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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【決戦、アールキングVS契約者】6

 暴走するアールキングの力を止めることは難しかった。
 その力はまるで奔流するうねりのようだ。アールキングの持つ潜在エネルギーそのものが、大地を割り、空を裂き、次々とエリザベート達を襲ってくる。
「総員、包囲展開せよ! 絶対にひるむなッ――――!」
 ルカの声が響き渡った。
 彼女に従う50名余りの部下たちはそれぞれに左右へと広がって展開し、アールキングの包囲網を作っていた。
 この中でなら相手もそう簡単には手を出せまい。しかし、それでもアールキングの力は強大なものだ。一度に全員がやられることはないにせよ、部下たちは次々とその根の餌食のなり、吹き飛ばされ、死に、貫かれ、命を落としていった。
「クソッ……このぉッ!!」
 ルカは戦いに従じた。
 核へ。今はとにかく、核へ近づかなければ。その思いだけが、ひたすらに彼女を前へ進ませた。もちろん、悲しみがないわけではない。倒れた部下達の姿を見れば、涙は溢れてくる。しかし――ここで立ち止まるわけにはいかないのだ。ここで……――。
「いけえぇぇッ――!! 続けっ、続けぇぇッ――――!!」
 ルカの叫び声が聞こえる。それを背に、仲間達はアールキングの根本へと食いこんだ。
「いくぜえぇぇぇぇッ!!」
 カルキノス、ルカ、ダリル、夏侯淵――。
 四人は一気にマレフィキウムの力を解放させた。それは相手に与えたダメージから、その威力によって魔力を吸い取る特殊な呪法だ。それのマレフィキウムで得た魔力を、四人はエリザベートに注ぎ込む。
「ぐああぁぁぁぁ!」
 ダリルは枯命の闘気を纏った光条兵器を核に突き立て、力を抑えこんだ。
 その隙に、ルカは自らの手に剣で傷を作り、それを剣自身に染み込ませてやった。瞬間、剣は20m越えの巨剣となる。星辰エネルギーを媒体とした武器、『神喰い』だからこそ出来る特殊な変形だった。
「食らえええぇぇぇッ!」
 巨剣がアールキングに突き立ち、世界樹の悲鳴があがった。
『グオオオオォォォォォ――――!?』
 絶叫は、雄叫びとなる。
 カルキノスはその間に、再生をしようとするアールキングを止めるため、ラグナロクと呼ばれる連続魔法の技を使った。火炎や雷撃、暗黒に至るまで、無数の属性の魔法がアールキングを撃つ。
「こいつも取っておきな! いくぜっ!」
 ひるみかけたアールキングへ、夏侯淵が神弓『妙才』の矢を放った。
 連射された『妙才』の矢が、次々とアールキングを撃ち抜く。
『ガアァァァッ――――!!』
 アールキングの悲鳴があがり、これまで以上にエネルギーが爆発した。
 その波の中を、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は大剣を振るいながら突き進んでゆく。後に続くルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)は根を凍らせて進み、アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)はアキラの肩の上に乗っかって支援用の加護の魔法を使っていた。
「アールキングゥッ――!!」
