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リアクション
トーナメント観戦、のはずが……
「うーん、あのヘリウム声がまだ残ってるよー……。爺ちゃんはどう?」
「おお、心にズシーンとくる歌じゃったのぅ」
「そうだねー。いろんな意味でズシーンだったねー」
「それより噂の種もみの塔とは何じゃ?」
心へのズシーンをあっさり忘れた調子で、ディ・スク(でぃ・すく)は佐伯 梓(さえき・あずさ)に尋ねた。
梓はディに誘われてトーナメント観戦に来たはずなのだが、誘った本人はそのことを忘れているのか、まるで梓に連れてこられたかのように振舞っている。
忘れっぽいのはいつものことかと流した梓は、種もみの塔について知るかぎりのことを説明し始めた。
「種もみの塔は60階建てでー、中にはたくさんの人や動物やー、モンスターがいるんだよー。ほんとーにたっくさんいるんだよー。……わかったー?」
「ほほ、よくわかったとも。たーっくさんの……」
繰り返そうとしたディの言葉が止まる。
彼の目は横を通り過ぎていった種もみじいさんを追っていた。
ここの他にも、あちこちに見かける。
「たくさんいるね。──あっ、そうだ」
パッと瞳を輝かせた梓は、懐をあさると種もみの詰まった袋を取り出してディに渡す。
「これあげる。これで爺ちゃんも種もみじいさん達の仲間入りだね!」
「おお、ありがとう」
「ほら、あそこに固まってるの、種もみ剣士達じゃないかな?」
見れば、みすみ達が和やかに談笑している。
その様子を眺めていた梓が、ふと浮かんだ疑問を何気なく口にした。
「俺、思うんだー。種もみ剣士はいるのに、どうして種もみ魔導師はいないんだろー。種もみ魔導師がいたら、なってもいいかなーなんてー……どう思う? ……あれ? 爺ちゃん?」
何だか隣がスカスカしている気がして見てみれば、敷いた茣蓙の上に座っていたディはいない。
「あれ? 爺ちゃーん?」
梓は立ち上がると辺りを見回し、ディを探しに出た。
その頃ディは、ここに来た本当の目的を思い出し、種もみの塔へ入ろうとして──種もみじいさんに紛れてモヒカンに絡まれていた。
「じいさん共よぉ、素直にその種もみを寄越せば何もしねぇって言ってんだろ。……別に、力ずくでちょうだいしてもいいんだぜ」
棍棒を弄びながらニヤつくモヒカン。
ディは小馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、種もみじいさん達を背にかばうように一歩進み出た。
「ここはジジイ同士助け合わんと……」
「爺ちゃんこれー!」
言いかけた台詞は梓の呼び声に遮られた。
振り向いたディの頭にボフッと何かが当たる。
「こ、これは……っ」
種もみじいさんとモヒカン達は目を見開き、息を飲む。
すっかりハゲたディの頭のてっぺんが、まるで光の輪を受けたように輝いていた。
梓が投げたのは光る種もみの入った袋だった。
「通常の種もみの100倍の栄養価があるんだってー!」
「ふ、ふふふ。100倍か……。わしの秘めた力が引き出される時が来たか。穏やかな心を持つわしだが、激しい怒りによって目覚め……」
「しゃらくせぇ! 通常だろうが100倍だろうが実らねぇと食えねぇだろ! 食わねぇうちから力が引き出せるかっ」
「だが、その光る種もみは欲しい……俺達がいただく!」
「ふはははは! ジジイ、頭の光り損だったにゃらりられら……ぐぅ」
モヒカン達が突然バタバタと倒れ、いびきをかき始める。
彼らの意識が光る種もみに集中している間に、梓がヒプノシスで眠らせたのだ。
「爺ちゃん、怪我は……」
「ふっ。光る種もみの威力に思わず眠ってしまったようじゃ。さて皆の衆、パラ実の性典さんのところへ参るとしようかのぅ」
ディは梓の存在が目に入っていないかのように、好色な笑みを浮かべ鼻息を荒くした。
