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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

リアクション


・Chapter20


 軍事施設地下二階。
「あとは一本道か」
 月谷 要(つきたに・かなめ)は、薄暗い通路の先を見つめた。
「待って、要……誰かいる」
 霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)が、険しい表情で要に告げた。
 通路脇で蹲っているのは、男女の二人だ。暗がりで顔は見えないが、ここで何かがあったのだろう。
「生きてる……よな!?」
 生死を確かめに行こうとする月谷 八斗(つきたに・やと)だったが、足を止めた。
「急いでいるのに……他人に構ってる余裕なんてあるのかい?」
 ぞくり、と背筋に冷たいものを感じる。
 要たちの前に立っているのは、金髪碧眼の少年だ。
「ああ、彼らは来るのが早過ぎてね。準備が終わるまで待ってくれといったのに、強引に行こうとしたから……」
 あんな姿になってしまった、ということらしい。
「おっと、そんな怖い顔しないでよ。戦うつもりはないんだから。まあ、そっちが望むんなら、相手になるけど?」
 不敵に微笑み、少年は要たちを見回す。
「そこをどけ」
「ああ、どくよ。主催者の準備完了してるから、歓迎の挨拶くらいさせてくれよ」
 少年は深々と一礼し、彼らに告げた。
「ようこそ、我々のパーティへ。主催者は向かって右手のパーティ会場にてお待ちです。くれぐれも、左手には進みませんよう。そちらは控室となっております。様々な機器も置かれておりますので警備員が入口に待機してます。また、受付の方が招待状のチェックをするかもしれませんが、ご了承ください」
 顔を上げ、微笑む。
「それではどうぞ、お進み下さい!」
 本当に手を出すつもりはないらしい。
「……行こう」
「いいのかよ、親父!」
「準備は整ってるって言ってたからねぇ。もう、時間がないってことだ。……罠かもしれないけど、急がないとな」
 少年の脇を素通りしていく。
 要は本能的に、この少年と戦ってはいけないと感じた。
「……何者や、あのガキ」
 七枷 陣(ななかせ・じん)も同様のようだ。
「契約者とは違う『何か』であることは確かだ。どうやら、一刻の猶予もなさそうだ。遅れるなよ、小僧……!」
 仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)が陣の前を駆ける。
「幸い、ここまで力を温存できましたからね。まともに相手をしなくて、正解でした」
 小尾田 真奈(おびた・まな)の言うことはもっともだ。
 敵は木端微塵になるまで攻撃し続けなければ倒れない上、着ぐるみの中に毒虫を入れるとか、人魚の唄で惑わすとかといった状態異常を誘うものが一切通用しないのである。もっとも、中身がまともなものでないため納得はいったが、あれはこっちが精神的に参るものだ。なお、このメンバーの中で八斗だけはそれを直視してはいない。
「ただ、次は戦わなきゃならなそうだな。『招待状のチェック』なんて言うとったし」
 そんなことを言い合っているうちに、分かれ道に差し掛かった。
「ヴィクターは、頼んだわ」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)と彼女のパートナーたちは、左へ進む。あの口ぶりからするに、そちらに制御装置があるのだろう。
「おう! そっちは任せた!」
 要、陣たちは右へ進み、一気に駆けていく。
「やはり、待ち構えていたか」
 磁楠が最初にその姿を捉えた。
 階段を下りる直前に現れた緑色の巨人ほどではないが、一行よりも一回以上はデカい。
「銀角……瓢箪を持ってなきゃいいねぇ」
 デザインは、とある実写映画に出ていた西遊記の銀角に酷似していた。ルカルカたちの方にいるのは、金角だろうか。
「脇を抜けるのは難しそうね」
 前衛の悠美香が、彗星のアンクレットで全員を加速させた。
 後衛からは、八斗がヴェンジェンスによるビーム砲撃を行う。さらに、磁楠が火天魔弓ガーンデーヴァを放った。発射設備に関しては破壊許可が出ている。さすがに通路を崩してヴィクターの元にたどり着けなくなるという事態は避けなくてはならないが、現役施設の時ほど遠慮する必要はない。
「おいおい、ほとんど効いてないのかよ! どんだけ堅いんだよ!?」
 八斗が目を見開いた。
「ご主人様、悠美香様、援護します! その隙に」
 真奈がハウンドドッグRで弾幕を張る。
「動きを止めておくのが先決だ!」
 要はスプレッドカーネイジと左目のビーム、さらに脚部からも銃撃を行い、弾幕を張った。
「ここで動きを封じることができれば……!」
 銀角が大刀を振り下ろす。悠美香はそれを後の先で見つつ、ブレイドガードで梟雄双刀「ヒジラユリ」の刃の上に乗せ、スウェーで受け流した。
 そこから、金剛力とパワーブレス、さらに瞬間的なサイコキネシスによるブーストを使い、頑丈な敵の身体を斬り裂いた。
「今よ!」
 敵に隙ができたのを見計らい、陣が封印の魔石を敵にかざした。
 封印呪縛である。
「あいにく、オレらは急いでるんでな」
 陣は魔石が割れないよう注意して、手に取った。
「……いよいよ、ご対面やな」
 通路が終わり、広い部屋に出た。中央の台座には機晶石がセットされ、眩い光を放っている。数メートル先から床の色が変わっており、そこからが外から見えたオベリスクのような建物の内部なのだろう。
 機晶石の前には、一人の男が立っていた。黒い髪にサングラス、派手なワイシャツ、ジーンズ、そして白衣。
 その人物が両手を大きく開いて、笑った。
「ククク、よくここまで辿り着いたものダ。さすがはパラミタでの戦いを潜り抜けてきた猛者と言うべきカ。そんな君たち二、面白いものを見せてやろウ」

