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第10章 強襲

「何だてめぇらは!? ここはボスのいる館だ。女どもを侍らせて楽しんでいるボスの邪魔をすることは決して許されねぇぜ!! とっとと帰れコラァ!!」
 街に奥にあったそのひときわ立派な外観の館の門前には、がっしりした体格の盗賊たちが門番をしていて、特攻のため押し寄せてきた生徒たちをみるや否や、歯を剥き出しにして怒鳴りつけてきた。
「ありがとう。ここが目的の館だと確認させてくれて!!」
 桜葉忍(さくらば・しのぶ)はそういうと、大剣を振りあげて、すさまじい勢いで門番たちに振り降ろした。
 ズバアッ
「あ、あぎゃあああああああ」
 斬られた盗賊は、鮮血を吹き上げながらきりきり舞いして倒れていく。
「て、てめぇ、特攻でもするつもりか!?」
 残りの盗賊たちは、血相を変えて忍に襲いかかっていった。
「だから特攻するんだよ。女性たちを救うために!! 本当に、わかってないんだから!!」
 いうや否や、忍は大剣を再び振りあげて、盗賊たちに向かって疾走した。
「我が剣!! 閃光のごとく!!」
 疾走しながら大剣をひらめかせ、次々に盗賊を斬り捨てていく忍。
「くそがぁ!!」
 辛うじて忍の背後にまわりこんだ盗賊が、その首をかき切ろうとしたとき。
「しーちゃんは私が守ります!!」
 叫びとともに、桜葉香奈(さくらば・かな)が光の術を放ち、目がくらまんばかりの光の塊が盗賊に襲いかかってきた。
「う、うわあああああああああ」
 光に包まれた盗賊は、目を覆って地面に転がり、全身に広がる激痛にのたうちまわった。
「ありがとう。香奈が一緒にいてくれれば、どんな敵にも負ける気がしない!!」
 忍は、香奈を振り返ってニッコリ笑ってみせると、再び修羅の道を邁進した。

「うん? 何だ? 門の辺りが騒がしいようだが」
 館の寝室にいたボスは、監禁している女たちを鑑賞して楽しんでいたが、闘いの気配を感じ取って、身を起こした。
 ボスの周囲には、サヤカと、高天原咲耶(たかまがはら・さくや)アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)が侍らされていた。
 サヤカは、ボスが寝そべっている側に添い寝させられていて、咲耶とアルテミスは、際どい格好でベッドの側に直立させられ、必要に応じていろいろなポーズをとらされたりしていた。
 ボスは、値踏みしていたのだ。
 いつも側に置いているサヤカと、咲耶やアルテミスを比較して、サヤカよりも魅力があれば、サヤカの代わりに侍らせようと考えていたのである。
 ボスは、サヤカ以外をとるときは、サヤカは、部下の盗賊たちに抱かせてやるのもいいと考えていた。
 それも、自分の目の前でサヤカを抱かせて、屈辱に身を染めるサヤカを思う存分嘲笑ってやろうという考えだった。
 ボスのそうした考えを、サヤカは、既に聞かされていた。
 ボスには、血も涙もなく、サヤカについても、使い捨ての存在としか考えておらず、感情的な思い入れなどもなかったのである。
 ただ、サヤカの美しい身体は認めていて、欲望の解消の対象としてのみ、尊重してきたのである。
 わかってはいたことだったが、サヤカは、ボスに対する憎しみを一層募らせることになった。
 なぜ、自分は、こんな男に毎晩、身体を開かなければならないのか。
 なぜ、憎むべき対象に愛想笑いを浮かべて、これ以上ないほど恥ずかしい姿態をさらさなければならないのか。
 サヤカは、あまりのことに頭がぼうっとするのを感じながら、ボスが咲耶やアルテミスを欲望の赴くまま検査しているのを、じっとみつめていた。
「ボス!! 特攻です!! この館に、クソ忌々しい連中が!! 娘たちを解放しようと考えているようですぜ!!」
 手下の盗賊が、真っ青になってボスに報告にきた。
「ほう。面白い。この俺の手から、サヤカ、お前を奪えるというなら、やってもらいたいものだな」
 ボスは笑って、サヤカの剥き出しの肩を指で撫であげた。
「ボ、ボス?」
 手下の盗賊は、例によって、視線のやり場に困ってしまった。
 ボスと一緒のベッドに寝ているサヤカは、そのときも半裸に近い姿にされていた。
 毛布の下にうっすらとのぞく、露になっている胸の谷間に目がいきそうになるが、ボスがどう思うかわからない。
 サヤカがこの街の娘の中でも特に美しい娘だっただけに、手下は、視線が自然に動くのを止めなければならなかったのである。
「とりあえず、支度をして、討って出るか。この俺が出れば、そいつらを蹴散らすことなどはたやすい」
 ボスは、歪んだ笑いを浮かべていった。
 ぐ
 このとき、サヤカは下唇を強く噛んだ。
 自分を殺す覚悟を固めたのだ。
 いま、ボスの対応を遅らせるには?
 サヤカは、一瞬のためらいもなく、ボスの身体を抱きしめた。
「うん? どうした?」
 ボスは、目を細めて、サヤカをみた。
「闘いときいたら、急に、身体がうずいてきました。どうか、鎮めてくれませんか?」
 サヤカは、自らボスに口づけして、ニッコリ笑っていった。
「ほう。そうか。俺もいろいろ、うずいていたところだ」
 ボスは、サヤカの身体を撫でまわして、いった。
「ボス。私のお尻を、みて下さい。この娘たちと、私とで、どっちがいいですか?」
 サヤカは、挑発するような口調でそういうと、ベッドを降りて、咲耶やアルテミスの脇にいったと思うと、しゃがみこんで、お尻を高く掲げてみせた。
「う、うわ、それはやばい眺めだ」
 手下は慌てて、首をまわした。
「ふ。まあ、お前のは特に、そそるな」
 ボスは、いよいよ笑った。
 ベッドから降りて、荒々しくサヤカの肩をつかむと、振り向かせ、自分の胸に抱いて、美しい肌を揉みくちゃにした。
「ああ、ボス!!」
 サヤカは、熱い吐息をついて、ボスを求める仕草をしてみせた。
「……す、すごいですね」
 女性である咲耶やアルテミスからみても、サヤカの仕草は色っぽくて、息をのんでしまうものだった。
 また、サヤカは、美しいだけではなく、頭もかなりいいのだと、感心させられもした。
「よし、よし。こういうときにあえてお前を抱くというのも、面白いかもしれんな。徹底的に楽しむとしよう」
 ボスは、サヤカをベッドの上に放り投げ、のしかかっていった。
「みなさん、部屋から出て下さい」
 サヤカは、低い声で咲耶やアルテミスにいった。
 咲耶たちは、その意味を理解した。
 自分がボスをひきつけている間に、館を特攻しにきた生徒たちと逃げて欲しい。
 そういっているのだ。
 黙ってうなずいて、咲耶たちはその場を離れた。
 必ず後で、サヤカを助けに行こうと思いながら。

