を聞いてもらい、そして、シャンバラが正式に国として成立したことを実感してもらいたい。空京から最も離れ、エリュシオンに近いここでは、どうしても疎外感を感じてしまう。
そんな思いからの、精霊長たちの行動であった。
「どうやら完成したようだな。これで、後は当日を迎えるばかり――」
先日の疲労から回復したサラ・ヴォルテール(さら・う゛ぉるてーる)が、言葉の途中でこちらに向かってくる人物を見止める。
「サラ、ここにいたのか」
「ああ。何だ、私を探していたのか」
サラを呼ぶ緋桜 ケイ(ひおう・けい)に、サラが来訪を歓迎する表情で答える。
「正確には精霊長全員、ってとこだな。ちょうど全員いるから都合よかったかも」
「あら、何でしょう? ほら、カヤノもですよ」
「あー、はいはい、ちょっと待って」
セリシア・ウインドリィ(せりしあ・ういんどりぃ)とカヤノ・アシュリング(かやの・あしゅりんぐ)を加え、五精霊が揃い踏みしたところで、ケイがここに来た目的を口にする。
「みんなでバンドを組んで、紅白歌合戦に出てみないか? 精霊は、歌とか音楽とかに精通してるんだろ?
それに夏の時、『メトロック』の演出を手伝って、ある程度は見識も得てるだろうし、結構いけると思うんだ」
「ふむ……面白そうだし、やってみたいと思うが……私たちが出場していいのだろうか。今回のイベントはシャンバラの統一と独立を祝うものであり、出場する皆はいわば、立役者ばかりであろう。私たちはそれに関しては何もしていないに等しいぞ」
サラの問いに、ケイが答える。
「何かしたかとか、そういうのは関係ないんじゃないか? 祝福する気持ちがあれば、それで十分だと俺は思うぜ」
「……そうか。ケイにそう言ってもらえると、心強いな。
私は、皆で出場するのもいいと思っている。皆はどう思うか?」
サラの言葉に、一番最初に答えたのは、カヤノ。
「あたいはいいわよ! 面白そうだし!」
前評判通りのノリの良さで、出場を即答する。
「俺も、歌うのに抵抗はないしな。祝福したい想いはある、出られるのなら出てみたいと思う」
次に回答したのは、意外にもケイオースだった。歌う機会を何度か経験していることが大きかったようだ。
「お兄様が出場為されるのであれば、わたくしも微力ながら力添えいたしますわ」
「皆さんがそういうつもりでしたら、私も協力したいです」
ケイオースが出場するということでセイランが、他皆が出場するということでセリシアが続き、全員が出場の意思を示す。
「決まりだな! それじゃ、誰かどのパートを担当するか決めないとな。
五人バンドだから、ヴォーカル、ギター、ベース、ドラム、キーボードが用意出来るな」
「あたいヴォーカル! はい決定!」
「カヤノ……まぁ、いいが。私は……そうだな、ギターにしようか。セリシア、私とベースで共演しないか?
一度お前と何かやってみたかったのだ」
「はい、いいですよ」
ヴォーカルにカヤノ、ギターにサラ、ベースにセリシアが決定する。
「となると、俺はドラム、だな。セイランはキーボードを頼む」
「ええ、お兄様」
ドラムにケイオース、キーボードにセイランが決まり、それぞれ担当も決定する。
「後は、何を演奏するか、だな。それと申請をするのであれば、ユニット名も決めておかねばな」
「ああ、それについては俺とカナタで曲のイメージを作ってあるぜ。実際の演奏はサラたちに任せることになるけど」
そう言って、ケイが悠久ノ カナタ(とわの・かなた)と共に作詞した曲と、曲のイメージをサラに渡す。
「ユニット名も、案があるんだ。五精霊だから、『Elements―5!』。どうだろ?」
「ほう、用意がいいな、ケイ。……ああ、その案でまったく構わない。
さあ、本番まで練習と行くか! プロデューサーがこれだけ手を尽くしてくれたんだ、私たちに出来る最高の演奏をしなければな」
「別に、そんなんじゃないぜ。俺はただ……」
サラの演奏が見たい、とはこの場では言うのが躊躇われた。
「……そうだな。最高の演奏、期待してるぜ!」
結局、サラの言葉に同意する形でケイが言い、そして、カナタと当日の衣装合わせを検討するために戻っていく――。
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