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【ニルヴァーナへの道】鏖殺寺院の反撃!

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【ニルヴァーナへの道】鏖殺寺院の反撃!

リアクション


7,衝突
 


 ルートを外れてから、リース・バーロット(りーす・ばーろっと)の禁猟区は警報を鳴らし続けていた。それは彼女だけに留まらず、同じように周囲の危険を察知する担当の者全員が、何かしらの罠があると感じていた。
 その罠が、地雷なのかそれとも別の何かなのか確かめる余裕は無い。漆黒のパワードスーツの敵が、しかも情報と違って二人も確認され、それが背後から追撃している状況だ。
 迎え撃つのなら、相手が仕掛けたであろう罠から離れた方がいい。そうして移動している最中、先頭のトレーラーが急にブレーキを踏んだ。
「なんでしょう、彼らは?」
 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)はトレーラーから飛び降りて前方を確認すると、そこには大量の人の姿があった。
「……こんなところで、宴会なんて不自然ですわ」
 そこに居る人数は、五十人ぐらいだろうか。それが、集まって何かを食べたり飲んだりしている。漂うアルコール臭から、それが酒だというのがわかる。
 蛮族の集会か祭りにしては、あまりにも不自然だ。それに、空気も明るいというよりは暗い。お葬式のような空気の中、ほとんど会話もせずに食事だけが進んでいる。だが、敵の待ち伏せとも思えないのは、彼らそのものには危険性を全く感じない。武器のようなものも、見当たらない。
「迂回した方がいいでしょうか?」
 小次郎の言葉に、リースは首を振る。左右どちらにまわっても、危険が待っている。
「安全であるのは正面だけですわ」
「どいてもらうしかない、ということですね」
 よくよく観察してみると、食事をしているなかに顔にあざがあったり、たんこぶができている者がいる。何の集会なのか、ますますわからない。
「貴方達、そこで集会されていますと通行ができません。申し訳ありませんが、道を明けてもらえないでしょうか」
 小次郎が言うと、奥から一人、酒に酔っているのかふらついた足取りでこちらに向かってきた。
 羽皇 冴王(うおう・さおう)は小次郎の前までやってくると、値踏みをするような視線で頭の先からつま先まで見る。
「あ”? どいて欲しいとかお宅何様ヨ?」
「私達は―――」
「うっせぇなぁ。そういうのが聞きたいんじぇねーヨ。頼む態度がなってないんじゃねーの? どうしてもってンなら、出すモン出してくれよ」
 小次郎は視線をリースに送る。警戒はしているが、敵意は感じないといった様子だ。
 それもそうだろう。冴王は攻撃を加えるつもりなんて微塵もないし、彼に暴力で従わせられた多くの一般人も、戦うつもりなんて全く無い。むしろ、早く逃げ出したいとすら思っている。
「イコンとかな!」
 冴王が大声をあげた瞬間、一般人の誰かが命令された通りに「用途不明の」ボタンを押した。次の瞬間、あちこちから次々と爆発が起こる。危険を警戒していたトレーラーの真下での爆発は無かったが、爆風と共に煙幕も立ち上がり、周囲の視界を悪くする。
「危ないですわ」
 小次郎の手を掴んで、リースが後ろに飛びのく。その辺りから、砂鯱が飛び出した。間一髪、不意打ちを避ける。砂鯱は二人に向かうでなく、冴王を回収だけすると逃走を始めた。見れば、集められた一般人もわらわらと逃走を始めて場が大混乱に陥っている。
「うまくいったねぇ」
 砂鯱の背中に乗った牙王に、浴槽の公爵 クロケル(あくまでただの・くろける)が話しかける。
「とりあえずはな。ま、いくらなんでもあいつらをひき殺して突き進むなんてしないだろ。しても面白いけどな」
「そうしたら、その映像を公開するんだよねぇ。えげつないなあ、一般人っていってもこっちが捕まえた人たちなのにねぇ」
「善意の協力者様、だろ。ちゃんと、報酬の飯と酒はやってんだ。葬式みてぇな空気だったのはあれだったけどな」
「人間、最後の晩餐ってあんな風になるのかねぇ」
「さぁな、知るか。それに逃げられれば死ぬこたないだろ」
「ま、我は月から地球を眺めてみることができれば満足だよ。それじゃ、キミも頑張って逃げてねぇ」
 クロケルは召還によって呼び出されて、ひらひらと手を振ってその場から消えた。