「門からの特攻が始まったようだな。いまこそ、私の作戦を開始するときだ!!」
 館の上空を旋回している飛空艇から眼下の館への特攻開始を確認した相沢洋(あいざわ・ひろし)は、ついに英断を下した。
「これより空挺降下作戦を行う。敵の首領を打ち取るのは今回は後回しだ。被害者の救出を優先する。敵は殲滅し、味方には協力する。かく乱目的の突撃作戦であると理解せよ。エリス、みと、お前たちは輸送ユニット廃棄の後、被害者を救出。その場で治療を行なえ。洋孝はアルバトロスを降ろした後、防衛計画を立案。私はその間に接近する敵を牽制する!! それでは、出撃だ!!」
 洋は、同じく、それぞれの飛空艇に乗っている仲間たちに指示を伝達。
「了解!!」
 仲間たちからは応答があったものの、一斉に動き出す気配はない。
「どうした? 怖じ気づいたか? では、私からいこう!! 後に続くがよい!!」
 叫ぶや否や、洋は、飛空艇を急速降下させ、館にそのまま特攻させていった。
 飛空艇を、砲弾代わりにして館に突っ込ませる。
 それが、洋のかく乱プランであった。
「相変わらず馬鹿げた作戦だねー。まあ、未来じゃアレよりえげつない空挺降下部隊が出てきているから、まだマシなんだけど」
 相沢洋孝(あいざわ・ひろたか)は洋の特攻を見送りながら、呆れたような口調でいった。
「完全にブチギレして、Order the only one! Search & destroy! とか言い出さないだけ、まだ冷静ですわ。それでは、わらわもいきますわ」
 乃木坂みと(のぎさか・みと)はそういうと、自らの飛空艇を館に突っ込ませていった。
 どごーん!!
 洋とみとの飛空艇に激突された館には強震が走り、火の手があがる。
「本当にやるの? まあ、みとは、軟着陸できる能力を持ってるから、いいんだろうけどね。こっちは生命賭けだよ」
 洋孝はぼやきながらも、自らの飛空艇も降下させた。
「非道な盗賊どもには制裁を。しかしまずは被害者の救出ですね。以上」
 エリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)も、洋孝に続いて自らの飛空艇を降下させた。
「ヴォルケーノミサイルポッド全弾発射、その後、ブースト、誘爆させます!! 以上!!」
 飛空艇を降下させながら、ミサイルを館に撃ち込み、すさまじい爆発が起きる中に敢然と特攻を行うエリス。
 館はいまや、激しい炎に包まれつつあった。
 もくもくと黒い煙が吹きあがる中、館に突っ込んだ飛空艇から、エリスは飛び降りた。
 既に、洋は館の盗賊と激戦になっているようだ。
「薬品は勝手に持ち出しOK。こっちは周囲を警戒するよ」
 洋孝の飛空艇から通信が入った。
 あらかじめ、洋孝は医薬品を大量に搭載していたのだ。
「エリス、いきましょう。多くの女性がとらわれているはずですわ」
 大量の薬品を抱えたみとがいった。
「はい。それでは、救出行動開始です。以上」
 エリスはうなずいた。

