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うるるんシャンバラ旅行記

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うるるんシャンバラ旅行記

リアクション

 明日はいよいよ花火大会だ。
 戻ってきた空京は、ますますの活気にわいている。
「おかえり、レモ!」
「リアさん!」
 リア・レオニス(りあ・れおにす)と、レムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)ザイン・ミネラウバ(ざいん・みねらうば)が、天沼矛で二人を待っていた。
 今回の花火大会は、リアの提案もあり、宮殿の特別展望台の一部を借りて、ジェイダスたちは観覧することになっていた。その会場の案内も兼ねて、リアたちはここで待っていたのだ。
「特別展望台って、二百階にあるんですよね?」
「ああ。空京が一望できるし、花火もきっとよく見えると思うんだよな」
「そりゃ、豪勢だ」
 一行は、一端宮殿を登り、展望台の下見をする。
 今日は普通に開放されていることもあり、観光客で賑やかだ。
 窓の外には、夕闇に没する空京の街が広がっており、きらきらと夜景が美しい。
「レモは歩き詰めで疲れてないか? オレみたいな風来坊は一日歩いても平気だけどな」
 ザイン・ミネラウバ(ざいん・みねらうば)が、さりげなくレモに気を遣う。
「大丈夫だよ。葦原島で少しゆっくりしたし、もう元気だから」
 その笑顔は、旅立つ前よりもずいぶんすっきりしている。得るものはあったのだろうと、リアとレムテネルも、ややほっとする思いだった。
「今回のルートにない所にも見せたい場所は沢山あるんだぜ。今度はオレに案内させてくれよ」
 悪戯っぽくザインはそう誘いかける背後で、レムがこほんと咳払いする。ザインはどうも、時に悪戯がすぎるからだ。
「あんまり変なところを案内しないように」
「おっと。お堅いレム様が睨んでるや」
 苦笑を浮かべ、ザインは一歩後ろに引いた。
「レモ。鉄道が見えるぜ」
 カールハインツが、窓の外にちょうど到着しつつあるヒニラプラ鉄道を見つけてレモを呼ぶ。
「ほんと!?」
 途端にはしゃいで、レモは窓に張り付いた。
「レモは、鉄道が気に入ったのか?」
「うん。今回初めて乗ったけど、すごく楽しかったんだ」
「よかったですね」
 しばらくはそこで景色を楽しんだ後、リアは、せっかくだからとレモを祈祷室へと続く通路へと誘った。
 細長い窓が続く通路には、等間隔に並べられたオレンジの光だけが灯り、二人の足下を照らす。荘厳ながら暖かな空気が満ちた場所で、リアとレモは足を止めた。
「この奥で、アイシャは今、パラミタの崩壊を食い止めるため祈りを捧げてるんだ。レモはアイシャと会った事はまだないんだよな」
「うん」
 レモは頷いた。
「アイシャはレモを受け入れてると思うんだ。レモは俺達と同じシャンバラの民だからさ」
 その他には、リアは詳しく説明することは避けた。どうやっても、ウゲンの存在を外して説明することは難しいからだ。
 ただ、ここに連れてきたのは、アイシャの優しい気持ち、その祈りを、レモにも感じて欲しかったからに他ならない。
「……たった、一人で? アイシャ様は、ずっと、ここに?」
「そうだよ。でも、一人じゃない。俺の心は、アイシャの側にいるから」
 レモは目を閉じた。静かに、アイシャのことを考え、感じているようだ。
「リアさんは、アイシャ様が大切なんですね」
「えっ! ……あ、ああ。誰よりも大切で誰よりも守りたい女性だよ」
 盛大に照れつつも、リアはそう言い切る。それから、リアは尋ねた。
「レモは? レモの大切な人や大切な事ってなんだい?」
「……僕は、薔薇の学舎の友達が、一番大切だな」
 この旅行中、色々な人が自分を気にかけてくれた。その誰にも感謝をしているけれども、やはり一番大切なのはと尋ねられれば、自分を受け入れてくれた、薔薇の学舎の友人だ。
 そして、それから……。
「大切とは、少し違うかもしれないけど……もっと知りたい人は、できたよ」
「知りたい人?」
「うん。なかなか自分のことは話してくれない人だから、時間がかかるかもしれないけど」
 レモは微笑み、けれどもその人物の名前は、明かさなかった。
 ただ、今までは、『自分が今後どうなるか』にしか目をむけられなかったレモが、他人に興味を持つ余裕ができたということなのだろう。
 その成長を感じ、リアもまた、深く微笑んだのだった。


 会場の設営などの手配が残っているため、リアたちは宮殿に残ることになった。
「じゃあ、明日!」
「はい」
「待ってるよ」
 彼らに見送られ、レモたちは夜の空京へと戻ってきた。
 ジェイダスが手配していたのは、空京内では珍しい日本風の旅館だ。……手配というより、おそらくはジェイダスが建てさせたものに違いない。一歩入るなり、手の込んだ内装や調度品は、ジェイダスの屋敷のそれとそっくりで、レモはなんだかほっとする。
「だいぶ、荷物も軽くなったなぁ」
 行く先々でお土産を渡してきたから、最初はカールハインツに呆れられた鞄も、だいぶ空っぽになっている。
 その空いた部分に、色々な場所でお世話になった人との思い出がかわりに詰まっているようで、レモには嬉しかった。
 ジェイダスとラドゥは、明日到着するらしい。薔薇の学舎の友人達も、ほとんど皆この宿に泊まるそうだ。
「なんだか、薔薇の学舎がちょっと引っ越してきたみたい」
「まぁ、そうだな」
「楽しみだなぁ……」
 ふふ、とレモは空っぽになった鞄を抱き締めた。
 話したいことが、みんなに、たくさんあるのだ。
「あ! でも、お土産買わないと! 忘れてた!」
「土産?」
「うん。今回、空京まで来られなかった人たちもいるし……ハルディアさんとか、泰介さんとか、アーヴィンさんとかにも! 明日、お店に行かなくっちゃ」
「お前、ホントにそういうの好きだな……」
 カールハインツはやや呆れ顔で、「俺はつきあわないからな」と先に布団に横になっている。
「わかってるよ。少し、休んでてね」
 そもそもカールハインツが誘った方とはいえ、今回の旅行が自分のためのものだったと、レモにもよくわかっている。途中で、色々あったけれども、カールハインツに対しての感謝ももちろんしているのだ。
「ありがとう、カールハインツさん。ここまで連れてきてくれて」
 寝返りを打った背中に、レモはそう礼を言う。照れたのか、カールハインツは、寝たふりをして何も答えなかった。