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リアクション
・Chapter12
(間もなく作戦開始か……)
湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)はテクノコンピューターに表示されている時計を眺め、作戦に備えた。
パワードスーツを運用するに当たり輸送車が必要な関係で、彼が乗っているのは、身一つで施設に乗り込む者たちとは別の輸送機だ。
「あ、はい。こちら湯上。……了解です。こちらは出動準備、完了してます」
向こうの通信担当者である茅野 茉莉から確認がきた。
あっちには噂の執行官が同乗しているが、こうして無事に目的地に着いたことから、特に問題はなかったのだろう。
(にしても、あんな小学生くらいにしか見えない子が、戦闘のプロとはなぁ……)
言葉こそ交わさなかったものの、出発前にその姿自体は目にしている。袖が余ったぶかぶかの赤い修道服を纏い、とろんとした目でぼーっとしている様を一言で表すなら、「就寝前、パジャマ姿に着替えた子供」である。
「施設の見取り図、送ってもらえますか? 外の敵の配置を踏まえた上で、突入ポイントを割り出します」
『了解。送るわよ』
凶司はそれを受け取り、分析を開始した。
『――というわけで、突破できるのは正面入口しかなさそうだ。裏口だとおそらく時間がかかる』
凶司からの通信を受けたセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)は、妹のエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)とディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)とともに、出撃態勢に入っていた。
「裏口には強そうなのがいるわねぇ。正面は数が多いけど……見た感じ、そこまでの戦力ではなさそうねぇ」
「でも、正直……あれの相手はやりにくいわ」
ディミーアが憂うのも無理はない。いかにもマスコットキャラクターといった、愛くるしいクマやウサギの着ぐるみが武装して構えている。ただ、特異な点があるとすれば、その着ぐるみの半分以上が、いくつもの異なった布を継ぎ接ぎにしたのが一目でわかる色合いだということだ。裏口を守っているのは、アメリカの特撮に出てくる超能力怪人の格好をしている。むろん、何のキャラからはパラミタにいるセラフたちには分からない。
「中の様子が分からないけど、向こうは時間を稼ぎたいみたいねぇ。地図を見た限りじゃあ地下に降りるとしても、正面から行くと結構な距離になるわぁ」
突入組の戦力を心配しているわけではないが、奪還までの時間は短いにこしたことはない。
作戦の手順は、こうだ。ネフィリム三姉妹と執行官ジャンヌが中心となり施設の外にいる敵を掃討。次いで、彼女たちの他に来ている二組のパワードスーツ隊が施設一階、地下一階の敵を引き受ける。そうして戦力を削ったところで、生身組が発射施設まで突破する。
『時間ですね。作戦、開始します!』
凶司が奪還組に告げると、三姉妹は輸送機から飛び出した。セラフは肉眼で下方にある島、そして施設を睥睨し、妹二人に指示を出す。
「突入する人たちのために、少しでも敵を減らしておかないとねぇ。幸い、敵は射程の長い装備は持ってな――」
地上からミサイルが飛んでくる。セラフは咄嗟にそれを対神ライフルで破壊した。携帯式防空ミサイルによるものだ。
「……訂正。輸送機ごと落とされちゃたまらないから、先に発射元を特定して、潰すわよぉ」
直後、凶司から通信が入る。
『特定完了。屋上だ』
視線を移すと、ミサイルを再装填している犬の着ぐるみがいた。
『向こうはミサイル撃ってきてるけど、こっちの破壊許可が出ているのは発射用の装置や建物のみだ。アメリカの国防長官からのお達しで、現役の研究施設だから被害はなるべく出さないでくれってさ。だから今回は、ロケットランチャーは原則禁止』
施設の破壊もそうだが、それによって味方が巻き込まれる可能性もあるからだ。とはいえ、
『……まぁ「原則」だけどな』
