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【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

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【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

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第十章 アルカンシェル防衛・3

 月軌道での作戦は2つ。
 最優先される1つが、月面基地作戦に参加する契約者達の乗る円盤を、月面に到着させること。
 そしてもう1つが、作戦終了まで、本拠点であるアルカンシェルを護り抜くことである。
 まだ、戦闘は終わっていなかった。



「ズィギルは、本拠地待機か……」
 センチネルでアルカンシェル防衛に就きながら、酒杜 陽一(さかもり・よういち)の口調に、無念の思いが滲む。
 彼が以前、高根沢 理子(たかねざわ・りこ)にした仕打ちを、彼は忘れることができなかった。
 できればお返しに一矢報いたいと思っていたのだが。
「陽一。解っておろうが、己の激情に流されてはならぬぞ」
 パートナーの魔女、フリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)が釘を刺す。
「戦場で己を律することが出来ねば、生き残れはせぬぞ」
「解ってるよ」
 生身でなら、鉄の強さを誇る陽一も、イコンでの戦闘は素人同然なのだ。
 ここでアンサラーに向かって行っても、到達すら出来ずに敵機晶姫の的になってしまうだろう。
「農作業に使うのがせいぜい、の機体だしな。
 分を弁えて、援護射撃に徹することにする」
 それでも、500機という敵の数を前にして、重要な戦力なのだと自覚している。
 現場に出てこれず、今も自分たちを心配しているに違いない、理子やアイシャ女王の為にも、今自分が出来ることを頑張らなくては。
 イコン操縦の経験が無くても、今迄の経験で補えることはある。
 陽一は感覚を研ぎ澄ませて、敵機晶姫を迎撃して行く。



 一方、その情報を歓迎した者もいた。
 関谷 未憂(せきや・みゆう)、の、パートナーの魔女、リン・リーファ(りん・りーふぁ)である。
「グッドタイミング!」
 リンはカリプテ・ヘレナの副操縦席で叫んだ。
「な、何が?」
 嫌な予感を感じつつ、訊ねた未憂に、にこりと笑い掛ける。
 そして
「! ちょ、ちょっとっ! きゃーっ!」
 操縦席を乗っ取った。
「ちょうど、弾切れしたところだったので!」
「リンーっ!」
 アルカンシェル防衛の位置についていた未憂機を、一気に敵戦艦に向かわせる。

「ズィギル・ブラトリズさんいますか――っ!」
「ちょっとちょっとーっ!
 プリム何とかしてぇーっ!!」
 思わず携帯にかじりつき、アルカンシェル内に待機しているパートナーの精霊、プリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)に助けを求めてしまう。
「みゆう?」
「だからリンが特攻かけてんだってばアンサラーにッ! 止めてー!」
 無理なことを言う。
 明らかに解っていない口調で、プリムは言った。
「……がんばって」
「うわーん! リンってば、懲りてない、懲りてないーっ!」
 そんな未憂の叫びを、BGM程度にしか聞いていないリンは、
「ズィギルさん、たのもーっ!」
と叫びながらアンサラーに突撃して行く。

「元気な娘がいるようだね」
 そんな姿を、アンサラーの艦橋で、ズィギルは面白そうに見た。
「さっきの男と、反応が違うのう」
 ルメンザ・パークレスの言葉に、
「そうかい?」
と笑う。
「まあ、あんな子を、どんな風に苛めたらどんな顔をするかな、と、想像するのは、楽しいね」
 くすくすと笑うズィギルに、ルメンザは肩を竦めた。

 辛酸を舐めることになった事件の黒幕がいると聞いたら、リンは、黙ってはいられなかったのだ。
 知りたいことが色々あった。
 実際のところ、彼は何者なのだろう?
 光条兵器を使っていたという。
 5千年も前から今も尚、アレナに執着するのは何故なのだろう。
 それら全てが一気に表に出て、この行動となったのだった。


 実際のところ、そんなリン達は、味方達の役に立ってもいた。
 オープン回線で叫びながら一直線に飛んで来るイコンは、実際とても目立ったからだ。

 肝心の未憂機は、これだけ目立てば当然、敵に阻まれ、目的ポイントまで到達することは、遂にできなかったが、密かにアンサラーを狙って接近していた味方のイコンは、未憂機がアンサラー周りの敵の目を引き付けてくれたお陰で、比較的容易に近付くことができていた。



 青葉 旭(あおば・あきら)とパートナーのゆる族、山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)の乗るクェイルの操縦席に、1枚の写真が貼ってある。