「よーし、忍が切り開いてくれた道に続きましょうかぁ」
 そういって、ルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)は仲間たちとともに、館の門から特攻していった。
 みれば、館の門からは庭を通って館の入り口に行き着くが、その庭に多数の盗賊が走り出てきていて、忍たちと激戦になっていた。
「オレたちも参加しますよぉ」
 ルースは、銃を構えて走り出した。
「殲滅ということで」
 レギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)も走り出した。
「レギオン!! 被害者の救出が最優先だよ!! いまは全力で闘う状況だけど!!」
 カノン・エルフィリア(かのん・えるふぃりあ)が、レギオンにいってきかせるようにいった。
「おや? あれは何でしょうか?」
 ふと、引き金を絞る手を止めて、ルースは頭上をあおぎみた。
 ぶーん、ぶーん
 上空から他の生徒たちの飛空艇がいくつか突っ込んできた後の館は、一部が崩れかかって火の手をあげ、黒い煙を吹き出していたが、その炎にひかれるように、街の魔物が集まりだしたようだ。
 みると、巨大な昆虫が大半である。
 巨大カブトムシや巨大クワガタが、巨大な羽を広げて、飛んで火に入る夏の虫といった風情で、燃え上がる館に蝟集しつつあったのである。
 そして、それらの昆虫に刺激されたのか、怪鳥や飛龍の類も上空にやってきていた。
「これはいけませんねぇ。こっちを狙ってきましたよぉ」
 ルースは、慌てて後退した。
 ぶーん、ぶーん
 空中を旋回する巨大昆虫たちが、ときおり地上に降りて、盗賊や、盗賊と闘う生徒たちを角などで襲ってきたのである。
 ぼおおおおおお
 また、飛龍の吐く炎が降り注いできたりもしていた。
「おああ、あちい!!」
 龍の炎に焼かれた盗賊たちは悲鳴をあげてのたうちまわった。
「思わぬ障害ですね。どうしましょう?」
 ルースが、舌を巻いたとき。

「ここは、私に任せるのじゃ!!」
 上空から声が降ってきたかと思うと、聖邪龍ケイオスブレードドラゴンに乗った織田信長(おだ・のぶなが)が現れた。
 信長は、大剣を持って空中の巨大昆虫や飛龍に次々に斬りかかっていた。
 しゅぼあああああ
 信長に斬られた魔物は、みな炎をあげて崩れ落ちていった。
 煉獄斬であった。
「信長、無茶はするなよ」
 地上の忍が、パートナーを気づかっていった。
「おお、心配は無要じゃ。空の掃除は引き受けよう。魔物ども、我が大剣の前にひれ伏すがよい!!
 信長は、豪快な叫びをあげた。
「ぴぎゃああああああ」
 飛龍たちは、叫びをあげて信長に襲いかかっていく。
「たわけが!! 一刀両断!!」
 信長の斬撃が、飛龍をまっぷたつに断ち割り、炎上させた。
「さあ、いざ館の中へ!! 娘たちが救出を待っておるぞ」
 信長は、地上の忍たちに呼びかけた。

「ちっくしょお!! おい、館の中へは入れさせるな!!」
 盗賊たちは、館の入り口の扉から忍たちが侵入するのは何としても阻止しようと、生命賭けの気張りをみせた。
 もっとも、飛空艇で突入してきた洋たちが既に館の内部にいるのだが……。
 正面を死守すれば大丈夫と考える頑迷なまでの単純さは、盗賊たちの弱点といえた。
 そして。
 さらに、正面外からの攻撃が館に加わることになる。
 どどどどどどどどど
 ばりばりばりばりばり
 突如、館の壁が何かに突き崩され、内部の盗賊たちは悲鳴をあげた。
「お、おわあ!! な、なんじゃあ?」
「横から突入だわ!!」
 館の壁を破壊してきて突入してきた戦車を操縦する、ノア・アーク・アダムズ(のあ・あーくあだむず)はいった。
 ノアの戦車によって、館の壁には大きな穴が開けられた。
 生徒たちは、そこからいっせいに、館の中に踏み込んでいった。

