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【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

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【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

リアクション

「やっと! 到着しましたっ!!」
 音の無い世界でも、ズシィィィィンとその足音が響き渡りそうな迫力。
 その巨体は、志方 綾乃(しかた・あやの)以下3人のパートナー達のLLサイズイコン、グランシャリオだった。
 ちなみに、リモコンを手にしている綾乃は、アルカンシェルの艦橋でモニターを借り、グランシャリオのカメラを通して状況を把握している。
 そのモニターに、アルカンシェル司令官の神楽崎優子も注目していた。
 映っているのは、アンサラーの艦橋だ。
 綾乃達のイコンは、アンサラーのブリッジを踏み付けている。
「激戦区を大回りしてこっそり辿り着くのは、それはそれは大変でしたが、ようやくここまで来ました。
 さて、問答は無用ですね?」

 綾乃達のイコンは、乱戦を苦手とする機体だ。
 その為、アルカンシェル艦橋にいる、操縦者達である綾乃と、動力その1、ヴァルキリーのリオ・レギンレイヴ(りお・れぎんれいぶ)、動力その2のラグナ・レギンレイヴ(らぐな・れぎんれいぶ)、動力その3のマール・レギンレイヴ(まーる・れぎんれいぶ)の三姉妹達はともかく、イコン自体は細心の注意を払ってここまで近付いた。
 そして乱戦が苦手であるが故に、勝負は一瞬。
 投降呼び掛けだの牽制だの援護だの、そんなことをしている余裕はない。
 なので、
「オーッホッホッホッ!
 ついに年貢の納め時ですわ、泥船にしがみ付く蛮族の皆さん。
 このまま月面までこの戦艦を叩き付けてやりますわよ。
 もし威力が強過ぎてぶち抜いちゃったりしましたら、何度も何度でもぶち抜いて、こんな戦艦クシャクシャにしてさしあげますわ!」
と、到着迄に何度も繰り返していたリオの敵への口上も、本番で言わせている場合ではないのだった。

「最初は、遠距離からの無尽パンチを想定してたけど」
と、マールがぽつりと呟く。
 しかし、味方のイコン達が、皆、上手く敵の目を引き付けてくれた。
 お陰で、綾乃機は快調に艦橋まで到達してしまった。
 ならば普通のパンチの方が、何倍も威力があるのだ。
 ――そう、次世代機イコンの攻撃すらよりも。

「オーッホッホッはぐっ!!」
「ばかっ、こんな揺れる所でんなことやってっからだっ!」
 舌を噛んで悶絶するリオに、ラグナが呆れる。
 そんな内部の者達に構わず、渾身のパワーを込めて振り下ろしたその一撃は、リオの口上が始まるより前、高笑いが終わらない内に、アンサラーの艦橋を叩き潰した。
「なっ! 何だあのイコンは!?」
 艦橋内側では、ズィギル達が驚愕して叫ぶ。
「やった!」
 ラグナもぐっと拳を握った。
 アルカンシェルの艦橋でも、歓声が上がる。
 駄目押しのように、ライフルによる銃撃があり、バリアを失った艦橋から、連続して爆音が上がった。

「作戦成功、離脱します!」
「え? 待って、あと一撃くらい〜」
 成功に気を良くしたリオが言ったが、綾乃は無視してリモコンを操作する。
 最初から、一撃で離脱の予定だ。
 周りの敵イコンや機晶姫が集まって来てしまえば、綾乃機は乱戦は苦手なのだ。


「無茶苦茶だなあ、おい!」
 同様に艦橋を狙っていたものの、隙と方法を計れずに周囲を警戒していた如月和馬も、間近でその有様を見ていて、思わず苦笑だった。
「ま、いいか。結果オーライさ」
 スナイパーライフルを下ろし、去って行く。自分も同じ。長居は無用だ。


「う、うわあああっ!」
 潰されなかったオペレーター達が、一斉に逃げ出した。
 ズィギルやルメンザ・パークレスも避難する。
 更なる攻撃を受けて艦橋が爆破し、ズィギルとルメンザは、通路に隔壁を下ろして爆破を遮断し、通路を走っていた。
「仕方がない、この宙域を離脱しよう。
 確かに、主砲もメインブリッジも失ってはね」
「動かんやろ? 捨てるんか?」
 戦艦を操縦する為の艦橋は、吹き飛んでしまった。
 この船を捨てて、脱出艇などで逃げるということだろうか。
 ならば自分は、持ち込んだイコンに乗って逃げようとも思うが。
「脱出艇もあるが、この船は捨てないよ。
 下に、サブブリッジがある。
 アルベリッヒ君が言っていたが、戦闘時には、むしろ向こうがメインだったかもだよ。
 上は、通常運行の時には見晴らしもよくて使いやすいけど、戦闘時には、分かり易く狙われやすい場所だからね」
 なるほど、と頷く。
「やれやれ、賭けは、反古か……」
 呟いて、ルメンザは
「機晶姫らはどうすんじゃ?」
 と訊ねた。
「捨てても構わないけど。
 アルベリッヒ君に怒られそうだから、生き残ったイコンに回収させよう。
 敵に捕獲されたのは、どうにもしようがないけどね」
「その、アルベリッヒは、置いてってええんか?」
「万一の時の落ち合い場所を定めてあるから大丈夫。連絡を入れておこう」
 艦橋は破壊されたが、推進機間は生きている。戦艦アンサラーは撤退を開始した。



「ズィギルも、逃げたか……」
 アンサラー撤退の報に、酒杜陽一は呟いた。
 忌々しいが、ある意味ではチャンスだ。
 イコン戦では自分には手も足も出ないが、生身で戦うのなら、何とかできるかもしれないという思いがある。
「次が、最期だぜ、ズィギル……!」
 きっと、他にも、同じ思いをしている者がいる。