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リアクション
☆
そんな大事件が起こっていたホテルの外側にて――最初に爆弾が爆発したところである。
そこは、ホテルの警備室であった。
「こ、これは大変でスノー!!」
爆弾が仕掛けられ、火を吹く警備室。
そこに偶然通りがかった七枷 陣(ななかせ・じん)とリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)、そしてウィンターの分身が消火活動を行なっていた。
冬の精霊であるウィンターが大規模なブリザードをかけて火の勢いを弱め、その間に陣が室内に突入する。
「……ふむ……中の火はそうでもねぇな、あくまで脅しってとこやな」
ホテルでの騒ぎは耳に入っている。まず警備室を潰して外部との連絡を断とうという意図は分かるが、警備室の機能を止めるには至らなかったようだ。
「しっかし暑いなぁ……空調設備が壊れたか?」
自らも氷術で熱を逃がしながら、陣が警備室内に入ると、中では数人の男達――制服を着た警備員達がいた。
男達は、空調が破壊され、さらに外部からの炎の熱にもかかわらず、逃げ出す気配もなく監視モニターを操作し、警察との連絡を続けている。
「おい、何してる!! 早く逃げんと――」
陣は男達に呼びかけるが、動く様子はない。その中の一人が、陣の方へ来た。
「――誰だい、お前さんは? ここで何をしている?」
独特な口調で問いかけたその男は、どうやらその警備の隊長らしい。
「誰だっていいだろ、お前らこそ何してるんや、早く逃げないと危ないかも知れんのやぞ!!」
だが、隊長はそ陣の言葉を遮って、後ろを振り返る。
「ああ、逃げるさ――だが、もう少し待て。ここのシステムを外部に移しておかないと、犯人達を監視することができなくなる。
それまでは、俺達は逃げるわけにはいかないのさ」
見ると、確かに警備の男達は監視モニターの前で必死にパネルを操作している。
「それに、少し暑さも和らいできたみたいだしな――」
隊長が言うと、確かに室内の熱が引いているのを感じる。
建物の外からブリザードで炎を消化し、さらに温度を下げているウィンターの働きであった。
さらに、リーズが一部の瓦礫などを撤去してくれているので、風の通りもいい。
「――しかしやな、他に爆弾が仕掛けられてないとも限らん。やはり早く逃げるべきや」
とりあえずの安全は確保されたものの、やはり危険な場所であることにはかわりない。
陣は万が一を考え、脱出をい主張した。
警備の隊長も、その意図を汲んで深く頷く。
「ああ――ありがとよ。どうやら作業も終ったようだ、お言葉に甘えさせてもらおうか」
「陣くん! 大丈夫だった!?」
リーズの呼びかけに視線を移すと、陣が警備室の男達を連れて脱出してきたところだった。
「おお、無事だったでスノー!! 良かったでスノー!!」
ウィンターも声あげ、ブリザードを止める。さすがに疲れたのか、その場に座りこむウィンター。
「ほれ、大丈夫か……よく頑張ったな、二人とも」
陣が手を差し伸べ、ウィンターを立ち上がらせる。
「へへ……ありがとうでスノー」
照れ笑いを浮かべるウィンター。その手を握った陣の後ろから、警備隊の隊長が話しかけてきた。
「俺からも礼を言わせてもらうよ。お前さん、名前は?」
「ああ、オレは七枷 陣――」
振り向きながら名乗る陣。室内では気にしなかったが、彼は精悍な顔つきで、何と言うか男の色気に溢れた男だった。
「陣か、いい名だな。俺の名はエーベ・コーワ。よろしくな」
要するにウホッ、いい男。
陣の背中に冷や汗が流れる。嫌な予感がした。
見ると、他の警備員も同様の視線を陣に送っていた。
その視線に気付いたのか、エーベは言った。
「ああ、こいつらもお前さんに礼がしたいだろうし――どうだい、今度ゆっくり……」
「や ら な い よ !」
貞操の危機を感じた陣は逃げ出した。
「おいおい、そう言うなよ。このままじゃおさまりがつかないんだよな――」
そう言ってその後を追いかけるエーベ。さらにその後を追うリーズ。
「あーっ! 陣くんにちょっかい出しちゃダメーっ!!
