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【ニルヴァーナへの道】鏖殺寺院の反撃!

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【ニルヴァーナへの道】鏖殺寺院の反撃!

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2,作戦準備2



 ―――にゃー、早く終わらないかなぁ……
 物陰に隠れながら、鬼一法眼著 六韜(きいちほうげんちょ・りくとう)はぼうっとしていた。その耳には、銃声とか、ぐわっとかいう悲鳴とか、そんな物騒なものが聞こえてきていた。
「終わったよ」
 しばらく待っていると、九條 静佳(くじょう・しずか)の落ち着いた声が届く。拳銃を持った相手に立ち向かっていったとは思えない余裕がある。あと、息を切らした様子もない。
「やっと終わったのですかー」
 のそのそと物陰から出る。静佳と共に、サーシャ・ブランカ(さーしゃ・ぶらんか)の姿もある。二人の前には、人の形をしたゴミが転がっていた。数は一つ二つ、全部で五個あった。
「鉄砲持ってるだけで、勝てると思ってるような相手なら楽勝だよね」
「喧嘩をふっかける相手を間違えたのですよー」
「一人隠れててそれを言うかな。まぁいいけど」
 ということは、サーシャは隠れていなかったのか。
「それよりも、彼らは一体何なのかな?」
 全員伸びきってしまっているが、死人は一人として出していない。そのうち、なんとなく会話ができそうな顔の奴を引っ張り出して、叩き起こした。
「ちょ、命だけは、命だけはお助けくだされ」
「人に発砲してから言う台詞じゃないよね」
「何が目的だったのかな?」
 パラ実に連絡網なんてないため、情報が全て行き届くことはありえない。近く行われる輸送が囮であるというのを知るのは、パラ実内ではごく一部だ。もちろん、あれは囮ですなんて広めたらそれはそれで問題なのだが、小勢力が犠牲にならないように情報を持っている側の人間はそれなりに対応する必要がある。
 というわけで、情報を持っている側の三人は真実と嘘を七対三程度混ぜ込んで、あちこちで情報を広めるために噂を流してまわっていた。どうももっと直接的に動いている人もいるようだ。いい傾向、なのだろうか。
 そんな三人に襲い掛かってきたのが、この五人組である。親に買ってもらったばかりの玩具を自慢するように、真新しい拳銃を持って襲い掛かってきた。結果は、わざわざ説明する必要もないだろう、そもそも相手にもならなかった。
「てめぇら、国軍のスパイなんだろ? だからだよ」
「は?」「へ?」「はい?」
「なんだ、とぼけんのか!」
「いや、ちょっと待って欲しい」
 うーん、と静佳は額を抑えながらそいつに背中を向けて、サーシャと六韜の肩に手を回すとひそひそと相談をはじめた。
「どう思う?」
「冗談にしては、笑えないよね」
「……もしかして、あの人荒野の人間じゃないんじゃないですかー?」
 こと荒野において、三人の顔を知る程度の相手が「国軍のスパイ」だなんて表現するとは思えない。
「恐らく来たばかりの人か、もしくは」
「あの襲撃犯の仲間ってわけだね」
「確かに、事情に詳しければ私達が情報操作しているようにも見えるってわけか」
「しかし、あの頭の足りない様子を見る限り、使いっパシリなのですよー。どうせろくな事は知らないのです」
「だろうね」
「おい! なにこそこそ話ししてんだよ! やっぱりそうなんだな!」
「ああ、もう、うるさいのですよー。命をお助けしてほしいのなら、それなりの態度というものがあるのです」
 別に殺すつもりなんかは無いが、脅しておいたら静かになった。
「このさい、君の面白発言は聞かなかった事にするとして、いくつかの質問に素直に答えてもらおうかな。態度しだいではわかるよね?」
 凄い勢いで頷いたので、よし、と言ってさっそく彼らの組織について聞いてみた。
「い、いや、俺も最近声かけられたばかりだからよ。詳しくはその、知らねぇんだ」
「ほら、やっぱり使い物にならないのですよー」
「ちょ、待て待て、きっと俺だって何か情報を持ってるって、捨てるのには早いって! 今思い出すから……ああ、そうだ、たぶんだがかなりの金持ちだぜ」
「金持ち?」
「ああ、俺たちにもタダで武器をわけてくれたんだ。もっと欲しけりゃ用意するとも言ってた。でもよ、タダでもらうのわりぃって思ったから手土産になりそうなもんを探してて」
「手土産ねぇ……」
「いや、その、ほんとすいませんでした」
「金持ちかどうかなんて興味ないのですよー」
「あと……えっと……そ、そうだ。どうも、国軍に個人的にうらみがある奴を集めてるって言ってたな。知ってたら教えてくれとも言ってたぜ」
 国軍、すなわち教導団に対してうらみを持っている人物。追放先として利用されている荒野であれば、それなりの数はいるだろう。
「結構いそうだよね、うらみ持ってる人」
「そうだね。でもやっぱり、興味無い人の方が多いだろうけど……どう思う?」
「んー、とりあえず私達の行動は成果がでてると判断していいのではないですか。普段なら勝手に囮や戦力になってくれる人が足りないので、自費で兵隊を揃えなければいけない状況になっているのです。そのうえ、こういう頭の足りない子が情報を零してしまっていますし」
「人づてで探してるみたいだいしね。教導団を倒す人募集中、なんて張り紙は見たことないし」
「そうだね。それじゃ、僕たちはこのまま噂を広げる作業を続ければいいのかな」
「効果が出ているのなら、中止にする理由はないのですよー。ついでに、うらみを持っている人についての話しも聞いてまわってみるのがいいのですー」
「また賑やかなことにならなければいいんだけどね」



