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リアクション
グラップラーvsネクロマンサー
一部、観客が御開帳見に行ったりもしたが、リングではトーナメントが続けられていた。
人数的にはグラップラー側が多いのだが、彼らはネクロマンサー側に軽い態度は見せなかった。
「準備はいいね──始め!」
菊の合図の直後、リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)と四谷 大助(しや・だいすけ)が力強く駆け出す。
リュースはエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)へ、大助は緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)へそれぞれ先制攻撃を仕掛けた。
先の試合同様、エッツェルは避けるということを知らないかのように、リュースの拳や蹴りを受けながら剣を繰り出してくる。
それだけでも相手を気味悪がらせるには充分だ。
リュースもやりにくさを感じざるをえない。
水平に薙いだエッツェルの剣をかがんで避けると、バーストダッシュで瞬時に詰め寄り下から突き上げるように鳳凰の拳を打ち込む。
のけぞって宙に浮くエッツェルは、しかしリングに背を打つことなく屍骸翼シャンタクを広げ、ふわりと舞い上がった。
その傍からリジェネーションでじょじょに傷がふさがっていく。
「いや、これはさすがになかなか治りませんね……」
口の端の血を拭いながら笑みを作るものだから、攻撃が効いているのかどうかよくわからない。
エッツェルの放った罪と死と、リュースの等活地獄は空中で衝突し黒い爆発を起こした。
遙遠はレイスを盾に大助の初手をかわすと、アボミネーションで彼の足を止めようと試みた。
一瞬、見えない壁にぶつかったように動きを止めた大助だったが、携帯していた勇士の薬がショックをやわらげてくれたようで、遙遠が期待したほどの時間稼ぎとはいかなかった。
けれど彼が闇術を放つ準備を整えるには充分な時間だった。
手の中でかためた闇を解き放ち、逃げ道をふさぐようにレイスやスケルトンに囲ませる。
大助は等活地獄で周りのアンデットを蹴散らすほうを選び、闇術のダメージを覚悟した。
エッツェルの罪と死の二段攻撃に吹き飛ばされたリュースを受け止めたのはラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)だった。
リュースはラルクに何事か告げたが、彼はそれに苦笑する。
「使えねぇもんは仕方ねぇだろ。とことんやるまでだ」
リュースはエッツェルの弱点を見つけたのだが、残念だが仲間の中にそこを突ける技を持った者はいなかった。
「まずは、あいつを引きずりおろしてこねぇとな!」
ラルクはプロミネンストリックで宙を駆け上がり、リュースは闇術を受けて膝を着く大助のもとへ走った。
迎え撃つエッツェルはグラップラー達をひとまとめに片付けてくれよう、と大魔弾『コキュートス』のための砲門を開く。
門から闇と冷気を纏った弾丸が放たれる前に門を破壊しようと、ラルクはいっそうプロミネンストリックを急がせた。
「オラァァァァッ!」
獣の咆哮のような雄叫びと同時にラルクの鳳凰の拳が繰り出され、静かに目を笑みの形に細めたエッツェルがコキュートスを撃つ。
炎と闇と氷がせめぎあい、エッツェルとラルクが飲み込まれていく。
コキュートスがリングを穿つことはなかったが、代わりに別のものが降ってきた。
遙遠の放った罪と死だ。
虚を突かれ、ハッと目を見開くリュースをエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が突き飛ばす。
上空の遙遠を気にしつつラルクの様子もうかがうエヴァルトの目に、下りるというより落ちる二つの影があった。
受け止めるのも間に合わず、リングに落下したのはエッツェルとラルクで、どちらも意識を失っていた。
エッツェルをみとめた時点で彼のところへ行こうとしていた遙遠もまた、間に合わなかった。
それに、そうなった別の理由もある。
背後にプロミネンストリックで上がってきた大助がいたからだ。
あーあ、と遙遠の口から小さなため息がもれる。
そして、ゆっくりと両手をあげると後ろの大助に向けて言った。
「ここまでですね……降参です」
最後までやるだろうと思っていた大助は、一瞬何を言われたのか飲み込めず聞き返してしまう。
クスッと笑った遙遠は、今度は体を大助に向けて「ここまでです」と告げた。
ようやく大助も構えていた拳を下ろす。