陣くんはボクたちのなんだからーっ!!」
リーズともう一人のパートナーと陣の三人は、恋人同士。
よりにもよってこんな連中に取られてたまるかと、リーズは怒るのだった。
逃げる陣の横で、同様に逃げまわる男がいた。
クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)である。
「うおおおおおおぉぉぉーーーっっっ!!!」
「何や……アレ」
自らも逃げる立場であるということも忘れ、陣は呆然と呟いた。
「た、た、た、たーすけてー!!」
まずは、クドがパンツ一丁であることをお伝えしておかなければならないだろう。
そのパンツがピンクの花柄であることは、この際どうでもいい情報だろうか。
ともあれ、パンツ一丁でにげるクドを追いかけるのは、全身マッチョにムキムキでフンドシ一丁の男の姿をしたチョコレート・ゴーレムであった。
「な、な、なんでお兄さんを執拗に追いかけるんですかーっ!?」
出会い頭にパンツ一丁に向かれたクドは、珍しく必死の形相で走っている。
それを追うゴーレムの後ろで、数人の茶タイツ男が高笑いをしていた。
「はーはっはっは!! どうだ、我々が新たに開発したチョコゴーレム『クドスキー』の力は!!」
どうやら、チョコレイト・クルセイダーの残党がクドに対してのゴーレムを作成していたらしい。
ホテル襲撃の陽動も含めて、遊園地でチョコゴーレムを暴れさせる一環として、クドを攻撃し始めたのだ。
「攻撃っつーか……確かに襲っとるけど……なんつーか、お互い災難やな……」
と、辛うじてエーベの追撃を撒いた陣は、物陰からその様子を見守った。
「ど、ど、どうしてお兄さんが標的なんですかーっ!?」
そのクドの抗議に、茶タイツ男は答えた。
「ふ……言い逃れはみっともないぞ!! 我々が独自に入手した情報によれば、貴様、最近フラグ建築士として恋愛フラグを立てまくっているそうではないか」
と、宣言した茶タイツ男の手には、ひとつの日記帳がある。
「あ、あれはワイの日記帳!!」
そこに現れたのがクドの仲間である七刀 切(しちとう・きり)であった。
さらに同じコミュニティの仲間、天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)の姿もある。
「何、切の日記帳だって!?」
鬼羅の問いに、切は答えた。
「ああ……前にちょっと色々あって、落ち込んだことがあってなぁ。その時にちょうどクドがフラグ乱立してたから、ついパルパルと……」
つまるところ、気分の降下に任せて親友についてあることないこと書き散らした日記である。
その日記が流出し、チョコレイト・クルセイダーの手に渡ったのだろう。
そしてその日記が核に使われ、チョコ怪人『クドスキー』が誕生したのである!!
「それはいいから助けて下さいよーぅ!!」
と、叫ぶクドの言葉で我に返った切。
「おっとそうだったねぇ、とにかく今はクドを助けてやらないと!!」
鬼羅もまた、その言葉に気合を入れた。
「そうとも、俺達はギルドの中でも紳士で知られた三人組、【K3】だからな!!」
クド、切、鬼羅の変態紳士ユニットは今後【K3】と名前を変えて活動することになりました、よろしくお願いします。
「おお、二人とも来てくれましたか!! 二人がいれば百人力です、ここから反撃開始ですよ!!」
二人の姿を見て安堵の声を上げるクド。
パンツの中から銃を二丁取り出し、両手に構えた。
その様子を見て、切は呟く。
「――いつもそこにしまってんの、その銃?」
「おお、クドのヤツ、パンツの中に3丁も銃を隠してやがったのか!!」
鬼羅さん、彼が取り出したのは2丁ですが。
「だから3丁だろ?」
もういいです。
しかし怪人クドスキーも人数が揃ったくらいではひるまない。3人を目の前にして大きく頭上で両手を合わせ、その場で激しく回転を始めた。
「何ぃ!?」
クドが驚きの声を上げる。
そして、次の瞬間には、クドスキーのフンドシから謎の光線が発射された!!
「フン、ドシ、ビーーームッ!!!」
グルグルと回転しながら無差別に発射されるビームは、周囲の女性たちにヒットすると、恐ろしいことにその外見がクドスキーと同じ姿にされてしまうビームであった。
つまるところ、全身筋肉ムキムキの裸フンドシ姿である。
「きゃーっ!?」
「何コレーッ!?」
「――危ない!!」
それを見た陣は、自分を追ってきたリーズを庇って、彼女を抱きかかえる。
どうやら、男がビームをうけても無効なようだ。
「――ったく、大事なパートナーをあんな姿にされてたまるかい」
呟いた陣に、すりすりと抱きつくリーズだった。
「へへ……陣くん、ありがとっ」
フンドシビームの被害にあった女性たちは、実害はないもののムキムキ筋肉フンドシ姿にされて、その場に泣き崩れている。
さらにクドスキーは、熱のこもった視線でクドを射抜く。
だがしかし、当のクドを始めとする3人にはそんな眼光は通用しない。
世の中の女性全てに独断的に愛を注ぐ【K3】は、あまねく女性の味方のつもりなのだ!!
