校長室
四季の彩り・冬~X’mas遊戯~
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25−2 12月25日というのは、クリスマス当日の筈なのにクリスマス2日目というか、終了後の残り物というかな雰囲気が漂う、何だか少し不憫な日だ。だが、この日もデスティニーランドはイブに劣らぬ人の入りを見せていた。不憫な日であるというのはきっと、出所不明の噂に過ぎないのだろう。……きっと、たぶん。 「地球からも、シャンバラの各地からも沢山来ているみたいですね」 遊園地に到着した蓮華は園内を歩く人々を見てそう鋭峰に話しかけた。それぞれの土地の特徴を有した格好をした人も少なくはない。 「こういう事は、国関係なく祝えばいいですよね」 「……無宗教であればそう思う者も多いのだろうが、それは難しいだろうな」 鋭峰は表情を微塵も変えずに淡々と言った。ただ歩いているようにも見えるが、周囲を良く観察しているのが判る。 「この場を訪れているのは、皆、クリスマス肯定派なのだろう。だから、多国籍の者が一所で平和に暮らしているように見える」 遊園地とは、人々に夢を見せる場所だ。夢はこの箱庭だけのまやかしであり、此処で世界の真実を見ることは出来ない。 「どちらにしろ、万人全てに受け入れられるものなどこの世にはない。……それで、これから君はどこへ行くつもりだ? たまに来ると言っていたが」 「私ですか? 私は、団長が興味を惹かれました施設にお供させていただきます。……今日は、団長の視察ですから」 それと同時に、鋭峰にとっての機会少ない息抜きでもある。自分の希望を優先しようとは思っていなかった。 「……そうだな。では、特に支持されているものに案内してくれ」 「分かりました。人気がある、ということですと巨大コースターや本物が出るというお化け屋敷でしょうか」 蓮華はそう答え、鋭峰をまずジェットコースターへ案内する。 (団長と2人でドキドキだけど、騒がしくして嫌われないようにしないと……!) 順番待ちをして一列2人の席に座り、カタカタとコースターが上っていく中で彼女は思う。もっとも、これは今日1日に共通する目標であったりもするのだけど―― 「きゃあああああああああ!!」 ……無理だった。 「…………」 一方、鋭峰は声の限りに叫ぶ蓮華の隣で、眉1つ動かさずにコースターを乗り切った。否、眉はどこにも無いのだが眉辺りの場所をぴくりとも動かさずに乗り切った。 「…………」 (嫌われちゃった……?) 降車後に何も発言しない鋭峰の様子を、蓮華はおそるおそる伺ってみる。しかし、彼はどこまでも無表情でほっとした。嫌悪の類の感情があれば、多少は表にも現れるだろう。 「……次は、お化け屋敷か」 「は、はい! こちらです」 少し慌てながら、蓮華は鋭峰を案内する。団長が”私と居ると癒される”と思えるよう気を配りたい。そう思いながら。 順番待ちをして2人で横並びになってお化け屋敷を歩き出す。上司と部下という関係上、いつもは彼の背が前にある事が多いのだが今日は違う。男女は隣合ってが不文律のお化け屋敷に、ちょっと感謝する。本物の幽霊が出るというのは、実は、かなり怖かったりするのだが―― 「きゃあ!! お、お化けっ!」 暗がりから襲ってきたゴーストに驚き、蓮華は涙目で鋭峰の袖に掴まった。自分の手に、つまり袖に額を押し付けるようにしてぶるぶると震えて。 「……! あっ! す、すみません、つい……!」 はっと気付いて手を離す。力を込めていた部分に皺が出来ていた。無論、皺が無ければ良いという話でもないが。 「……心霊現象が苦手ならば仕方ない。出口までなら許可しよう」 「あ、ありがとうございます……」 鋭峰の言葉に、おずおずと再び袖を掴む。ここでも彼は怖がる素振りも驚く素振りも見せずに平常心だった。それだけに躍起になったゴーストが大量集結してきたりもしたのだが結果はゴーストの敗北に終わる。 (……もう、大丈夫……?) 外の寒風が頬に当たる。必死に目を閉じ、鋭峰の動きを頼りに歩いていた蓮華はそこで、無事に出口に辿り着いた事を知った。 もう一度お礼を言って、手を離す。本物とはいえ職務に忠実なのか昼の光が嫌なのか、ここまではゴーストも追ってこない。 「冷える体に1杯いかがかな? 身も心も温まること間違いなしの、不思議な愛のコールドドリンクだ!」 「1杯ください」 安心したら緊張で喉がからからになっている事に気が付いて、蓮華は商品名をよく見ずに物凄い筋肉の壮年男性からピンク色のジュースを買った。教導団で筋肉を見る機会の多い彼女は、筋肉――チッチーに全く動じない。コップを口につけて飲もうとして、そこで、初めて掲げられている『ホレグスリ』という単語に目が行く。反射的に見た鋭峰の顔は先程と何も変わっていなかったけれど。 「……………………」 「あ、えと、これは飲んでも意味無い物でした」 沈黙が長すぎるような気がして、慌てて言葉を連ねる。 「私には必要ないですから。だって薬なんか使わなくても、私がお慕いしてるのは団長ですし……」 「ホレグスリは本来、相手に使うものだぞお嬢さん!!」 「え? あ……」 言ってから、何度目かの告白をしてしまったことに思い至り、赤面する。話が聞こえていたらしく、アドバイスがてらというようにチッチーが言ったのを聞いて彼女はコップを見直した。ということは、これを団長に飲ませれば…… 鋭峰の顔を見る。数秒間、誘惑に惹かれかけて目を逸らせなくなる。 「……でも、やっぱり必要ないですよ」 だが、蓮華は頭を過ぎったその考えを打ち消してホレグスリをチッチーに返した。誤魔化すような笑みを浮かべる。 (……こんなの使わずに、蓮華を好きになってほしいもの) 負担にはなりたくないから、重たい女とは思われないようにはしたいけど。 ――もう一度、鋭峰と視線を合わせる。彼はこれまでよりも厳しい目をしているようで胸が高まった。鼓動の音が大きくなるごとに視線に射抜かれ射すくめられ―― (ホレグスリか。確か、団で加工して使用しているいわば原材料だな。この男を拘束するかどうするか……) 鋭峰はそんな事を考えていたのだが恋する乙女には解らない。 「うむ! それも立派な愛の形だな! それも1つの選択だ! わっはっは!」 「…………」 チッチーの台詞を聞いた鋭峰は、沈黙したまま踵を返した。蓮華は急いで、それを追いかける。 (そういえば、昨日流れてた噂……。女の人の悲鳴が絶えず聞こえるっていうのが無かったわね……。ゴーストの数も情報より少なかった気がしたし……。演出を変えたのかな?)