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リアクション
●女王に関わった者たち、そして、女王を今でも慕う者たちの想いと行動
「歌合戦の意気込み、ですか?
そうですわね……わたくしたちの歌を聞いてくださる皆様の心に、何らかの想いを呼び起こす。
それは喜びでも、時には悲しみでも構いません。怒りでも憎しみでも、何らかの感情を抱かせられる。
そんな歌を聞かせられれば、と思いますわ」
「シャンバラ独立の感想? ……改まって聞かれると、答えるの難しいわね。
何か、何言っても、誰かに対して失礼な気がしちゃって。
それでも言わせてもらえるなら……そうね、やっとかな、って感じ。
そして、ここから始まるんだな、とも思ってる」
「今後のTTSの展望……私にもよく分からないわ。
だって、この前海で演じたと思ったら、次は秋葉原で、今度は空京スタジアムよ?
もしかしたら次の公演は、シャンバラを飛び越えてるかもしれないわね。
ま、こうしていられるのは、世界が平和であることの証。戦いに行くんじゃないんだから、それはそれでいいかもしれないわね」
「……ファンへの一言?
……頑張る。
……短い? 一言って言ったのに……。
……お腹すいた。ラーメンの差し入れ、待ってる」
『歌って踊れる魔法少女 TTS』の控え室では、「晴れの舞台なので、おニューの衣装を作ってきました!」と意気込む宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)と、彼女のサポートをする那須 朱美(なす・あけみ)によって化粧を施されるティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)とパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)、セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)、リフル・シルヴェリア(りふる・しるう゛ぇりあ)へ、TTSのプロデューサーであるトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)がドキュメンタリーの撮影の一環として、彼女たちへのインタビューを行っていた。
「よーし、これで特典映像はバッチリだぜ! 後は、本命の歌の場面の映像を提供してもらうように手配して……これを商品化して、TTSの人気と知名度をアップだ!」(そして、俺は大儲けだ!)
控え室でのワンシーンを撮り終えたトライブが、自身の目的を果たすため、一旦その場を後にする。
「……うん、完成です。みんな素がとても良いから、メイクも手間かけなくて済むわね」
言って、祥子と朱美が身を引き、そしてそれぞれの衣装を纏った四人が、ミラーの前で自身の姿をチェックする。『剣の花嫁』らしく、オフショルダーのウェデイングドレスを基本にしたステージ衣装は、花びらっぽい形の布地を重ねて形成され、膝が見えるか見えないか程度の長さにまとめられている。各々の星座の紋様が薄く入れられ、色はティセラが青、セイニィは薄黄、パッフェルは白、リフルは薄紫に仕立て上げられていた。
「……なんか、お決まりかもしれないけど、あたしであってあたしじゃない気分ね――」
セイニィが、鏡に写る自らの姿に照れくさそうにしたところで、控え室の扉が叩かれる。
「ティセラ、パッフェル、リフル! ちょっと、セイニィ借りるぞ――」
朱美が扉を開けると、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が唐突に話を切り出したところで、セイニィの姿を見て固まる。
「な、何よ、じっと見ちゃって。どうせあたしらしくないとか思ってるんでしょ」
俯くセイニィは、しかし歩み寄ってきた牙竜に手を掴まれ、ハッとして振り返る。
「……綺麗だ。結婚しよう」
「…………………………はぁ!?」
他の者たちが状況を面白おかしく見守る中、セイニィの顔が途端に真っ赤になる。
「あ、あああああんたねぇ、一体何言ってんの!?」
「……ハッ! お、俺は一体何を……ん? どうしたセイニィ、顔が真っ赤だぞ」
「▲■×●▲■×●ーー!!」
言葉にならない言葉をセイニィがあげたところで、間にスッ、とティセラが入り込む。
「セイニィ、行ってらっしゃい。牙竜さんは必ず、あなたを幸せにしてくださいますわ。……ですわよね、牙竜さん?」
(な、何だ、この有無を言わせないプレッシャーは……! こ、これが十二星華最強と謳われた者の力なのか……!)
