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種もみ剣士最強伝説!

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種もみ剣士最強伝説!
種もみ剣士最強伝説! 種もみ剣士最強伝説!

リアクション



バトラーvs忍者


 ガガが宣伝した通り、アンジュのゴスロリ衣装に着替え化粧もそれに似合ったものに直した卑弥呼が、リングをステージ代わりに何曲か歌い、場を和ませた。
 菊からの合図でマイクを下ろし客席へ向けて礼をすると、今度は一変して司会者の顔になる。
「さあ、お腹もくちくなったところで中盤戦です!」
 三人のバトラーと対峙する紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は、どう攻めようかと思案していた。
 これはバトラー達も同じだ。
 先の試合を見て、唯斗の動きが速いことはわかっている。どこかで足を止めないと、こちらの攻撃は掠りもしないだろう。
「さて、どうしましょうかね。おそらく速攻で来るとは思いますが……」
 志位 大地(しい・だいち)の呟きは、ある意味唯斗のものでもある。彼も、先の試合から大地達の息の合った連携には注意が必要だと思っていた。
「両者とも準備はいいかい?」
 菊の視線に双方は頷き返し、試合は始まった。

 始まりの合図と同時に唯斗が大地に急接近する。
 自分の体で出所を隠したアサシンソードを突き出すが、大地はほとんど勘で刀で凌ぐ。
 そして、椎名 真(しいな・まこと)が加勢してくる前に唯斗は大地から離れた。
 すると次に沢渡 真言(さわたり・まこと)に視線を移し、同じように一瞬のうちに間近に迫る。
 目には目をではないが、真言はタイムウォーカーで唯斗の速さに対抗した。
 足元から斬り上げるような剣をナラカの蜘蛛糸で絡め取るように受ける。
 そのままアサシンソードを奪ってしまおうとするが、完全に糸が絡まる前に唯斗に剣を引っ込められてしまった。
 唯斗は真言が余裕を持って自分の攻撃を受け止めたことがわかると、流星のアンクレットの効力にさらに千里走りの術を加えた。
 急加速した唯斗の連撃に真言は何とかついていったが、じょじょに押されていく。
「沢渡さんっ」
 真もタイムウォーカーの力を借り、唯斗を止めようとナラカの蜘蛛糸を操った。
 鋭く投げられた糸が唯斗の武器を持つ手を刺し貫こうと飛ばされる。
 すでに真言へ攻撃の動きに移っていた唯斗だったが、無理矢理腕の動きを捻じ曲げた。
 その時、真言が煙幕ファンデーションで辺り一面粉だらけにする。まるで霧に包まれたようだ。
 どこから攻撃が来るかと、唯斗は気配を探る。
 そして感じ取ると、一種の賭けに出た。視界の悪さを逆に利用してやろう、と。
 使える手段全てを用い、彼は自身のスピードを限界まで引き上げた。
 その結果、観客からはリング上にいるはずの人数よりも、もっと多くの人がいるように見えたのだ。
「何だ? モヒカンが乱入したのか?」
「忍者が分裂したんじゃねえの?」
「馬鹿、それを言うなら分身だろ。アメーバじゃあるまいし」
 こんな会話があちこちで交わされた。
 偶然にもそれが耳に届いたプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)がクスッと笑う。
「分身ですって。正直呆れますが、どうせなら分裂までいってみてはどうです? 人類初の分裂、あなたならきっと」
「できませんから!」
 集中力が、切れてしまった。
 刹那、足に何かが絡まりバランスを崩す。
 唯斗の連続攻撃で地に伏しながらも諦めなかった真が、リングに張り巡らせたナラカの蜘蛛糸だ。一瞬の隙を見逃さず、糸を操ったのだった。
「クラス専用武器を得るのは、俺達だー!」
 真の大声と同時に体に衝撃を受け、唯斗はリングの外へ飛ばされた。
 尻もちをついた唯斗は、ジトッとした目で装備された魔鎧を見つめる。
 ひしひしと責めるような視線を感じるプラチナムは、ごまかし笑いをした後、人間形態になり脱兎の如く逃げ出したのだった。


