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マレーナさんと僕(1回目/全3回)

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マレーナさんと僕(1回目/全3回)

リアクション

 
 ■
 
 その、受験真っ只中な1人。
 
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は管理人室にパートナー達を呼び、アレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)の教育に手間暇をかけていた。
 そう、お受験を控えているのは、リカインではなく、いかついアレックス。
 メインな家庭教師はサンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)だ。
 
 ちなみになぜ管理人室なのかといえば。
 受験生達のためにマレーナが、一時「自習部屋」として開放したためである。
「という訳で。
 管理人さんのご配慮に報いるためにも、ビシビシ行くわよ!」
 バンッ。
 医学部の教科書、工学部の教科書、法学部の教科書、保健体育の教科書、家庭科の教科書、社会科の教科書を机に置き、アレックスを睨みつける。
 傍で数学の教科書と国語の教科書を携えているのは、リカインだ。
「ふぅ、数学は今終わったからいいとして……」
「私がパラミタの歴史を教えるもん!」
 サンドラは胸を張る。
「何? 歴史か?
 ならば私も力添え致そう!」
 横合いから口を挟んだのは、湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)
「答え合わせは、パートナーが行うでな。
 手間もかかるまい」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)を顧みる。
 家庭教師然として彼女は、下宿生達の添削に大わらわな様子だ。
 手元にあるのは「日本史」や「世界史」の問題集。
 だがことあるごとに威圧するあたり、「風紀」の取り締まりの方が課題のようだ。
 ともあれ。
「よかった、助かったぁ!! ランスロット」
 心強い味方の出現に、サンドラは胸をなでおろす。
「じゃ、この問題を解くのよ! 馬鹿兄貴」
「誰が馬鹿兄貴だよ!
 そっちだって大して変わらないだろ?!」
 アレックスはムキになって、問題を解き始める。
「ええーと、『1+1』は……」
「違いわ! それは『I+I』。つまりなぞなぞの基本。
 章題『パラミタのなぞなぞの歴史』で、『数学』ではなぁ――いっ!」
 バシバシバシッ!
 ランスロットの聖剣エクスカリバーが炸裂。
 アレックスはうつ伏せのまま動かなくなる!
「わっ! ヤッバァ!」
 ……と思いきや。
 うつ伏せのまま、グウグウと安らかな寝息が流れてくるではないか。
「起きてよねっ! このボケェ!」
 妹に教科書の束で叩かれ、アレックスは今度こそノックアウトされてしまった。
 
「やれやれですわね?」
 マレーナがリカインに茶を注ぐ。
 湯呑みを置いたのは、祥子だ。
「けれど、空大への道のりは、それは苦難の連続と聞き及びますわ。
 例えて言うのであれば……そう、あれは、野球のために、百合園女学院に出向いて七龍騎士の首を取ってくるようなもの」
「……それは、とてつもなく険しそうね? マレーナ君」
 ふふっと笑う。
 そのまま3人は談笑モードに入った。
 時に、とリカインは茶をすする。
「『ブライドオブシリーズ』について、何か御存じないかしら?」
 単刀直入に問うた。
「元最強の剣の花嫁――知らないはずはないでしょ?」
「無いものは、無いのでございますわ」
 マレーナは動じない。
 リカインの目を真摯に見つめて。
「時がくれば、皆様の前にまた姿を現すはずですわ。
 ドージェ様のお使いになったシックルも含めて」
 予感だろうが、確信に満ちた口調だった。
「ふぅーん、『時がくれば』ねぇ……」
 リカインはさらに問いかけようとして、部屋の隅に視点を転じた。
「よろず相談処」という名目の下、空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)が下宿生達の悩みを親身に聞いている。

「ふぅーむ、そうすると……あなたはこの下宿の見取り図が欲しい訳ですか?」
「ああ、持ってねぇか? 旦那ぁ!
 ここに住んでんだろ?」
 へっへっへ、と揉み手をするのは悠司。
「しかし、なぜ所望するのです?」
「ああ。俺、ここに住みてぇんだけど。
 ひと旗あげないとさ、名目が立たねぇだろ?」
「ん? ということは、あなたはまだここの下宿生ではない、ということで?」
「まぁ、予定はあるんだがな、ハハハ……」
 悠司は曖昧に笑う。
(不穏な者共が潜り込んでないか、と開いた「よろず相談処」でありましたが……)
 ふむ、と狐樹廊は両眼を細める。
(……早速当たりクジをひいたやもしれませんね。
 結果は「Scene5.女風呂襲撃」にて。こうご期待です!)
 
「ところで、マレーナ」
 祥子の言で、リカインは現実に引き戻された。
「キヨシの事、どう思っている訳?」
「キヨシ……後田キヨシさんでしょうか?」
 どうと言われましても、とマレーナは首を傾げる。
「頼りなさそうな学生さんですわね?
 パラ実生には珍しいと申し上げますか、それ以上の事は……」
「そうじゃなくって。
 入試とか、合格発表の時、どうするつもりなの? てこと」
 マレーナは不思議そうに小首を傾げる。
 だからぁ、と祥子は軽く手を握った。
「ここの管理人なんでしょ?
 だったら、最後まで面倒見なくちゃ。
 合格発表の時はちゃんと空京に行きましょう!
 最初に喜びを分かち合えるようにね?」
 ああ、と目をしばたたかせるマレーナを呆れ顔で見つめて、だが。
「私も一緒だからね!」
 祥子はマレーナを安心させるために、軽くハグした。
「これからよろしくね、マレーナ。
 出来れば、呼び捨ててくれると嬉しいかな」
「では、祥子。
 こちらこそお願いしますわ。下宿生達の学力アップも」
 マレーナは穏やかに微笑んだ。
 
 こうして管理人室の受験生達は、夕食まで真面目に勉学に勤しめたようだ。