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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【決戦、アールキングVS契約者】4

 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)シュバルツカッツと呼ばれるパワードスーツを着て作戦に挑んでいた。
 これは彼のパートナーである他の三人も同様で、それぞれに同じカスタムのパワードスーツを着込んでいる。そしてそれ以外にも、トマス大尉に付き従う部下数名が、彼らの後について作戦行動に入っていた。
 最初こそグランツ教徒達の説得に回ろうとしたトマスだったが、それは難しかった。なぜなら彼らはすでに死んでいるからだ。樹化してしまった現在では、もはやアールキングの操り人形と等しく、正常な思考回路は持ちあわせていなかった。
 それでもなんとか、余計な戦闘を避けてきたのは、トマスの信条によるものか。
 いずれにせよ敵を少ない戦力で排除して回り、トマスは後にやって来るはずのエリザベート達が通れるルートを確保していた。
「狂信者をさらに操る、ですか……。あまり気分のいいものではありませんね」
 魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が言った。トマスも、それには同意せざる得ない。
 子敬はせめてもの餞というように祈りを捧げ、それにトマスや他の部下達も習って同じ事をした。無事に魂が報われることを、願うばかりだ。
「ミカエラ……。絶対にトマ“大尉”を討たれるようなことだけはするなよ」
 トマス達よりも先に行くテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)は、隣のミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)にそう囁いた。
「ええ、もちろんよ」
 ミカエラはそう言って、ちらりとトマスに目を向けた。
「これでも一応は大尉……。本人にその自覚はなさそうですけどね」
「ああ、まったくだ」
 テノーリオは困ったように言った。しかし、すぐにその顔は笑みに変わった。
「ま、だからこそ、俺達はあいつについていけるんだけどな」
 そう。テノーリオは実際、そう思っていた。
 トマスは良くも悪くも自分の権力に無自覚で、軍人でありながらも純粋さをなくさないでいる。それがテノーリオ達には彼を信頼する意味ともなっているのだ。もちろん、大事なのはトマスだけでなく、今回の作成成功にあることも、十分に理解していたが。
「これでも教導団の意地。他の契約者達の後れを取りたくはないわね」
 意外と負けず嫌いのミカエラはそう言った。
 トマス達が通った後を、数名の部下が簡単に舗装してついていく。少しでもエリザベート達に通りやすくなってもらいたい為だ。
 それがどこまで役に立つか分からないが、少しでもエリザベート達に協力出来ていればと、トマスは願うばかりだった。



「フッ――――」
 ファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)が笑みを浮かべた次の瞬間――。
 彼に近づこうとしていた機晶兵は一瞬にして頭部を貫かれていた。
 それは、幻槍モノケロスという槍による一撃だ。ファンドラはバチバチと火花を散らす機晶兵からその槍を引っぱり抜き、辺りに目をやった。
「ふむ。これはなかなか圧巻ですね」
 そこには、無数の機晶兵の残骸が転がっていた。
 破壊したのはファンドラの契約者にして雇いの暗殺者、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)だ。それにイブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)も、ロケットランチャーや六連ミサイルポッドを用いて、機晶兵を爆破していっている。二人はしばらく戦闘していたが、やがてそれが全て終わると、ファンドラのもとに戻ってきた。
「……排除は完了じゃな」
 ぼそっと、刹那は言う。
「ご苦労様です」
 それに対し、ファンドラは妙に丁寧に返事を返した。
 これはなにも主従関係に基づくものではない。元からファンドラは物腰の柔らかい男なのだ。もっとも――それが彼の本当の姿かどうかは定かでないが。
「しかし、それにしても……」
 ファンドラは辺りを見回した。
「ここで戦うのは、あまり得策とは言えませんね。拘束状態がなければ、わざわざこんなところまでは足を運んだりしませんのに」
「そうなのデスカ?」
 イブは尋ねる。ファンドラはフフッと小さく笑った。
「ええ、もちろんです。要はこれは次なる戦いへの前段階。単なる前座に過ぎませんよ」
「うむ、確かに……」
 刹那は呟いた。瞬間、彼女の手がひゅっと動く。
 ドスッと、着物の袖から投擲された暗器武器が、再起動しようとしていた機晶兵の頭部を穿った。
「…………機械では、あまり楽しめんのじゃ」
「はっはっはっはっ……」
 ファンドラはずり落ちてきた眼鏡を持ちあげ、嫌らしく笑った。
「その通りですよ、刹那さん。私達にはまだまだやることが残っているのですから。……ですから、まあ……今はまだ、泳がせておいてあげましょう」
 ファンドラはゆっくりと歩み出した。刹那とイブもその後についていった。
「そう……。今は、まだ……ね」
 その笑みの奥に何が隠れているのか。
 今はまだ、ファンドラ以外は誰も知らなかった。



 レン・オズワルド(れん・おずわるど)は、世界樹は実り在るものだと思っていた。
 それは、植物が、自然が、次なる生命を種子としてこの世界に残すように、人を、命を、次世代の生命を、世界樹は残すのだ。少なくとも、レンはそう思っていた。
「…………」
 しかし、今はどうだろう? アールキングという存在を前にして、レンはそれが果たして本当かどうかに疑問を抱いていた。いや、もちろん……、そうであることが正しいのだろう。そうであることが、樹としての世界樹の願いであり、意味なのだろう。
 けれど……――奴の答えは、違うのかもしれなかった。
 レンはその答えを見たいと思っていた。
 ここに来た目的の一つには、それがある。俺は肯定もしなければ、否定もしない。俺には俺の生き方がある。そして俺が救いたいものがある。その為に、アールキングが多くの命を犠牲にしようというのなら、それは阻止せねばならない。
 それでも、知りたいのだ。奴が、この世界で何の意味を成したのか?
 あるいは……成し遂げられなかったのか……?
「ギギャギャギャギャアアァァァァッ!!」
「!?」
 けたたましい呪詛のような声を聞いて、レンははっとなった。
 振り返ると、そこに小さな虚無霊達がいた。
 こちらの行く手を阻もうというのだろう。アールキングの忠実なる従属者達は、怨念のごとき赤い目をぎらつかせてレンを見据えてきた。そして、一気に襲いかかってくる!
「……ッ!」
 レンは魔銃を構え、引き金を引いた。
 一瞬のことだった。数発の銃弾の音が重なり合った時、レンは虚無霊達とすれ違っていた。
 そして――
「ギャァァァァ……――――ッ!!」
 虚無霊達はじゅわぁぁっと蒸発するように消滅した。
「…………いいだろう……」
 レンは呟いた。その目の前にいる、何者かに向けて。
「お前が俺を拒むというのなら、俺はそれを退けるまでだ。そして、必ず見届けてやる。お前の行く末も、そして……エリザベートの行く末も……!」
 レンは次なる戦いに備え、せめてもの道を切り開こうと歩き続けた。