空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~

リアクション公開中!

四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~
四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~

リアクション

 第28章 最高の「パートナー」

 時はまた、昼に戻って。
「チェラ・プレソン空京店?」
 ファーシー達と別れたラスとピノは、ケイラと一緒に空京の繁華街を歩いていた。店の名前を聞いたのは、本日、これで2度目である。
「……大地がやってるって店か?」
「あれ、知ってるんだ」
「ファーシーから聞いた」
 短く答えると、ケイラはそうなんだ、と納得して続きを話し出す。
「今はバレンタインフェア中だし、空京チョコレート巡りの1つってことで、ちょっとお店に寄ってみようよ」
「ケーキ屋なんてどこも似たようなもんだぞ? オープンしたての混み合った店より、近場で済ませりゃいいだろ」
「そういうことじゃなくって、挨拶にってことだよ」
「…………」
 その言葉に、ラスは顔を顰める。ケイラからの電話はアクアから離れる絶好の機会だと思っていたのだが――
(あいつもその店、行くんだよな……)
 これ幸いと離脱しても、また顔を合わせるのでは意味が無い。
 だからと言って、アクアが居るから嫌です、などという子供じみた理由を話したくも無く。
「いーじゃん、あたしも大地さんの作ったケーキとか食べたいなー」
「お前、さっき散々食ってただろ……」
 そんな事を考えていたら、ピノに自己主張されてしまった。しかもピノは“しっぽ”を取り出しかけていた。にょろーんと手に持ち、首をこちらに向けながら有無を言わせぬ態度である。何が何でも行きたいらしい。
「っ……!! ……まあ、立ち寄るくらいならいいけどな」
「すみませーん、これわかります?」
 活発そうな少女に声を掛けられたのは、蛇にのけぞったその時だった。

(何だろう、今日はバレンタインだからかな。妙に意識するよ……)
 その少し前、飛鳥 桜(あすか・さくら)アルフ・グラディオス(あるふ・ぐらでぃおす)に誘われ、空京の街を歩いていた。隣のアルフとはつかず離れず、の距離。最近は遠慮なく傍に行くことは減っていたけど、今日のこの感覚は、いつもとはまたちょっと違う。
(こんなの今まで感じたこと無かったのに……もしかして、僕は……、うーん……やっぱり気のせいなのかなぁ……)
 そんなことを考えていたら携帯電話が震え、桜は何の気なしに画面を見た。
「あれ? 何で?」
 メールを送ってきたのは、アルフだった。すぐ近くに居るのに、どうしてメールしてきたんだろう。そう思いつつメールを開く。
 そこに書いてあったのは、『1992*4##111』という謎の数字と記号だった。
「な、何だ、これ??」
 わけがわからない、という顔で振り返ってくる桜に、アルフは言う。
「解読したらいいもんやる」
「い、いいもんって何だよ!」
「それを言ったら意味ねーだろが」
「え、えーー……?」
 桜は戸惑いながらも、携帯画面とにらめっこを開始する。
「えーと……年号? いや、違うな……、うーん……、ひ、ヒントくれよ〜!」
「ヒント? ……しゃあねぇな」
 少し考えるように間を空けて、それから答える。
「ヒントは『当たり前にある』『ごめんとかとよく一緒にいる』かも」
「……それは……ヒントなのかい……?」
 意味が判らなくて、桜は驚いたような表情でアルフを見つめる。十数秒後、それは困り果てたような顔に変わった。だがすぐに一転して、暗号を解こうと真剣に燃え始める。
「うう、何か悔しい……絶対解いてやるー!」
 ただでさえ妙に意識してしまう日なのに。
(そんな時に暗号だもん、何なのか気になるんだぞ!)
 歩みは止めず、桜は時折うー、とうなりながら暗号に没頭していく。だがやはり分からないのか、彼女は終いには道行く人にメールを見せ始めた。色んな人に、片っ端から聞いていく。
 その様子を見ながら、アルフは思う。
 ――去年の夏に「好き」と伝えた。桜があまり側に来ようとしなくなったのは、それから。
 後悔はしていない。絶対に伝えようと決めていたから。
 けれど、まだ伝えていないことが、もう1つある。
 それが暗号の答え。口で言うのは、恥ずかしいから。
 ――にしても。
(はー……あんな聞きまわられたら恥ずかしいっつーの。……でも、必死に解こうとしてる桜が可愛いって思うのは変か、な……)
 自然と、目は桜を追ってしまう。彼女は今、黒髪黒コートの男に話しかけていた。だが、そこであれ? という顔でアルフの方を振り返ってくる。そしてまた黒髪黒コー……ラスを見上げ、素朴な感想、という風にこう言った。
「……何か君達、そっくりだな?」

