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自然公園に行きませんか?

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自然公園に行きませんか?
自然公園に行きませんか? 自然公園に行きませんか?

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5


 今日、蓮見 朱里(はすみ・しゅり)は家族みんなで連れ立って、空京にある自然公園に来ていた。
 みんな、と言うのは夫のアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)、それから養子の黄 健勇(ほぁん・じぇんよん)。健勇と最近仲良くなった、エルモ・チェスナット(えるも・ちぇすなっと)。それから生後五ヶ月の娘の五人だ。
 健勇とエルモは、遊び盛りの子供らしくアインとキャッチボールに興じていた。特に、健勇が楽しそうに走り回っている。
 朱里は、三人の様子を娘のユノと共に木陰から眺めていた。手を伸ばしてきたユノに指を握らせ、歌を口ずさむ。
 ユノはようやく寝返りが打てるようになって、色々なものに興味を持ち始めた。ぺたぺた触って、あれはなに、これはなに。今日も例外ではない。ひらり、舞い落ちてきた桜の花びらを触って朱里に向けてくる。
「これはね、芝桜っていうのよ」
 あう? と不明瞭な声。くすり、笑って立ち上がる。小鳥の囀る声に、ユノが目を向けた。
「あれは、鳥さん」
 美しい景色。澄んだ空気。晴れ渡る空や、草花、鳥の声。
 興味を持って、触れてみて。成長、していくのだろう。それが、嬉しい。
 彼女がこの世界の美しさに触れ、愛し、共に生きる喜びを。
 この先も、分かち合えますように。


 キャッチボールをしていた健勇とエルモが、二人で駈けていってしまったので。
 アインは、しばらく見守ってから大丈夫だと判断し、朱里の元へ戻ることにした。
 ユノの子守りをしている朱里のすぐ隣に腰掛けて。
 言葉もなく、時間を過ごす。
「花が」
「うん?」
「綺麗だ」
「うん」
「緑が鮮やかで、空も青くて」
 空気も澄んでいて、風を気持ちいいと思える。
 機晶姫として作られたアインが、それらをデータとしてではなく心から『美しい』と感じられるようになったのは。
 何よりも、それら『命の尊さ』を、『騎士としての使命』だけでなく、感情の部分で『愛しい』と思えるようになったのは。
「朱里」
「……?」
 君に出会えてからだ。
 君の、おかげだ。
「これからも、ずっと一緒にいよう」
「……うん」
「ありがとう」
 一緒にいると、言ってくれて。
 色々なことを、教えてくれて。
 また、『弱さ』をさらけだすことを許してくれて。
 甘えさせてくれて。
 様々な『ありがとう』を込めて、朱里を抱き締める。
 とても、とても、愛しい。
 周囲に人影はなかった。今もないことをちらりと確かめてから、唇に啄ばむようなキスを。
 真っ赤になった朱里の頬にもキスを落として、並んで空を見た。


 時間は少し、巻き戻り。
 エルモは、健勇に振り回されるようにして公園で遊んでいた。
「ね、ねえ、待ってよー!」
「しっかりついてこいってー!」
 キャッチボールに始まって、木登り、かけっこ、またはじめに戻ってキャッチボール。
「僕は君みたいに運動が得意ってわけじゃないんだけど」
「でも、やってりゃ楽しくなるだろ?」
「まあ……」
 置いていかれないようついていくのに精一杯だったけど。
 ――確かに、嫌じゃないし、楽しかったな。
 さすがに遊びまわりすぎて疲れたけれど。
 それは健勇も同じだったらしい。
「そろそろ父ちゃんたちのところへ戻ろうか」
 と、提案をしてきた。素直にうんと頷き、戻ろうとして、
「ちょっと待て」
 止められた。
「何?」
「気付かれないようにな!」
「え? なんで?」
「父ちゃんの、普段見れねー一面が見えるから!」
 アインの? と首を傾げつつ、言われたとおりに足音を忍ばせ木陰に隠れつつ、戻る。
 アインは、朱里の傍に寄り添って、何か睦言を囁いているようだった。会話は聞こえなかったが、彼が安心しきっているのは表情から見て取れる。
「父ちゃんってば、普段は真面目で厳しいけどさ。母ちゃんの前でだけは、こんな風にメロメロになるんだぜ?」
「うわあぁあ……み、見ていていいの、これ。だめなんじゃないの……?」
 なんだかこっちまで照れてきた。頬が、熱い。頭がくらくらする。
「これからこれから。あ、ほら」
 アインが朱里を抱き寄せた。それから、キスを。
「え、……え、ええぇぇぇえええ!?」
「何だよ、でっかい声出して」
「だ、だって!」
「頭でっかちだなー。好き合ってんだからキスくらいするって」
「そ、そういうものなの? ……ああ、でも、夫婦仲が悪いよりは、この方がいいのかな……?」
 でも、ここは外だし。けど、二人は幸せそうだし。
 ――いいの、かな?
 よくわからなくなってきた。くらくらする。ふっと、朱里がこっちを見た。目が合う。朱里が真っ赤になった。エルモはとっくに真っ赤だ。
「やっべ、見つかった!」
「健勇くん」
「何っ」
「くらくらする……」
「えっ。エルモ? おい、ちょっとっ!」
 そのまま、倒れてしまったらしい。
 一時間後に目覚めたら、木陰で休まされていた。日なたで遊びすぎたらしい。
 飲み物を飲ませてくれた朱里の顔は、もう赤くなかった。