つられて種もみじいさん達もポッと頬を染める。
何度も呼びかける梓をそのままに、ディ達は種もみの塔へと乗り込んでいった。
ドルイドvs忍者
頭から不思議な光を発するおじいさんを何となく眺めていた卑弥呼だったが、菊にせっつかれて次の対戦者の紹介に意識を戻した。
「お待たせしました。続いてはドルイドのネームレス・ミストさん対忍者の紫月 唯斗さんとプラチナム・アイゼンシルトさんです! ネームレスさんは二戦目ですね。それとプラチナムさんは唯斗さんの鎧としての参加になります!」
初戦と同じく、何を考えているのかわからない不気味な笑みを口元に浮かべたネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)が、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)の前に立つ。唯斗も唯斗で眠そうな顔立ちのせいか、考えが読めない点では共通していた。
開始の声の直後、両者はほぼ同時に攻撃に出た。
ネームレスは従えている獣達のうち猪と猟犬を放ち、唯斗はアサシンソードを抜いて駆け出す。
神経に爪を立てるような鳴き声をあげた鳥が、急降下してくる。
「!」
いつ鳥を放っていたのか。
気づいた時には遅かったとはこれかと、観客から悲鳴があがる。
が、フッと唯斗の姿が掻き消えたかと思うと、次の瞬間にはネームレスの背後に回り込んでいた。
アサシンソードの切っ先が光る。
今度はネームレスの背からの血飛沫を想像し、観客は息を飲んだ。
音もなく斬られたのは──ネームレスに巻き付いていた毒蛇だった。
振り向いた彼女がニタリと笑う。
危険を感じた唯斗はとっさに後ろに飛び、さらに間隔をあける。
「彼女の従者から削る作戦ですか?」
「……わかってて言ってます?」
唯斗は最初からネームレスを狙っていた。
プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)はそれを知っていてわざわざ突付いたのだ。
若干へこんだように返した唯斗に、プラチナムは楽しげな笑い声をもらした。
「冗談ですよ。では次は猪ですね。基本的に直進ですから仕留めやすいでしょう」
「冗談になってないじゃないですか……」
それに、同じ作戦はきっと通用しない。
困ったなと、唯斗はわずかに表情を歪める。
「クク……もう、終わり……か?」
挑発的に笑うネームレス。
プラチナムが唯斗をせかした。
「誘われてますよ。応えないと男が廃ります」
「そういうもんですか?」
しかし、考えても良い手が浮かばないなら、行くしかないかと唯斗は覚悟を決めた。
軽く地を蹴れば、猪と猟犬と鳥も応じる。
「気味の悪いペット……」
プラチナムの呟きにネームレスは褒め言葉をもらったように目を細める。けれど、それだけではないと、その目は言っているようにも見えた。
唯斗は今度は隠形の術ではなく、千里走りの術で急加速した。
守りはプラチナムに預けて攻撃に専念する。
二頭と一羽を最小限の負傷で潜り抜けた先には、しかし目標のネームレスではなく、やたらと黒い気配を放つ獣の群が迫ってきていた。
「まるで瘴気ですね。……骨は拾ってあげます」
「その前にプラチナが砕けるでしょう。頼みましたよ」
流星のアンクレットの力をプラチナムにかける。
ネームレスは泰然と構えていた。
直後、唯斗は獣の群に飲み込まれた。
リングを駆け抜ける獣達の列から飛び散る赤い液体。
凶暴な群が駆け去って行った時、ネームレスの体がふっ飛んだ。彼女の背がリングの外に落ちる。
リングの上に残った唯斗は、突きの姿勢で刀を突き出している。
その体の周りを、ヒールの光が取り巻いていた。
「えーと、獣の群の薄いところをヒールをかけてもらいながら突破した……のかな?」
想像したことを言った卑弥呼をプラチナムが肯定する。
「馬鹿ですよね。笑っていいですよ」