* * *


「まったく、よもや金角とはな」
 夏侯 淵(かこう・えん)が声を漏らした。
「さっきの緑色のほどではなさそうだけど、気を付けた方がいいわね」
 ルカルカは全員にゴッドスピードをかける。そこから闇洞術『玄武』を繰り出し、動きを封じた。
 その隙に龍飛翔突。畳み掛けるように、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が剣の舞を繰り出し、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が真空波を発した。
 それでようやく、敵の皮膚に傷を与えることができた。その傷口に向かって、淵が魔障覆滅を繰り出す。
「これで、終わりだ」
 カルキノスが封印呪縛をし、敵を魔石に封印した。やはり、金角・銀角は吸い込まれる運命のようである。
「見えた、あそこよ!」
 そして、ルカルカたちは制御室に足を踏み込んだ。
 しかし、
「……どういうことだ、これは?」
 そこにある光景に、ダリルが思わず目を疑った。
 発射装置のコントロールや衛星制御を行う場所は、ここで間違いない。部屋にはそれを示す表示もある。
 室内にある機械類は、全てが徹底的に破壊され尽くされていたのである。
「く、まだだ。システムそのものは生きているかもしれん」
 ダリルが電脳支配でシステムへの干渉を試みる。だが、既に遅かった。分かったのは、発射台のエネルギーが暴走状態にあり、もはや停止させることが不可能であるということだった。
「どうして? 衛星兵器を手に入れることが目的じゃなかったの?」
「違うな。発射台のエネルギーが、暴走している。当然、あの塔は消し飛ぶだろう」
 ダリルが思案し、答えを出した。
「衛星兵器を守ってる連中は、確かにこの施設を使おうと考えているのだろう。だが、テロリストにイコンを与えたきつけた者が、同じ考えであるとは限らない。俺たちは、まんまと誘い込まれたというわけだ」
 もし今回の作戦参加者の中に、ヴィクター・ウェストの人柄について理解している者がいたならば、もっと早く気付くことができただろう。
 彼にとって、目的は手段を得るために存在するものでしかない。その手段は、興味の赴くままに行う研究とデータ収集だ。そんな彼が、下手をすれば世界そのものを脅かしかねない兵器の掌握に協力的になるだろうか。
 契約者と互角以上に戦える着ぐるみ軍団、たった二機のみ存在し、衛星を直接守っているわけではなく迎撃要員であるカスタム機、そして集められた契約者と、世界でも有数のパイロットたち。
 そこから導かれる、ヴィクターが収集対象としているデータとは――。