鬼羅は言った。
「なるほど……その視線、てめえのクドに対する熱い想いは分かった。……だが、てめぇはしてはならねぇことをした!」
切もまた、刀を構える。
「そうとも……ワイら紳士の前で女性の心を傷つける行為、断じて許すわけにはいかないねぇ」
そして当のクドも、2丁の銃を構えるのだった。
「あんたの気持ちは分かった……ですがねぇ、お兄さんには世界中の女性というお相手がいるんです、あんた一人のものにはなりません!!
というか怖いし!! 何でムキムキマッチョのフンドシ一丁なんですか!! 製作者のセンスを疑いますよ!!」
その啖呵に対し、茶タイツ男は答える。
「――それはこの日記の中に『あんなヤツはムキムキ筋肉マッチョのフンドシ一丁男に追い回されればいい』と書いてあるので、そのまま流用させてもらったのだが」
切はその言葉をぶった切って叫んだ。
「さあ、いくぜK3!! 女の敵を倒すんだ!!」
切の叫びに応じて、鬼羅は傍らのウィンターの分身に向かって、言った。
「ウィンター、雪だるマーだ!! 三人分だ!!!
この天空寺 鬼羅!! 女の敵は一人たりとも許しはしねぇえ!! この裸王の名にかけて!!!」
鬼羅の怒りが頂点に達した時、その服の全てが弾け飛び、裸王(らおう)として覚醒するのだ!!
実際は裸になるだけだが!!
「なんかごまかされた気がしますが……まあいいでしょう、今こそ決着の時!!」
クドが叫ぶと、鬼羅は雪だるマーの効果で自分達とクドスキーまでを凍結させ、氷の道を作った。
「いくぜ、そしてダブルだ! 暴風のブースト!!」
全裸になった鬼羅が、その氷の道の上にうつぶせになると、鬼羅の上に切とクドが乗る。
そのまま、暴風のダブルブーストで押し出された鬼羅の体は、ひとつの弾丸となってK3を突進させた!!
「うおおおおおおぉぉぉ!!! K3ジェットハリケーン!!!」
K3ジェットハリケーンとは、クドの魔弾の射手による銃撃、切の刀による漸激、鬼羅の全裸による体当たりを同時に行なう、即興で作られた必殺技である!!!
「ク、クドスキーーーっっっ!!!」
さすがに三人の同時攻撃を受けては、チョコレイト怪人クドスキーはひとたまりもない。
後方に控えていた茶タイツ集団を巻き込んで大爆発を起こすクドスキー。
それを見たK3の三人は、満足気に頷くのであった。
「――正義は勝つ!!!」
そしてその爆炎をかいくぐって、現れた一人の男性。
安心と信頼の公僕、お巡りさんである。
「ちょっといいかね、君たち。そこのホテルやこの付近で爆弾騒ぎがあるんだが……何爆発してるの? あと……その格好」
「え?」
と言われて、少しだけ冷静に自分達の置かれた状況を確認するK3。
お巡りさんの手には『七刀 切』と書かれた日記帳が証拠として残っている。
クドはパンツ一丁のうえ、2丁拳銃。
鬼羅は堂々の裸王。
「――いやその、これは」
「うん、分かった分かった。とりあえず話はあっちの詰め所で聞くからねー」
何らかの言い逃れをしようと思った一行は、しかしお巡りさんに連れられて歩いていく。
ふと、切が目を向けると、ホテルからクロス・クロノスと共に避難してきたカメリアがいた。
「あ、カメリアだ! おーいカメリア!! 助けてくれー!!!」
何とかカメリアに身元を証明してもらおうと、必死に手を振る三人。
しかし、カメリアはK3の様子を見て大まかな事情を察知したのであろう。
満面の笑顔で手を振りつつも、口に出さずに次のように口を動かした。
「バ」「イ」「バ」「イ」
「カメリアーっっっ!!?」
そのまま、お巡りさんに連れられていくK3。
カメリアは、隣にいたクロスに言った。
「――ホテル占拠とは、大変なことになったのう、クロスよ」
「え、あのカメリアさん――いいんですか、あれ」
「あの3人兄がいると、いろいろややこしくなるんで」
こう見えて、カメリアもけっこういい性格しているのだった。
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