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はっぴーめりーくりすます。

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はっぴーめりーくりすます。
はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。

リアクション



7.遠いあの人に想いを馳せて。


「どうしてかなあ?」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、ぽつりと呟く。
「どうして、ああなっちゃったんだろう」
 つい先日行われた、新女王アイシャの戴冠式。
 その日、美羽はアイリスと戦った。
 ネフェルティティを救出するために。戴冠式を成功させるために。
 勝利は美羽たち西シャンバラにあり、こうして今があるのだけれど。
「瀬蓮ちゃんとアイリスが、シャンバラを出て行っちゃったよ」
 心機一転、明るくなった人々とは対照的に、美羽は塞ぎこむようになった。
 とはいえ、普段は明るく元気にやっているけれど。
 ここでは、無理をしなくていいと言われたから。
「ねえ、リンス。どうしてかな?」
 問いかける。
 リンスは答えない。静かに話を聴いているだけだ。
 美羽は言葉を続ける。
「私、アイリスと戦いたくなかった」
 だって、親友の、大切なパートナーなんだ。
 仲良くしたかった。仲良くしていたかった。
「それに、瀬蓮ちゃんもアイリスも、百合園で穏やかに過ごすことを望んでいたのに……」
 去ってしまった。
 シャンバラから。
 行ってしまった。
 遠いかの地へ。
「会えなくなったわけじゃない……って、わかってるんだけどね。だけど、あはは。
 ……辛いなあ」
 死んでしまったわけではない。
 いつか会えるはず、きっと会えるはず。
 それでも、辛いものは辛いのだと。
「わかってる小鳥遊に言うべきことではないかもしれないけれど」
 それまで静かだったリンスが、不意に口を開く。
「会えなくなったわけじゃない。そうでしょ?」
「……だけど、」
「会える可能性がゼロになったわけじゃない。ってことはさ、まだ変えられるかもしれないでしょ。伝えることはできるでしょ。
 会えなくなってしまった人は、思い出に変わるだけだけど。会える人とは、まだ何かができるはずなんだ」
 その言葉は、誰に向けて言ったのだろう?
 美羽よりも、どこか遠くの誰かを見ているようだった。


 瀬蓮とアイリスがシャンバラを去ったことは、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)にとっても酷くショックな出来事で。
 落ち込む美羽に、上手く言葉をかけられないままだったけれど。
「今日はクリスマスですからね」
 せめて、楽しんでもらいたい。笑顔になってもらいたい。
 それがベアトリーチェのやる気になった。
 美羽を励ましたい。今日を楽しく過ごしてほしい。すぐにじゃなくていいから、またあの元気な笑顔を見せてほしい。
 だから、ベアトリーチェは頑張る。
「今日はクリスマスプティングを作りますよ」
 料理で人を、笑顔にする。
「はいっ、せんせぇ!」
 クロエを生徒に、ケーキを作るのだ。
 生パン粉、スパイス、たっぷりのドライフルーツ。ケンネ脂と砂糖を入れて、卵を混ぜる。
「すいぶん、おおいのね。べちゃー?」
「ええ。ですので、小麦粉を入れてくださいますか? 大匙1で」
「こむぎこ! はいっ」
 言われる通りにクロエが小麦粉を入れる。
「小麦粉が水分を吸って、つなぎになってくれるから。まとまるんですよ」
 ベアトリーチェの言うとおり。
 べちゃっとしていた生地はまとまり、なじんだ。生地の完成である。
 器に入れて、コンロに乗せて弱火にして。
「こうやって蒸して、本来なら熟成させるんですけれど」
 作ろうと思い至ったのが、生憎今日だったためそれは無理である。
「でもでも、おいしそうだわ」
 クロエがそう言って目を輝かせているから、まあいいか。
「もうしばらくしてから、切り分けましょうね」
 優しく言って、工房に戻った。