まるで射抜かれるようにティセラに見つめられた牙竜が、コクコクと頷く。
「な、何か話がよく分からない方向に向かってるけど、あんたがそこまで言うなら行ってくるわ――」
「……あ、もちろん、わたくしたちのステージには出てくださいね♪」
「ひどい!」
そんなやり取りがありつつ、結局はセイニィは牙竜に連れられて控え室を後にする。
「花嫁衣装着たセイニィと逃避行か……セイニィー、ちゃんと責任取らせなさいよー?」
「だから何の話よ、もー!」
そんな声も小さくなっていったところで、再び扉が叩かれる。
「済みません、こちらにセイニィはいらっしゃいますか?」
現れたシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)に対し、少し前に牙竜と共に出て行った旨をティセラが告げる。
「……そうですか。お手数おかけしました、私の方で探してみます」
「ほんの少し前のことですから、そう遠くには行ってないと思いますわ。わざわざ訪ねてきてくださったのに、ごめんなさいね」
いえ、と一礼して、シャーロットが扉を閉める。扉の向こうからシャーロットの駆ける音が響き、直ぐに小さくなって消えていった。
「ふふ……セイニィは幸せ者ですわね。あれだけ気遣ってくれる方がいて」
「何を言ってるのよ。ティセラ、あなたにだってちゃんと気遣ってくれる人はいるわよ」
「そうでしたわね。あなたの前で失礼な発言でしたわ」
祥子の言葉に、ティセラが微笑を浮かべる。
「しばらくは三人で活動かしらね。セイニィの代わりって、そうそういなそうだし」
「……メンバー募集?」
「それも一つの方法かもしれませんわね。……さ、わたくしたちも万全の状態でステージに出られるよう、やれることはやっておきませんと」
ティセラの言葉にパッフェルとリフルが頷き、ステージの打ち合わせに入る。
その頃、『歌って踊れる国会議員(予定) 【M】シリウス』の控え室では――。
「死んでも復活するとは、おのれ御神楽環菜……!
しかーし! 今回ミルザム様をもり立てるのはお前ではなくこの僕だ。ゆけぃ、三姉妹!」
「キョウジ……それじゃ悪の秘密結社だよぉ。やっぱりあてにならないなぁ……。
うん、ボクたちが頑張って『【M】シリウス』とミルザム様を盛り上げるんだ!」
「そうね、こうなった以上、覚悟を決めるわ!
エクス、セラフ姉さん! ミルザム様と共に、あのアイドルの星を目指しましょう!」
「じゃ、あたしは『歌って踊れる傭兵』ねん。ま、それもありかしらぁ?」
そんな会話が事前に交わされ、そして今はミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)と共にステージに上がるメンバーとして、湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)のパートナーであるエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)、ディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)とセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)の『ネフィリム三姉妹』が、【M】シリウスのプロデューサーを務めるシルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)の主導するミーティングに加わっていた。
「……舞台の演出については、背景に巨大スクリーンを用意してもらい、そこに雲の流れる青い空を映し出してもらいます。ステージの進行と共に、それが鮮やかな夕焼け、そして希望の星が瞬く夜空に変わっていきます。
『蒼空のフロンティア』という雰囲気を大切にしたいと思いまして」
『蒼空のフロンティア』、最近になって周知し出した、パラミタ大陸を示す言葉を用いながら、シルヴィオが舞台装置の説明をミルザムたちに行う。流浪の踊り子として人々に親しまれてきたミルザムが、ステージを見る観客に希望を与えられるようにとの配慮が、舞台演出に込められていた。
「……以上、一通り説明させていただきました。何がご質問等ありましたら、今のうちにどうぞ」
「私はこれといって特には。皆さんは何かありますか?」
「いえ、私たちの方も大丈夫です。あくまでミルザム様が中心、を忘れずにいきますよ」
「……そうですね。ここまでしてもらった以上、皆さんの期待に応えられるようなステージにしたいと思います」
微笑を浮かべるミルザム、彼女が今身に付けているのは、シルヴィオがコーディネートしたものであった。紅組らしく赤を主体とし、ミルザムの魅力を引き出す為に過剰な装飾を配し、踊り易いかつ上質で品のある衣装は、まさにミルザムが着るに相応しいと言えよう。
