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あなたが綴る物語

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あなたが綴る物語
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■エンディング

「鉄心、イコナちゃんがおかしいのです」
 ティー・ティー(てぃー・てぃー)に握りこぶしで力説され、源 鉄心(みなもと・てっしん)は一瞬鼻白んだ。
「……いや、それは俺が言ったことだろう」
 ソファで本を読んでいたと思ったらいきなり立ち上がって、何かうんうんうなずいたと思ったらまた座って。カレンダーをちらちら見てるせいでそそいでいたお茶をコップからこぼしたり。フーフー息を吹きかけて冷ましていたコーヒーを、強く吹きすぎて手にかけたり。
 ここ数日、イコナはかなり挙動が怪しかった。
 ただ、よくよく観察してみると、イコナ自身は気付かれていないと思って必死に普段どおりを装っているのに、そこへ「気付いているぞ」と問い詰めるのはなんだか無粋な気がする。
 思春期の娘を持つ父親じゃあるまいし。
 だからはじめのうちは見て見ぬフリをしていた鉄心だったが、日に日にひどくなっていくイコナの動作を見るに見かねて、ついに今朝方話しかけた。
「なんだか朝から落ち着かないようだが、どうかしたのか?」
 なるべく何でもないふうを装って。
 しかしイコナは電流でも受けたように飛び上がった。
「ななななっ、何でもありませんのっ」
 ……いや、どう見ても何でもないという反応じゃないだろう。
 そして10時を回ってこそこそ出かけて行くのを見て、ティーにあとをつけさせることにした。
 鉄心から話を聞いたとき、ティーは思ったとおり半信半疑という顔をした。
「イコナちゃんが怪しい……ですか?
 うーんー。きっと、何かおいしい物を置いているお店を見つけて、それを私たちに隠しているのですねっ。むむむ。それはゆゆしきことです。このままにはしておけません!
 了解です! 指令を承りました! 必ずや尾行に成功し、イコナちゃんの秘密のお店を暴いてくるでありますっ!」
 なんだか変なテンションで敬礼をして、るんたった出て行った。完璧楽しんでいる。
 きっと鉄心の心配を本気で受け止めてはいなかったのだろう。気の回し過ぎ、心配し過ぎだと軽く考えていたに違いない。
 しかし出かけてから2時間後。イコナより早く戻ってきたティーは、行きと全く違う真剣な表情をして鉄心に報告した。
「絶対イコナちゃんはおかしいです! だって本屋に入って行ったんですよ? ケーキ屋さんじゃなくて! しかもキョロキョロ周囲をやたらと気にして!」
「……本屋?」
「なんか、地球の作家のフェアをしているフロアに一直線してました! そこで赤い髪をしたカッコイイ女性とはち合わせして……えーと、イコナちゃんは「スクリプトさん」って呼んでました。顔見知りだったようです。その方と、何かへらへら笑って話してたと思ったら、平積みされてるこーんな分厚い本を2人して手に取って、レジへ持っていったんですよ!」
「本」
「そうです! おかしいと思いませんか!? 鉄心っ。あのイコナちゃんが漫画とか雑誌じゃなくて、小説本を購入したんですよ!?」
 このあたりで大体鉄心の興味は消えた。
「なんだ、本の発売日だったのか」
 てっきりまた何か――それこそ前の事件の後遺症とかがぶり返して、心身に異常でもきたしたのかと思っていたのに。
「ご苦労だったな、すまないティー。俺の杞憂だったようだ」
 と、立ち去ろうとした鉄心だったが。
「いいえ! 杞憂じゃないうさ!」
 ティーが突然奇妙な言葉を話し始めた。
「……うさ?」
 振り返ると、どこから引っ張り出してきたのかウサギの耳のカチューシャをつけたティーが立っている。
「この謎にはきっとまだ裏に何かあるうさ! 必ず探り出してみせるうさ〜!」
 力強く宣言したティーは、あっけにとられている鉄心を置き去りに、スリッパをぱたぱたさせながらグッドタイミングで帰宅したイコナの部屋へ突撃した。
「イコナちゃん、おなか減ったうさ! 今日のおやつは何かな〜うさ?」
「あ、ティー……って、えっ? えっ?」
 ベッドに腰かけていたイコナは、あわてて何かを上掛けの下に押し込む素振りをする。
「くんくんくん。何かいいにおいがするうさ(嘘) 今、何かおいしそうなのを隠したうさ?」
「い、いえ。これは違うのです。あのっ、あのっ」
 どんどん迫ってくるティーうさにとまどうイコナ。
「おやつじゃないのうさ?」
 指をくわえて、ティーうさはさびしげにイコナを見つめる。
「ええと……そうですね。たしかどこかにチョコがあったかと…」
 とにかくベッドから注意をそらそうと立ち上がった、そこにがばっととびついた。
「おやつがないなら、イコナちゃんを食べるので大丈夫うさ! ――って、何これ? うさ?」
 と、まるで今気づいたかのようにいけしゃあしゃあとイコナが隠した本を引っ張り出す。
「えーと。……『あなたが綴る物語』?」
「きゃーーーーーっ!! やめてやめて! 読まないでくださいなのです、ティー!!」
 これ以上ないほど真っ赤になって、今度はイコナがティーに飛びついた。



