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第19章 浮遊大陸を選んだ理由

 広瀬 鉄樹(ひろせ・てつき)ジェイド ウォルフ(じぇいど・うぉるふ)と契約し、所属校を決めたのはつい最近だ。彼の母親の広瀬 京は、引っ越ししたばかりの息子が必要な物を揃えているかどうか、そして、以前からパラミタで暮らしている広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)達がどんな生活をしているか。それを見ておきたくて彼等の許を訪れた。
 パラミタがどんな雰囲気でどんな世界なのか、体感してみたかったというのもある。
 葦原明倫館と蒼空学園。2つの学校と都市を見てまわり、子供達の生活に触れてみる。
「テツくん達は、何もない〜、というわけじゃないけど部屋が広く感じるわね」
「ん〜、ファイちゃん達はきちんとしていて、私、安心したわ」
 実際に兄妹の部屋を見てみてそう感じた京は、鉄樹の生活必需品を買おうと兄妹を連れ、ツァンダの店を歩いてまわった。日用品だけではなく、ファイリアと一緒に女子達の服を見繕い、買い込んで。
 そして今日はファイリアのパートナー、ウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(うぃるへるみーな・あいばんほー)広瀬 刹那(ひろせ・せつな)、ウォルフも含めた6人で改めてツァンダを観光した。鉄樹以外は全員、京達の選んだ私服を着て、リュー・リュウ・ラウンに行って沢山のワイバーン達の姿を見て。昼食時になったので今は、レストランに入っていた。
 丸テーブルに京と鉄樹が向かい合い、ファイリアと刹那が京の両隣に、ウィルヘルミーナとウォルフが空いた所に向かい合って座る。
「結構楽しかったよな」
 注文を終え、鉄樹は今日を振り返った。せっかく母が来たのだから楽しんでもらわないと、と思っていたが。
「確かに今日はとても楽しかったですね。ファイリアさん、刹那さん」
 ウィルヘルミーナも鉄樹に同意し、刹那も明るい笑顔で頷いた。
「昔ながらのパラミタの街並み風景、キレイだったっスね〜。動物も色々いて、どっちも絵に描きたくなる位すごかったっス〜」
 刹那はブレザー制服風に見える緑のジャケット、ティアードミニスカートを着ていた。今やお母さんとなった京に選んでもらったその服を、彼女はとっても気に入っている。隣の京の腕を取って甘えながら、嬉しそうにしている。ファイリアは彼女の反対側から、京に甘えた。
「そうです。お母さん、今日見た動物、すごかったですね〜」
「そうね、すごかったわね〜」
 京は、甘えてくる彼女達の暖かさを感じながら、様々な動物達を実際に見た時の驚きと高揚感を思い出す。のびのびと空を飛ぶワイバーンに、本や映画の中でしか見たこともないような生物達。短い時間だったけれど、とても貴重で、楽しい経験だった。
 それから彼女は、ファイリアが青のショルダーカットソーと、刹那とお揃いのミニスカートを着ているのを見て、優しく微笑む。
「ファイちゃん、その服気に入ってもらえたみたいでよかったわ〜。刹那ちゃんと2人、すごく似合ってるもの〜」
「そ、そうですかー? ウィルちゃんもウォルフちゃんも、とっても可愛いですよっ!!」
 照れたファイリアの突然の言葉に、ウィルへルミーナは「ふぇっ!?」という声と共にぴんっと背を伸ばした。彼女は、黒白ボーダー柄の、落ち着いた雰囲気のロングワンピースを身にまとっていた。
「か、可愛いって……あ、ありがとうございます」
 ちょっと気に入っていたから、びっくりしながらも恥ずかしそうに照れ笑いする。一方、ウォルフは大きな喜びも見せずに、お世辞だろうと思いながら適当に礼を言った。
「あー……ありがとう?」
 ひらひらしているだけで自分に合うと思えないからか、語尾が何だか疑問系になった。服装に気を遣えと言われたから渋々着ているが、非実用的で、何かあった時に動きづらそうだ、と思っていた。あまり、おしゃれには興味が無いのだ。
 だが、ウォルフが真に受けなかったのに対し、鉄樹はファイリアの言葉をおかしいとは思わなかったらしい。それを保証するように、彼は言う。
「ファイと母さんの見立ては悪くないからな? 似合う服だってのは当然だろうな」
 ――やはり、似合っているのだろうか。
 ウォルフはもう一度、自分の着ている服を見下ろしてみる。発言したことで皆の目が集まったからだろう。
「お兄ちゃんとウィルさん、ウォルフさんの2人、お似合いかもっスね♪」
 鉄樹を見ていた刹那が、楽しそうに言う。ウィルヘルミーナとウォルフは、鉄樹の両隣に座っていて、それを見たファイリアも目を輝かせた。刹那と一緒に彼をからかう。
「お兄ちゃん、両手に花でステキですっ!」
 へ? と水を飲む手を止める鉄樹に、何を思ったのか、京も「テツ君、二股はダメよ?」とにこにことした笑顔で続けた。
「鉄樹さんはそんな人じゃなさそうですよ?」
 彼女達に、ウィルヘルミーナは思ったままにそう言った。浮気はしそうにない人だ、と。それから、彼女達の話の内容を改めて考え、いきなり顔を赤らめる。
「! そ、そもそも、ボクじゃ鉄樹さんとはつりあいませんよ!?」
「ウィルさん、落ち着け。冗談だから」
 わたわたと焦る彼女にツッコミを入れ、だが鉄樹はそこで恐ろしい可能性に思い至り、向かいの京に若干、身を乗り出す。
「冗談だよな? 真剣にそういう風に見てないよな、母さん?」
「さあ〜、どうかしらね〜?」
「どうかしらねって……」
 少し天然なところがある母は、おっとりとした笑顔を浮かべて全然見当が外れたことを考えていたりもする。だからつい、確認してしまった。
 そんな親子のやりとりを見て、ウォルフは余裕の笑みを彼に向けた。
「俺がこいつの連れになる事はありえんが、2人や3人囲う位の器量は見せて欲しいものだな? 俺のパートナーとしては?」
 注文した料理が続々と運ばれてきたのは、その頃になってからだった。

