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【終焉の絆】滅びを望むもの

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【終焉の絆】滅びを望むもの

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退路確保

「カルならきっと、やってくれる。だから僕も前に進まなくては」
「お二人は、信頼しがっているんですね」
 トマスとカルのやりとりを見ていたゆかりが、走りながら言葉をかけた。
 それを聞いたトマスはそれまでの凛とした表情を少し崩し、笑って見せた。
「長いこと一緒に任務をやってきました。頼れる、相棒です」
「成程。素敵ですね」
「ええ、本当に。
 ……どうやらコリマさんたちやリファニーさんへの呼びかけを行う人達は無事に抜けたようですね」
 トマスとゆかりは、先ほど激闘が繰り広げられた開けた場所に到着する。
 そこには呻き散らしながらも、続々と立ち上がりコリマ達を追わんとしているバスターゴブリン達の姿があった。
「ここは僕達が処理します。水原大尉はコリマさんやカケラさん達の後方支援を」
「……わかりました。私達とジェイコブさん達は進みます」
「あと、皆さんに伝えて欲しいことがあります。
 『退路の心配はない。存分に暴れてくれ』……そう伝えて下さい」
 トマスの目に迷いはなかった。
 その瞳を数秒見つめた後、ゆかりは頷いて前へと駆け出した。
「ふぅ……言い切ってしまった以上、僕達にも退路はないか」
 トマスの言葉を聞いていたテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が言葉を返す。
「よく言うぜ。撤退する気なんてさらさらないくせに」
「そうね。大尉達にも負けていられないし、ここは守らないと」
 パワードスーツを身に纏う二人。まったく臆することはなく、トマスの指示を待っていた。
「……カル大尉は最高の相棒だ。
 でも、君達も同等以上に、最高の相棒だ」
「はっはっは! ありがてぇ、子敬にも聞かせてやるといいぜ」
「機会があればね」



〜〜〜その頃洞窟入り口〜〜〜

「へっくしょん、へっくしょん! ……ん〜む、誰かが噂をしているようですね」
 魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)を鼻をこすりながら、洞窟の奥を覗き込む。
「おやおや、先ほどは私がくしゃみをしましたし……」
「その前は、ランダム、くしゃみした」
 同じく入り口で待機していたジョン・オーク(じょん・おーく)ランダム・ビアンコ(らんだむ・びあんこ)も謎のくしゃみに襲われていた。
「にしても壮観ですな。これだけの輸送機があるのは」
「ええ。これで疲れた人達の輸送はバッチリですね」
「ランダム、頑張って、安眠運転、する」
 三者三様の言葉を空へと呟いた後、洞窟の奥を見やる。
 三人の願いは一つだ。
 “進んだ者達が全員無事で帰ってくるように”と。

〜〜〜洞窟内部〜〜〜

「さあ、子敬もくしゃみを終えたころでしょうし。行くわよ!」
「ああ。……四人一組を忘れるな。先陣はシュバルツカッツ隊で切り開く。支援頼むぞ!」
 トマス、テノーリオ、ミカエラが散開する。
 左手、テノーリオが側面から這いずるバスターゴブリン達へレーザーライフルを撃ち込む。
 それに合わせるようにして右手のミカエラもレーザーライフルを射出。
 左右から放たれる光の応酬。その標的であるバスターゴブリン達は再度地に体を伏せ、二度と立ち上がることはない。
 その攻撃を運よく避けたところで、部下達による集中砲火がその場からの脱出を許さない。
 だが、一部のゴブリン達が他のゴブリンを盾にして洞窟の奥へと逃げ込もうとする。
「シュバルツカッツは“三人”いる。忘れないでもらおうかっ!」
 トマスがブーツの推進装置を巧みに使い、空中を跳ぶ。
 逃げるバスターゴブリンの背後に近寄り、バイルバンカーを作動させゴブリンをぶち抜く。
 その流れを殺さず、地面に着地したと右足で残ったゴブリン達に足払い。
 突然の急襲にあっけなくその場に転げた敵へ、腰を深く落とし正拳突きを垂直に叩きつける。
 それを見ていた最後のバスターゴブリンがトマスの頭に銃を突きつける。
 だが、トマスは顔を上げない。
 
 ドシュンッドシュンッ

 否、上げる必要がなかった。
 バスターゴブリンの両腕が宙を舞った。
「一丁あがりィ!」
「おうちに帰るまでが遠足ですよ…って言うでしょう?」
 テノーリオとミカエラがレーザーライフルでトマスの危機を救った。
 そして救われたトマスは立ち上がると同時に回転し、ゴブリンの側頭部に回し蹴りをめり込ませる。

 ミシィ――

「吹き飛べっ!」
 軋むような音を立てた後、バスターゴブリンは横へと豪快に吹っ飛び壁に激突する。
 数秒後、ドサリと床に倒れると、その場で轟沈した。
「総員、退路の確保だ!」
 トマスの鶴の一声が部下達の鼓膜を揺さぶると、部下達は迅速に動き出す。
 こうしたカルとトマスの活躍により、退路の安全は確保された。

「何とか、追いつけましたね」
「水原大尉か。後方はどうか」
 走ってきたゆかりに声をかける叶 白竜(よう・ぱいろん)
「トマス少佐から伝言を預かりました。
 『退路の心配はない。存分に暴れてくれ』、とのことです」
 ゆかりからトマスの伝言を聞いた白竜は、「そうか」と言って帽子を深く被りなおした。
「私達はこのまま本隊を護衛する。
 後方が完璧で、本隊が瓦解しては意味もあるまい」
「了解です。私は引き続き後方支援に回ります」
「ああ。共に連携して動こう」
「はっ」
 白竜に敬礼をして、ゆかりは後方へ向かった。
「……各員へ。聞いての通りだ。
 私達には心強い殿がいる。だからこそ、私達は心強い護衛であられねばならない」
 部下達は白竜の言葉に静かに聴いている。
「生まれた以上、命は誰のものでもなくその人のものであり、生きなければいけない。
 ……私はここにいる皆全てと、“生きたい”。
 くれぐれも死んでくれるな。これは、命令だ」

――ハッ!!

 白竜の言葉を噛締め、刻み込み、部下達は一糸乱れず返事をした。
 その後、本隊の邪魔にならないように警戒にあたる。
「……さっきの言葉、いい言葉だな」
 白竜の言葉を聞いていた世 羅儀(せい・らぎ)が少し後ろから、話しかける。
「戦場では、命が軽く感じられる。私の命も次の瞬間にはないかもしれない。
 ならば、今の内に言っておこう、そう思っただけだ」
「沙さんがいるから大丈夫だろ。
 というか、今日はやけに饒舌だな。……誰かの伝言にあてられたか?」
 羅儀の鋭い読みに、白竜は少し黙した後、口を開いた。
「そうだな。そうなのだろう。
 ……ではいつもの私に戻るとする」
 そう言って白竜は静かに前を進む。
 羅儀は組んだ両手を後頭部に当てながら、それについていく。
(……伝言を聞いて、薄く笑ってた奴を見てたら誰でも予想付くぜ。まったく)
 そう思う羅儀もまた、薄く微笑んでいた。