 爆発は二種類あった。火薬による打撃目的の爆発と、周囲に煙を撒き散らして視界を奪うための爆発だ。空から見ていたエールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)アルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)は、それが巧みに配置されていることが理解できた。
「これだと、ここから攻撃するわけには……」
 煙幕が広がるほんの僅か前、地面から人間が飛び出していた。土の中にもぐっていたのではなく、何かで覆って身を潜めていたのだろう。上空から見ている限り違和感が無かった。
 煙幕の中には伏せていた敵がいる。さらに、味方も居る。そのうえ、煙幕の中から次々と人が飛び出して逃げている。あの飛び出している人間が一体何なのか。敵なのか、それともそうではない何かなにか、それすらも判断できない。
 その煙幕を突き破って、レッサーワイバーンが飛び出してきた。
「くらいやがれっ!」
 その背に乗った、モードレット・ロットドラゴン(もーどれっと・ろっとどらごん)が流体金属槍を突き出す。自在に変形するランスは、ぐんぐん伸びて二人の小型飛空艇オイレへと突き進む。
「回避!」
 ぎりぎりで回避できるところで、流体金属槍はさらにそこで向きを変えた。だが、伸びきってしまったからか、威力は低い。少しバランスを崩したところに、モードレットのレッサーワイバーンが突撃してくる。
「近づかせるかよ!」
 アルフがサンダークラップで迎撃。すんでのところで、モードレットは回避行動に切り替え直撃を防いだ。
「そのワイバーン、どこに隠していた?」
「どうでもいいだろ、そんなことはよ。それより、こちとら時間厳守なんだ。さっさと落ちてもらうぜ!」
 流体金属槍をサイコキネシスで投擲する。手を使って投げないため、不意に飛んできたように見えた。さらに、空中で形を変化させ、猛禽類の爪のようにして二人を襲う。
 爪の合間を縫うようにして攻撃を避けるが、その先で待っていたモードレットが煙幕ファンデーションによって二人の視界を一瞬奪った。直後、衝撃。
「まだ、耐えるか」
「げっほ、えっほ、なんか変なもん混ぜてるな」
「香辛料いりの煙幕のお味はどうだ? 中々いいもんだろ」
 旋回しながら、モードレッドは次の一手を考える。煙幕で視界を奪ったが、その身を蝕む妄執は回避されてしまった。入ったのは、ワイバーンの体当たりだけで、こちらが当たったのも飛空艇にで二人に打撃になったわけではない。
 不意打ちしとけば簡単に仕留められると思ったが、その考えは訂正する必要がありそうだ。
「くくく、ちょうど良い体慣らしだな」