「それより、おまえもうヒール使う力尽きてんじゃないの? おーい、救護班!」
今にも意識を手放しそうな唯斗の傍で、プラチナムと菊が呑気なやり取りをかわす。
一方、ネームレスはというと。
ランスバレストで突き飛ばされたものの、龍鱗化などの防御によりたいした傷はなかった。
モンクvsソルジャー
試合はどんどん進む。
今のところ、種もみの塔やこのリングにモヒカンに追われる種もみじいさんが雪崩れ込んで来るという事態は起こってないので、平和と言えば平和だった。
そして、卑弥呼が紹介したソルジャー二人のうち、清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)を見た観客からこんな声が漏れてきた。
「おいおい、あれは本当にソルジャーか? ヤクザじゃねぇの?」
「今はソルジャーってだけで、昔はヤクザだったんだろ」
「え? 足洗ったってこと?」
疑問を投げかけ合う彼らは本人をはばかって声を潜めているつもりだが、青白磁にはバッチリ聞こえていた。
「わしは侍と忍者の上級職ではない」
ちらりと目を向けて訂正すると、三人は身を寄せ合って震え上がった。
「聞こえてた!」
「目が合った!」
「強請られる!」
青白磁が若干背に哀愁を漂わせて対戦相手に視線を戻した時、衝撃を受けたように小さく呻き声をもらした。
「手加減は無用ですよ!」
数回軽くジャンプして体をほぐした風森 巽(かぜもり・たつみ)が青白磁と屋良 黎明華(やら・れめか)に向かって構える。
青白磁の感覚では、巽は充分子供の範疇に見えた。
「こ、子供が相手じゃと……?」
「ひゃっはぁ〜! 子供だろうと関係ないのだぁ〜! 要は、この黎明華の魅力でパラ実セーラー服の地位が上がればいいのだ♪」
楽しそうに言うなり黎明華は禍心のカーマインの銃口を巽に向ける。
そして、先手必勝とばかりにスプレーショットで無数の銃弾をばら撒いた。
巽は急所をかばうように転がってスプレーショットの範囲内から脱出した。
が──。
「ウッ……これは……っ」
「……キミもやるね……つっ」
巽の脇腹と黎明華の腿から血が流れている。
巽は銃撃をかわしながらブロウガンを吹き、黎明華はスプレーショットの直後に狙いすました一発を撃ったのだった。
「ふふふ、D級三銃士の真価はこんなものではないぞ」
「D級? なるほど……良い相手です。我の青心蒼空拳がどこまで通用するか楽しみです」
黎明華の言うD級とはバストサイズがD級という意味なのだが、そこは省かれていたため巽だけでなく青白磁も勘違いをした。
巽の反応に気を良くしたのか、青白磁にちらりと目をやって言う。
「ヤクザ屋さん、一気に行くのだ〜」
「違おうと言っておるじゃろう」
「ヤクザとの戦いですか……」
青白磁の否定は誰も聞いていなかった。
だが、彼がソルジャーであることは菊がちゃんと確認している。
そして今度は巽から仕掛けた。
トリガーを引かれる前に黎明華の懐に飛び込み、拳を繰り出す。
「ツァンダーパンチ!」
「うっ」
かわそうとした黎明華だったが、先ほど受けたブロウガンの毒が回っていたせいで足をもつれさせ、よけることができなかった。
一瞬躊躇った後、青白磁は足に力を入れてファイアヒールで巽を狙い打つ。
攻撃直後の隙間をつかれた形になった巽は、うまくかわすことができず衝撃に飛ばされた。
許せと口の中で呟き機晶ロケットランチャーを構える。
本来は対イコン用の銃器は、しかし何かが絡まり強く引っ張られた。
巽の投げた鎖十手の鎖の部分だ。
「ぬ……っ」
武器を取られまいと踏ん張る青白磁との間に、鎖がピンと張る。
倒れていたと思っていた黎明華がうめきながら身を起こし、震える手で巽に銃を向けた。
放たれた銃弾は、しかし巽がいたはずの地面を抉っただけだった。
彼は思い切って青白磁に急接近し、十手で殴りつける。