「エリス、牢獄の鍵をまず壊して。あなたならできるはずですわ」
 みとたちは、娘たちがとらわれている牢獄を発見していた。
「はい。開錠開始ですね。以上」
 エリスはうなずいて、光条兵器で鍵を吹き飛ばした。
 どごーん
 開錠という感じではなかったが、牢獄の扉は開いた。
「ありがとうございます!!」
 娘たちは半裸に近い姿でいたが、みとたちに鎖から解放してもらって、我先にと逃げ出していった。
 服を探している暇はない。
 男たちに身体をじろじろとみられてしまうのは、サービスということで放っとくしかなかった。
「やっと出られるわね」
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)は、待ちくたびれたといった様子だった。
「いろいろ、女の勉強させられちゃったわ。あたしのセクシー技にも磨きがかかったかも」
 桜月舞香(さくらづき・まいか)も、バニー姿のまま、安堵して出てきた。
 盗賊たちに、舞香の姿は大受けで、牢獄の中でいろんなポーズをとらされたりしていたのだった。
「みんな、先に逃げて下さい。私は後から!!」
 白石忍(しろいし・しのぶ)は、監禁期間が長かった女性たちの脱出を優先した。
「兄さんも、どこかにとらわれています。忘れずに救出して下さいね」
 咲耶とアルテミスも、助け出された。
「ハデス様も気になりますが、サヤカ様も心配ですね」
 アルテミスは、ボスの相手をしているサヤカを気づかった。
 サヤカを救出するには、ボスを倒さねばならず、時間がかかりそうだった。
 咲耶たちは、サヤカの無事を願いながら脱出していった。

「さあ、みなさん、こっちですぅ!! 救護をしている人たちがいますぅ!! 襲われたら、私が守りますぅ!!」
 佐野ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)は、館から逃げ出してきた女性たちに声をかけ、安全な場所へと誘導していった。
 女性たちの多くは、半裸に近い姿で、露になりそうな乳房を手で隠したり、あるいは剥き出しのお尻をさらしたりしたまま、なりふり構わず駆けていた。
 ルーシェリアは、そんな女性たちに布きれを貸して身体を隠すようにいいながら、ともに走った。
「おい、どさくさに紛れて逃げるんじゃねえぞコラァ!! お前たちにはまだまだ、俺たちにお仕えしてもらうんだからなぁ!!」
 女性たちの脱走に気づいた盗賊たちは、何とか連れ戻そうと、剣を構えて脅しをかけてくる。
「ちょっと、あなた! 邪魔はさせないですぅ!! 私が相手になりますぅ!!」
 ルーシェリアは、そんな盗賊に斬りかかっていった。
「おわあああ」
 ルーシェリアの本気の攻撃に、盗賊たちはたじろいだ。
「アルトリアちゃん!! ここは私に任せて、あなたはみんなを誘導して先に行くですぅ!!」
 ルーシェリアは、アルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)を促した。
「ルーシェリア殿!! わかりました。自分は、与えられた役割を果たさせて頂きます!!」
 アルトリアは一瞬ためらったが、すぐに応答した。
「早く行って!! とああああ!! ぶっ殺しですぅ!!」
 ルーシェリアは、剣を振り回して絶叫した。
 守る力は、誰にも負けない。
 盗賊たちは、そのことを思い知らされる結果となった。

「むう。戦車で横から突入か。飛空艇で空から突入するプランに比べるとスピードに欠けるが、より安全で確実な策ではあるな」
 相沢洋は、燃え上がる館の中で、撤退行動に移りながら呟いた。
 戦車を使ったノアのやり方も効果的であると思われ、次の作戦の参考にしようと考えた。
 洋たちの目的である撹乱は、十分達成された。
 館の中の盗賊たちもあらかた倒せたので、後は、救出された女性たちが脱走しやすいように、直接・間接的に護衛を行うのみだ。
「というか、どうみても、あっちのやり方がスマートだっての。何で玉砕覚悟の突っ込みを空からしなきゃいけないんだよ?」
 相沢洋孝はさんざんぼやきながら、撤収に移った。
 医薬品も役立った。
 娘たちの身体を隠すのに、毛布類も活躍した。
 作戦の過激さを思えば、上出来の戦果だった。
 洋につきあっていくうちに、自分たちも、悪運が強くなったように洋孝は感じていた。
 もっとも、結果的に鍛えられているとはいえ、おかさなくてもいい危険はおかしたくなり、というのが洋孝の本音であった。