モンクvsフェイタルリーパー


 四人のフェイタルリーパー相手に一人でどう戦うのか。
 観客達はこれから始まる試合に注目する。
 その答えは試合開始後、すぐに示された。
 風森 巽(かぜもり・たつみ)は、もっとも近い位置にいたウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)に踏み込み、拳や蹴りの巧みな連続攻撃を仕掛けた。
 ウィングはそれらをかわしたり受け流したりしながら、反撃の機会をうかがう。
 大きな技の多い自分達は、自分と仲間の位置をよく見ておかないと巻き込んでしまうことをわかっていたからだ。
 そのことは当然巽もわかっているので、ウィングが仲間から離れすぎないように注意した攻撃の仕方だった。
「それなら、挟み撃ちにするまでだ!」
 前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)が巽の後ろで立花を抜く。
 峰打ちにしようと大きく踏み込んだ時、巽はサッとウィングから離れた。
 振り下ろした刀はウィングを掠める寸前に風次郎自身が止めた。
 瞬間、横から何かの塊に突き飛ばされる。
 巽が放った遠当てだった。
「ふむ……」
 一筋縄ではいかないな、とウィングはハイアンドマイティを握り直す。
「一対多はヒーローには日常ですから」
「あの、その理屈でいくと私達は悪玉になるんですけど?」
「単なるたとえですよ」
 巽に悪気がないことは話し方からわかるので、安芸宮 和輝(あきみや・かずき)も気楽に返した。
 さらに。
「悪玉だろうが善玉だろうが、この勝負に勝つのは俺達だ!」
 闘志に燃える目でグレートソードを構える葛葉 翔(くずのは・しょう)
 巽はその通りだと短く笑う。
「さあ、まだまだいきますよ!」
 フェイタルリーパーの武器の特徴を逆手にとった、同士討ちを狙った巽に対し、彼らはスタンクラッシュを中心に攻めてきた。
 さすがというべきか、かすったくらいでは巽は倒れない。
 一方、巽の攻撃も決定打を与えるには至らなかった。
 意外にも長期戦になるのか、と観客は勝負の行く末をじっと見守る。
(気絶させるのが難しいなら、何とかして場外に……)
 では誰から?
 巽が決める前に和輝が轟雷閃による雷撃を放つ。
 とっさによけたそこが、黒く焦げた。
「一撃で終わりではありませんよ!」
 和輝は二度、三度と轟雷閃を連発する。
「いつまでも撃たせませんっ」
 巽は鎖十手で和輝の腕を絡め取ってしまおうと、技と技の間隙を縫って鋭く投げた。
 それは見事に和輝の両腕に巻き付き、彼はブロードアックスをうまく扱えなくなってしまった。
 巽が鎖を引っ張った時、背後に気配を感じた。
 彼は、負けを確信した。
「フッ。わかってたさ……ヒーローは職業じゃない、生き様だってことぐらい……!」
 風次郎のスタンクラッシュにより試合に負けた巽だが、彼の奮闘が観客に強く印象づけられたのは間違いない。


ウィザードvsヘクススリンガー


 この試合も一対多だが、試合の行方よりも観客が気になっていたことがある。
 ──あの魔法使いは、いつ魔法を使うのか。
 これまでの試合で呪文の詠唱は何度もしたが、肝心の魔法は見せていない。
 実はなんちゃって魔法使いではないのか……などと疑う者もちらほら出てきていた。
 そんな囁きに眉をひそめたのは、言われた緋桜 ケイ(ひおう・けい)ではなく、対戦相手側の御弾 知恵子(みたま・ちえこ)のほうだった。
「そんな細かいことどうでもいいじゃん」
「いや、細かくはないだろう。だが、魔法を使えないと決め付けるのは危険だ。注意は怠らないほうがいいな」
 氷室 カイ(ひむろ・かい)の冷静な意見に知恵子も仲間達も頷く。
 彼女が銃をくるりと回した時、試合開始が告げられた。

