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自然公園に行きませんか?

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自然公園に行きませんか?
自然公園に行きませんか? 自然公園に行きませんか?

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8


 のんびりとした時間を過ごすことができるのはいつぶりだろうか。
 アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)は、空を見上げた。晴れ渡った青い空が広がっている。気分まで明るくなるような、そんな空だった。
 ――せっかくいい天気ですし、空京の自然公園にでも行ってみましょうか。
 思い至ったらすぐ行動だ。時間は限られている。支度をしている時、ちび あさにゃん(ちび・あさにゃん)と目が合った。
「ちびあさも一緒に行きますか?」
「にゃぁ」
 あさにゃんが笑った。次いで頷く。おいでと抱き上げ、家を出た。
 『朝斗へ。ちびあさと一緒に空京の自然公園で散歩してきます。夕方までには帰ります』という榊 朝斗(さかき・あさと)宛てのメモ書きを残して。


 休日ということと、この良い天気のためか自然公園にはかなりの人がいた。
 サイクリングを楽しんだり、散歩をしたり。芝生の上でレジャーシートを敷いておしゃべりしていたり。それぞれが、思い思いに穏やかな時間を過ごしている。
 アイビスは、とりあえず歩くことにした。ちびあさも、ここが気に入ったのかアイビスの上で飛んだり跳ねたりとせわしない。降りて、飛んでいる蝶を追いかけて走る。草原を駆け回る。
「楽しそうですね」
 くす、と小さく笑った。微笑ましくて。
 無意識に、歌を口ずさんでいた。いつ覚えたのかも思い出せない、懐かしい歌。
 あさにゃんが転びそうになったので手を差し伸べて、また歌い。
「にゃーにゃー」
 歌が気に入ったのか、あさにゃんも一緒に歌いだした。定位置の肩に座って。
 そのまましばらく歩くと、大きな木の下に出た。木の下にはオープンカフェが展開されていて、
「あら?」
 そこには知った顔があった。
「リンス。お久しぶりです」
 声をかけると、リンスが顔を上げた。変わりない様子だ。いや、少し元気そうに見える。あさにゃんが肩から飛び降りて、リンスとクロエの座るテーブルに着地した。
「にゃー!」
「あれ。久しぶり、偶然だね」
「はい。お元気そうですね」
「そうかな。ここがいい場所だからかな」
「確かに。ここはいい場所ですね」
 自然公園という名に恥じない自然の多さと心地よさ。そう長くいたわけではないけれど、アイビスはこの場所を気に入っていた。
「なんか。明るくなった?」
「え?」
「表情が。気のせい?」
 驚いた。まさか言い当てられるとは思っていなかったから。
「よく見てるんですね」
「そう?」
「はい。……そうですね。少しずつ、変われている、のかもしれません」
 色々な経験をして。
 少しずつ記憶を取り戻して。
 感情も、出てくるようになってきた。
「歌が好きになりました」
「歌?」
「はい。ずっと昔から知っている歌です。思い出したのは最近ですけど」
「へえ」
 こういう歌です、とアイビスは口ずさむ。
「綺麗な歌だね」
「そうですか?」
「うん」
 そう言ってもらえるなら何よりだ。アイビスも、この歌が好きだから。
 他愛のない話をして、ゆるやかに時間がすぎていく。
 かけがえのない時間だ、と思った。
 隣では、あさにゃんがクロエ相手に筆談をして笑っていた。


*...***...*


 いつかいつかと待っていても、チャンスなんて来ないのだ。
 チャンスは作るもの。
 だから、カノン・エルフィリア(かのん・えるふぃりあ)は準備した。
 ピクニックに最適な場所を調べ、お弁当にとサンドイッチを作り、一緒に遊ぶための道具を鞄に詰め込んで。
「レギオン!」
 仕事を終えて帰ってきたばかりのレギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)の前に、立ちはだかる。
「自然公園に行くわよ!」
「……は?」
 何をいきなり、とレギオンが口を開けたがスルーして。
 彼の手を掴んで家を出た。
 ――今日こそ、絶対に。
 ――レギオンとの距離を縮めてやるんだから!!
 しかし、そう上手くいかないのが現実で。
「あっ!?」
 芝桜が綺麗に咲いている場所でお弁当、とバスケットを開けば鳶に浚われ。
 その上、その鳶がサンドイッチを食べた瞬間泡を吹いて倒れたり。
「ちょ、ちょっとぉ! なによその反応ーっ!!」
 レギオンの顔も、かすかに引きつっている。
 ……台無しだ。完膚なきまでに台無しだ。
「……うー」
 準備を万端にしてきた分、落胆も大きい。しょんぼりとうなだれてると、手が伸びてきた。レギオンの手だ。レギオンは、バスケットに残っていたサンドイッチを掴んで頬張った。
「えっ、」
「……うん。大丈夫、いけるぞ」
「えっ、えっ。でも、だってそれ、鳶が」
「鳶には合わなかったってだけだろ。俺には何の問題もない。美味いよ、ありがとう」
 そんな風に素直に褒めてもらったら、なんだか照れてしまうじゃないか。
「……っ、お、お粗末様……!」
 なんとかそれだけ言って、あとは口をつぐんだ。