 イコナの悲鳴は廊下にいる鉄心にも聞こえていた。
 あわてて部屋へ突入しかけたものの、それが苦痛や恐怖から上がるものとは種類の違うものだというのが理解できて、伸ばしていた手をひっこめる。
(この向こうにいるのはティーだ。彼女がイコナをどうにかするはずがない)
 それでも心配で、じっと耳をすましていると、ほどなくして部屋のなかで何かゴロゴロ転がっているような音と、ひそひそ話す声が漏れ聞こえてきた。
「ま、まぁ……こんなの、全然普通だと思いますけど?」
 とか
「こ、これはなかなかためになりますわ…」
 とか。
 なにやらしったかなセリフを吐くイコナやティーの慎重なつぶやきが聞こえてきたところで、ふと鉄心は我に返った。
「何をやってるんだ、俺は」
 イコナの部屋の前で2人の会話に聞き耳を立てている、なんて。
 切迫した状況でなし。2人は楽しんでいるだけだ。
 なんならあとでティーに報告してもらえばいいかもしれないが、そうする必要もなさそうに思えた。
「思い出したら、あとで夕飯を食べにこい」
 コン、とドアをたたいて部屋から離れる。
 けれど夕飯の時間になっても2人が部屋から出て来る気配はなく、ティーとイコナの楽しげな声は長らく続いたのだった。



担当マスターより

▼担当マスター

寺岡 志乃

▼マスターコメント

 こんにちは、またははじめまして、寺岡です。

 まず、リアクションの公開が大幅に遅れてしまったことをおわびいたします。
 今度ばかりは自分も、もしかしなくてもこれはGMとしての危機だと、ひしひしと感じていました。
 進退を考えるにしてもまずはこのリアクションを仕上げてからと、とにかくマイナスに走りかける己を叱咤して、なんとか公開にこぎつけられた次第です。


 なお、皆さんのアクションを読ませていただきまして、はじめて自分がガイド失敗していることに気付きました。
 HQの「中世ヨーロッパ」とはヒストリカルで、文字どおり中世ヨーロッパが舞台です。
 説明が不足していました。大変申し訳ありません。
 それでアクションをまとめる際、イギリスとフランスの動乱期、百年戦争後期〜薔薇戦争前期の時代を舞台とさせていただきました。
 ただしヒストリカルとはいっても歴史物ではなく、あくまで恋愛アクション主体です。
 わたし自身、この時代に詳しいというわけではないこともあり、必ずしも史実に忠実というわけではありませんのでご了承ください。

 そして中世ヨーロッパですが、アクションを拝見していまして、これは近世ヨーロッパの方が面白いのでは? と思うものがいくつかありました。
 中世ヨーロッパを選択された方々が大変多かったこともあり、そちらの方々は「近世ヨーロッパ」と区分してあります。
 こちらはリージェンシー・ロマンスをねらってみました。楽しんでいただけたらと祈っています。


 最後に。
 今回の大遅刻、本当に申し訳ありませんでした。重ねておわび申し上げます。



 PS
 今回思いのほか大長編と化したため、目次を作らせていただきました。
 何分初めての行為ですので、失敗しているかもしれませんが、よかったらご活用いただけたらと思います。


 01/10 文言の修正・訂正等をさせていただきました。関係者様、申し訳ありません。