「斯波中佐の写真があったら、1枚貰えませんか?」
 作戦前、長曽禰少佐に頼んだ時、彼は少し驚いたような顔をしていたが、
「解った。探しておこう」
と言って、この出発前に渡してくれたのだった。
「斯波が下の奴に慕われるなんて、珍しいな」
 写真を渡された時に、そう言われた。
 彼女に対して、敬意を抱いている。
 ナラカ侵攻作戦の任務の最中に死亡した斯波中佐が、せめてこういう形ででも、一連のこの作戦にも、参加できればと。

 アンサラー狙いのイコンが多くいたことで、敵の狙いが分散され、旭は、思っていたよりも比較的スムーズに、アンサラーの外壁に貼り付くことができた。
「この辺か……?」
 戦艦の構造は、大体、どれも似たようなものだろう。
 勿論細部に違いはあるだろうが、それも何パターンかにまとめることができるだろう。
「よし、ここに決めた。やるぜっ!」
 外壁から、直接内部にソニックブラスターで音波攻撃を仕掛ける。
 通信機器やコンピューター、機関部などに影響を与えられるだろうと思うが、通信機器やコンピューターなどは、流石に場所が特定できなかった。
 しかし、機関部ならば。
 計器を確認していたにゃん子が、旭を見た。
「旭くん、敵!」
 にゃん子の声に、旭ははっとして威嚇のハンドガンを撃つ。
「やばいっ、オレじゃ無理だっ!」
 機晶姫ではなくイコンだ。しかもクルキアータである。
 戦うだけ無駄だと、急いでその場を退避した。


「推進部に異常」
 艦橋で、オペレーターの報告の声が上がった。
「何?」
「……いえ、正常に復帰。問題ありません」
「C−1機より、艦の下部に敵イコンを確認、撃退済です」
「なるほど、小細工をされているか」
 オペレーター達の報告に、ズィギルは頷く。
「あれも、そうかな」
「C−1機を向かわせます!」
 三機の編隊が向かって来る。
 そしてその後ろから、更にもう一機。



 数が多すぎる、と、瓜生 コウ(うりゅう・こう)は思った。
「ちんたら戦ってても消耗戦だ。頭を叩くしかねえ」
「ええ、そうね」
 パートナーのハーフフェアリー、マリザ・システルース(まりざ・しすてるーす)も頷く。
 即ち、敵旗艦、アンサラーを狙うしか。
「敵の大将はズィギルか……。
 アレナとは、全く知らない仲でもないしな。できれば一矢報いてやりてえが……」
「引きずり出してあげましょう」
 マリザの言葉に、そうだな、とコウは笑みを浮かべた。

「ボルボーよ、モルモーよ、魔女王ヘカテーよ、数多の貌持つ月の女神よ、加護を垂れ給え!」
 出撃前に祈祷を捧げ、ダーク・ヤングに乗って出る。
 とにかく敵艦に到着できれば。
 それまでは、武器は使い捨てだ。
 扱いが難しい高初速滑腔砲も、大気のないこの世界でなら弾道のブレも少ないだろう、と根拠の無い判断をして、マジックカノンのチャージまでの時間を稼ぐ。
 予想通り、当座の敵は、圧倒的な数を誇る、武装機晶姫だ。
「マジックカノン、チャージ完了」
「こっちも終わりだ、パージする!」
 高初速滑腔砲を捨て、マジックカノンでの攻撃にシフトする。
 マジックカノンが弾切れになった頃に、戦艦アンサラーに到着した。
「クルキアータは向こうに行ってくれたか。悪いが助かった」
 敵機が目標とした味方機を見て、彼等なら大丈夫だろう、と判断する。
「代わるわ!」
 デスサイズに持ち換えると同時に、攻撃をマリザの担当に渡す。
 狙いは、今もアルカンシェルに砲撃を続けている、砲台だ。
 対空砲火をかい潜りながらも、コウ機は砲台に近接する。
 巨大な鎌で、刈り取るように横に払い、砲台を破壊した。



 一方、三機編成でアンサラーに攻め込んだのは、綺雲 菜織(あやくも・なおり)有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)不知火・弐型源 鉄心(みなもと・てっしん)ティー・ティー(てぃー・てぃー)サルーキ久我 浩一(くが・こういち)希龍 千里(きりゅう・ちさと)マインドシーカーである。