 アキラは叫んだ。
 近づいてくる根は大剣で振り落とす。その目がキッと、決然とした意思を込めてアールキングを見つめていた。
「てめぇだけは許さねぇ! 命を弄び、自然を弄び、てめぇの好き勝手にしやがって! イルミンスールはそんなことはなかったッ!」
「ッ――――!?」
 アールキングの核が震えたような気がした。
 いや、事実、その声は届いていたのだろう。だからこそ、まるでアキラの声を遮ろうとでも言うかのように、アールキングは無数の根を伸ばしてきた。が、それを防いだのはルシェイメアの凍結魔法だ。
「ふんっ、こやつばかり狙おうとしても無駄なことじゃ」
 氷漬けになった根を粉砕したところで、ルシェイメアは言った。
「なんせ一度突っ走ったものはなかなか止められんのがアキラでのぉ。こやつに目を付けられたのがおぬしの運の尽き……。覚悟することじゃな」
「………………なんだか俺、疫病神みてぇだなぁ……」
 ぼそりと呟くアキラ。
「同じようなものじゃろ?」
 ルシェイメアはくすくすと笑った。
「ま、どっちしてもな、アールキング――」
 アキラの目は再びアールキングを見据える。その顔に、“引き際”の文字はなかった。
「イルミンスールは他のたくさんの生命たちと光を分かち合って生きてる。力で他者を黙らせ、奪い取ろうなんて真似は絶対にしねぇ。そんなもんするのは、人間のやることだ。アールキング……だからてめぇは、世界樹なんかじゃねえよ。てめぇはうちらと同じだ」
『なんだと……?』
「所詮はお前も、お前自身が蔑んできた人間と同じ、雑草なんだよッ!」
 その瞬間、アールキングはぴたりと動きを止めた。
 嵐の前触れのように静けさが辺りに広がる。振動が消え、波打つエネルギー波から逃れたアキラは、大剣の切っ先をアールキングに向けた。
「雑草をなめるなよ……。お前もいっぺん、やり直してみたらどうだ!」
『…………』
 アールキングは答えない。そこに、レンが魔銃を構えて言った。
「アールキング。お前は確かに、樹として高見を目指したのかもしれない。だが、樹とは、樹木とは、次なる世代にその命を宿す……実らせるものだ。お前は何をその樹木に実らせたというんだ?」
『何を……?』
「俺達はイルミンスールの宿した実だ。種は樹となり、樹は次なる生命を実らせる。次なる時代を実らせる。だが、お前には、何もないではないか」
『…………』
「お前は何も実らせてなんかいない。滅びを望んだ時点で、お前はすでに樹木の役目を終えていたんだ」
『違う……! 俺は……!!』
 アールキングの叫びが反響する。だが、そこには何の色もなかった。滅びを望んだ色。黒く、無に近い、虚無の色しかなかった。
「最後に俺達が、お前の因縁を断ち切ってやる」
 レンは銃口をアールキングに向けながら言った。
「それが俺達からお前への、せめてもの餞だ――」
『黙れ……………………黙れ、黙れ、黙れ黙れ黙れえぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!』
 アールキングの力が再び暴走を始める。
 核はすでに多くの魔力を失い、ひび割れているものの、まるでそこに最後の命の灯火を燃やすよう、爛々と輝き始めた。
『俺は負けぬ! 俺は…………俺は………………大世界樹なのだからッ――――!』
 まるで哀れな咎人の叫びを聞くように、契約者達は静かに最後の一振りへ力を込めた。



 桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)はアールキングと対峙しながら、これまでの事を思いだしていた。
 それは、かつてこのパラミタへやって来た時の記憶。煉の原風景だった。
(世界は一つだった……。結局俺は、初めからお前とともにあったんだな……)
 パラミタへやって来てすぐに巻き込まれたベヒモス戦の一端、葦原島のミシャグジ、空京に現れた天使……、そしてトゥーゲドアの超獣と荒野の王との戦い……。
 結局のところ全ては、アールキングの思惑と共にあった。
 そう、俺の世界は――。
(アールキング……。お前と絡み合った世界だったんだ……!)
 その事に気づいた時にはすでに、煉は己が剣を握っていた。
 全てはここで、この一瞬で、決着を決める為……。
 アールキングという楔を解き放つ為だ――。
「さあ、来い、アールキングッ!! ここで、俺とお前の決着をつけてやる!!」
 そう叫び、煉は一気に駆け抜けた。
 その後を追うのは、エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)エリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)だった。煉の友にして相棒。パラミタでのパートナー。契約者の繋がれた絆の証。
 それが、二人だ。エヴァとエリスだった。
「エリザベートの準備が整うまで、あたし達が囮になる! 煉、その間に……」
「ここは必ず死守します! 煉さん、お願いします!」
 二人は煉を抜き去ってアールキングの前に辿り着き、核への攻撃を開始した。
 サイコブレード零式の全能力を解放した疾風突きが核を貫き、フェニックスアヴァターラの巨大な剣が核へと突き立つ。
 その間に煉は滅殺の構えを取り、自らの中に力を溜め込んだ。
(勝負は一瞬で決まる……!)
 渾身の一撃を、アールキングにぶつけなくてはならない。もしかしたらそれは、煉自身の身体をも壊してしまう可能性があった。しかし、構うものか。今や煉には、絶対的な覚悟があった。潜在能力が解放され、その全身に闘気が漲る。
 それを見たハーティオンは、空気が振動する力を感じた。
「おお……すごいな、煉は……。よし、我らも負けていられないぞ、カリバーン! 今こそ我らももう一つの力を見せるときだ!」
「おう、任せておけ!」
 ハーティオンは駆け出し、ユニオンリングでカリバーンと一つに合体した。
「剣心(剣神)合体!! グレート・エクスカリバアァァァンッ!!」
 新たな姿となったハーティオンは、胸の部分から勇心剣と呼ばれる剣を抜き放つ。
 勇気の力をエネルギーに変えるその剣で、ハーティオンはアールキングの核へ挑みかかった。
「行くぞ! ハート・キャリバアァァァッ!!」
 まずは振り落とした剣の一撃が、核を打つ。しかし、それで終わりではない。続けざまにハーティオンは手刀を勇心剣の刀身にぶつけ、勇気のエネルギーを増幅させた。
「創世両断――ッ!! キャリバァァァッ!! クロォォォスッ!!」
 十字型に叩きこまれたエネルギーの剣が、アールキングの核を切り裂いた。
 その瞬間、アールキングの動きが止まる。核が一時的な出力ダウンに陥り、力が発揮出来なくなったのだ。
「煉! 今だぜ!」
「煉さん! お願いします!」
 エヴァとエリス。二人の声が煉に届く。
 その瞬間、煉は閉じていた瞼を開き、洗練された目でアールキングを見据えた。そして、駆け抜ける。ただ一直線に――。アールキングの核へ向けて――。黒焔刀『業火』の真の力を解放し、漆黒に染まった灼熱の炎に身を包みながら――。
「はぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!」
 一刀両断。
 全力を込めた一撃が、アールキングの核を貫いた。
『ぐおっ……おおぉぉぉッ……!!』
 鼓動のように音が打ち鳴り、アールキングが呻く。
「今だ、エリザベート!」「さあ、早く!」「エリザベートさん!」
 仲間達の声に後押しされ、エリザベートが最後にアールキングの核へ触れた。
「アールキング……。たった一人でよくやったですぅ……。ですけど、これで終わりですぅ。全てを、この『最初のロゴス』にかけるですぅ!」
 そして次の瞬間――
 赤い光に混じり、閃光が輝き、時が止まり、蠢き、旋回し、粉々に砕け散る、世界樹の核。それは儚くも美しい終わりの姿。黒く染まった邪気に包まれながらも、それは閃光の中に飛び散って消えた。

『ぐおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…………………………――――』

 最後に、アールキングの声だけを残して……。

「あれ……煉っ!? 煉はっ……!?」
 エヴァが煉の姿が見えないことに気づき、慌てて辺りを見回した。
「あ、あれ! 見て下さい、エヴァさん!」
 エリスが声をあげ、指をさしたのはアールキングの樹木があった場所だった。
 そこには、最後の力を使い果たして眠る煉と、エリザベートの姿があった。魔力も気力も使い果たして、爆睡してしまっているのだろう。煉の身体の上に、エリザベートの足がぽてんと乗っかって。
「まったく……あいつらったら……」
 エヴァがぷっと吹き出して笑う。
 それから一瞬の後に、空からヒュンヒュンヒュンッと何かが降ってきた。
「あれ……」
 ザクッ――と、大地に突き立つ。それは、煉の黒焔刀『業火』だった。
 刀はまるで誇り高く己を示すように、光を浴びて煌めいていた。