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はっぴーめりーくりすます。

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はっぴーめりーくりすます。
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リアクション




9.クリスマスパーティ、始まりました。

 普段から、しあわせを振りまこうと様々なことをして人を笑顔にさせている日下部 社(くさかべ・やしろ)なので。
 クリスマスイブとあらば、それに輪をかけて人を笑顔にさせたくなる。
 というわけで。
「ちぃ〜す♪ リンぷー元気にしとるかぁ〜?」
 人形工房に乱入である。
「日下部」
 案の定、この人形師の友人は、クリスマスイブだというのにいつも通りの無愛想、そして無表情。
 今日はその鉄面皮を崩しに来た。
「ほれ! 土産や土産!」
 なのでつかみの一発。
 どーんと床に置いたは、ゆうに1メートルはあるであろうクリスマスツリー。
 ツリーにしてはミニサイズであるが、それでも巨大なことには変わりなく、ここまで持ってくるのはやや骨であった。
 さすがのリンスもやや目を瞬かせていた。先手必勝大成功である。
「で、これどこ飾っとこか?」
 胸を張って、ぺしぺし幹を叩く。
「……、外か入り口脇。床抜けたら日下部のせいね」
「んなアホな。『百人乗っても大丈夫! リンぷーの人形工房!』やろ?」
「なにそれ」
 呆れた目で見られたけれど、わりと慣れっこなのでへっちゃらである。
 なので変わらず胸を張ったままで居たら、
「は〜う〜☆ こ〜んにちは〜♪」
 後ろから望月 寺美(もちづき・てらみ)にのしかかられた。
「100人乗っても〜、は社の妄言だからいいとして。ボクが入ろうとしたらブザー鳴ったりしませんかねぇ? 定員オーバー! って」
「そんな素敵エレベーター機能ないから大丈夫じゃない?」
「はっ。そういえばリンスさん、お久しぶりですぅ〜!」
 のしかかっていた社を押しのけ、寺美が一歩前に出る。そして深々、一礼。
「無事に退院できたようでなによりですぅ。ボクもこうして元気満々、退院できましたぁ〜☆」
「そういえば病院で会って以来だっけ。久しぶり」
「はい♪ お互い身体には気をつけないといけませんねぇ〜。これから寒くなりますし!」
「寺美は中の人の問題やから冬は平気やろ」
「社、何か言いましたぁ?」
「なーんもー?
 ああでも、ホンマ久し振りやな。しばらく俺の顔見れんで寂しくなかったか? え?
 別に寂しくない? はっはっは、言うてくれるなぁ〜♪」
「日下部、俺何も言ってない」
「アレか! 居なくても傍に居るような俺の存在感のおかげか? 俺も捨てたもんやないなぁ♪」
「いやだから、」
「ま、ホンマは俺も顔出しくらいには来たかったんやけど。この前の寺美の入院の後に、学校転校したんよ。それでバタバタ忙しゅうてなぁ」
 社とリンスが出会ったのは、イルミンスール魔法学校でだった。
 滅多に笑わないヤツが居ると聞いて、笑わせてみようと近付いたのがきっかけ。
 今より辛辣なツッコミだとか、それでも笑ってくれたこととか。
「いろいろ思い出深いから、離れるんも辛かったんやけどな」
 ちょっと遠くなってしまった思い出に心を馳せて。
「でも葦原もええとこやで? 校長も面白いしな♪
 そや、今日はこの前約束しとった『超お好み焼き』を作りに来たんや♪ クリスマスやし、お好み焼きパーティやで!」
 二つ目の目的を実行に移してみようか。


