リアクション
● 「フッ――――」 ファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)が笑みを浮かべた次の瞬間――。 彼に近づこうとしていた機晶兵は一瞬にして頭部を貫かれていた。 それは、幻槍モノケロスという槍による一撃だ。ファンドラはバチバチと火花を散らす機晶兵からその槍を引っぱり抜き、辺りに目をやった。 「ふむ。これはなかなか圧巻ですね」 そこには、無数の機晶兵の残骸が転がっていた。 破壊したのはファンドラの契約者にして雇いの暗殺者、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)だ。それにイブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)も、ロケットランチャーや六連ミサイルポッドを用いて、機晶兵を爆破していっている。二人はしばらく戦闘していたが、やがてそれが全て終わると、ファンドラのもとに戻ってきた。 「……排除は完了じゃな」 ぼそっと、刹那は言う。 「ご苦労様です」 それに対し、ファンドラは妙に丁寧に返事を返した。 これはなにも主従関係に基づくものではない。元からファンドラは物腰の柔らかい男なのだ。もっとも――それが彼の本当の姿かどうかは定かでないが。 「しかし、それにしても……」 ファンドラは辺りを見回した。 「ここで戦うのは、あまり得策とは言えませんね。拘束状態がなければ、わざわざこんなところまでは足を運んだりしませんのに」 「そうなのデスカ?」 イブは尋ねる。ファンドラはフフッと小さく笑った。 「ええ、もちろんです。要はこれは次なる戦いへの前段階。単なる前座に過ぎませんよ」 「うむ、確かに……」 刹那は呟いた。瞬間、彼女の手がひゅっと動く。 ドスッと、着物の袖から投擲された暗器武器が、再起動しようとしていた機晶兵の頭部を穿った。 「…………機械では、あまり楽しめんのじゃ」 「はっはっはっはっ……」 ファンドラはずり落ちてきた眼鏡を持ちあげ、嫌らしく笑った。 「その通りですよ、刹那さん。私達にはまだまだやることが残っているのですから。……ですから、まあ……今はまだ、泳がせておいてあげましょう」 ファンドラはゆっくりと歩み出した。刹那とイブもその後についていった。 「そう……。今は、まだ……ね」 その笑みの奥に何が隠れているのか。 今はまだ、ファンドラ以外は誰も知らなかった。 ● レン・オズワルド(れん・おずわるど)は、世界樹は実り在るものだと思っていた。 それは、植物が、自然が、次なる生命を種子としてこの世界に残すように、人を、命を、次世代の生命を、世界樹は残すのだ。少なくとも、レンはそう思っていた。 「…………」 しかし、今はどうだろう? アールキングという存在を前にして、レンはそれが果たして本当かどうかに疑問を抱いていた。いや、もちろん……、そうであることが正しいのだろう。そうであることが、樹としての世界樹の願いであり、意味なのだろう。 けれど……――奴の答えは、違うのかもしれなかった。 レンはその答えを見たいと思っていた。 ここに来た目的の一つには、それがある。俺は肯定もしなければ、否定もしない。俺には俺の生き方がある。そして俺が救いたいものがある。その為に、アールキングが多くの命を犠牲にしようというのなら、それは阻止せねばならない。 それでも、知りたいのだ。奴が、この世界で何の意味を成したのか? あるいは……成し遂げられなかったのか……? 「ギギャギャギャギャアアァァァァッ!!」 「!?」 けたたましい呪詛のような声を聞いて、レンははっとなった。 振り返ると、そこに小さな虚無霊達がいた。 こちらの行く手を阻もうというのだろう。アールキングの忠実なる従属者達は、怨念のごとき赤い目をぎらつかせてレンを見据えてきた。そして、一気に襲いかかってくる! 「……ッ!」 レンは魔銃を構え、引き金を引いた。 一瞬のことだった。数発の銃弾の音が重なり合った時、レンは虚無霊達とすれ違っていた。 そして―― 「ギャァァァァ……――――ッ!!」 虚無霊達はじゅわぁぁっと蒸発するように消滅した。 「…………いいだろう……」 レンは呟いた。その目の前にいる、何者かに向けて。 「お前が俺を拒むというのなら、俺はそれを退けるまでだ。そして、必ず見届けてやる。お前の行く末も、そして……エリザベートの行く末も……!」 レンは次なる戦いに備え、せめてもの道を切り開こうと歩き続けた。 |
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