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マレーナさんと僕(1回目/全3回)

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マレーナさんと僕(1回目/全3回)

リアクション

 
 Scene5.女風呂襲撃
 
 
 女風呂の襲撃! の噂に対して、夜露死苦荘の面々が手をこまねいていた訳ではない。
 
 時系列的に見て行こう!
 
 まずは、昼前。
 閃崎 静麻(せんざき・しずま)は、レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)神曲 プルガトーリオ(しんきょく・ぷるがとーりお)を伴い、浴場周辺で地質調査に当たっていた。
(くそ!
 温泉掘って!
 馬鹿騒ぎしてやるさ!)
 のぞきぃ! と強く念じる。
 要するに、日頃のうっぷんを晴らしたいだけの静麻なのであった。
「シャンバラ荒野なら、火山の『アトラスの傷跡』がある。
 温泉が湧き出してもおかしなねぇだろ?」
 より多くの女共を下宿に引きつけるためにも、「温泉」に勝るものはない!
 だが表立っては、こう述べた。
「受験勉強をしようにも、環境が悪ければ効率が落ちるだろ?」
 優等生のレイナは主人に実に忠実だ。
「なるほど。
 確かに勉強の疲れを温泉でじっくり癒せれば効率が高まりそうです
 全力で頑張りましょう! 静麻」
「地質学関連や温泉に関する本も、持ってきたよーっ!」
 プルガトーリオも無邪気に協力する。
 本の裏に「後田キヨシ」の名が書かれてあったのは気になったが。
「細かいことを気にしないのが、パラ実だよ!」
 うきうきしつつ、調査用の穴を次々と掘って行く……。
 
 ……そして彼女達のデーターを基に、夕刻。
 1人部屋にこもり、「温泉付き露天風呂(女性用)」設計図なるものを黙々と作成する静麻なのであった。
「よし!
 ×印も付けたし!
 これで、のぞき用の女風呂改築計画はカンペキだぜ!!」
 彼の壮大な計画は第2回へ。
 パートナー達のあわれな末路は後程へと続く。
 
 彼等の掘り返した穴を、こっそりとトラッパーを使って罠に変えていく人影があった。
 司である。
「発掘もなしに、バイクの修理だけでは、つまんないですからねー」
 えいっ! とばかりに落とし穴地帯を作り上げていく。
 試しに石を落としてみた。
 
 ひゅううううううううううう……ポンッ。
 
「なんだか深そうですね?
 ま、温泉掘削じゃ、仕方ないですか?」
 はっはっはー、しーらないっと。
 くわえ煙草を吹かしつつ、その場から立ち去る。
 司はその後マレーナが開いた親睦会に出席するため、このことはすっかり忘れてしまうのであった。
 
 一方で、カツアゲ隊東シャンバラ支部の面々も、着々と計画を実行に移していた。
 
「まずは、おっぱいどものアジトの見取り図だぜぇ!」
 おーっ!
 時の声を上げて、子分どもが拳を振り上げた。
 彼らにとって、マレーナの下宿は「おっぱいいっぱいのお風呂場」に過ぎないようだ。
 次いで、自分達の貧相なアジトを見やる。
「女どもを売り飛ばすぞ!
 アジトも『ごーじゃす』に造り変えてやるぜぇ」
 おおっ!!
 どよめきを持って、子分達は答える。
 
 日比谷 皐月(ひびや・さつき)高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)が現れたのは、そんな時分だった。
 
