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忘新年会ライフ

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忘新年会ライフ

リアクション

 場所は変わって、ここはダンジョンの最深部の108階。
 ノアを背負ったレンが土の中から長いゴボウを掘り出して、満足気な笑みを浮かべる。
「よし……これで、材料は揃ったな」
「レンさん、衿栖さんも何か見つけたみたいだよ」
 レオンさんが放送してる探索の様子を銃型HCでを見ながら琳 鳳明(りん・ほうめい)が声をかける。
「鍋に入れられるものか?」
 レンが鳳明の銃型HCを覗き込むと、衿栖が中継をしていた。
「こ、これは! まさか伝説の食材『次年薯』じゃないですか!? 年の瀬から年明けの短い期間でしか発見できないと言われている、伝説の山芋ですよー!」
 次年薯とは、自然薯の一種であり、超高級食材に挙げられるものである。
「一年間蓄えた旨みとトロみは絶品だという……私も噂でしか聞いたことが無かった食材です。セルシウスさーん! 見てますかー? この食材持って帰りますからね〜、楽しみにしていてください!」
「衿栖、いい働きをする……」
 鳳明が食材を山盛り抱えたレンを見て、お腹をグゥーと鳴らす。
「……レンさん、私ずーーーっと、ここで待っててお腹減ペコペコなんだけど」
「ん?」
「その……出来たら何か食べ物を分けて欲しいなぁ……とか」
「任せろ」
 レンの言葉に鳳明が目を輝かせる。
「帰ったら、宴会だ」
「……」
 鳳明は、前もってメティスからダンジョンの構造を教えて貰って、最深部の広い部屋を確保して待機していた。ある意味、一番乗りである。そこから、放置プレイされること数時間あまり。
「……さっきまで寂しくて涙でそうだったけど我慢してたんだよ、私!」
「慌てるな、鳳明。店に帰ったら、沢山食わせてやるさ」
 レンはゴボウを袋に入れて、クルリと踵を返す。
「ど、どこ行くの!?」
「忘新年会とダンジョン踏破の打ち上げ会の準備に戻る」
「ひ、酷い!!」
「言い出したのは、鳳明。おまえだと聞いているが?」
「そ、そりゃ、最後に皆で一緒に挑戦できる事を用意したら、その後の新年会も盛り上がるよね! ……って提案したのは私だけど……。何で私が最後の敵なんてしないといけないの!?」
 背中を向けたレンに半べそで訴える鳳明を、ノアが何か感じ取ったのか、優しく頭を撫でてやる。
「し、しかも私のお金で『お取り寄せ、高級割烹の豪華鍋セット!』を10人分とか……! 確かにご褒美は必要だけどさっ! うわーん! お腹減ったよー!」
「そう言えば、その鍋セットはどこに置いたんだ?」
「グス……あっちの神社の中に鍵付きの箱で入れたよ」
 鳳明が指さした先には、小さな鳥居のある神社があった。どうやら、このダンジョンの最深部で何かを奉っているようだ。
 しかし、その神社の周囲には、黒いマントを付けた数名の人影が神社の前に腰掛け、雑談している。彼らから少し距離を置いたとこにいるのは、どうやらツアー参加者のようだ。
「去る前に、一つだけ聞いておきたい」
 レンが鳳明をチラリと見て、
「勝負はどっちが勝ったんだ?」
「ツアコン同士なら同着……かな、写真判定されたらわからないけど」
「……そうか。では、鳳明はラスボスの大役をしっかり努めてくれ」
 レンは【ゴッドスピード】で元来た道を駆け抜けていく。
「……そういえば、ラスボスとかやってて私この後新年会に出れるのかな? ちょっと! レンさん、これで私お鍋食べれないとかは勘弁してーーーっ!?」
 鳳明の叫びが最深部に響いた。