「これじゃ、敵をまとめて吹き飛ばすなんてのは難しいわね」
 玉藻 前(たまもの・まえ)が小声で愚痴る。張られた煙幕は、外からでは中を見るのが難しいが、内側からだと案外そこまで視界を奪っていない。三メートル先程度なら相手の顔もしっかり見れる。敵もここに飛び込むつもりだから、完全に視界を奪ってしまえば彼らの行動も取りづらいのだろう。
 先ほど道を塞いでいた連中を含めて、敵味方のほとんどが煙幕の内側にいる状況では、範囲攻撃は誰に当たるかわからない。
「ただ、敵意の数は少ないわ」
 ディテクトエビルにおける敵意の察知は煙幕の中でも正常に作動している。相手の数は圧倒的に少ない。
 と、そこで二人が同時に反応する。
「敵、二人、こっちに来てる!」
「早いわ、注意して!」
 煙幕の中で、それを逆流させながら、二つの黒い影が飛び出してくる。
「漆黒のパワードスーツ、情報通り二体か!」
 樹月 刀真(きづき・とうま)がそのうち一体にへと向かう。彼に向かって剣を振るう。漆黒のパワードスーツは、それをレーザーブレードで受け止めた。
「下がって!」
 もう一体が、レーザーガトリングで狙っているのを見た漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が叫ぶ。刀真はその場から飛びのくと、彼が居た場所にレーザーが撒き散らされ、どこかから悲鳴のような声が聞こえた。仲間でないと思いたい。
 ガトリングがレーザーを乱射しながら向きを変える。刀真が避けながら間合いを詰めている間に、もう一体は一度背後に飛んで煙幕の中に身を潜めた。
「上よ!」
「任せて」
 前の声に月夜が応えて、刀真の上から襲撃してきた漆黒のパワードスーツを狙う。
「……! 避けて!」
 てっきり刀真を狙っていたと思ったその行動は、前を狙ってのものだった。レーザーガトリングがこちらに向けられている。月夜は前の手をとって、その場から退避する。煙に巻かれた二人をレーザーが追うが、すぐに見当違いの方向へと消えていった。
 地上に降りた漆黒のパワードスーツは、ガトリングを放棄すると刀真に向かってレーザーブレードで切りかかった。
「今度は、こっちの番だよ!」
 ガトリングを乱射しているパワードスーツの背後から、声と共にミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)が飛び出す。地面をすくうように足を狙って、梟雄剣ヴァルザドーンでなぎ払う。
「……おお!」
 ガトリングを撃ち続けたまま、漆黒のパワードスーツは腰のレーザーブレードを抜くと、それを片手で地面に突き立てて梟雄剣ヴァルザドーンを受け止めた。力押しでそのまま振り切ったため、ガトリングを落として吹き飛びはしたが、すぐにレーザーブレードを持って戻ってくる。
「まっくろなの結構軽いんだね」
 優男なんて呼ばれていたが、パワードスーツ姿で見てとれる体のラインは細い。中身が男性ではなく、女性のようにも思える。
 吹き飛んだだけでは効いてなかったのか、凄い速度で漆黒のパワードスーツは向かってきた。煙の中を漆黒のパワードスーツが駆ける。
「まっくろなのかっこいー!」
「ほう、この美的センスが理解できるとは、切り捨てるには惜しいですね」
 レーザーブレードと梟雄剣ヴァルザドーンの鍔迫り合い、正面からぶつかると結構重い。パワードスーツの出力がかなりのものなのだろう。だが、
「やぁぁぁぁっ!」
 押し合いなら、ミネルバの方が上だ。そのまま押して押して、もう一体と分断する。煙を利用した連携プレーを阻むためだ。もう一体は、刀真に任せる。
 任された刀真は、距離を取りたがる漆黒のパワードスーツに対して、そうさせないようにどんどん踏み込んで切り合いを続けていた。もう二十合も打ち合ったか、それでわかったことは、相手は反応は素早いが剣士としては一流ではないということだ。
 恐らくパワードスーツのおかげなのだろうが、反応速度と筋力が強化されているため、切り合いにおいては互角の戦いになっている。そのため、入るはずの一撃が受け止められ、避けられてしまう。傍から見れば互角のようにも映るだろうが、打ち合っている本人としては非常に気持ち悪い。
「だからこそ、付け入る隙がある」
 相手が着目しているのは、こちらの剣の動きだ。剣の動きだけ見ていれば対応できる、冗談じゃないが、だからこそ気づかれぬように持ったワイヤークローが最大の効果を発揮した。
「捕らえた!」
 ワイヤークローが、漆黒のパワードスーツの両手を縛り上げる。金剛力をもって、相手の引く力と互角。だが―――

