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リアクション
chapter.18 おっしゃれおしゃーれ♪……8
多大な犠牲を生んだ『全裸の乱』であったが、なにも犬死にだったわけではないのである。
シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)は誰よりも先にそれに気が付いた。
「あのオカマ、また服を着るのに手間取ってる……!」
そう。陰陽師装束なんて和服。着るのに手間がかかること山の如しなのだ。
「司、今の内よ! とっととあのオカマをたたんじまいましょ!」
「し、しかし……。こ、この格好で人前に出るのは社会的に致命傷といいますか……」
「なに台座の影に隠れてんの。ほら、折角ワタシがコーディネートしてあげたんだから」
「わわわっ!」
引っ張り出された月詠 司(つくよみ・つかさ)は真っ赤になって俯いた。
サンタ帽にミニスカサンタ服、ムーンライトイヤリングとサターンブレスレット、素敵なサンタコーデだ。
髪の色と合わせ、司の衣装は白雪を思わせる純白に統一されている。
「うーん、我ながらパーペキ」
うんうん頷くシオン。
彼女もまたサンタルック、司と対になるようにそれぞれ片方だけにイヤリングとブレスレットを装着。
こちらも髪に合わせ、衣装は冬の夜を思わせる深淵ブラックに統一されている。
「ペアルックは構いませんし、衣装と色の理由も大体分かります……が、何故に私は女装させられてるんでしょう?」
「ペアルックなんだから当たり前じゃない♪ 相手が筋骨隆々のオカマなら、こっちは細身の女装しかないでしょ★」
「なにが『しかない』のか全然わかりませんが……」
「まぁ、ホントは月に因んでウサ耳にしたかったんだけど、手元になくて……」
「ミ、ミニスカサンタで大丈夫ですっ」
「気に入ってもらえたならいいわ。さて、ここからオカマをどう攻めるかだけど……」
とその時、突然道満から血飛沫が上がった。
どうやら二人を見てしまったらしい。サンタコーデとビキニ姿ではお話にならないほどお洒落度のひらきがある。
「あ、なんか効いてるみたい」
「それはなによりです。お洒落カーストでサリエルくんが幼児退行してしまっては困りますし」
『あの術の奈落人に対する影響か……』
司の頭の中で、奈落人サリエル・セイクル・レネィオテ(さりえる・せいくるれねぃおて)は言った。
『謎多き術だけど、私はむしろお洒落度の判定に疑問を持っているよ。失礼だが、どう見ても彼はお洒落に見えなくて』
「となると術者の主観が強く影響していることになりますね?」
『そうだね、彼自身に自分のコーディネートを否定させればそれで片がついてしまうかもしれないね』
「なるほど」
『それに術は大概高い集中力が必要となる。ならば、迷いを生じさせるだけでも勝機は見えて来るんじゃないのかな』
「しかし、相当なドMと噂ですし、生半可なものでは……」
『それはリズに任せれば大丈夫じゃないかな?』
「……はは。確かにそれはシオンくんの得意分野ですね」
「なにが得意分野なのよ?」
事情を話すとシオンはニヤリと笑った。
「ふんふん……なるほどぉ。つまりは言葉攻めにすればいいってことね」
「あら、それでしら私も三度の飯より大好きな趣味ですよ。お力になれるかと思います」
ふと、作戦に参加してきたのは腹黒大和撫子風森 望(かぜもり・のぞみ)だった。
「ドMのオカマなんて、どう考えてもあなたの趣味じゃないのに、妙に乗り気ですわね?」
相棒のノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)は小首を傾げた。
「だって精神を幼児退行させる術……精神ロリショタ化ですよ? 素晴らしい! ハッピバースディ!」
「ああ、それが目的でしたの……」
「蘆屋様を屈服させ、我々専属の精神ロリショタ製造機になって頂きましょう!」
「わたくしはあんなオカマ入りません!」
そんなことはさておき、望はシオンにごにょごにょと耳打ち。
それから二人で道満の前に立つと、彼はくわわっと目を剥いて吐血した。
「メイド服にホワイトブリム、ガーターとタイツできちんと決めた、コテコテのメイドさんコーデ……やるじゃない」
「あら、ありがとうございます」
シオンのサンタルックも破壊力抜群だが、望のシックなメイドスタイルもなかなかのもんである。
「どんな攻撃も通らないから、やりたい放題しても問題ないと思いましたのに、この分じゃダメージ通りそうですね」
「まぁでも、ちょっとぐらいなら平気なんじゃない? ほら、身体大きいし」
「身体の大きさは関係ないでしょ!」
「そうですね。身体が大きいから、瞼全開で固定ののち、目にゆっくり針を近づけて押し込んでみても平気ですよね」
「怖いわよ、あなた!」
「それから……あ、知ってますか、シオン様。うさぎも塩分摂取の為に岩塩を舐めたりするんですって」
「へぇ、あ、そんなこといいつつ、わたげうさぎを持って来てるじゃない」
「ええ、身体にバターを塗った人がいたらどうなるのか、ちょっと実験したくて連れて来たんですよ」
「おもしろそう!」
「それはむしろ普通に気持ちいいわよ!」
ふと、望は道満を見た。
「そういえば、ダメージ遮断している間、感覚はどうなってるんです? 鳥の羽でくすぐるとこそばゆいのですかね?」
「な、なに……じろじろ見てるのよ」
「いえいえ、答えて頂く必要はありません。だって、これから一つ一つ実践していけば判ることですから」
望とシオンは鳥の羽を取り出す。
「ま、待って! なにをする気なの!?」
「やっぱり蘆屋! イコンが乗っても大丈夫! という感じでも、鼻で笑われるほどにパラミタの変態は基準高めです」
「そうそう。道満の変態番付はどの辺りなのかなぁ。チェックしなくちゃね」
Sっ気全開で迫る二人……だったのだが。
「なにをする気なの!? その羽であたしになにをする気なの!? 早く、まだなの早く!」
「…………」
「…………」
ドMの道満は完全にほしがっていた。
言葉責めなど彼にとってはご馳走……いやここはあえて『ごっつぉ』とよばせてもらおう。
むしろ興奮してさっきよりちょっと元気になってるぐらいである。
「なにをしてますの! なんだか回復してますわよ、このオカマ!」
ノートが出て行くと、一目見るなり道満は仰け反った。
彼女は崑崙旗袍にタイツ、左銀翼に右金翼の髪飾り、ハイ扇子に柳葉刀……と崑崙情緒溢れるスタイルだ。
深く入ったスリットとボディラインがとってもセクシーだ。
「く……っ、羽で責めるのかと思わせておいて、お洒落攻撃であたしを責めるなんて、なにそのサプライズ!?」
「あなた、ほんとに気持ち悪いですわ!」