通信越しに、凶司がぼそりと言った。今はまだ味方が中にいない状態であり、外に撃ち込むくらいならさほど問題はない。
「見えた! あれだね。お姉ちゃん、ボクがいくから、援護お願い!」
屋上の犬着ぐるみめがけ、青の光――エクスが飛び込んでいく。
『あとエクス! 建物は絶対に殴るんじゃないぞ! いいな絶対だぞ!?』
「やぁあああ!!」
遅かった。
ギロチンアームによる一撃が、屋上に叩きつけられる。
「避けた!?」
ミサイル自体は破壊されたものの、犬着ぐるみは無傷だ。ファイティングポーズを取り、エクスに向かって飛びかかる。
「意外と、速い!」
即座に離脱し、距離を取った。
その瞬間、ディミーアの魔法の投げ矢が犬着ぐるみを貫いた。だが、それでも敵は止まらない。
「ちょっと、なんであんな大きい風穴開いてるのに動けるのよ?」
「あれ、中身は人じゃないわねぇ」
ミサイルで対空攻撃をしてきたことから、犬着ぐるみにはそれなりの知性はあるのだろう。だが、地上に沸いている多くの敵は、武器を持っていない。持っていても白兵武器だ。おそらく、単純な命令しか認識できないのだろう。
再びセラフが犬着ぐるみに向かって、ギロチンアームを振り下ろした。今度は直撃。だが、中身を確かめるには、損傷が激し過ぎた。
――あのぬいぐるみさんたちはぁ〜神の意に背くぅ〜冒涜的なぁ〜ものですねぇ〜
戦場に、間延びした声が響いた。
教会の執行官、{biold}ジャンヌのものである。何らかの術式によって、無線なしで声が届くようにしているのだろう。
(だからぁ〜執行官のあちきがぁ〜来たんですよぉ〜)
輸送機から身を乗り出し、彼女は言葉を紡ぎ始める。
――Pater noster, qui es in caelis: ――天にましますわれらの父よ
sanctificetur nomen tuum; 願わくは御名の尊まれんことを
adveniat regnum tuum; 御国の来らんことを
fiat voluntas tua, sicut in caelo, et in terra. 御旨の天に行われるがごとく
Panem nostrum cotidianum da nobis hodie; 我らの日用の糧を、今日我らに与えたまえ
et dimitte nobis debita nostra, 我らの罪をゆるしたまえ,
sicut et nos dimittimus debitoribus nostris; 我等が人に赦すごとく,
et ne nos inducas in tentationem; 我らを試みに引きたまわざれ
sed libera nos a malo―― 我らを悪より救いたまえ――
Amen.
祈りを終え、ジャンヌが輸送機から飛び降りた。
落下しながら彼女は、袖口から剣を出し、地上にいる着ぐるみたちに投擲していく。一方は、銃剣。もう一方は柄のみが実体の、光の剣だ。
それらが雨のように降り注ぎ、着ぐるみたちを地面に磔にする。
「今のうちにぃ〜吹き飛ばしちゃってぇ〜下さい〜残っちゃってもぉ〜あちきがぁ〜処理しますからぁ〜」
着地。
両手の指の間に剣を挟み、投擲準備に入った。
「吹き飛ばしてって……被害は抑えるんじゃなかったのぉ?」
「建物巻き込まなければぁ〜大丈夫ですぅ〜爆風はぁ〜仕方ないですしぃ〜」
とりあえず、そう簡単には行動不能にならないそうだから、跡形もなく消し飛ばしてほしいということだった。
「姉さん、ああ言ってるんだし、この隙にできるだけ減らさないと」
「そうねぇ、これは『許可が出た』ってことでいいのかしらん」
セラフ、ディミーアが対神像ロケットランチャーを磔にされて身動きが取れなくなってる着ぐるみ群に向けた。
「まとめて吹き飛ばすわよ!」
二人が同時に、ランチャーのトリガーを引いた。
地表で爆発が起こり、磔になっていない着ぐるみも四方に拡散した。
「さぁ、これで道はできたよぉ」
『皆さん、今のうちに行ってください!』
状況を確認した凶司が突入班に通達した。
三姉妹は引き続き味方の援護に徹し、中へと進んでいく者たちを見送った。
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