 さて、美羽がリンスに相談し、ベアトリーチェがクロエと共にケーキを作っている頃に。
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は、店の中を見て回っていた。
 美羽はあまり弱味を見せたがらないから、自分が傍に居ては相談の妨げになりそうだったし、料理をしない自分がキッチンで調理風景を見ているのもどうかと思って。
 様々な人形が、棚に並んでいた。
 動物を模した人形や、球体関節人形。編みぐるみもある。人形作成キットや、作り方の本まで。
 入口の近くには、クリスマス仕様の人形が飾られていた。コハクは歩み寄る。
 ――あ。
 その中でふたつ、目についた。
 それは二頭身の、デフォルメされた女の子のぬいぐるみ。
 ひとつは美羽に似た人形。そしてもうひとつは瀬蓮に似た人形。
 なんとなくそれを手にとって、そのふたつの人形の手を繋がせてみた。
 コハクが手を離しても、ふたりの人形は手を繋いだままだった。
 ――美羽さんにあげれば、喜ぶかな。
 そっと抱きあげて、リンスの許へ向かう。丁度相談も一区切りついたようだ。
「あの」
「ん?」
「これ、」
 プレゼント用にラッピングしてほしい、だなんて、プレゼントしたい本人を前にしては言いづらい。
 口ごもっていると気付いてもらえたらしく、リンスが立ち上がった。更に丁度良く、ケーキ作りが一段落したようでベアトリーチェとクロエがキッチンから戻ってきた。美羽を一人きりにさせずに済む。
「小鳥遊のこと」
 ラッピングしながら、リンスが呟いた。
「よく見ててね」
 頑張り屋さんだから、と。
「もちろんです」
 ――僕にだって。
 ――僕にだって、できることがきっとあるはずだ。
 それが美羽を支えることなのか、守ることなのか、それとも剣となることなのか、まだわからないけれど。
 彼女の為に何かしたいとは、常々思っているから。
「ならよかった」
 綺麗にラッピングされたぬいぐるみを受け取って、コハクは微笑む。


「焼けましたよー」
 キッチンに引っ込んだベアトリーチェが、綺麗に焼き上がったケーキを持って戻ってきた。テーブルの上で切り分けはじめる。
「コハクさん、他の方々にも配ってきていただけますか? みんなに振る舞いたいですから」
「はいっ!」
 皿に乗せたケーキを持って、コハクが工房を回って。
「美羽さんには、はい」
 はい、と言いながら、ベアトリーチェは美羽に皿を渡してくれなかった。
 代わりに渡されたのが、クロエだ。
「あーん、なのよ! みわおねぇちゃん!」
 にっこり笑って、ケーキを差し出してくる。
「リンスもなの!」
 おまけに二刀流で、もう片方はリンスに向けられていた。
「お行儀が良くないね、クロエ」
「いいの! こうすれば、ふたりいっしょににこにこなんだから!」
 リンスが、やれやれと言った感じで息を吐いて美羽に視線を向けて来た。
 どうする? と言いたげだ。
「じゃあ、いちにのさんで一緒にいただきます、だね」 
「あーんってさ、ちょっとだけ恥ずかしいよね」
「しらないもーん。ほら、いちにのさんっ」
 で、いただきます。
 同時にケーキをぱくりと頬張り。
「っ、美味しい! ねえ、美味しいよ、ベアトリーチェ、クロエ!」
「うん。フルーツ? いっぱい入ってる」
 今度は私から! と、お皿とフォークを受け取って。
「必殺、あーん二刀流返し!」
 クロエの真似をしてみた。
 ベアトリーチェとクロエが一緒に食みにきてくれたのが、嬉しい。
「お渡ししてきまし……って、みんな先に食べちゃったんですかぁ?」
「はい、コハク、あーん」
「えっ、あーんって、美羽さん」
 ためらいがちなコハクにもあーんして。
 気付けば皿の上のケーキは無くなっていた。
「美味しかったね」
「はい。我ながら上出来でしたね」
「ベアトリーチェおねぇちゃんは、せんせぇだからすごいのよ!」
「美羽さんにあーんされちゃった……」
 リンスが、ベアトリーチェが、クロエが、コハクが、それぞれ笑顔で。
 ――ああ。
 美羽はふっと気付く。
 ――私には、護るものが、たくさんある。
 それはここにあるみんなの笑顔。
 護るものがあるということは、時に誰かとぶつかってしまうということ。
 それがたまたま……今回は大切な人だった。大事な人と、ぶつかってしまった。
 ――だけど、これからも、私は。
 護りたいものがあるから、そのために戦うのだろう。
 その護りたいもののなかには、瀬蓮の笑顔も入っていた。


