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リアクション
【「いえ、自分バイトなんで……」「バイトだから? 何?」】
――ここで一度休憩を挟み、試合形式はストリートファイト式タッグマッチから闇プロレス式シングルマッチへと変わる。
(さて、どうしたものか……)
リングに上がったコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が、困ったような表情で頬を掻く。
コアは今回、聖ヴァンダレイ側の刺客としてリングに上がっていた。だがコアには別に『リア充爆発しろ』といった感情はない。
(アルバイトを紹介されて来てみたはいいがまさかこんなことになるとは……聖ヴァンダレイ殿から給料も貰ってしまった今となっては放棄するわけにもいかぬ。しかしなぁ……)
ちらりとコアは前に立つ対戦相手のアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)を見る。俯いているせいで表情は見えないが、小刻みに全身が震えているのがわかる。
(変なことに巻き込まれて可哀想に。だがいくら試合と言えども、手を挙げるわけにはいかぬし……うむ、やはりここは適当に切り上げた方がいいだろう)
コアが納得したようにうんうん、と頷いた。一応試合なので、ある程度は攻撃をしたフリをしてからアデリーヌの反撃をうけて負ける。こうすれば何処にも角は立たないとコアは判断したのである。
そうこうしている内にゴングが鳴り響く。
――コアは一つ、勘違いをしていた。
アデリーヌが震えているのは、恐怖なんかではなく、この理不尽な状況への怒り。
「全く人が折角この日にデートだと言うので楽しみに来てみたらこの有様……荒事は苦手、というか無理だと言っているのにしかも一緒のリングに上がれるかと思って登録したら『シングルマッチなんでごめーんね』とか言われるし納得いきませんわ……あぁ最悪最悪最悪最悪最悪――」
呪詛をぶつくさと吐き散らし、怨念に近い憤怒をその身にたぎらせていた。
コアが自分が勘違いしている事に気付いたのは、
「な、何だこの殺気に満ち溢れた視線は……ッ!?」
「あ゛ぁ゛?」
アデリーヌが見上げる形でメンチ切って来た時であった。
* * *
(い、一体何が起きたというのだ……!?)
コアは今自身に起きている――コーナーを背にもたれ掛かり、リングに尻餅をつくという状況に混乱していた。
「ほらほらどうしましたの邪魔しておいてその体たらくですの!?」
そしてアデリーヌがコアの顔面を靴底で洗うように何度も擦るように蹴りつける。何度も何度も何度も。
――試合開始。底知れぬ気迫に戸惑いながらコアはアデリーヌに組み付こうと手を伸ばした。関節技であれば痛みなどの調整は効きやすい。打撃よりかはマシだと。
だが、そんなコアの手をアデリーヌは除けるとガンガンと蹴りつける。技、というより本当に蹴り飛ばしているだけである。
「ぬ……な……!?」
威力はともかく、気圧されあっという間にコアはコーナーまで追い詰められる。コーナーを背にしたコア相手に、
「ふんッ!」
アデリーヌは、脚を踏み抜く様に蹴った。がくんとバランスを崩し、コアは尻餅をつく形になる。
そしてコアの顔面を踏みつける様に、
「恋人の甘い一時を邪魔するその思想、綺麗にして差し上げますわ」
顔面ウォッシュが始まった。
「ちょ……わ、私は別にこぶッ! じゃ、邪魔なぞぶぁッ!? た、ただのアルバぶぁッ!?」
弁解しようとするコアに、
「聞こえませんわ」
延々と靴底を擦り付ける様に蹴りつけるアデリーヌ。回数が増えていくと同時に、段々と擦りつけるというより顔面を踏み抜くようなえげつなさに会場からも一部から「うわ……」と声が上がる。
「ふんッ!」
レフェリーに反則カウントを取られ、4を数えられると最後に、アデリーヌは最早前蹴りの様に顔面を蹴り抜く。すると、興味を失ったかのようにリング中央へと戻る。
「な、何だというのだ……?」
コアが戸惑いつつ立ち上がると、アデリーヌの殺気溢れる視線でまた射抜かれる。そんなコアに会場から「しっかりしろ!」「見かけ倒しか!」という声が所々から上がる。
(い、いかん。こちらも何かせねば……しかしどうしろというのだ……!?)
コアは考える。相手は殺気オーラに溢れているが、華奢な女性である。迂闊にパンチや投げ技を仕掛けては大怪我をさせかねない。だからと言って関節技も難しい。
(……よし、ならばこれだ!)
コアはロープへと走り、体を預ける。
「必殺! メタル・ボディプレスッ!」
そしてそう叫ぶと、反動を利用して手を広げながら飛び上がった。ただし本気で飛び掛かるつもりではなく、動きも大げさにしてある。
(ここまで隙があれば彼女であっても避けられるに違いない!)
コアの考えた通り、オーバーアクションなボディプレスは隙だらけであっさりとアデリーヌが横に避ける。コアはそのままうつ伏せにリングへと倒れ込んだ。
(計算通り! 後は何か一撃を食らって負けたことにすれば――)
そう思い、立ち上がろうとした時であった。
「せぇいッ!」
「あぶぉッ!?」
アデリーヌが、コアの頭をサッカーボールの様に蹴り上げた。たまらず仰向けに転がるコア。
「てぇやッ!」
「んぶッ!」
そしてアデリーヌは、仰向けになったコアの顔を思い切り踏みつけた。ぐりぐりと踏みつけると、レフェリーはフォールと見做しカウントを開始。
これは下手に抵抗しない方がいい。そう考えたコアは、そのままカウント3を黙って聞いたのであった。
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