 荒野の人間の美的センスというものは、よくわからないとルメンザ・パークレス(るめんざ・ぱーくれす)は目の前のトラックを見ながら呆れていた。
 このトラックは、ルメンザが提供したもので、それなりにカスタムされたものだ。具体的には、フロントガラスなどの部分に防弾ガラスを配置し、また後部の荷物を乗せるためのハコも弾丸を防げるものになっている。
 ただ、そのままでは小奇麗というか、普通のトラックのため荒野らしく見た目を装飾された結果、見事なデコトラへと変貌していた。取り付けられた電飾は、エンジンをかけるとてかてかと光るし、よくわからないでっぱりやら絵やらが描かれて、元の姿をすぐに思い出すのが難しい。
「こんなところに居たんですか」
「おお、赤髪の旦那」
 赤い髪の優男が、笑みを浮かべながらルメンザのもとにやってきた。
「随分とそれらしくなりましたね」
「別に使い捨てるつもりなのじゃから、もっと手を抜けばよいと思うがのう」
「これで士気があがるのでしたら、もっとやってもいいぐらいですよ」
 鏖殺寺院の残党と称される組織を束ねているのが、この赤髪の優男だ。名前は知らない、というか敢えて聞いていない。追われる立場の身である彼に対する、ルメンザなりの気遣いだ。何て呼べばいいか聞いたら、「お好きにどうぞ」と言われたので見た目からそう呼んでいる。ルメンザがそう呼んでいたら、いつの間にかその呼び名が広まって赤髪の旦那ないし、赤髪の、なんて呼ばれている。
「今回の協力、感謝していますよ」
「なに、これは投資じゃ。ゆくゆくは返してもらうつもりじゃから、気にせんでええ」
 大荒野には多くの有象無象がいて、それらは必ずしも規範が取れているとは言えない。だから、放っておいても輸送隊は襲撃されるだろう。最初、赤髪の旦那はそう考えていた。だが、少し困ったことになった。というのも、いくつかの名が通る人間が、有象無象に警告をしているというものだ。
 法によって統治されてない以上、有力者というのは実利や権力で守られたものではなく、特殊な才能、カリスマを持ったものが該当する。おばかさんの多いこの地では、カリスマの風の威力は大きいらしく、思った以上に各勢力が大人しくすることを表明したり暗に決断したりしている。
「足りない戦力を質で補う……言うのは簡単ですが、質なんてものはかき集められるものではないですからね」
「道具は自分が、人集めはお主がやってひとまず形にはなったのう」
「しかし、私を嗅ぎ回る人もいるようで、これ以上の増員は難しいでしょうね」
 人は利によって動くが、それ以上に感情に寄って動く。赤髪の旦那としては不本意だったろうが、教導団に対して悪意を持つ人間を選んで集めることになった。色々な方法で勧誘をしてまわって、かき集めたのは四十人と少し。素直な評価として、これを戦力にしてぶつけたところで、勝ち目は無いだろう。しかし、本人の言う通り行動し辛くなった以上、増員は望めない。
 よって、穴埋めを行ったのがルメンザだ。その穴埋めというのが、武器の提供である。
 協力を表明する証として、目の前のトラックだけでなく、銃などの火器を提供している。これで、足りない数を補うわけだ。さらに、これにはもう一つ効果がある。
 恐らく輸送する部隊も、荒野の蛮族による襲撃を予想しているはずだ。しないわけがない。当然、それは彼らがよく知る蛮族であって、銃火器で武装した集団であるとは想定していないはずだ。
「主力とも言える武装した囮集団。コレは厄介じゃのう」
「少なくとも、虚をつけるのは間違いないでしょうね。しかし、所詮は旧式です。あちらがイコンを起動させれば、ものの数にもならないはず、まさに、鎧袖一触といった具合に」
「兵器の進化は恐ろしいもんじゃのう」
「ええ、そしてその最先端に居るのが我々です。今後も仲良くしていただけるのであれば、互いにとってよい協力ができるでしょう」
 赤髪の旦那は、そこでふとコートのポケットに手をいれて通信機を取り出した。
「善意の協力者が多いのは、喜ばしい限りですね。では」
 そう言うと、足早にその場から離れていく。
「善意とは、よく言ったもんじゃな」
 聞こえないぐらい離れてから、ルメンザはそう呟いた。