*...***...*


 こんな、晴れた休日はお弁当を持ってお散歩に。
 そう考えたのは、神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)も同じこと。
 早起きして、お弁当を作って、榊 花梨(さかき・かりん)山南 桂(やまなみ・けい)と共に空京にある自然公園を目指す。
「リンちゃんも一緒〜♪」
 はしゃぐ花梨の足元には黒猫。ニャァ、と愛らしい声で猫が鳴いた。
「良い天気で良かったですねえ」
「そうですね。しかし、主殿。眠くはありませんか?」
 お弁当を作るから、と早起きした翡翠のことを、桂は案じているようだ。大丈夫ですよと翡翠は微笑む。
「いつも早起きですから」
「だけど。言ってもらえば手伝いましたのに」
「ふふ。お気遣いに、感謝、です」
 公園に着いたら、軽くあたりを散歩して回ってから眺めの良い場所に陣取って、お弁当を広げた。
 一の段にはおにぎりとサンドイッチ。二の段には筑前煮と玉子焼き、エビフライ、マカロニサラダと詰めてきた。デザートには桜色のシフォンケーキ。飲み物はお茶を用意した。
「さあ、召し上がれ」
「いただきまーす♪」
 促すと、花梨が元気よく声を上げた。次いで、桂もいただきますと手を合わせる。
「豪華だね〜! ねえねえ、これ全部食べていいの?」
 花梨が翡翠に問い掛けてきた。どうぞ。と微笑む。
「ああ、でも、桂の分はちゃんと残してくださいね」
「俺のことを気にかけてくれるのは嬉しいのですが……俺よりも、主殿のことを心配してください。ちゃんと食べて」
「うーん、でも」
「でも、じゃないです。元々食が細いのに。なくなりますよ?」
 なくなる、ということはないだろう。苦笑して、一応と箸と皿を持つ。マカロニサラダを少量つついて満足した。皿を置いて、花梨と桂が食べる様子を見守る。花梨は良い食べっぷりだ、と感想を抱いていると、なんだかだんだん眠くなってきて。
 抗う必要性を感じられなかったので、そのまま瞼を閉じた。


 翡翠が眠っている。
 彼はいつの間に眠ったのだろう? 食べ終わってからすぐ、花梨が遊びに出かけたのに付き合ったので、定かではない。風邪を引いたりしないようにと、傍らにかけてあった上着をかけてやった。
 その際、ポケットから小さな何かが零れ落ちた。なんだろう、としゃがんで拾う。
 薬のシートだった。それも、数種類。何錠と。
「…………」
「ん……」
 ポケットに戻していると、そのときの動きでか、翡翠が目を覚ました。
「どうか、しましたか?」
「いえ。……そろそろ冷えてきましたし。帰りましょうか」
「? はい」
 花梨に、帰ることを告げる。花梨はもう少し遊んでいたかったのか、えー、と不満そうな声を上げた。が、聞き分けよく帰り支度を済ませる。
「楽しかった時間は、あっという間だね」
「そうですね」
 なんて、のどかな会話をしながら歩く花梨と翡翠を見た。花梨が、猫を追って走り出す。桂はそっと横に並び、
「あの薬はなんですか」
 問い掛けた。
「見たんですねえ」
「見えますよ」
「他の人には、内緒ですよ? 元気ですから」
「だから、内容はなんですか」
 挙げられた薬の名前は、あまり聞かないものだった。顔に出たのか、翡翠が苦笑いを浮かべながら「増血剤とか、抑制剤とか、鎮静剤とか」と答える。
「多いです」
「はい。多いですねえ」
「入院までいってしまうのではないですか」
「どうでしょうねえ」
「……心配するこちらの身にもなってください」
 ため息を吐いたら、微笑まれた。
「そこまで、ひどくないですから」
 どうだか。
「大丈夫です」
 ……どうだか。
「無茶は、しないように」
 この言葉にどれだけの抑止力があるのかはしらないけれど。
 言っておかないよりかはマシだと思っておきたい。