 魔銃モービッド・エンジェルをホルダーから抜き、白麻 戌子(しろま・いぬこ)がケイに挑発的な笑みを向ける。
「では、ボクが本当に魔法使いかどうか試してみようかー」
 言い終わらないうちにケイの足元へ数発撃つ。
 軽く後ろへ飛んでかわしたケイは、五人まとめて氷付けしてしまおうとブリザードの構えをみせた。
 と、光条兵器の大鎌を振り回し、戌子がケイに躍りかかる。
「なーんてね。本当だったら困るから、唱えさせる気はないのだよー」
「……くっ」
 首を狩られそうになるも、刀でそれを防ぐケイ。
 しばらく力比べになったが、ケイは戌子を蹴り飛ばして距離を稼いだ。
「おっと、魔法は使わせませんよ」
 高性能 こたつ(こうせいのう・こたつ)の六連ミサイルポットから、いっせいにミサイルが発射され放物線を描いて頭上からケイに降り注ぐ。
 それを見た戌子は思わず呟いた。
「ひょっとして、ボク一人くらい犠牲にしてもいいかなーなんて、思ってたり?」
「そんなことあるわけないじゃないですか!」
 さわやかなこたつの笑い声が不安を誘う。
 実際、こたつはそんなことは考えていない。
 ケイが離れるのを待っていたし、仮に手を出すにしても戌子ならうまく避けるだろうと思っていた。
 ミサイルの爆撃音と立ちこめる砂埃。
 こたつはケイの位置を探ろうとし──。
「おや? こたつ? 試合中に眠るとはどうしたことかねー」
 隣のこたつが突然寝息を立て始めたことに気づき、ぺしぺしと叩くが起きる様子はない。
 パートナーの志方 綾乃(しかた・あやの)の呼びかけも無視してぐうぐう眠りこけている。
 ようやく土煙が晴れると、刀とは反対の手に黒薔薇の銃を握り締めたケイが、
「当たったのか」
 と、薄く笑っていた。
 刀を持っていたほうの腕はミサイル攻撃にやられたのか、だらりとしていて動かないようだ。
「どうせなら、種もみ剣士のとこまでいかないとな」
「種もみ剣士……?」
 綾乃がピクリと表情を引きつらせる。
 そして、悔しさを搾り出すように恨み言を口にした。
「あの調子に乗っている奴らのことですね。何か役立つものを得られるかと期待して、来る日も来る日も修行に明け暮れ、限界を感じてもその先がきっとあるはず、と血の滲むような努力をしたというのに……他のクラスになったら、修行で得たものはまるで意味をなさない! この恨み、晴らさでおくべきか……!
 どろどろと、背後に般若を召喚する勢いでケイに迫る綾乃。
 しかし、ケイもケイで種もみ剣士には思うところがある。
「種もみ剣士には種もみ剣士のこだわりがあるんだろ。それより気になるのは救世主だ」
 ケイも綾乃にグッと顔を近づけ、気になっていたことを吐き出す。
「種もみ剣士一人につき最大八人まで呼べるって言うけど、例えば敵が一人だったとして、仮にも救世主と呼ばれる者が大勢で一人をフクロにするのか? 救世主って正義の味方だろ? 卑怯な手は好まないんじゃないのか!?」
 どうなの、と綾乃とケイは同時にみすみ達へ鋭い視線を向ける。
 みすみ達はいっせいに目をそらし、下手な口笛を吹いたりケータイゲームに夢中になっているふりをしたり、かなり無理をして返答を避けた。
 試合そっちのけで種もみ剣士について非難し始めた二人に、知恵子とカイは目を交し合いため息をつく。
 そして、戌子が足音もさせずにケイの背後へ回り込み、後頭部に銃口を押し当てた。
「隙ありなのだー」
 ハッと我に返った時にはもう遅く。
「そこまで!」
 苦笑気味の菊の声が、苦くケイの耳を打った。