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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

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・Chapter14


「こうして学院にやって来るのも、久しぶりね」
 イコン部隊と施設奪還組が出発した後、天貴 彩羽(あまむち・あやは)は海京を訪れた。ヒュムーン探索に関わった彼女ではあるが放校中の身であるため、大規模な作戦行動の場には、どうにも参加しにくい。仮に許可が出たとしても、整備の現場には入れてくれないたいだろう。ジェファルコンが正規運用されるようになったのは彼女が学院を去った後のことであり、最近になって新たに開発された機体もあるからだ。
「君は確か、イコンの技術者を目指しておるんじゃったな」
「ええ。第一線の方々から見て使えるかどうかは分からないけれど、アイディアは持ってきたわ。それと、おそらく地球ではほとんど見られない、魔道技術が使われている実機も」
 許可を取るのは面倒だったが。ただ、その「技術を見せる」ことが、エザキ、雪姫と会うための条件だったのである。
「ボクの分身のようなものだから、あまり雑に扱ったら燃やしちゃうよ?」
 アルハズラット著 『アル・アジフ』(あるはずらっとちょ・あるあじふ)が忠告した。
「ほうほう。気をつけるとするかのう。こんな老いぼれでも、まだ火葬されるつもりはないんでな」
 彼女のイコンがある格納庫の一角まで移動し、そこで話を聞くことにする。
「司城君、こっちじゃ」
 エザキが雪姫を招き寄せた。
「魔法系イコンは欧州でも運営されてるけど……これは見たことがないタイプ」
「とはいえ、科学も魔術も元を正せばそれほど違いはないわい。無から有を生み出すわけではない以上、そこにあるのは入出力の違いだけじゃ」
「そうでなければ、エネルギーコンバーターは使えていない」
 興味深げに、二人の研究者がデータ取りを行っている。
「今この場で解析するってなると難しいのう。どうじゃ、司城君?」
「欧州魔法連合のデータがあれば照合して、解析することは可能」
「残念ながらワシら、連中から嫌われておるからのう」
「じゃ、無理」
 きっぱりと雪姫が言い放った。
「じゃあ、アイディアの方聞かせてもらうとするかのう……ん?」
 エザキの目に留まったのは、眠たそうにしている夜愚 素十素(よぐ・そとうす)だ。
「ん、なぁに〜?」
「いやぁ〜、ジャンヌと雰囲気が似てると思ってな。いつも眠そうなところといい、正体が分からないところといい。まあ、君とは違って、ジャンヌは一応ちゃんとした人間じゃがな」
 素十素はポータラカ人である。この老人、彼女が見た目通りの少女でないと一目で見抜いたのだ。
「話の腰を折ってすまんの」
「いえ、大丈夫よ。じゃあ、まずはこれを」
 彩羽は二人の研究者に資料を手渡した。そこには『第三世代機構想案』と記されている。
「スベシア、記録はお願いね」
「了解であります」
 スベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)に、この資料に目を通した後の、二人の研究者からの意見を記録するよう指示した。
「今の地球の技術でどの程度まで可能かは分からないけれど、従来機との大きな違いは三つ。
 一つ目は、量子通信によるエネルギーシステム。第二世代機には量子暗号通信が導入されているけれど、第三世代機では情報だけでなく、量子ポータルを介してエネルギー供給を行えるようにしたい」
 現行機の最大の問題である、稼働時間の短さを解消するための案だ。ティル・ナ・ノーグの仮想世界での技術であるため、すぐに実現することは難しそうであるが。ただ、その世界のフィーニクスやスフィーダは現実世界でも開発できたため、将来的には可能かもしれない。
「二つ目は、機晶リアクターの複数搭載。トリニティ・システムの場合はメイン一つにサブ二つだけど、それでも連動させると制御が複雑で難解。ならば、発想を変えて、機体制御や機動・駆動用のリアクターと武装専用のリアクターの二つを搭載して、単純にエネルギーの総量を二倍にする。高出力の武装のエネルギーが全部リアクター依存になっているのは、カートリッジだと限度があるから。新式プラズマライフルが現在の技術の限界点ね。バスターレールガンはカートリッジ+リアクターだけど。
 武装ユニットはバックパック形式で第一世代イコンの制御コンピューターとリアクターを搭載し、武装部分と直結させる。プラヴァーの追加ユニットシステムの延長線上で、バックパック部に使う元イコン技術次第で、幅広い用途での運用が可能となるわ」
 そして、三つ目。
「三つ目は、機晶リアクター制御用のパイロットを乗せられるようにする。三人乗りにするってことよ。まだ試作段階とはいえ魔道書を制御ユニット化する技術や、機晶姫を直接機体に繋いでの機晶制御ユニットの技術があるわ。それを使って、増設した分のリアクター制御を専属で行ってもらう。これは今言った魔道書や機晶姫、それにナノマシンであるポータラカ人が適任ね」
 ひと通り説明を終え、エザキと雪姫からの意見を待つ。
 二人とも彼女のアイディアを笑うことなく、真剣に考えてくれているようだ。
「発想は悪くない。じゃが、問題はいくつもあるのう」
「最初の量子通信によるエネルギー転送は、現行技術ではどうやっても不可能。仮に今から研究を始めたとして、最短で十年。もちろん、『その技術が確立される目途が立つ』という前提で考えての。二、三に関しては今の技術で可能。加えて、ニルヴァーナのインテグラルやイレイザーといったものと戦うには、高火力武装が必要となる」
「何やらとんでもない化け物がいるらしいのう。地球じゃ開発制限がかかっとるから、強力な武器は造れんがな」
「シャンバラでの開発・運用は認められている。ただし、シャンバラで開発したとしても、地球に持ち込むことは禁じられている。シャンバラも条約に批准しているから、そんなことをすれば国際問題になる」
 表面的には平和な状態が続く地球では、兵器としてのイコン開発は停滞している。インテグラルやイレイザーは脅威だが、パラミタが間にあることで、地球では直接的な脅威とは認識されていないのだ。その反面、敵の恐ろしさを目の当たりにしているパラミタとしては、新武装・機体の開発が急務となっているのである。
「未だにこっちじゃパラミタを誤解している人は多いからのう。ワシらF.R.A.G.は直接パラミタに介入することはないが、ワシ個人としては協力は惜しまぬつもりじゃ。老いぼれにできることは限られておるがの」
「二案の機晶リアクターの複数搭載と独立制御は、三案によって可能となる。機体の大型化は必須だけど」
「最大の問題は、コストがかかり過ぎることじゃな。同程度の出力を持つリアクターを二機搭載するってことは、一機当たり現行第二世代機二機分のコストがかかるってことじゃからの。シュメッターリンクのように低コストなものをベースにすればよいかもしれぬが、一定水準以上の性能は必要じゃろ?」
「それはもちろんね」
 彩羽は頷いた。
「とりあえず、検討はしてみる。どちらにせよ、プラヴァー・ユニヴァース以外にも、ニルヴァーナ用の機体は用意しなければならないから」
 今後の新機体のため、彩羽のアイディアをある程度加味する。雪姫はそう答えたのであった。

