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【ニルヴァーナへの道】鏖殺寺院の反撃!

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【ニルヴァーナへの道】鏖殺寺院の反撃!

リアクション


9,起動



「六連ミサイルポッドのうち、二発が防御姿勢を取られた状態で当たって無傷か」
 コハクらと入れ替わる形で、一番厄介そうなパワードスーツを引き受けた武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)らの戦闘に参加せず、武神 雅(たけがみ・みやび)は相手のスーツの性能分析を進めていた。
 とりあえず、硬くて早い。という冗談はともかく、今まで当たった攻撃とその結果を分析する限り、装甲は想像を絶するものがある。イコンの装甲並みか、もしくはそれ以上ぐらいはありそうだ。
 そしてイコンなどよりもずっと小型であるため、速度もある。中身の技量も相当なものであるため、全て装甲に頼っているというわけではないだろう。力を逸らしたり、攻撃を受ける時の体勢などで威力を殺している部分もあるはずだ。
「人並みサイズのイコンと戦っているようなものだな……不甲斐ない、もっと本気を引き出せというのだ!」
 そう、漆黒のパワードスーツは攻撃を受ける時には全て万全の体制を用意している。不意打ちや直撃は、今のところ一つも無い。性能に技量が上乗せされている状態なのだ。
 プロは道具を選ばないという。例え性能が多少劣るものでも、熟知した者が用いればその数値以上のものを引き出すことは可能なのだ。よって、正確なものの数値を演算するには、相手の技量が反映されにくい形での打撃を加える必要がある。

「わかってるっての!」
 牙竜は、いや、今はケンリュウガーと呼ぶべきであろうか。彼は漆黒のパワードスーツが未だ本気を出していないのを感覚としてわかっていた。
 レーザーバルカンや、レーザーソードを用いて攻撃を仕掛けてくるものの、それに殺意のようなものが感じられない。むしろ、いつしかの記憶にあるような子供同士のちゃんばらごっこのような、遊びに似た気配がある。
「こういう手合いは、やりづらいですね」
 龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)が言うように、必死さの無い相手というのは行動を読むのに苦労する。
 来るだろうと思った踏み込みが半歩浅かったり、なんでそこでそこまで踏み込むのか理解できなかったり、無闇に今までの戦闘の経験を蹂躙してくるのだ。その程度で混乱するような事はないが、肩透かしを何度もさせられてしまうと中々ペースをつかめない。
「……けど、ま。だいぶわかってきた」
 結局のところ、遊びなのだ。漆黒のパワードスーツはこの場を、命のやり取りをする場所とは感じていない。スーツの性能か、もしくは本人の技量によるものかまでは判別できないが、圧倒的な余裕と自信を持っている。
 余裕と油断の差は、結果だ。最後まで奴が立っていればそれは余裕で、そうでなかったらはそれが油断だったという話しになる。今やるべきことは、その余裕を油断に塗り替えることだ。
「いくぜぇ!」
 漆黒のパワードスーツは、先ほど戦っていたコハクらの戦闘から継続して、本当に重い一撃は決して受けようとしない。避けるか、受け流す。逆に、問題無いと判断したら受ける事に決して躊躇しない。
 まるで、スーツの素晴らしさを見せびらかしているかのようだ。それもまた余裕なのだろうが、まずはそこから切り込む。
 レプリカ・ビックディッパーを全力で振り下ろす。
 見るからに危険な一撃に、漆黒のパワードスーツが見せた反応はレーザーブレードで受け流すというものだ。
「今です!」
 そこで、ケンリュウガーは手を離した。メンタルアサルトによる予想外の動きに、漆黒のパワードスーツは反応しきれていない。かかった。
「マスター! 下がってください!」
 重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)の声と、神の目による強烈な閃光はほぼ同時だった。
 間一髪、アクセルギアで引き伸ばされた感覚によって、ケンリュウガーは難を逃れた。
 リュウライザーが戦闘邪魔した相手、漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)を纏った中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)に向かって巨獣狩りライフルを向けるが、それよりも早く大魔弾『コキュートス』が飛来し、退避を余儀なくされる。
「どこに誰がいるかは秘密と言ったはずなのですがね」
「そのようなもの、見ていればわかりますもの。それより、やっとお寝坊さんが目を覚ましましたわ。遊びながら待っていたのでしょう?」
 お寝坊さんと呼ばれたプラヴァーは、ロープを引きちぎり今まさに立ち上がろうとしているところだった。今この場にある三体全て、活動しはじめたところだ。
「おっと、ついつい楽しくて周囲を見ていませんでした。楽しい時というものは時間が過ぎるのが早いものです」
「私としましては、これから楽しくしていただかないと、せっかくこうしてここまでやってきた意味がありませんもの」
「あなたの期待に応えるのは骨が折れそうですが、少なくとも本日に限って言うのでしたら、無様なところはお見せしないで済みそうですね」
「では、期待させてもらいましょう」
 綾瀬はもう一発の大魔弾『コキュートス』を近くに放つ。広い範囲にその影響が出ている中、反動が終わるのをまってそこから退避した。それに合わせて、漆黒のパワードスーツもその場から離れ、真っ直ぐにプラヴァーへと向かっていく。
 綾瀬は戦場から離れるつもりのようだ。
「マスター」
「わかってる、追うのはスーツの方だ!」



