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年の初めの『……』(カギカッコ)

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年の初めの『……』(カギカッコ)
年の初めの『……』(カギカッコ) 年の初めの『……』(カギカッコ)

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●最初の一日はかく更けゆく……(1)

 もう、すっかり夜だ。
 多比良 幽那(たひら・ゆうな)にとってはあまり楽しめない元旦だった。泣きたい。
 新年早々風邪を引くなんて……!
 大晦日になんとなく具合が悪い気がしていたが、今日は朝から発熱、幽那は自宅兼花屋「フラワーガーデン」から出ることができず、ずっとベッドに伏せっていた。枕元の体温計で調べると、まだ38度6分もの熱がある。身を起こしても頭はグラグラして安定できない。
「母よ。無理して起きるものではない。ほら、氷嚢の換えだ」
 病室と化した幽那の寝室に、アッシュ・フラクシナス(あっしゅ・ふらくしなす)がいそいそと入ってきた。アッシュは本日、白衣の天使のごとく幽那を気遣い、かいがいしく世話を焼いてくれている。
 アッシュの眼前をトコトコと歩いているのは、看病の司令官たるアコニトム――幽那が育てたアルラウネだ。アルラウネは口がきけず話すことはないが、その意思は幽那に存分伝わっていた。アコニトムはきびきびと他のアルラウネに指示を出し、看病という作戦を遂行しようとしている。
「アコニトムよ、頑張りすぎて自分が体調を崩してはミイラ取りがミイラになる構図だぞ。時々は休みを取れ」
 アッシュはそう言ってアコニトムを下がらせた。
 ドアが開き、
「薬の時間だ」
 ジャンヌ・ローリエ(じゃんぬ・ろーりえ)が現れた。手に盆を持ち、そこに水と風邪薬を乗せている。問題はその量だ。ありとあらゆるメーカーのものを買ったのではないか。六種類も七種類も感冒薬が積まれていた。アルラウネのラヴィアンと
「本当なら薬草から風邪薬を自作すればいいのだが、そんな知識はなく……」
 ジャンヌはうなだれていた。アルラウネのローゼンが、「大丈夫?」というような顔をして見上げている。なかなか回復しない幽那が心配でたまらないらしく、
「し、しかし母よ、治りが悪いようなら、決死の思いで自作薬を調合しても!」
 と声を上げた。このとき続けてドアが開き、アルラウネのアトロパとラヴィアンが駈け込んできた。これにつづいて姿を見せたのはアストルフォ・シャムロック(あすとるふぉ・しゃむろっく)だ。
「いや、大丈夫だからな。風邪の引きはじめというのはこういうものだ」
 冷静にアストルフォは伝えた。
「明日にはずっと改善するはずだ。薬の前に、まず食事だな」
 アストルフォも盆で何かを運んで来ている。皿に入った粥、それにスプーンだった。
「コロナリアと一緒に作った。砂糖と塩を間違えそうになったり色々ドラマがあったが……ともかく、安心して食べてほしい」
 アストルフォの足元では、アルラウネのコロナリアがツーンと横を向いている。「たいしたことじゃないわ、こんなの」とでも言っているかのようだった。
 幽那は粥を受け取って口に運んだ。
「ふーふーするか? 母よ」
 アッシュが顔を寄せて言うが、大丈夫、と首を振り幽那は食べた。熱で舌もバカになっており正直味はわからないが、心配かけまいと幽那は言う。
「おいしいわ。ありがとう。コロナリア、アストルフォ……」
 するとまた、コロナリアはツーンとますます顔を横にぐいと向けるのだった。ただ、軽く頬を染め、組んだ足をもじもじさせていた。本当は嬉しいのだ。
 食べ終わると薬を(必要量だけ)飲んで、皆の手伝いを受けながら幽那はのろのろと着替えた。
「汗……拭いたほうが」
 ジャンヌの提案で幽那が下着し、乳房をさらしたとたん、
 ぶっ、とラヴィアンが鼻血を拭いて転がった。
「変な子……?」
 幽那がふふっと笑う。ラヴィアンは立ち上がり、ガチガチに緊張しながら伏野を手伝ってくれた。
 こうしてふたたび横になった幽那である。するとその胸元に、するりとアトロパが入ってきた。抱き枕を務めるというのだろう。
「ありがとう……みんな」
 幽那は目を閉じた。
 風邪で迎えた元旦だが、それは、皆の優しさを確認する元旦ともなった。