校長室
【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ
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■ 運び屋の夜 ■ 「桂輔。この前、今月も苦しいと忠告したのに、またイコプラにお金をつぎ込みましたね?」 そうアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)に詰め寄られ、柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)は笑って手を振った。 「そりゃ確かにイコプラ買い込んじゃったのは確かだけど、大丈夫だって」 だが、何の根拠もない断言ではアルマが納得するはずもない。 「貴方はもっと貯蓄というか、資金の運用を計画したほうがいいと思います」 「確かに貯蓄は無いけど、そんな運用とか、難しく考えなくて何とかなるって」 堅実な意見を述べるアルマに、桂輔はお気楽に答える。 「そういう姿勢でいると、私と出会った時みたく危険な仕事に手を染めて、生命の危機に陥りますよ?」 「いやぁ、でもあの時だって何とかなったし、流石にあんなことは何度もあるはず無いよ」 「……どうやら言っても無駄なようですね」 分かりました、とアルマは無表情に頷いた。 「そう言うことなら、百聞は一見にしかずと言いますし、龍杜神社に行って那由他の過去見でもう一度あの時の出来事を見てみましょう」 「過去見までして確認しなくても……うわ、解った解った、一緒に見に行くから! 耳を引っ張るのはやめて!」 問答無用とばかりにぐいっとアルマに耳を引っ張られ、桂輔は龍杜に過去見をしてもらいに行くことを承諾したのだった。 ■ ■ ■ それは今から半年前。 まだ桂輔は契約者ではなく、地球で運び屋の仕事をしていた。 その時生活費が苦しくてかなりせっぱ詰まっていた桂輔は、 「高額だけどちょっとヤバめな荷物なんだよねー」 なんていう依頼を二つ返事で引き受けてしまった。 「やるやる。荷物はヤバいかも知れないけど、俺の生活もこのままだとかなりヤバい」 背に腹は代えられない。 それにこの仕事を完遂すれば、もうすぐ発売になるあのイコプラだって余裕で買えるし、と自分の運に賭けてその品物を受け取った。 「なんだこれ? 金属製の棺桶?」 「調整槽。あちこち触るなよ。毀したら一生ただ働きしても足りねえぞ」 「うっ、気を付けるよ」 もうその時から厭な予感がしていたのだが、引き受けると言ったからには仕方がない。 桂輔はその調整槽をライトバンの荷台に載せて、夜の街を目的地に向けて出発した。 やばい品物となれば、いつも以上に神経も張りつめる。 だから桂輔が不審な車両に気付いたのはかなり早かった。 (つけられてる……よな、これは) どこかこの先に振り切れそうな場所は無いか、それとも他に何か手が……と考え、 (よし、あそこなら撒ける) 心当たりの場所を脳裏に選び出したその時。 いきなりマシンガンが撃ち込まれた。 「う、嘘だろー!」 撒くとか撒かないとかのレベルじゃない。 桂輔は懸命に避けたが、次の瞬間、タイヤを撃たれてあっさり横転させられた。 車内に衝撃が走るのにも構わず、桂輔は荷室に飛び込んだ。 かなりまずい事態だ。 自分だけ逃げ出すなら可能そうだが、運び屋としてこの荷物を放ってはいけない。どう切り抜ければ良いかと頭を巡らせている桂輔の耳に、気になる音が聞こえてきた。 調整槽の唸り。荷台に載せた時には聞こえるか聞こえないかの音だったそれが、どんどん大きくなってくる。 そればかりでなく、規則的な電子音、弁の開くような音まで聞こえだした。 さっきの衝撃で何かのスイッチが入ってしまったのだろうか。 思わず目をやると、桂輔の目の前で調整槽の蓋が……開いていった。 中から何かが身を起こす。 (女の子……?) 長いライラック色の髪、桂輔を見た目の色は印象的な赤。起きあがったのは可愛い女の子だった。 女の子は桂輔を一瞥した後、すぐに周囲の状況を確認した。 「借りますよ」 「え?」 何を言われたのか解らず聞き直す桂輔に構わず、女の子……アルマはたまたま一緒に積み込んであった対物ライフルを手に取った。 そして外に向け……撃った。 「な、何だ一体……」 やばい荷物だとは聞いていた。だから奪いに来るかも知れないと危惧してはいた。 だが、運んでいた調整槽が起動し、中から女の子が出てきて、その子がライフルをぶちかましているとくれば、いくら桂輔とて驚こうというものだ。 そして桂輔が唖然としているうちに、アルマはライフルで追っ手の車を撃ち抜いたり、銃床で殴打したりであっという間に追っ手を蹴散らしてしまった――。 ■ ■ ■ それが桂輔とアルマの出会いだ。 あの時アルマは、調整槽に与えられた異常な振動により、緊急時における自立起動プログラムによって目覚めたのだと言う。 起きた時点では何があったのかはアルマには解らなかった。 だが目の前では起動の原因となったと思われる少年が唖然としており、そして外部を確認した際、銃火器で武装した男性4人が自分に銃を向けてきたことにより、外部にいる者を敵だと判断し、その排除を行ったのだという。 この事件の後、しばらく桂輔は運搬途中の事故、運ぶべきものを起動させてしまったこと、等の残務処理に追われることとなった。 その後紆余曲折あったが、桂輔はアルマと契約し、パラミタに渡り今に至る――。 「どうです桂輔、これで少しは反省しましたか?」 出会いの場面を見終えたアルマに聞かれ、桂輔は何で? と意外そうな顔になる。 「いやぁどちらかと言うと、あの時仕事受けて良かったなぁって思ってる。だっておかげでアルマに出会えたし」 生活費が不足していなかったら、あんな曰くありげな仕事はもとから受けなかったかも知れない。だとすれば、生活の困窮もまた、出会いや巡り合わせの妙だと言えよう。 良かった良かったと言う桂輔を、アルマの赤い瞳がまじまじと見つめた。 「…………」 「どうしたアルマ、そんな驚いた顔して」 「……どうやら反省の色が見られないようですね」 アルマはほんのり頬を紅くしながら……対物ライフルを構えた。出会ったあの日のように。 ただ違うのは、そのライフルが桂輔を狙っていることか。 「待て待て待て、銃口をこっちに向けるな!」 どうしてアルマがそんな態度に出ているのか解らず、桂輔は冷や汗を流しながらじりじりと後ずさるのだった。