 木漏れ日の下で、のんびりとした時間を過ごす。
 ――いつぶりだ?
 ここ数週間、ろくに余暇などとれなくて。ゆっくりとした時間だなんて、本当に久しぶりだ。
 レギオンの隣では、カノンが眠っている。きっと、朝早くから今日の準備をしていたのだろう。平和な寝顔に自然と頬が緩む。が、すぐに表情は引き締まった。
 カノンが、レギオンのためを思って色々と考えていることに、レギオン自身気付いている。
 ――普通なら、喜ぶべきことなのだろうな。
 自分のことを考えてくれる相手がいて。
 幸せだと、受け入れてもいいのだろうけれど。
 ――俺がその想いに応えることは……。
 ――それが、許されることは……。
 ないのだろうな、と思うと、心に暗い影が落ちる。
 せっかく、カノンがこんな場を用意してくれたのに。
 ――やめよう。
 余計なことを考えるのは。
 今はただ、この穏やかな時間に身を任せていよう。


*...***...*


 予定が何もない日は久しぶりだ。
 彼女と過ごそうかと思って連絡を取ってみたけれど、あいにく彼女には予定があるらしい。
 ――何しようかなあ……。
 考えて、特にものすごくしたいことは思い浮かばず。
 のんびり過ごそうと決め込んだところで、
「託にーちゃーん」
 永井 託(ながい・たく)を呼ぶ声が聞こえた。那由他 行人(なゆた・ゆきと)の声だ。
「どうしたんだい?」
「キャッチボールしようよ!」
 のんびり、と決めたので芝生で昼寝でもしに行こうと思っていたけれど、キャッチボールも悪くない。
「いいよ、やろうか」
「わあい! もうね、準備できてるんだー! すぐ出かけられるよー!」
「あはは。遊ぶ気たっぷりだね、よし行こう」
 二人連れ立って向かうは、空京にある自然公園。


「行くぞー、ファイアーボール!」
 行人の投げるボールは、全力投球。
 びゅん、と風を切って飛んでくる白い球をグローブに収めた。パンッ、といい音がする。
「おぉ〜、速い速い」
 行人とスポーツをする機会はあまりなかったから、どの程度できるものかと思っていた。が、中々良い運動神経をしている。これなら他のスポーツでもそれなりに遊べるだろう。
 ――今度はまた、別のスポーツでもやってみようかなぁ。
 託が投げ返したボールを、行人がまた全力で投げ返す。
 幾度か繰り返すと、行人が息を切らし始めた。
「少し休憩しようか」
「うんっ」
「疲れたね」
「ちょっとね! でもまだまだできるよー!」
 元気なものだと微笑んで、適当に芝生に腰掛ける。
 なんとはなしにあたりを見ると、休日のせいか天気のせいか、カップルが多く見受けられた。行人も同じところに目を留めたらしい。
「なんだか仲良しの人がいっぱいだなー」
「行人はああいうのに興味はないのかい?」
「ああいうの? 仲良し?」
「うーん。仲良しっていえば仲良しだけど。特別な仲良しかな。
 好きな女の子と歩いてみたいなぁ、とか」
 うーん、と行人が唸る。しばらく黙って、
「……よくわかんない」
 というのが結論だった。託は質問を変えることにする。
「行人は誰といるのが楽しい?」
「えっとー……あのにーちゃんかな!」
「翼が黒いあの人かい?」
「うん! 特訓とかにも付き合ってもらったりするし、一緒だと楽しいし頑張れるんだ!」
「なるほどねぇ……」
「それにね、それにね――」
 きらきらとした目で語る様子を、温かな目で見る。
 今は、友達レベルとはいえ。
 行人も『あの人』のことが気に入っているらしい。
 もっとも、それ以上の感情じゃないのは、『あの人』が男だと性別を偽っているためか。
 はたまた、行人自身がまだ恋愛についてよくわかっていないのか。
 どちらも当てはまり、他にも様々な要因が重なっているためか。
 ――最後だねぇ。
 とはいえ、『あの人』が行人のことを好いているのは傍から見ていてバレバレで、いずれは関係が変わりそうに思える。
 ――ちょっとおせっかいを焼いてみようか?
「ねぇ、行人」
「んー?」
「あの人と、もっと楽しくしたいかい?」
「うん! 楽しいの大好きだ!」
 即答だった。そっか、と頷く。
「それじゃあ頑張っちゃおうかなぁ」
「? 何を?」
「うん。もう少し待っててくれたら、わかるよ」
「……? わかった」
 今度、どうにかして『女の子』としてのあの人と行人を引き合わせてみよう。
 ――男の子は好きな子のためにより強くなれるものだからねぇ。
 今からその日が楽しみだ。