話がまとまり、場の空気が弛緩したところで、シルヴィオが不安そうな面持ちのアイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)を呼び寄せ、小声で告げる。
「これは小耳に挟んだ話だが、アムリアナ様が会場にいらっしゃる可能性があるそうだ」
「! ……それは、本当なのですか?」
「ああ。理子ちゃんがアムリアナ様に招待状を出したそうだ。
生徒の中にも、既に動いている者たちがいる。彼らの働き次第だろうが、まあ、そんなところだ」
「……ああ、アムリアナ様……」
アムリアナに特別な想いを抱いているアイシスが、安堵したように表情を緩め、呟く。
東京で感じたアムリアナの気配は、嘘ではなかったのだと思い至ることが出来た――。
シャンバラ王国前女王、アムリアナ・シュヴァーラは、今はシャンバラの国家神となったアイシャに自らの意志と力を託し、死んだ。
追悼の式典も執り行われており、その死は疑う余地もないように思えた。
だが、一部の生徒から次のような声が上がる。
『アムリアナ様は生きておられる』と。
実際に姿をこの目で見ていない以上、死んだことが嘘だったのか、死んだが生き返ったのか、真実は定かではない。
しかし、可能性が万に一つでもあるのだとしたら……そんな想いを抱いた生徒たちが、今日という日に動かないわけがなかった。
『……申し訳ありません、お嬢様。各校の校長様方に伺っても、そのような事実は確認していない、とのことです』
「はうぅ、そうですか……。べディさんが悪いーなんてことはないですよー。僕の方でも探してみますー」
言葉通りに申し訳なさそうな声色のサー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)を労って、土方 伊織(ひじかた・いおり)がスタジアムを一瞥する。徐々に人が集まり出した会場内は、少しずつ賑やかさを増していた。
(もっとこう、おごそかーな感じでやるものかと思いますけど……でも、こう賑やかな方がらしいのかもですねー。
……でも、僕としては独立できた事よりも、アムリアナ様が死なないですんだ事の方が嬉しい事なのです)
しかし、そのアムリアナは理子とはまだ出会えていない。だったらアムリアナを探し出して、二人をサプライズで会わせてあげよう。
そんな想いから、伊織はパートナーと共に、アムリアナ捜索へと動き出したのであった。
『伊織、聞こえるか? 我だの』
「あっ、サティナさん。何か分かりましたかー?」
伊織が、サティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)からの通信に応える。
『うむ、セリシアにも協力を乞うて聞き回った。そこで一つ、気になる話を聞いただの』
『妹』であるセリシア・ウインドリィ(せりしあ・ういんどりぃ)との聞き込みの結果、理子がアムリアナに招待状を出したという話が一部の生徒の間に広まっていることを、サティナが報告する。
「ふぇ? しょーたいじょー、ですか?」
招待状は、相手が誰で、どこにいるのかが分かっていなければ、出せないものである。
「……理子さまは、アムリアナさまと会ってる、ですか?」
自分の考えが違っていたのかもと思いながらの伊織の呟きに、サティナが判断を保留しつつ言葉を紡ぐ。
『もし話の通りだとして、招待を受けたアムリアナが向かいそうな場所を考えてみるのだの』
「あうー……一番考えられるのは、ここですー。ここじゃないとしたら……」
うーんうーんと唸りつつ考えを巡らせた伊織の頭に、列車とホーム、そこから乗り降りする様々な者たちの姿が浮かび上がる。
――契約者がこのパラミタ大陸へ降り立つ際、必ず一度は利用するはずの、空京新幹線――。
ピコーン、と何かが閃いたような表情を浮かべた伊織へ、何か察するものがあったのか、サティナが伊織の背中を後押しする言葉を告げる。
『会場は我とセリシア、べディとで手分けして見て回ろう。
……伊織、我にもう一度、良き未来というものを見せられるように努力するのだの』
「さ、サティナさんのためじゃないですよー」
『だが、我のためだけというわけでもあるまい?』
そう言われては、ぐうの音も出ない。アムリアナと理子が再会することは、他の多くの者たちが望んでいるであろうことだから。
「じゃあ、行ってきますよー」
うむ、と頷くサティナとの通信を切り、伊織が会場の外へ向けて駆け出す。
(もし、もしも上手く見つかったとしても、多分アムリアナさまを説得しなくちゃだめなのです。理子さんと一緒に居ないのだから、何か理由があるんだと思うのです。
……それでも、一度会って話さなくっちゃ、色々先に進めないと思うのです。
だから、何度でも。一度でだめなら二度、二度でだめなら三度って、会いに行ってくれるって約束してくれるまで、僕はお願いしに行くのです)
多くの者たちの想いを背負って、伊織が空京の新幹線ホームへと向かう――。
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