 そうやって三人(主に二人)が喋っている時、工房内。
「メリークリスマスだよー♪ クロエちゃ〜ん!」
 日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)は、クロエにきゅーっと抱きついた。
「ちーちゃん!」
「やー兄とラミちゃんとQちゃんと、みんなで遊びに来たのー♪」
「きゅーちゃん?」
 聞き慣れない言葉に、クロエがくりんと目を丸くする。
 あのひと、あのひと、と千尋は一人を指差した。
 黒いスーツに黒いコート、顔にも黒い覆面をつけた怪しい人物。その人こそが、著者不明 パラミタのなぞなぞ本(ちょしゃふめい・ぱらみたのなぞなぞぼん)――通称Q――である。
「かわったかっこうのひとね」
「良い人だよ〜」
「ハッハッハー。千尋様、我に気にせず楽しんで下サーイ♪」
 Qはそう言って椅子に座り、工房内を見回したりしていた。もっとも、覆面は顔全てを覆っていて、視線がどこに向けられているのか定かではなかったのだが。
「今日ねー」
 千尋は抱きついていた状態から離れ、クロエの目の前で一回転。
「ちーちゃん、サンタさんなのー♪」
 サンタ服の裾が、ひらりと揺れた。
「クロエちゃんも着てみる? おそろいだよー☆」
「ううん、さっきまできてたから、いいのー」
「そっかぁ……」
 似合ってたんだろうなあ、見たかったなあ、とは思いつつ。
 今のクロエの恰好――淡いピンクのドレス姿がとても可愛いからまあいいか。
「今日はね、やー兄がお好み焼き作るんだって!」
「おこのみやき?」
「元気いっぱいになる食べ物だよ♪」
「それはすごいものね!」
 契約して間もなく、不安定だった時期。
 元気のない千尋に、社が作ってくれたお好み焼き。
「すっごく美味しいんだー」
 だから笑顔になって、もっと食べたくなって。
「しあわせになるよ!」
「♪ たのしみ!」
 それをクロエと共有したいのだ。


「ボクはおはぎを持ってきましたよぉ〜☆」
 社がキッチンに行ってお好み焼きを作っている最中、寺美は持参した重箱を机にどーんと置いた。
「めでたい時はおはぎ! ボクの大好物ですぅ〜♪」
「お好み焼きにおはぎって……どんなパーティやねん」
 調理中にも関わらず社がツッコんでくるが、気にしない。
 おはぎは良いものなのだ。
 甘みのバランス、食感、すべて良い。
 なので、リンスに振る舞うより先にもぐもぐと食べてしまっていても、しょうがない。
「リンスさんもどうです〜?」
「いただきます」
 促されておはぎを取って、食べたリンスが「あ、美味しい」と小さくこぼす。
「おはぎって美味しんだ」
「はい♪ ボク、おはぎだーいすきなんです☆」
「ほらっ! おはぎもええけど超お好み焼きも出来たでぇー! どんどん焼くからどんどん食べー!」
「ちーちゃん、持ってきたよー!」
「もってきたのー!」
 社の声に続いて、千尋とクロエがお好み焼きの乗った皿を運んできた。
 ソースとマヨネーズの香り。熱で踊るかつおぶし。立ち上る湯気。なんとも美味しそうである。
「日下部はー?」
「もう枚数焼いてから行くー!」
「じゃあ先にいただいてますぅ♪」
 箸と皿を配って、お好み焼きを適当な大きさに切り分けて、食べる。
 千尋とクロエがあーんとし合っているのが、見ていてとても微笑ましい。
「ねえ、リンスさん。やっぱり家族って、いいものですね」
 突然の寺美の言葉に、リンスはお好み焼きを食んだまま疑問符を浮かべていた。
「クリスマスってそういうことを再確認出来る気がしますぅ♪」
 笑顔があって、楽しく過ごせて。
 だからみんなしあわせで。
 好きな人が、大切な人が楽しそうでしあわせそうだから、こっちまでしあわせになってきて。
 そんな素敵な連鎖。
「そうだね」
 頷いたリンスの顔にも、柔らかな笑顔。
 ――あ。
「リンスさんが笑いましたぁ!」
「何ィ!? リンぷーの鉄面皮がどうやって崩れたんや!?」
「大きく騒ぐことでもないでしょ。俺だって笑ったりするよ」
「あああもう鉄面皮に戻ってるやないか! 寺美、写メとかは!?」
「な、ないですぅ! 驚きのあまりうっかりでしたぁ……!」
 痛恨。と頭を抱えると、「そんなに貴重? わりと笑うようになったと思うんだけど……」と当事者のコメント。
「……ま! すぐ俺が笑わしたるけどな!」
 悔し紛れ半分、本音半分の社の言葉に、
「楽しみにしておくよ」
 意地悪そうとか、不敵そうにリンスが言ってみせて。
 家族もいいけど、友達もいいなあと寺美は思うのだった。