*...***...*


「クリスマスイブだしなあ……そりゃそうか」
 と匿名 某(とくな・なにがし)は呟く。
 一年に一度、それも最後のリア充爆発イベント、クリスマスイブ。
「賑わってますわね〜……」
 隣を歩く結崎 綾耶(ゆうざき・あや)も頷いた。
「クリスマスイブですものね。活気付いてますわ」
「主にカップルでな。こりゃ爆発させたくもなるってか」
「爆発はともかく、ちょっと羨ましいです」
「爆発してくるか?」
「いいえ! 今日は用事の方が大事ですから」
 そうか、と呟きつつ、カップルを尻目に街外れへ歩いて行く。
 目指すは郊外、人形工房。
 この日の為に発注しておいた人形を受け取りに来たのだ。


「すいませ〜ん。人形の発注をした者ですけど〜……」
 ドアを叩き、声をかけ、それからひょこりと顔を覗かせる。
「いらっしゃいませ! めりーくりすます!」
 すると、やや舌ったらずな元気の良い少女の声に出迎えられた。それに続いて、「いらっしゃい」無愛想な声。無愛想な方が店主のリンスだろう。
 おずおずと工房に足を踏み入れると同時、リンスが椅子から立ちあがった。棚に向かい、人形を取り出す。
「はい、依頼の品」
「お、」
 受け取って、思わず声が出た。
 親友達を模したデフォルメ人形。目は○で、口はない、けれどそれぞれが特徴をついていてどれが誰だかすぐにわかった。
 だからこそ妙な愛嬌があって、おかしく感じる。
「はぁ〜、結構似てるもんだ〜……」
 人形を作ってもらおうと思い、発注の手紙を書く際に写真も同封したとはいえ、本当によく似ている。
「……そういえば、パラミタに来てからもう一年なんだよなぁ……」
 思わず、この一年間あった思い出を振り返ってしまうほどに。
 面白そうだから。たったそれだけの理由でパラミタにやってきた。
 そこで、偶然だったのか必然だったのか、出会った親友達。
 最初は、無数にある個という存在だったのに、今ではかけがえのない存在になった人達。
 今は色々な理由で離れ離れになってしまっているけれど、先日あった戴冠式のおかげでシャンバラもようやく統一され、今ならもう争うことはないだろうし。
 つまり、また笑って集まれる時が来るということであって。
 それがいつかはわからないけれど。
 きっと、遠い未来ではない。
 久し振りなんて言わないで、これまでの月日なんて無視して笑い合うのだろう。
 その日が早く来ますように、なんて願うのは、七夕でもないのにおかしいことか。
「……はっ」
 思考が一段落して、ここが店の中だと言うことを思い出した。
 店の中でこんな、しんみりと物想いに耽ったら迷惑になる。用事が終わったならとっとと出て行かないと。
 某は慌てて財布を出した。何枚か紙幣を抜きとって、机の上に置く。
「す、すいません! 代金、置いときますんで!
 それじゃあ、良いクリスマスを!」
 そのまま綾耶の手を引いて、工房を後にした。


「綾耶も人形、作ってもらったんだな」
「はい」
 綾耶が持っていたのは、某と同じく親友達の人形。
 それから自分に似せた人形。
「そっち、どうするんだ? 自分の人形なんて」
 首を傾げる某に対し、綾耶がふるふると首を横に振る。
「これも、贈る子がちゃんと居るんです」
 だから大丈夫です、とにこり。
 そうか、と頷き、人形を見る。
 自分の分を、綾耶の分を。
「今は何をしているんだろうな」
「寒くなりましたし……お風邪を召してなければ良いのですけど」
 遠くの空に、視線を向ける。
 あいつらも、この空の下。
 どこかでこうして思いだしてくれているのかな、なんて。