「プラヴァーにとりつくなというのは、どういう意味だ? よそ者は信用できないというのならそう言えばいいだろう」
 三道 六黒が赤髪の旦那に詰め寄っていく。胸倉を掴んで捻りあげそうな雰囲気に、久我内 椋(くがうち・りょう)は慌てて間に入った。
「まぁまぁ、落ち着きましょう。とにかく理由を聞いてから判断しても遅くはありませんし、もちおん理由をお話し頂けますよね?」
「ええもちろん」
 六黒の剣幕に怯んだ様子なく、満面の笑みで赤髪の旦那は頷いた。荒事が得意そうに見えるタイプではないが、度胸は据わっているらしい。
「今回のプラヴァー輸送は、私達を誘き出すための囮であるというのは認識してますよね?」
「当然だろう。だからこそ、奴らの鼻を明かすことができる」
「そう、そしてここからが重要なのですが、彼らは別に動かせるプラヴァーを輸送する必要は無いのです。あくまで、輸送するということに意味があるのですから、輸送先での運用は―――しないとは言いませんが、急ぎで行うものではないはずです」
「つまり、動かないイコンを輸送する可能性があるという事ですか」
 両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)の言葉に、ええ、と頷く。
「その通りです。動かせなくするか、もしくは壊れたプラヴァーの外装だけを整えたものなんて可能性もあります。自走できないプラヴァーを運ぶには大変な作業ですし、それが片手間の修理で稼動できるようになるかも不明です」
 簡単な整備と調整ぐらいならば、知識を持っている人間さえあれば可能だが、完全に動かないイコンを稼動できるように直すには、それなりの設備が必要になる。
 この隠れ家として利用されているバラックにはそんな設備はない。まだ教えてもらってない場所に施設があるとしても、そこまで運ぶ手段が問題になる。
「それが取り付かない理由になるとは思えんがな。動かないなら、そう確認した時点で破棄すればよいではないか」
「それには、危険が伴います。動かない寝ているだけのイコンをただ運ぶなんて愚作を取ってくるとは思えません」
「何かトラップを仕掛けてくる可能性はありますね」
「君子危うきときに近寄らず、とも申します。恐らく最も危険なのは、その動作確認の時でしょう。故に、その作業は運んできた彼らに行ってもらいます」
「イコンが稼動するまで待つおつもりですか」
「その通り」
「しかし、それではむしろ危険な状況になりませんか? こちらはイコンを運用せずに襲撃を行う予定です。イコンに対抗する手段がありませんよ」
「確かに、イコンを破壊するのでしたら火力は足りませんね。ですが、情報提供者からの話しによれば、コックピットのハッチは衝撃には強く設計されていますが、引っ張る力に対してはそこまで強くないとのこと。そこに取り付ければ、イコンの相手などせずともパイロットを引きずり出せます」
「それこそ、無謀な話しに聞こえるのですが」
「ごもっとも。ですので、イコンに取り付く作業は我々に任せて頂ければと、そう提案しているのです。それと、そうですね、これも頭に入れておいて欲しいのですが、確かに我々はイコンを欲しています。しかし、今回の件に関しては絶対の目標ではありません」
「どういうことですか?」
「言葉通りの意味ですよ。国軍が我々を誘き出すための囮の任務を行い、それに我々が襲撃をかける。それにまず意味があるのです―――は、国軍が正面きって戦わなければならない強大な存在である。そういう宣伝をしてもらいたいのですよ。イコンも必要ですが、それよりも今は人が多く必要です。戦闘員だけでなく、技術者や資金提供者、そういった協力者をより多く集めなければなりません。ですので、イコンの入手の有無よりも、できるだけ無様な姿を晒さず、スマートに行動をして頂くことが第一です」
「そうして力を蓄えて、かつての鏖殺寺院になろうと?」
「そうだとしても、それはずっと先の話になるでしょう。今はすべき事のために、必要なものを集める段階ですよ。それができなくては、それから先などはありませんからね」