「……!!!?」
「……は?」
 言われて、アルフは全身に電撃を受けたように硬直した。例えるなら、『そして彼等は出会った』的な何かを感じたのだ。本能が為せる業とでも言おうか。
(生まれた意味を知るフラグか? 確かに他人の気はしないけど……っ!)
 対してラスは、何を言ってるんだこいつは、という顔で桜を見ていた。特に運命的なものは感じていないようだ。本能が足りないらしい。
「え、だって……」
 ラスの視線を受けて、彼女は何やら指を折って数え始めた。
「・ツンデレヘタレ弄られ、
 ・ブラコンシスコン、
 ・蛇嫌い、
 ・細身、
 ・黒尽くめ等々。
 ほらなー☆」
「……………………」
 色々な意味で、ラスは絶句した。何だそのどこかで聞いたような箇条書きは。何がほら、だ。――いや、その前に。自分はツンデレでもヘタレでもないし弄られでもない、と思う。ピノを大事にするのは自明の理であり――て、ちょっと待て。蛇や見た目はまだ解るが。
「メタ発言か?」
「メタ発言やめろ!」
 ツッコミを入れたのは、殆ど同時だった。ツンデレヘタレだのシスコンだの、今の一瞬で分かるわけもない。メタ発言である。
「うーん……」
 だが、桜は言うだけ言うと、2人の反応をほぼスルーして携帯画面を見つめていた。マイペースに暗号の解読に戻っている。
「……あ、もしかして、これ、携帯でやれるのかな? 試しにやってみよう……ぁ」
 入力モードを「かな」にして『1992*4##111』と押していく。そこに現れたのは――
『ありがとう』
 の5文字だった。
「……ほら、行くぞ」
 ラスはそれをばっちりしっかりとチラ見して、ついでに、白い頬に赤みが増したアルフをチラ見してから歩き始めた。ケイラとピノもそれに続く。
「う、うん……」
「待たせてたのはおにいちゃんじゃん!」
 雑踏の中に、そんな声が紛れ、消えていく。

「……解読、出来たんだ。じゃ、これ」
 その中で、アルフはそっと、桜に『いいもの』を渡した。それは、バレンタインのチョコレート。
「……え? あ、アルフ、これって……」
「……何だよ、男がチョコ渡しちゃいけねーのかよ。アメリカ式だ」
 恥ずかしくてついそっぽを向いてしまいそうになるのを堪え、前を向いたまま――やっぱり、少しだけ視線を逃がしてしまったけれど、言葉を紡ぐ。
「……ずっと前に、『いつも側にいてくれてありがとう』って言ったよな。……俺だって同じだ。だから、今度は俺の番だ」
 驚く桜に。片手に携帯、片手にチョコを持って固まっている桜に。彼は言う。
「いつも側にいてくれて……ありがとう」
「…………」
 呆然としたまま。ゆっくりゆっくりと入ってくる、沁み渡ってくる、彼の言葉。
 ……嗚呼、分かった。分かったよ。暗号も……この感情も。僕は……
 全てを解読した時。桜はふと、微笑んだ。
「……君、盛夏祭の時に僕を1人にさせないって言ったよね?」
「え? い、言ったけど……、っ!?」
 じゃあ……と同時、アルフの服の襟を掴んで背伸びして。唇に軽く、キスをする。
「…………」
 何のリアクションも出来ずに顔だけを真っ赤にするアルフから離れ、ぴょんっ、と一歩後退して桜は言う。
「約束だよ、破ったらヒーローは承知しないんだぞっ!」
 とびきりの笑顔。くるりと彼に背を向け、歩き出す。その彼女の後姿に、アルフは半ばひとりごとめいた呟きを投げる。
「……ヒーローが不意打ちするなよ……畜生……」
 追いかけて隣に並び。いつもと同じようでいつもと違う、よそよそしさの無い、新しい距離。
「……少し、歩くか。一緒にな」
 ……俺の、最高の「パートナー」……
 ……大好きだよ、僕の最高の「パートナー」!