 Qは静かにケーキを引っ込めた。
 お好み焼きとおはぎ? それのどこがクリスマスだ。
 そうやって、社と寺美に対し、やれやれと思って持ってきた、ケーキ。
「美味しいね!」
「おいしい!」
 だけど、千尋も、その友達も笑っているから、きっとあれでよかったのだ。
「千尋様が楽しそうにしてるのが、我にとっての一番デース♪」
 おどけて明るく言ってみる。
 と、千尋の友達と目が合った。首を傾げている。それから千尋に耳打ちしだした。
 何を喋っているのだろうと思ったら、
「Qちゃん!」
 千尋に名前を呼ばれた。
「ハーイ! 千尋様、どうしました? 何かお困りデースカ?」
「Qちゃん、ケーキ持って来たって、本当?」
 見られていたのか。
 でも、今気付いたという様子だから、気付いたのは千尋の友達の方か。
 ――さすが、千尋様の友達デース。
「ちーちゃん、お好み焼きもおはぎも好きだけど、ケーキもすきだよ! いちごの乗ったショートケーキ、大好き!」
「! 我が用意したのは、ショートケーキデース!」
「♪♪」
 ばんざい! と喜ぶ千尋。
 それを見て、千尋の友達も動きを真似ていた。
「切り分けてあげマース」
 別の皿に盛り付けて、二人に渡す。
 さっきお好み焼きを食べさせ合っていたように、ケーキも食べさせ合う二人は見ていて羨ましい、もとい微笑ましい。
 ――さっきよりも、しあわせだったら。
 いいデスねー、とQは思うのだった。


「そうだ! クロエちゃんにプレゼントがあるのー!」
 ケーキも食べて、千尋は言う。
 クロエに渡すは、一枚のクリスマスカード。
 メッセージカードで、内容は開いて見ないとわからないようになっている。
「後で読んでね!」
 だって、今は恥ずかしいから。
 言い逃げするように社の方へ走って行くと、社はなんだかいつもより難しい顔をしていた。
「あ〜。あのな? あの、リンぷー」
 声にも自信がないというか、いつもの感じとは違う。
「クリスマスの人形ってまだあるか?」
「うん」
「その……なんや。まだプレゼント渡しとらんかった人がおったんで、な」
 誰だろう?
 千尋は首を傾げる。
 寺美も千尋も、そしてQも、朝起きてすぐに「メリークリスマス! 社サンタからのプレゼントや!」と、プレゼントはもらっていた。
「せっかくのクリスマスやし、こういう機会でもないとなかなか、な」
「……ふーん?」
 目線を逸らしたりしている社に対して、リンスは少し楽しそうに、薄く薄く笑っていた。
「な、なんやねん」
「べっつに?」
「〜〜っ、あーも、だから綺麗にラッピングしてぇや!?」
「勿論。俺は友達の恋を応援するよ」
「ホンマかいな。……ってバレとる!? なんで!」
「見た感じで」
「ば、バレバレか……」
 どうやら社は恋をしているらしい。
 ひょんなことで知ってしまった。
 どうしよう?
 寺美を見ると、口に指を当てていた。しーっ、ということだろうか?
 ――うん。
 社に知っていることを言ったら、あたふたしてしまうだろうし。
 ――ちーちゃん、そっと応援するよ!
 そう、心に留めるまでに。