「よお、皐月! てめぇもか?」
「ん? 俺は襲撃じゃなくて『のぞき』だよん♪
 て、おまえは……それにその写真?」
「ああ、これか?」
 悠司は「女湯」の写真を手に持っている。
 タオルを巻いた後ろ姿の女は、どー見てもパートナーのレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)だ。
「お、おおおおおおおおまっ!
 おおおおおおおおおおお、女風呂にはいったのかよっ!」
「……偵察しなきゃしょーかねぇだろ?」
 悠司はその写真で、カツアゲ隊から信頼され、舎弟になれたのであった。
「すげぇ度胸だ! おめー。
 あ……と、その懐のはひょっとして!!」
「あ、これ?
 風呂場の見取り図だけど、必要?」
 スッと紙を渡す。
 そこには、浴場外側の衝立の位置、ドラム缶風呂の配置、更衣室の位置などが記されていた。
「へ、助かったぜ!
 よし、テメーは俺の傍にいろ!」
「いや、先陣切らせてもらうさ! 子分だろ?」
「そっか、じゃ、一番初めにイイコトしちまいなだぜぇ! ヒャッハァー!」
「ヒャッハァー!」
 リーダーに調子を合わせつつ、悠司は内心舌を出していた。
(悪ぃな、旦那。
 全部ソートグラフィーで撮った奴なんだよ。
 ホントはそれ、男風呂の上に、裸のレティシアも嘘なのさ……)

 一方の皐月はE級四天王だが、「E級」ではコンビニリーダーくらいのカリスマ性しかない。
 そんなわけで、幾人かの隊員達の心を動かしたかに過ぎなかった。
「いいか。
 女風呂は『襲撃』じゃねぇ! 『のぞき』さ。
 男が乗り越えるべき壁で、『漢』になる為の儀式だぁっ!」
 と。
 
 かくして、夕暮れ時。
 カツアゲ隊東シャンバラ支部の面々は、一斉に夜露死苦荘目掛けて大移動をはじめたのであった。
 
 だがその動きをいち早く察知したものがいる。
 飛空艇で近くの町へ買い物に出かけていた、七刀 切(しちとう・きり)だ。
「マレーナさん、マレーナさん……管理人さんっ!
 あなたのお役に立てて、ワイは嬉しいですぅ!」
 ボランティアだけど、と買い物袋の中身を点検していた時、殺気看破が反応したのだった。
「あんだぁ? こんな何もない荒野に、殺気ですかぃ?」
 物騒な、と思いつつ、下界を眺める。
 夜露死苦荘からやや離れた洞穴を起点に、下宿目掛けて砂煙が上がっていた。
 ヒャッハァー! いう雄叫びも聞こえる。
「……てことは、カツアゲ隊じゃ!?」
 マズイですよぉ!
 マレーナさぁん!!
 切は慌てて、下宿目掛けて猛スピードで急降下したのであった。
 
 夜露死苦荘全体に「カツアゲ隊」の動きは報告されてしまった。
 だが、夜は来る。
 カツアゲ隊はどこぞに隠れてしまったのか、暗くなっても下宿近くに姿を見せない。
「このままというのも、気の毒ですわね……」
 マレーナは傍の人々に目を向けた。
 手伝いの者が大半だったが、今日は「親睦会」のせいもあって雑事が多かった。
「かような風体。
 お風呂にでも入って頂かなければ、申し訳ないですわね?」
 マレーナの一言で、女風呂への入浴は決行されることとなった。
「皆様、ただしよくよく注意されるのですよ?
 この辺りのカツアゲ隊は、それは女子供に容赦ないと聞き及びますから」
 はぁいっ! と元気な声が響き渡って、女達は浴場への移動を開始する。
「マレーナさん!」
 切はセキュリティの特技を使い、風呂場の問題点を指摘する。
「ようするに、穴だらけなんで。
 改築した方がいいって、訳ですねぇ」
 160センチの大太刀の形状をした光条兵器を出して。
「本当はねぇ。
 こいつで、カツアゲ隊共を一網打尽にしてやりたいんですけどねぇ」
 はぁ、と溜め息。
「女どもの迷惑になりそうですしねぇ」
「ありがとうございます、切さん。
 大丈夫、私達で何とかしますわ」
 マレーナは丁寧に礼を述べる。
 ふと帳簿付けを頼んでから、後を追うのであった。
「財産管理を持つあなたにしか、頼めないことですわ。
 無事帰ってまいりましたら、本日の帳簿付けを手伝って下さいませ」
「へいへい、マレーナさん♪」
 有事の中、頼りにされてニヤける切なのであった。