「……操縦席が、まだカレー臭い……」
 鉄心は、出撃前から、もう一人のパートナー、イコナのいたずらに顔をしかめていた。
 最も本人は、イコンを整備していたと言って憚らなかったのだが。
 どうやったら整備とカレーが繋がるんだと問い詰めたら、
「一生懸命お掃除しましたのに!」
と泣き出した。
「いつか、三人乗りのイコンができるといいですね」
 ティーが苦笑しながら言った。
 そうすれば、きっとあの子も寂しい思いをしないで済むだろう。
 それを言ったら、魔道書本体を持ち込んで置いておけばいいのかもしれないが、それはイコナにとって、置いていかれることと大差ないのかもしれない。
「……うるさくなるだけだと思うが」
 憮然として言った鉄心に、ティーはくすりと笑った。

 接近する三機には、すかさずクルキアータが一機、前に出て来た。
「イコンか。ティー、頼む」
「はいっ」
 操縦をティーに任せ、鉄心はサポートに回る。


「データ、送りながら行くんでよろしくお願いしますっ!」
 美幸からの通信に了解と伝える。
 味方からの情報を纏めてアルカンシェルに送るのが、浩一の担当だ。
「アルカンシェル、こちらの情報送って行きますので解析お願いします」
「対空砲火来ます!」
 千里が、クルキアータを援護する、機晶姫達の迎撃を躱す。
 そして、アルカンシェルを攻撃する砲台が一基、自分達の方を向くのに気付いた。
「砲台がまだ、何基か残っています。
 こちらは、隙をついて砲台を叩きますので、イコンを頼んでもいいですか」
「いいですとも!」
 浩一の通信に、菜織は笑って返す。
 既に美幸は、ビームアサルトライフルを準備している。
 菜織はクルキアータに向けてライフルを連射した。
 クルキアータはそれらを躱し、アサルトライフルを撃ち返して来る。
「流石! 躱してくれる!」
「感心している場合ではありません、菜織様! 長引かせると、機晶姫が幾らでも集まって来ます!」
 回避コースを必死に計算しながら、美幸が抗議する。
「解っておる! プラズマライフルは?」
「あと2秒!」
 その時、ゴッ、と、重圧と共に突き込まれたランスの攻撃を、菜織機は、咄嗟に仰け反って躱す。
「く、早いっ……!」
「うわ、背中がっ……」
 ミシ、と言ったような気がする。
 これが空中だったら、推進を切れば下に落ちて避けることができたのだが。
「だが飛び込んで来たのが運のツキよ! 有利と侮ったな!」
 菜織は、プラズマライフルの銃口を向ける。
 至近距離と言っていい。外すわけがなかった。
 シールドを構えようとするクルキアータの手を掴む。
 ランスが足を掠ったが無視した。
 プラズマビームは、クルキアータの胸部を撃ち抜いた。
「損傷は!」
「左足首から下が。当座問題ありません」
「よし、このまま砲台も潰す! あと何基残っている!?」


 浩一機は、機晶姫達の攻撃を、エネルギーシールドとアサルトライフルで受け流しつつ、ビームキャノンで砲台を狙って破壊した。
「ジャミングは効果がないようですね。常時通信はしていないのでしょう」
 同時に、機晶姫相手に、可能な限りのデータを取る。
「電波で操っているとかではないわけですね」
 千里は、一旦敵艦から距離を取る。
「そろそろシールドがもちません」
「撤退しますか?」
「もう少し……ギリギリまでは、何とか戦闘を継続したいですが」
「待たせた!」
 そこへ、クルキアータを退けた菜織機が合流する。
「援護をお願いします」
「了解しました」
 美幸の依頼に、千里はスマートガンを持った。



 攻撃が2人に集中している戦闘の隙をつき、鉄心機は、アンサラーの艦橋を捕らえた。
「いましたっ」
 ティーが小さく叫ぶ。
 本当にいるのか、自分の目で見るまでは半信半疑だったが、艦橋にズィギルが立っているのが、確かに見える。
 ティーはアサルトライフルを艦橋に向けた。
「攻撃の停止と機関停止を要求します。降伏して下さい」
 で、いいんですよね? と、ティーがちらりと鉄心を窺う。
「降伏?
 こちらが圧倒的に有利なのに、何故そんなことを?」
 ズィギルは笑った。
「主砲も取った。主力イコンも失ったぞ。有利なのは、数だけだろう」
 鉄心の言葉に笑う。
「主砲など、くれてあげよう。イコンもいくらでも補充がきくさ。
 ついこないだ頂いた、プラヴァーのようにね」
 ちら、とティーはもう一度鉄心を窺う。鉄心は頷いた。
「撃ちます」
 だが、レーザーは艦橋のすぐ上で弾けた。
「バリア!?」
 反動で、鉄心機は宙空に投げ出されてしまう。
「こんな目立つ場所を、無防備に晒すわけがないだろう。馬鹿だね」
 ズィギルが笑う。そこへ。