「確かに、パワードスーツの故障対策が施されている可能性はある。しかし、その方法は一律ではない」
 なななが念写したパワードスーツの写真をポケットに戻すと、長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)桐生 円(きりゅう・まどか)オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)に視線を向きなおした。
 作戦開始前、二人は彼がパワードスーツに詳しいという事で意見を聞きに声をかけたのだ。作戦準備に長曽禰は姿を現したが、作戦には随行しはしないそうだ。
「例えば、外部にスイッチというもあるし、物理的に解除が可能な場合もある。音声認識という手もあるな」
「音声じゃ、壊れた時に使えないんじゃないの?」
「中枢と干渉しないシステムが別にあれば問題はない。パワードスーツが物理的に壊れる場合は、中はもっと悲惨なことになるからな。正直、気休めもいいところだろ」
「それなら、壊れたとはいかなくても、故障した時大変じゃないかな?」
「その通りだ。だから、間違いなく緊急時の手段は存在するが、それがどこにあるかまではさすがに断言できん。戦闘中に何かの拍子で起動されても困るからな、少なくとも目につくところには無いのは間違いないだろ。ざっとありそうな部分は、肩、腕、腰、ふくらはぎ、首の後ろ、その辺りか……すまんな、知ってる奴なら答えてもやれるんだが、こいつは見た事が無い。既存のものを改造したっていうのでもない、恐らく新型だろうな」
 長曽禰は悪いな、といって作戦の準備に戻っていった。
 技術には系統というものがある。同じ用途のものでも、作る会社や組織によって基本的な用途とは別に、例えるなら血統で現れる個体差のような、どこかで似通ってしまう部分が存在している。作り手の癖という表現が似合っているかもしれない。
 パワードスーツ第一人者でもある長曽禰がわからないと言うことは、視覚で確認しただけでは既存のパワードスーツのどの系統からも外れているという事だ。同じものを入手し、分析すれば話しは違ってくるだろうが、現段階ではそう判断するしかない。
 その為、円が考える強制解除の方法を見つけるには、総当りするしかない。どこにあるかわからない、その場所を戦闘中に探すしかない。
「捕らえた!」
 刀真の声と共に、円は背後から漆黒のパワードスーツに飛び掛った。気がつけば、煙幕はだいぶ薄くなっている。刀真が一時的に相手の自由を奪っているとはいえ、悠長に調べる余裕はない。せいぜい、六秒かそこらあるかないか、だがそれを十倍にする方法が円にはあった。
 アクセルギアを起動させる。体感時間が十倍に延びる。これで、制限時間は体感で一分、それでも無茶な方法だったが、性能のわからない―――否、まともにやり合うのは避けたい漆黒のパワードスーツを無力化するのに多少の無茶は必要だ。
 首の後ろ、無し。肩、無し。腕、ワイヤークローによって確認不可。次、
「何をこんなところで遊んでいるのだ!」
 声と共に、梟雄剣ヴァルザドーンが振り下ろされた。
 梟雄剣ヴァルザドーンは円と漆黒のパワードスーツの両方を両断しようと振るわれている。円は確認作業を中断し、その場から離れた。一度振り下ろされた巨大な剣は止まらない。だが、梟雄剣ヴァルザドーンは漆黒のパワードスーツを両断するような事はなく、その手に絡まったワイヤークローだけを両断した。剣の軌道が変わったのではなく、漆黒のパワードスーツがそれに合わせたのだ。
「申し訳ありませんね」
「おぬしらが遊んでいると、進む話も進まぬのだ。その玩具のお披露目で浮かれているのだろうが、目的を忘れるでない」
 三道 六黒(みどう・むくろ)が一瞥をくれると、漆黒のパワードスーツは頷いてその場から離れていく。
「ちょっと、僕は黒いおにーさんに用事があるんだけど」
「あいにく、あやつは急ぎの用がある。わしも、遊んでおる暇などないのだ。許せ!」
 六黒もまた、この場には留まらず離れようとする。それを、追おうと動き出す護衛の前に、突然帽子屋 尾瀬(ぼうしや・おせ)が現れた。
「悪魔使いが荒いわねぇ。私達ほど勤勉に働く悪魔っているかしら」
 召還で呼び出された尾瀬は、状況を自分の目で確認する前に光術で閃光を発した。目くらましだ。本人は、前もって用意していた遮光器で影響を受けない。
 光は長く続かず、ほんの一瞬周囲の護衛の足を止めたに過ぎない。だが、その一瞬のうちに荒野の棺桶を構える、機銃な内臓された棺桶から弾丸がばら撒かれる。
 銃弾を盾にするようにして、尾瀬は下がっていくと弾切れになったところで見切りをつけ、
「それではみなさん、お次はお茶会で」
 芝居がかった動作で頭を下げると、掻き消えるようにして尾瀬は姿をくらました。