「そろそろ話がひと段落したみたいだな」
 三船 甲斐(みふね・かい)は、彩羽との話に一区切りがついたエザキと雪姫に話しかけた。
「しかし、こうして見ると祖父と孫という感じよのぅ」
 佐倉 薫(さくら・かおる)が声を漏らした。
「……で、なぜ俺はこんな格好なんだ?」
 猿渡 剛利(さわたり・たけとし)も一緒に話を聞きについてきている。パートナーによって女装させられた形で。
「あの博士は変態ということで有名みたいだからな。ものは試しだ」
 ということで、エザキのセクハラ回避要員として彼に犠牲になってもらっているのである。
「しかし色んな人が来るのう。ワシに聞いたところで、年寄りの戯言でしかないと思うが」
「そんでも、この時代におけるイコン技術の第一人者だ。話を聞きたいってのも当然だと思うぜ?」
「ふむ、それはありがたいのう。抱きしめたくなるわい」
 咄嗟に剛利を前に出し、甲斐はエザキの抱擁をかわした。
「男に用はないわい」
 あっさりと受け流される。どうやらこの年寄り、相当な観察眼の持ち主のようだ。
「と、茶番はこのぐらいにして。聞いておきたいのは、SSサイズのパワードスーツ型イコンが技術的に可能かどうかだ」
 ニルヴァーナにイコンを持ち込む目途が立っていないため、同程度の力を持ったパワードスーツがあればインテグラルにも対抗できるかもしれない、それが甲斐の考えだった。
「無理じゃな」
「無理」
 研究者が二人揃って、即答した。
「それはどこまで突き詰めようと、SSサイズ――二メートルから三メートル前後ではパワードスーツ以上になることはない。しかし、Sサイズ――八メートル前後ではなく、四メートルから六メートル程度でならば可能」
「問題は、『サロゲート・エイコーン』という定義じゃと、地球人とパラミタ人がいないと性能を最大限に発揮できんというところじゃな。イコンと似たもので、機晶石が動力源かつ一人で運用可能なものってあるかのう?」
「ウォーストライダーがある」
 しかも、戦い方次第ではあるが、陸上においては第二世代機にも引けを取らない性能を持っている。
「ふむ……けったいなデザインじゃな。腕に関してはどうとでもなるじゃろ。司城君的にはどうかね?」
「大体五メートル前後で人型にすることは可能。コックピットスペースを造るのは困難。BMIを搭載し、必然的に装着式となる。パワードスーツとイコンの中間……というところ」
「そういえば、日本でこんな感じなのが研究されておった気がするんじゃが」
「肯定。自衛隊で開発が進められている。非契約者でも運用可能なものとして」
 SSサイズでは無理だが、一回り大きければすでに実用化間近なところまできている、という話だ。
「ちなみに、性能はどの程度になりそうだ?」
「イーグリットと同程度。ただし、飛行はできない。スラスターをつければ跳ぶことはできるが、安定して飛ぶのは難しい」
 それでも、陸戦能力は非常に高いものになるとのことだ。
「イーグリットで思ったんだが、フルカスタムしたイーグリットと無改造ジェファルコンの性能差はどのくらいある?」
「第一世代と第二世代で比べるのはナンセンスじゃよ。そもそもの設計思想が違う。特に、ジェファルコンではトリニティ・システムが使われている以上、どれだけイーグリットを改造しようと性能差が埋まることはない」
「だけど、それは『イーグリットでは絶対にジェファルコンに勝てない』ということじゃない。現に、天御柱学院パイロット科ののイズミ・サトーパイロット科長と五月田 真治教官長は、それぞれほぼ無改造のイーグリットとコームラントで、ジェファルコンと互角以上に戦える」
「究極なのは、『ライセンス持ち』の【アイスドール】じゃ。原形がないまでの改造が施されておるが、機体はシュメッターリンク。それでF.R.A.G.の一部隊と同等の戦力とみなされておるんじゃ。重要なのは機体性能じゃなく、パイロットじゃよ」
 イコンであっても、一番重要なのはそれを扱う人間であるというのが、二人の研究者共通の認識であった。