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【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ

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【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ
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リアクション

 
 
 
 ■ 11番目のショパン ■
 
 
 
 発車15分前を告げるベルが鳴る。
 
「ええと……11番、11番……」
 空京発ヒラニプラ行き急行列車。
 そのコンパートメント車両の廊下を、オデット・オディール(おでっと・おでぃーる)は愛用のトランクを引きながら歩いていた。
 客の入りはそこそこというところ。
 車内のざわざわとした活気が心地良い。
 皆一様にどこか浮かれたように見えるのは、列車の旅という非日常のなせるわざなのかも知れなかった。

 車両の中ほどまで来てオデットは、1枚の扉の前で足を止めた。
「11番……ここかな」
 手元の切符とコンパートメントの扉に記された番号を見比べ、間違いないことを確かめると、オデットはがらりと引き戸を開けた。
 2人掛けの座席が向かい合っただけの、質素なコンパートメント。
 その片方にはすでに、1人の青年が座っている。
 モデルだろうかと思ったのは、整った容姿とそこに漂うどこか華やかさを感じる雰囲気の所為か。
 車窓をわずかに開けて本を読んでいた細身の青年は、顔を上げると、オデットを見てにっこりと微笑んだ。
 
「同じコンパートメントになったのも何かの縁、よろしくね」
 そう言って青年は読みかけの本を伏せると、オデットが引いてきたトランクを壁に備え付けのバンドで固定してくれた。
「……よしっ、これでOKっと」
 バンドの留まり具合を確かめ、青年は軽く頷く。
「ありがとう!」
 オデットが礼を言うと、どういたしまして、と青年は人懐こい笑顔を浮かべた。
 そして改めて自分の席に座ると、せていた本を開く。
 向かい側の座席に腰掛けながら、オデットは何気なくその本に目をやり――
 
 ぎゅっと、
 強く心臓を掴まれたような気がした。
 
「あ……」
 思わずこぼれたオデットの声に、本を読み始めていた青年が顔を上げた。
「どうしたの?」
 尋ねられても答えられずにいると、青年はオデットの視線を辿り、自分が手にしている本に目をやる。
「これ? 車内で読もうと思ってね、昨日買ったの」
 くるっと青年はひっくり返し、オデットに表紙を向けた。
 緑地に白文字で書かれている題名は、『11番目のショパン』。
 見間違えるはずがない。
 ――その本は紛れもなく、オデットが書いた本だった。
 
 
 オデットは覆面作家だ。
 覆面作家は当然、素性を明かすことはない。
 その所為もあってか、オデットは未だに自分が作家であるという実感がなかった。
 デビュー作『11番目のショパン』は大ベストセラーになりはしたが、オデットはその売り上げをすべて寄付してしまった。
 一躍時の人となりながらも、実際の生活は何一つ変わらなかったために、実感の持ちようがなかったと言うべきか。
 
 それが今はじめて、自分の書いた本の読者を目の当たりにしたのだ。
 こんな時どんな顔をしたらいいのか、オデットにはわからなかった。
 
 黙り込んでしまったオデットの態度をどう思ったのか、青年は本を持つ手をくるりと返すと、すっと表紙を撫でた。
「デビュー作らしいんだけどね。この作家さん、物語が好き! って気持ちが隠しきれないみたい」
 そして穏やかに笑って言った。
「次の本が待ち遠しいわ」
 飾らない賞賛に、オデットの胸が詰まった。
 
 この気持ちに文字を、形を与えたい。
 そう強く焦がれるように思う。
 自分は作家なのだ――。
 オデットは今はっきりと自覚した。
 
 
 発車5分前のベルが鳴り、それを合図のようにオデットは硬直から解かれて自分の席に座った。
 その様子をにこにこと眺めていた青年は、ふと気付いたように言う。
「あ、私ったら、まだ名乗ってなかったわね……フランソワよ。よろしくね」
「私はオデット、よろしく、フランソワ」
「オデット……ふふっ、白鳥のお姫さまの名前ね、可愛いわ♪」
 楽しそうな表情のフランソワに、オデットは苦笑いする。物語のお姫さまと同じ名前、というのは当人にとっては微妙でもあるのだ。
「ありがと。……もうちょっと名前に見合うようになりたいんだけどね」
 つい付け加えると、フランソワはあら、と首を傾げた。
「もう充分可愛いと思うけど……でもそういうことなら、少しは力になれるかも」
「力に?」
「女の子が可愛くなることに関しては、協力を惜しまないわよ♪」
「ほんと? 嬉しい!」
 フランソワがそう言ってくれると本当に可愛くなれる気がして、オデットは心から喜んだ。
 
 
 2人はすっかり意気投合した。
 コンパートメントでお喋りするうちに、オデットはフランソワをフランと愛称で呼ぶようになり、フランソワは自身が『ピアノの詩人』、フランソワ・ショパン(ふらんそわ・しょぱん)の英霊であることを明かしたのだった。
 
 
 このあと、2人の出会いの場となったこの列車で、世間を騒がせる事件が起きる。
 その経験を元にオデットは2作目を書き、空前のベストセラーとなるのだが……

 ――それはまた、別のお話。
 
 
 

担当マスターより

▼担当マスター

桜月うさぎ

▼マスターコメント

遅くなってすみません……。
三周年記念シナリオということで、皆様の過去と、もしかしたら来るかも知れない未来のお話を書かせていただきました。
文字数が多いだけにアクションの読み応え十分っ、という感じで、皆様の過去、現在、未来を興味深く拝見しました。

キャラクター作りのお手伝いに、あるいはお知り合いのキャラさんにこんな過去があったり、未来を考えてたりするんだー、とのぞき見したりする為の材料になれば幸いです。

蒼空のフロンティアも三周年なのですね。
私は途中から参加なので全部の期間を知っているわけではないのですけれど、それでも感慨深いものがあります。
皆様と作りあげてきたこの世界、これからもどうぞよろしくお願いしますね〜☆