 罠を張って、敵が網にかかるのを待つ。
 まるで悪役の戦法のような作戦に、永倉 八重(ながくら・やえ)はちょっと引っかかるものがあった。とは言っても、これは教導団の戦いだ。彼らには、彼らの戦い方というものがある。
「悪の組織を倒したい気持ちは一緒! 協力して寺院の野望を阻止しないと!」
 そう張り切って護衛に参加し、かくして敵は罠に飛び込んできた。
 敵も敵なりに策を用意し、混戦を作り出して寡兵でありながら押しているのが現状だ。既に戦闘に参加して動き回っている彼女には、全体を見通す余裕はないが、プラヴァーが起動したという事はそういう事なのだろう。
 それと同時に、敵にも動きがあった。少数ながらなんとか戦線を維持していた、パンクな集団がにわかに下がり始めたのだ。
「怖がってる? 生身でイコンの相手なんてできないって思うのは普通よね」
 世の中には、生身でイコンと戦って勝つ化け物も存在するらしい。が、それは極々一部の超人の話であって、普通はまず無理だ。稼動したイコンの威圧感というのは、敵対する者にとっては恐ろしいもので間違いない。
「八重、気をつけろ。そちらに一体向かってるぞ」
 上空で戦場を見回すことができるブラック ゴースト(ぶらっく・ごーすと)から連絡が入る。この場で、一体なんて数え方をする相手は四つしかない。漆黒のパワードスーツだ。
「一人だけ?」
「ああ、一人だ。真っ直ぐ向かっている。起動したイコンに取り付くつもりだ」
「今さら? できるんだったら、最初からそうしてるんじゃないの」
「知らん。だが、他の奴らもイコンが起動した途端に、別れてイコンに向かっているんだ。何か待ってたのかもな」
「何か、ね。わかった、とにかくプラヴァーには近づけないように頑張るから」
「あまり無理をするな。間違いなく強いぞ」
 八重も自分の目で、こちらに向かってくる漆黒のパワードスーツを確認した。
 その時、それとは違う黒い影が彼女に忍び寄っていたことに、まだ彼女は気付いてはいなかった。

「―――――ッ!!」
 突如、試作型改造機晶姫 ルレーブ(しさくがたかいぞうきしょうき・るれーぶ)は人の声とは全く違うコエをあげた。
 ただ黙々と、作戦にそって行動していたルレーブが、初めて発した声でもあった。
 見た目からして重量のあるルレーブはこの作戦中、ここまで多くの被弾をしている。このコエを聞いて、目を向けた人は敵も味方も問わず、何かまずい事態になったのではないかと思うだろう。
 そう、シャルロット・ルレーブ(しゃるろっと・るれーぶ)が想定した通りに。
 狂ったルレーブはそのまま、一番近くの動くものに向かって直進した。そこに居たのは、蛮族の兵だった。近くに居たからという理由だけで、それをなぎ倒す。
 その一人がどいた空間の向こうに居た。
 永倉 八重だ。その視線はこちらにではなく、別のもの―――漆黒のパワードスーツに向けられている。コエが聞こえなかったのだろうか、せっかく用意してきたのに、それはとても都合がいい。
 全速で、向かう。どのタイミングでこちらに気付くだろうか。気付いたとしても、漆黒のパワードスーツと二対一の形になる。勝算あり、だ。不満点があるとするならば、この場に三道六黒の姿が見えないことか。色々と想定と状況が違っているが、どちらにせよ結末は変わらない。
(さよなら、永倉八重)
「何をしている!」
 狙った獲物との間に、マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)が飛び込んできた。
「え?」
 ヒーターシールドで攻撃を受け止めた音に八重が気付いてこちらを見る。
 想定外の乱入者に、ルレーブは気分を害されたが、今の自分は暴走しているのだ。この状況で、再度八重のみに狙いを絞るのはどう見ても不自然だ。そのまま、邪魔なマーゼンに攻撃を仕掛ける。
「怪しい動きをしている者がいないかと目を光らせていれば!」
 彼はこういう事態に備えていたようだ。おかげで、せっかくのチャンスがぱぁだ。
 だが、このぶつかり合いでマーゼンの後ろ、待ち構えていた八重に一瞬の隙をつくり、その隙のうちに漆黒のパワードスーツはここを無傷で突破していった。
 プラスマイナスで言えば、マイナス1というところか。まぁ、悪くは無い。
 あとは適当なところで見切りをつけるだけ、でもその前に邪魔をしてくれたマーゼンにはしっかりとお礼をしなければならない。