「そういえば、鉄樹さんはこっちの世界が危険なのに、どうして今パラミタに来ることを決心したんですか?」
 料理を食べる中、ウィルヘルミーナが鉄樹に訊く。刹那もその話に興味を示した。
「そういえば、気になるっスね〜。お兄ちゃん、ほとんどいきなりこっちに来たようなものっスからね〜」
「ファイも聞きたいです。お兄ちゃん、ファイみたいに探し物とか無かったし、こっちに来る理由がちょっと分からなかったですから〜」
 ファイリアも料理から顔を上げ、彼に注目する。3人の目が集まり、訊かれたなら、と動じる素振りなく鉄樹は答えた。
「ここに来た理由か? ジェイドに誘われた時、面白そうだと感じたからさ。ファイの話は聞いていて、前から興味あったからな」
「確かに面白いぞ。ここならば存分に武働きで俺も名をあげられるしな」
 ウォルフが揚々とそう続け、満足そうな笑みを浮かべる。だが、2人の言葉を聞いたウィルヘルミーナは少し肩を落とした。
「そう、なんですか……」
 純粋に理由を知りたかっただけだったが――
(ファイリアさんの事は気になっていなかったんでしょうか?)
 と、そう思ってしまったのだ。
「なるほど〜。お兄ちゃん、ファイのお話聞いてこっちの世界にとっても興味を持った、って事なんですね〜」
 一方、ファイリアは素直に鉄樹の答えを受け止めていた。ただ、彼の様子を見ていると何となくいつもと違う気がする。目を合わせようとしたら、焦ったように逸らされてしまった。
(はわわ? お兄ちゃん、何か変です?)
 何か隠しているような挙動不審さに首を傾げる。その「?」を解消したのは、京の他意の無い言葉だった。
「あらあら、テツ君。可愛い妹のため、って言葉が抜けてるんじゃないの? テツ君、いつも心配してたわよ。ファイちゃん刹那ちゃんがひどい目にあっていないか、って」
 それを聞いて、鉄樹は料理を噴き出しかけた。取り繕っていた笑顔が一気に吹き飛ぶ。
「か、母さん! それだけは絶対言うなって言ってただろ!?」
「ほう? 俺も初耳だったが……妹を可愛がっているのは今までに散々見てきたからな。納得も行く」
 感心するウォルフの横で、鉄樹は脱力して白状した。
「……そうだ。ファイ達の事、心配だったんだよ。当たり前だろ? 妹が危険な所に行ってるってのに、何もできない自分がもどかしかったからな、ずっと」
「はわわ♪ ファイ、お兄ちゃんに愛されてますです〜♪」
 率直な彼の言葉に、ファイリアは嬉しそうな笑顔になった。
(やっぱり、妹思いの優しい人でした。嫌な想像をした自分が恥ずかしいです)
 心から喜びを現す彼女を見て、ウィルヘルミーナはほっと内心で息を吐く。そして刹那は、恥ずかしそうにしている鉄樹を見て、からかうように言った。
「ふっふっふ〜、お兄ちゃん、照れてるっスね♪」
 彼が、自分の事も心配してくれていたことを喜びながら。

(お兄ちゃん、私の事も心配してくれてたんだ。すごく嬉しい〜。私、お姉ちゃん達の所に来て本当に良かった!)