突然力が緩んだことで青白磁は体勢を崩してしまっていた。
強い打撃に彼の膝が落ちる。
続けて巽が首筋に短刀を当てたところで、菊が試合終了を告げた。
毒に目を回す黎明華は救護班員の手当てを受けながら、巽を傍に呼ぶ。
「今日は一歩譲ったが次はこうはいかないのだ。パラ実D級セーラー服お嬢様ソルジャーを忘れるな、なのだ」
「D級三銃士じゃなかったのですか?」
「細かいことは気にしないのだ〜」
黎明華は最後まで自分のペースを崩さなかった。
ウィザードvsビーストマスター
「そいつは本当にペット……というか、魔獣なのかい?」
卑弥呼が選手紹介をしたものの、菊は白砂 司(しらすな・つかさ)の跨る大型騎狼ポチの足元にちょこんと座っている三毛猫に不審そうな目を向ける。
司は無言で頷きを返す。
菊はなおも引っかかるものを感じるのか、観察の目で三毛猫を凝視したがやがて諦めて試合開始を告げた。
対戦相手の緋桜 ケイ(ひおう・けい)は身構え相手の出方を待っていたが、どうやらそれは司のほうも同じだったようで、両者はしばらく距離を計りながらじりじりと立ち位置をずらし互いの隙をうかがった。
先に仕掛けたのはケイ。
ただのペットにしか見えない三毛猫にも、司がビーストマスターである以上は油断せず、まとめて片付けてしまおうと考えたのだろう。
威力のある魔法の呪文を唱え始める。
司の、ケイを睨みつける瞳にいっそう力が増した。
それを受けたケイは、彼も何かしてくるつもりかと一瞬だが詠唱が途切れる。
司はそこを見逃さなかった。
龍殺しの槍を高々と掲げると、サッとケイに向けて振り下ろす。
三毛猫が風のようにケイに飛び掛り、鋭い爪を光らせた。
思い切り頬を引き裂こうした爪は、しかし浅く掠った程度。
着地した三毛猫は、諦めずに二撃、三撃と繰り返す。
完全にかわし切ることはできず、ケイの体に小さな傷が増えていった。
「この……っ」
司の動きも警戒しなければならないため、気が散漫になりがちだったケイへ三毛猫がまるで必殺技を繰り出すような気迫を見せた。
思わずケイも刀に手をかける。
その時、司のほうから無数の強い気配を感じて振り向いた。
迫り来る獣の群と共に、槍を掲げた司の姿があった。
「俺の牙はこの槍だ。ポチ、走れ!」
司の指示に従い、獣の群に混ざって突進するポチ。
ケイは三毛猫の攻撃は受ける覚悟を決めて、雪崩のように自身を飲み込もうとする獣の群を、刀による則天去私で迎え撃った。
ビーストマスターの誇りを持って獣達と共に戦うと決めている司の槍が、ケイの技の終わりを突くように繰り出される。
「ウッ」
複数回の突きに耐えられず、ケイの体が後方に浮いた。
そこに、司でもケイでもない者の声が発せられる。
「私の超必殺技! ネコパンチEX!」
「ええっ!?」
ケイの驚きの声は、三毛猫が放った則天去私にかき消された。
誰かの言い争いでケイの意識が戻る。
「──アレ(モヒカン戦士)やアレ(ヒーロー)が良くて、どうして私(魔獣)がダメなんですか?」
「あたしは司がビーストマスターで参加って聞いたんだ。参加申請表にもそう登録されてる。従者でもペットでもないおまえが、それのふりして紛れ込むのはさすがに見逃せないよ」
首を振る菊に、ぶーぶーと文句を言って唇を尖らせるサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)。則天去私でケイをぶっ飛ばした本人だ。
二人の様子からケイは何となく事態を把握した。
「一応治療はしてもらったけど大丈夫?」
顔を覗きこんできた卑弥呼にケイは薄く笑んで頷く。
「ま、そういうわけで次に進むのはケイだから」
「ああ、うん……。でも、試合じゃなかったら俺の負けだった」
ため息をついたケイの背を、卑弥呼の手が励ますように叩いた。
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