もともと遙遠はほんの暇つぶしの気分で参加した。エッツェルが戦闘不能となり、まだ戦えるグラップラー組を見て残念だけど勝算はないと見て、負けを認めたのだ。
二人がリングへ戻ると、菊がグラップラーの勝利を宣言し、すぐに救護班を呼んだ。
バトラーvsヘクススリンガー
魔法少女との試合を見ていた志位 大地(しい・だいち)は、とにかく的を絞らせないようにすることが肝要だと考えた。
そのためにとる作戦も沢渡 真言(さわたり・まこと)と椎名 真(しいな・まこと)に伝え、二人の考えとの擦り合わせもした。
一方、バトラーの戦い方を見てきた氷室 カイ(ひむろ・かい)も、対策を練っていた。
試合開始の合図の後、それらは起こった。
いっせいに銃を構えたカイ達の足元が、不意に掬われる。
リングに上がった時から真と真言がリング上に垂らしておいたものだ。
バランスを崩したカイに真が素早く詰め寄り、魔銃モービッド・エンジェルをその手から蹴り飛ばした。
容易には取りに行けないところまで飛ばされてしまったことに舌打ちしつつも、カイはお返しとばかりに奈落の鉄鎖で真を引き寄せ、妖刀村雨丸で斬りつけた。
籠手でそれを受け止めた真の腕が、ジンとしびれる。
大地は傾いた高性能 こたつ(こうせいのう・こたつ)の六連ミサイルポッドを刀で真っ二つにしてしまった。
「くはぁっ、何てことをしてくれるんですかっ」
「当たったら痛いでしょう」
さらにレーザーガトリングも潰そうとする大地だったが、これは白麻 戌子(しろま・いぬこ)の銃弾に阻止された。
真言もナラカの蜘蛛糸を絡ませて御弾 知恵子(みたま・ちえこ)の二丁の拳銃、魔銃カルネイジを切り裂こうとしたが、その前に知恵子が銃を引っ込めてしまい、うまくいかなかった。
しかし、真言は諦めずに知恵子に糸を向ける。
と、二人の間に突如、上から炎が吹きつけられてきた。
一人、ミルキーウェイで上空に飛んでいた志方 綾乃(しかた・あやの)のクロスファイアだ。
「今、あたいもろとも丸コゲにしようと……」
「そんなことするわけないじゃないですか」
「そうだよな、あはははは」
「そうですよ、ふふふふふ」
どこか白々しい笑い声が響く。
……なんてことをしている間に、知恵子の片方の手から銃が引き抜かれた。
アッと叫んだ時には、銃は真言の手の中。
「返せーっ」
知恵子の残った銃と、綾乃の両手の怯懦のカーマインにファイアヒールの四門が、真言に向けて一斉射撃を浴びせる。
真言はどうにかそれらから逃れたが、無傷とはいかず足に痛みと熱さを覚え、バランスを崩して転がった。
追撃の気配を感じた彼女は、糸を放射状に飛ばしてどうにか攻勢に回れるよう動く。
真言の狙い通り知恵子は追撃を阻止されたが、糸の隙間をうまく掻い潜り不安定な態勢の中でも照準を定めてトリガーを引いた。
機動力を欠きながらもなかなか仕留められない真言や、あの手この手で奮闘する真や大地達の士気をくじくため、
「志方ないですね……皆さん、ご武運を! こたつ!」
上空で仲間に言葉をおくった綾乃は、パートナーの名を呼んだ。
それだけで理解したのか、こたつから「了解です」の返答がくる。
そして、綾乃はクロスファイアの炎を降らせ、こたつはレーザーガトリングを薙ぎ払うように撃った。
「あんたやっぱり……!」
巻き込まれまいと転がるように避難する知恵子の叫びは、銃撃音にかき消された。
弾幕と巻き上がる砂埃で視界がふさがれる。
綾乃とこたつの一斉攻撃がやむと、リング上の両者は相手側の位置と動きを探ろうと神経を尖らせる。
合図があったわけではないが、それぞれが動いたのは同時だった。
知恵子の銃口は真言を捉えるが銃身にはナラカの糸が巻き付き、こたつと戌子は挟むように大地に銃を突きつけたが刀と無光剣の切っ先をあてられ、カイの刀は真の心臓を一突きできる位置に押し当てられているが、その首にはナラカの蜘蛛糸が巻きついている。
綾乃は上空でどうしたものかと彼らを見守る。
──と、真言、大地、真が膝の力が抜けたようにへたり込んだ。
三人は顔を見合わせると苦笑をもらし、代表して真が菊に言った。
「……降参です」
綾乃とこたつの一斉攻撃がそうとう堪えていたようで。
だがそれは知恵子やカイ、戌子も同様だった。
菊がヘクススリンガーの勝ちを宣言した後、綾乃とこたつは三人からいろいろと言われることになったのだが、綾乃はにっこりと曇りのない笑顔で返した。
「仲間に当てるわけないじゃないですか」
もし、攻撃直前の呟きを聞かれていたら、何かしらの報復はあったかもしれないが、幸いそれを聞いた者はいなかった。
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