「我々の姿を撮影した者に、賞金を出すと?」
「ああ、今回の作戦の本意はあんたらの尻尾を掴むことだ。前にも言ったが、プラヴァーは餌でしかないし、輸送する意味もそこまで無い。手を出さないって選択肢もまだあると思うけどな」
 カルロス・レイジ(かるろす・れいじ)は通信相手の顔を想像しながら、少し早口で告げる。周囲の安全は確保してあるが、見つかったら面倒なのは間違いない。
「手を出さずに、我々にどうしろと?」
「それを決めるのはあんたらだろう」
「ならば、その餌に食いつきにいきますよ。据え膳食わねば、という言葉もありますし、毒を食らうならば皿までも言います。何より、我々のための用意していただいた舞台で、主役が段上に上らないというのは興がそがれますでしょう」
「自信があるのはいいことだが、ここで全滅なんて馬鹿げた結果になったら、危険を冒してる俺の苦労が報われないんだが」
「もしそうなれば、あなたが下手な博打を打ったということですよ。博打に勝ちたいのであれば、入念な研究と予想は必要ですからね。運に任せた勝負に、命は預けられませんでしょう?」
「全くだ。で、勝算はあるのか?」
「さて、どうでしょう。むしろ、こちらから聞きたいところです。そちらに付け入るような隙はありますか?」
 電話の相手は、余計な事をすぐには口にしないようだ。貴重な情報をただで零してくれるのはありがたいが、そんな無用心な相手とはビジネスの会話などできない。
「隙か……当日は、他の学校からも応援がくるからな。誰か紛れ込ませるのはできるんじゃないか?」
「潜入ですか、今から駒を用意するのは難しいですね」
「どうも内通とか裏切りとかには用心してる空気があるからな、完璧なもん用意できないなら足がつくかもしれないか」
「そうですね。しかし、よくそんな空気の中で連絡が取れるものですね」
「そこらの雑魚と一緒にしないでくれ。俺は、そういうのは得意分野だ」
「あまり誇れる特技ではありませんね」
「かもな。さて、そろそろ自分の仕事に戻る。連絡する時はこちらからする。頼られるのは嫌いじゃないが、わかるだろ?」
「もちろん。お互いいい関係を築いていきましょう。では、また」
「ああ、またな」